It storms. 5


一体どれぐらいキスしてるんだろう。ゼルが半ば朦朧としながら考える。
シャワーを浴びて、裸になって、それからもう、どれくらいキスしてるんだろう。
やっと離れた唇に小さく息を吐くと、サイファーがまた、その吐息を奪いにキスをしてくる。
その度に背中を甘い痺れが走る。サイファーのキスが上手すぎて、さっきから腰が蕩けそうだ。
「・・なぁ・・サイファー・・もういいから・・」
困り果てたゼルが小声で頼む。どうしよう。キスだけでこんなに起っちまって。
これじゃ、やることしか頭にないのは俺の方みたいじゃんか。
「頼む・・もう・・・」
「煩せえな。キスぐれぇ自由にさせろよ。黙ってろ。」
乱暴に言い放って、また濃密に舌を絡めてくる。唾液がトロリと零れ落ちる。
「・・・あ・・ふっ・・」
もうホントに、どうしたらいいんだ。殆ど半泣きでゼルが思う。
何でお前はいつも、俺をそういう恥ずかしい目に合わせようとするんだ。
このままキスだけでイッちまったら、一体どうしてくれるんだ。

このままキスだけで、いかしちまおうか。
ゼルが聞いたら泣き出しそうな事を、サイファーは考えていた。
ずっと心配していた。あの日、ゼルが自分の部屋から逃げ出した時から。
シャワーから戻ったら、既にゼルはいなかった。すぐには歩けないだろうと、たかをくくって
いただけに衝撃は大きかった。
それぐらい、自分を嫌っているのだと思った。
どんなに動くのが辛くとも、ここにいるよりましだと思われたのだ。
だから追いかけなかった。追いかければ、また逃げるだけだ。
自分が近寄らなければ、ゼルは身体を休めることができるのだ。
傷ついた身体を癒すには、俺が側にいては駄目なのだ。

だけど、何度も夢に見た。この薄い唇を。この頼りないほど赤く細い舌先を。
それが今、ここにある。しかも自分を拒まない。繰り返すキスに、甘く優しい吐息を返す。
深く差し込まれる舌に、下半身まで反応させて微かに喘ぐ。自分のキスに、全身で答えてくれる。
湧き上がる熱に体が溶けてしまいそうになる。勃起してるのは、ゼルだけじゃない。
下手をすれば自分だって、キスでいっちまいそうだ。

やっと下に手を伸ばすと、ゼルの体がビクンと震えた。硬く立ち上がって、既に汁まで零してる。
軽く指で撫ぜるだけで、切なそうに眉を寄せる。
「・・・サイファー、も、でる・・」
切れ切れに言われる言葉に、血が沸騰する。もっとよがらせてやりたくなる。
小さな乳首を舌で嬲る。口の中で転がす度に、ハッと背中を反らして蕩けるような吐息を漏らす。
何て扇情的な身体だろう。体中に噛み付きたくなる。自分の跡を残したくなる。
ゼルが必死にサイファーの下半身に手を伸ばす。ああ、自分だけイクのが嫌なんだな、と気づいた。
柔らかい指の感触に、サイファーの先端が濡れ始める。濡れながら上下する熱い指に、思わず
呻き声が洩れた。堪らずゼルのモノを扱き返すと、ビクビクと指を痙攣させて淫らに喘ぐ。そのまま
イッてしまいそうなくらい興奮した。
だけど、そうじゃねえ。俺がしたいのは、そのやり方じゃねえ。
そっと顔を近づけて、耳元で囁く。
「・・・入れたら、駄目か?」
「え・・・」
青い瞳が不安気に戸惑う。その白い額に自分の額をコツンと合わせて、もう一度囁いた。
「今度は、あんな風にしねぇから・・・なぁ、駄目か?」
あんなに酷くしねぇから。もっと大事にするから。だから。
「・・・お前の中に、入れさせてくれよ。」

