So long
スコール、もし迷子になったら、その場所を動かないでね。
すぐ探しに行くから、泣かないで待っててね。



子供の頃、エルオーネは俺にそう言った。
だからある日突然、彼女が居なくなった時も、俺はじっと待っていた。
ずっとずっと、待っていた。
そしてふいに、気がついた。
エルオーネは、俺を探してなどいないのだ。
誰も探していないのに、俺は待っていたのだ。
ずっと、ずっと待っていたのだ。


「もう、お前とは絶交だっ!」
ゼルが何十回目かの絶交宣言をして俺の元を去った。もう数えるのも馬鹿馬鹿しい。
何でああも簡単に「絶交」なんて言えるのか。きっとゼルの頭の中では「絶交」は「それじゃ、
また明日」くらいの重みしか無いんだろう。
いつかそう言うと、顔を真っ赤にして「俺は本気なんだ、馬鹿にするな!」と怒ったが、
その日の夕方、俺が「気持ちが悪い。吐きそうだ。」と電話したら、(嘘じゃない。ゼルに絶交宣言
されて本当に気分が悪かった。)すぐさま薬を持って飛んできた。
大丈夫か大丈夫か、と子犬のように纏わりつく様は、とても絶交したばかりの人間の態度とは
思えなかった。
だから大して心配してなかった。
そのまま、ゼルが任務に出てしまっても。
そのまま、一週間も音信不通になってしまっても。
よくある事だと思っていた。任務中は個人的な通信は許されない。だから連絡が取れないのだと
思っていた。
誰かが、その任務は本来三日で終わるはずなのだ、と俺に教えてくれるまでは。

俺はまた、置いていかれたのか。
奇妙に冷静な気分だった。同じだな、と思った。昔と全く同じだ。
最後まで、俺一人が何も知らない。尋ねても、誰もが目を逸らして答えようとしない。
皆の言い訳までも、同じだ。

「余計な心配を、させたく無かったの。」

余計な心配って何だ。一体何が余計なんだ。俺がゼルを好きな事か?だから俺には教えられ
なかったって言うのか?
そう言うと、皆益々困った顔をした。そんなところまで、同じだ。俺は思わず笑ってしまった。
「そうじゃないの。ただ、あそこは政情不安な地域でしょう?交通手段が無くなる事も、連絡手段が
断たれる事も、決して珍しくないわ。連絡がとれなくたって、それが即、非常事態だとは限らない。
だから・・・」
キスティスが早口で説明しだした。まるで俺の笑い声を打ち消してしまいたみたいに。
何を慌てているんだろう。キスティスは昔からそうだ。いつも俺の何かを心配している。
俺は平気だ。こんな事は慣れっこなんだ。そう言ってやりたかった。
今まで一緒に居たのに、急に消えてしまって。
誰も居場所を教えてくれなくて。
そんなの、もう慣れっこなんだ。それでも、リノアの時には上手くいった。
あの、可愛い少女。俺の手を待ってた、可愛いリノア。あの時みたいにすればいいんだろう?
俺が取り戻しに行けば、いいんだろう?

そう言うと、皆は口々に、あの時とは違うのだ、と言った。
あの時は、行き先が決まってた。どうするべきか、分っていた。だけど、今は違う。
ゼルか何処にいるのか、探しに行くあても無いのだ、と言った。
悪い冗談だと思った。それじゃエルオーネの時と一緒だ。ただ、待つしかない。
それが嫌で、強くなったのに。
それが怖くて、必死で強くなったのに。

キスティスも、アーヴィンも、俺と眼を合わせようとしない。セルフィだけが、大丈夫だよと肩を叩いて
俺を励まそうとした。俺はそうだな、と頷いた。
「大丈夫だ、馬鹿な事はしない。」
そう言うと、皆、目に見えて安心した表情になった。昔イデアもそうだった。
『もう、お姉ちゃんのことは忘れる。』
そう言うと、ひどく安堵した表情になった。
さすがに二回目にもなると、心得たものだな。スコール・レオンハート。
どこか遠くで自分を笑う声がする。虚ろな、冷たい、乾いた声。
俺の中から、響いてくる声だった。

ゼルの派遣先軍司令部への、ハッキングは無理だった。それで、もうすることが無くなった。
大丈夫かと聞かれれば、大丈夫だと答えた。食事は取ってるかと聞かれれば、取ってると答えた。
質問には全部答えているのに、何故かみんな溜息をついて俺を見る。
何もかもが、昔と同じで嫌になる。まるで夢の中にいるようだ。もしかして、俺はまだ石の家に
いるんじゃないだろうか。眼が覚めたら、俺はただの小さな子供なんじゃないだろうか。
膝を抱えて座り込む、哀れな子供なんじゃないだろうか。

ゼルがいなくなって10日目の朝は快晴だった。雲ひとつ無い、見事な青空だった。
ゼルの瞳みたいだな、と思った。どうしてゼルはいないんだろう、と思った。
探しに行こう。
唐突にそう思った。そして、ずっとそうしたかった事に気が付いた。
俺はそのまま、校門へと向かって歩いて行った。
「おや、スコール、どこへ行くんだ?」
校門で守衛の老人に呼び止められた。
「ゼルを探しに。」
そう言うと、老人はふんふんと頷いた。
「あの元気のいい兄ちゃんか。この間もTボードで校門に激突しおって、先生に怒られとったぞ。
また何かやったのか?」
「いなくなってしまったんで、探そうと思って。」
「ああ、そんな感じの兄ちゃんだな。飛び出したら帰らない、鉄砲玉ってやつだ。若いもんは元気で
いいのう。わしも若い頃は散々遊んだもんだ。」
灰色の顎鬚を擦りながら、ニヤリと思い出し笑いをする。
「居場所のあてはあるのか?」
「さあ。」
老人が不思議そうな表情を浮かべた。
「さぁ・・って、じゃあ何処を探すつもりなんだね?」
「分りません。」
そう言って、ゲートを通った。老人の戸惑う声が追いかけてきたような気がしたが、
俺は振り返らずに歩いて行った。

どれぐらい歩いたか分らない。気が付いたら太陽が真上に来ていた。腹は空いてなかったが、
何か食えば、それだけ歩ける距離が伸びる。それでポケットに入っていたフードバーを食べた。
通りかかる何人かが、俺を微笑ましげに眺めていった。晴れ渡った草原に座ってものを食う姿は、
随分呑気そうに見えるんだろう。
ゼルのいる所も、晴れているといいな、と思った。雨が降ったりしてたら、可哀想だ。ここはこんなに
いい天気なのに。濡れて風邪を引いたりしたら、可哀想だ。
もっと早く探しに行けば良かった。どうしてガーデンなんかに留まってたんだろう。
ふと、キスティス達の事を思い出した。多分皆、怒っているだろう。また勝手な事をして、と呆れる姿が
眼に見えるようだ。

ごめん。だけどもう、俺は疲れてしまったんだ。待ち続ける事に、疲れてしまったんだ。
その無意味さに、もう疲れ果ててしまったんだ。

辺りが薄暗くなり、視界が悪くなった。ああ、日が暮れたのだと気付いた。
遠くに町の明かりが見える。派手な首飾りのように、キラキラと楕円形に輝いている。
港の明かりだ。やっとバラムが見えてきた。色んな森や、渓谷を迂回してゼルを探してたから、
思ったより時間が掛かってしまった。早くあそこへ行かなきゃな。
そう思って一歩を踏み出したら、少し身体がよろけた。どうやら随分疲れているらしい。他人事の
ように思った。
草原に腰を降ろすと、何だかもう一歩も動けないような気がしてきた。
時折通る車や自転車をぼんやり眺めながら、俺はゆっくりと身体を倒した。

何時の間にか眠ってしまったらしい。眼が覚めたら、空には星が輝いていた。
起き上がろうと思ったが、その気力が無かった。電池の切れた人形のように、身体が動かない。
縫い付けられたように地面に横たわり、遠い星空を眺めた。
それは、俺にとても相応しい姿に思えた。
俺はきっと、星を手に入れようしてるんだろう。
月も星も太陽も、決して俺の元には留まらない。それなのに、俺は必死で止めようとしてる。
回る天体を、地上から留めようともがいてる。
何て滑稽なんだろう。何て無意味なんだろう。
もう何もかもが、どうでもいい。


小さな声が聞こえた。
最初は微かな声だった。少しずつ大きくなる声。
誰かが俺の名前を呼んでいる。切羽詰った、真剣な声。そんなに一生懸命、俺を呼ぶのは誰だろう。
何かに引き摺られるように身体を起こした。あの声は。
前方に微かな光が見える。夜空の星のように、小さく瞬いている。目を凝らしてよく見ると、
それは自転車のライトだった。
俺は叫んだ。ここだ。俺はここだ。
突然、ライトが消えた。マウンテンバイクが地面に叩きつけられる音がする。走る足音。
月下の草原を、軽やかに駆け抜けてくる金色の頭。飛ぶように、俺の元へ走ってくる蒼い瞳。
夢見るように、両腕をゆっくりと持ち上げた。宙に向かって手を伸ばす。
その手の中に、ゼルの身体が飛び込んで来た。

「スコール!!心配したんだぞっ・・!」
暖かい腕が俺の身体を抱きしめる。
「いきなり国境封鎖になって、全然連絡が取れなくて、何度も頑張ったけど駄目で、でも、やっと
帰れて、それなのに、帰ってみたら、お前はもう、いなくって・・・!」
息を切らして、途切れ途切れに話す声。
「お前が、俺を探しに行ったって、聞いて、お、俺・・・・!」
堪えきれないように、背中を叩く。
「スコール!聞いてんのか!?スコール!!」
聞いてる。
そう言おうと思ったが、声が出なかった。声を立てたら、目が覚めてしまうかもしれない。
子供の頃、そんな都合のいい夢を何度も見たから。
目が覚める度に、本当は一人ぼっちなんだと気付かされていたから。

「守衛のオヤジにお前が徒歩で出て行ったって聞いて、歩いてる人にあちこち聞いたんだ。
『黒い服を着たすごくいい男』って言ったら、皆結構覚えてて。」
ぐす、とゼルが鼻を啜った。恥かしそうにへへ、と笑う。
「それで、きっとこの道を行けば会えると思ったんだ。だけど、最後の目撃情報は随分前の
話だったから、もう居ないかもしれないって、すげー心配してた。」
突然、ゼルが腕を伸ばした。白い指が羽根の様に、俺の首に廻される。
ああ本当に、と嬉しそうに囁く声が耳元でする。

「お前が動かないで待っててくれて、良かったぜ。」


スコール、もし迷子になったら、その場所を動かないでね。
すぐ探しに行くから、泣かないで待っててね。


「・・・・っ。」
「ん?」
「・・・・か?」
「・・・え?何?聞こえねえ。」
「・・・ても・・か?」
「え?悪い。もう一遍言ってくれねえ?」

もう、泣いてもいいか?

泣かないで、って言われたんだ。
探しに行くから泣かないでって、言われたんだ。
なのに、誰も探しに来ないんだ。
ずっと、ずっと待ってたのに、誰も探しに来なかったんだ。
だからもう、諦めてたんだ。
誰も探しにこないなら、自分から探すしかなかったんだ。

だけど、お前が探してくれた。

やっと、探しにきてくれた。俺のところに来てくれた。
もう、泣いてもいいだろう?
俺は泣いても、いいんだろう?

眼の奥が熱くなる。痛みすら伴う熱が、瞼を刺す。
「スコール、泣いてるのか・・・?」
俺はぎゅっとゼルの身体を抱きしめた。
そうだよ。俺は泣いてるんだ。お前、知らなかっただろう。俺がどんなに待ってたか。
俺はずっと、お前に逢いたかったんだ。

まるでその言葉が聞こえたかの様に、ゼルが俺の背中を優しく撫ぜた。
「ごめん、心配かけたな。お前、心配しただろう。待たせちまって、ごめんな。」
思わず眼を瞑った。閉じる睫に、涙が押し出されていく。
ああ、どうして。
ゼルは俺が言って欲しい言葉を知っているんだろう。
こんな風に抱きしめて、ごめんって言って貰いたかったんだ。
待たせてごめんって、優しく言って欲しかったんだ。

「お前、何か今日は子供みたいだな。」
ゼルが少し可笑しそうに言った。よしよし、とおどけて俺の頭を叩く。拗ねた子供をあやしてるみたいだ。
「・・・すぐ絶交なんて言う奴に言われたくない。絶交したまま、出て行ったくせに。」
そう言い返すと、ゼルが不思議そうに首を傾げた。

「絶交なんか、したっけか?」

これだからな。
俺は溜息をついた。俺の「ゼルの絶交=それじゃ、また明日」説は絶対正しい。
「した。」
一言で返事すると、ゼルがああ、と頷いた。
「そう言えば、そうだったよな。ええと、何だったけ。あっ、そうだ!お前が俺の事、
鈍感って言ったんだ。」
それだって俺の方が正しい。お前は鈍感以外の何者でもない。
「そっか。俺、そのまま出ていっちまったのか。」
困ったように頭を掻いて、もう一度俺の背中に手を廻す。
「ごめん。もうそんな事しねえ。」

変だ。
急に不安になった。ゼルが優しすぎる。こんな風に、ゼルから俺を抱きしめるなんて、おかしい。
何を言っても怒らなくて、何を言ってもごめんって謝って、俺を優しく抱きしめて。
もしかして、これはやっぱり夢じゃないのか?
俺は夢を見てるんじゃないのか?

「何だよ。変な顔して。」
「・・何でそんなに優しいんだ?」
「は?」
自然と声が小さくなる。あんまり大きな声を立てたくない。この夢からは覚めたくない。
「・・・だから、今日は何でそんなに優しいんだ?」

ゼルがふいに黙り込んだ。長い間走ったせいだろう、自慢の前髪が俯く額に崩れ落ちている。
そのせいで表情がよく見えない。それが更に不安を掻き立てる。
「・・・・ゼル?」
「俺、鈍感かもしれねえけど。」
急にゼルが顔を上げた。まるで泣くのを堪えてるように、薄い唇が震える。

「お前が本気で心配してたって、分らねえほど鈍感じゃねえ。」

馬鹿。何てこと言うんだ。
俺はゼルを抱き寄せた。小さな肩に顔を埋める。何でゼルはこうなんだ。
俺はやっと、涙を止めたばかりなのに。
これ以上、俺を子供にしないでくれ。


「そろそろ帰ろうぜ。もう暗いし。皆心配してるぞ。」
ゼルがキョロキョロと周りを見回しながら言った。
皆怒ってただろう、と聞くとゼルは呆れたように首をすくめた。
「怒ってねーよ。怒るわけねーだろ。」
「・・・そうか?」
「当たり前だろ。怒るような奴等なら、とてもお前とは付き合えねーよ。」
「・・どういう意味だ。」
「そのままの意味だよ。お前、もう少し自覚した方がいいぜ。」
ゼルがバイクを起こしながら首を振る。不思議な気持ちになった。
ひょっとして、俺が思っている以上に、皆は分ってるんだろうか。
俺は何も言わなかったのに、分ってくれてたんだろうか。
何も言おうとしなかったのに、許してくれてたんだろうか。

皆は本当に怒ってなかった。良かったと喜んでくれた。ただ、キスティスが俺の頭を軽く叩いた。
ゼルは帰ってすぐに、あなたを探しに行ったのよ。任務報告もしないで、飛び出したのよ。
きっとまたSeeDランクが落ちちゃうわ、頑張ってフォローしなさい。
そう言ってピンと額を弾く。優しい、イデアのような白い指だった。

部屋に戻ると、ゼルはバタッとベットに倒れ込んだ。
「うー、疲れたぜー。このまま寝ちまいてえ。でも、汗かいたしなあ。仕方ねえ、シャワー
浴びるか。」
「じゃ、俺もそうする。」
「おお。お前も疲れただろ。熱いシャワーでも浴びて早く寝ようぜ。じゃあな。」
「じゃあ、またな。」
「うん。またな。」
着替えを探しながら、ゼルは子供のようにバイバイと手をふった。

「・・・確かに『またな』って言ったけどよ。ちょっと早く来過ぎじゃねえ?」
濡れた頭にタオルを被ったゼルが、呆れたように言った。
「何で。」
「何でって・・・ここ俺のベットじゃねーか。お前どこで寝るつもりなんだ。」
「ここに決まってるだろ。」
「・・・・・・。」
「何だ。」
「・・・・やっぱ、すんのか?」
「当然だ。」
「お前、疲れてたんじゃないのか?」
「疲れてるさ。でも、名誉挽回のチャンスは今しか無い。」
「名誉挽回?」
ゼルが不思議そうに俺を見上げる。アクアマリンのように透き通ったブルーアイズ。
「さっき俺の事を子供扱いしただろう。」
柔らかい金髪をそっと梳き上げて、俺はにっこりと笑った。


「俺が子供じゃない事を、証明してやる。」


いや、あれは言葉の綾だとか、そんな事今証明しなくていいだとか、煩く騒ぐ唇を唇で塞いだ。
舌にゼルの犬歯が触れる。ざらりとなぞると、ゼルがぶるっと身震いした。
もう少しだな、と思って更に舌を差し入れた。息も出来ないほど、濃密に舌を絡ませる。
「・・・・・ん・・」
ゼルの身体から序々に力が抜ける。少し力を入れるだけで、簡単にシーツに押し倒せた。
耳朶をそっと噛むと、くすぐったそうに首をすくめる。ゼルのモノが、立ち上がりかけてる。
お前、身体は敏感だよな、と言うとゼルは悔しそうに俺を睨んだ。一体何が悔しいんだろう。
こんなに可愛くて、その上敏感なんて、最高じゃないか。

ぬるぬる濡れる棒を指でしごくと、色素の薄い頬が薔薇色に染まる。
「あ・・・・う・っ・・んっ」
唇から堪えきれない喘ぎ声が漏れる。唇で塞いでしまいたいような、もっと聞いていたいような、
煽情的な声。乳首を口に含むと、ビクリと身体が動いた。舐める舌に、下半身がビクビクと脈打つ。
「そこ・・は・・駄目って・・・言って・・・止め・・・っ」
掠れる声が微かに甘えを含んでる。俺の一番好きな声だ。
「名前を呼んだら、止める」
「・・・っ、スコール・・・頼む・・スコールっ・・」
甘い呼び声に、陶然としながら胸の突起を嬲った。指をゼルの中に差し入れる。細い身体が一層
しなる。
「こ・・の・・嘘つきっ・・・!あっ・・ああ・・・っ!」
嘘じゃない。本当に、止めてやろうと思ってたんだ。やっぱりお前は鈍感だ。
こんな声を聞かされて、止められると思う方が間違ってるんだ。

金色の眉が辛そうに顰められる。瞼に溜まる涙を見て、俺はゼルの限界を悟った。
「入れるぞ。」
それだけ言って、ゼルの中に押し入った。
熱く絡みつく内部に、思わず吐息が漏れた。それだけで、いってしまいそうだった。
ゆっくりと腰を動かすと、ゼルが一層切なげに喘ぐ。耐えられずに、一気に動きを早くした。
「・・・・!!」
白い体がガクガクと揺れる。意味の無い言葉を吐き出しながら、俺の身体を抱きしめる。
もっと強く、抱きしめ返した。
愛してる。
抱きしめる腕に、甘く名前を呼ぶ声に、泣きたくなるほど愛してる。
俺が泣く場所は、ここだけだ。この蒼い瞳の前だけだ。
もう二度と、俺の前から消えないでくれ。

ゼルの身体が大きく跳ねた。同時に俺の意識も一瞬白くなった。
動かないゼルの身体を抱き寄せる。
全身を深く絡ませあったまま、俺達は長い長いキスをした。

眼が覚めると、ゼルが隣でぐっすり寝ていた。
このまま寝せておこうと思ったが、ふと、机上の伝言メモに気が付いた。
明日の朝一番に、教官室へ任務報告に来ること!
赤字で強く下線が引かれてるあたり、教官の怒りが滲み出ている。
昨日のキスティスの話を思い出し、渋々とゼルを起こした。
「起きろ。ゼル。」
「・・・うーん、もう少し・・・」
「教官室に行かなきゃ駄目なんじゃないのか?」
「・・・!そうだっ!!」
ゼルが慌てて飛び起きた。時計を掴んで絶叫する。
「げーっ!もうこんな時間かっ!」
わたわたと大急ぎで服を着替えながら、恨めしそうに時計を見る。
「くっそー。飯食ってる暇もねえ。」

「俺が、取っておく。」
「え?」
ゼルがベットを振り向いた。
「俺が食堂に行って、朝飯を取っておく。帰ってきたら一緒に食べよう。」
「でも、何時になるか分らねえぞ。俺の事はいいから、先に飯食えよ。」
そう言いながら慌しく襟元のホックを合わせる。
「お前が帰るまで待ってる。」
「いや、待ってるって言われても、終了時間を決めるのは俺じゃなくて教官だから。
ホントに何時になるか、分かんねえんだって。」
「いい。待ってる。」
「でも・・・」
尚も反論しかけたゼルが、時計を見て舌打ちする。
「うー。言い争ってる場合じゃねえ。分った。取っといてくれ。終わったらすぐ戻ってくるから!」
勢い良くドアを開けて、風のように飛び出していく。と、ひょいと振り返って首だけを覗かせた。
「俺、パンがいい!」
それだけ言って、ふっと消える。本当に風のようだ。俺はゆっくりとベッドから降りた。


何だか部屋中がパンだらけだな。腕組みをして山盛りのパンを眺めた。
どのパンが幾つ欲しいのか、ゼルが言わなかったから、こんな量になってしまった。
まあ、冷静に考えればこんなに買う必要は無かったんだが。
きっと、浮かれてたんだな。
パンを一つ買うごとに、ゼルの嬉しそうな顔が浮かんできて、気が付いたら全部買ってたんだ。

途中でいくつか落としてしまった。何しろ大量だったから。
思わず笑みが零れてきた。
そんな昔話があった気がする。落ちたパンを辿って道を探す童話が。
あれはどんな話だったっけ。そうだ、確かお菓子の家に行くんだった。
さしずめここはパンの家だな。ゼルにぴったりだ。

お腹を空かせた恋人が、俺の元へやって来る。
点々と、落ちてるパンを辿りながら。
その手がドアを開けるまで、俺はここで待っている。
ワクワクと、浮かれながら待っている。
ずっとずっと、待っている。
END
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