ずりぃよ、こいつ。
ゼルがサイファーを思い切り睨む。
もう絶対嫌だと思ってたのに。あんな痛くて怖い思いは、二度としたくないと思ってたのに。
それなのに、突然こんな声で頼んでくるなんて。
いつもみたいに、偉そうに命令してくれれば良かったのに。それなら思い切り拒否出来たのに。
叶えてやりたくなる。この傲慢な男が、躊躇いがちに求める願いを、叶えてしまいたくなる。
「・・・ほんとに、酷くしないか・・?」
サイファーの言う通りだ。俺は何て馬鹿なんだ。何だこの甘えた声は。
これじゃ誘ってるみてぇじゃねえか。
お前になら、どんな事をされてもいいと、こいつを誘ってるみてぇじゃねえか。

指が中にゆっくり入る。既に知ったポイントを優しく擦る。それだけで身体が跳ねた。
ぎゅっとサイファーの身体にしがみ付いた。
「・・あ・・っ」
竿から汁がドクドクと溢れる。断続的な刺激に喘ぎ声が止まらなくなる。
「あ・・や・・・もう・・そこ・やめ・っ」
嬌声のようだと思った。自分のどこに、こんな声が潜んでたのか。
サイファーが指の数を増やす。痛みが徐々に強くなる。
「・・・っ」
苦痛に噛み締める唇を、優しいキスが塞ぐ。まるで自分の太い指を詫びるようだ。
思考が混乱する。痛みと快楽が同居できるなんて、誰も教えてくれなかった。
この男がこんなに優しいキスをするなんて、誰も教えてくれなかった。

サイファーのモノが入ってくる。下半身どころか、全身が圧迫される気がした。
きつい穴をゆっくりと押し進めるサイファーの体から、汗が吹き出る。
濡れた逞しい身体が、ゼルの下半身を舐めるように這っていく。体中に震えるような快感が走った。
自分の身体の浅ましさに呆れる思いだった。こんなに痛いのに、一方で正直に快感を追い求めてる。
更に奥へと竿が進んでいく。そして突然、それは起こった。
「・・・あ・・!!」
いきなり体中が反り返る。さっき指で嬲られたポイントに、サイファーのモノが当たってる。
サイファーがぐっと息を呑んだ。熱く硬い先端で、そこを一気に容赦なく掻き回す。
「・・あ!!・・あ・・やだっ・・!!サイファー・・・っ!!!や・・あああっ!」
目の前が真っ白になった。腰が別の生き物のように勝手に跳ねる。激しくサイファーの背中を叩いた。
止めろ、と大声で叫んだ。これ以上掻き回されたら気が狂うと思った。
それなのに、この大きな身体は自分を強く抱きしめるだけで、全然止めようとしない。むしろ一層
激しく腰を動かす。悲鳴じみた喘ぎ声が、次から次へと溢れ出した。
突き上げる動きの合間に、サイファーが激情に掠れた声で何度も自分の名を呼ぶ。
その声にまた煽られる。意味もなく涙が溢れてくる。サイファーが首筋に喰らいつくようなキスをする。
噛まれた首筋に甘い痛みが走る。どこを触られても快感が走る。耐え難い程の快感が。
「・・・・・や・・・!!」
引き攣るような叫び声と同時に、白い液体が噴出した。一瞬後、サイファーが自分の上に倒れこむ。
荒く激しい息遣いに、この男も達したのだと分かった。
暫く二人とも動けなかった。ただ息が整うのを待った。
やがて、大きな手がゆっくりとゼルの顔に伸ばされた。額に張り付く前髪を、そっと、ぎこちなく
掻きあげる。ゼルがうっとり眼を閉じる。
しっとりと伏せられた金色の睫に、サイファーの心臓が甘く脈打つ。
一体どうして、こいつを手放す事など出来るだろう。


「・・・・で、仲直りできたのか?」
興味なさげにスコールがゼルに聞く。長々と前置きされてから話されるのが面倒だから、こっちから
聞いたまでだ。聞く前から答えは分かってる。この笑顔。昨日までとは全然違う。
「う、うん。まあな。」
赤くなって頭を掻く。迷惑かけてごめんな、でも・・・と話し始めるのを、手を振って制した。
人のノロケ話なんて聞きたくもない。世の中にあれぐらい、当人達以外退屈な話があるだろうか。
が、ふと思いついて尋ねた。
「サイファーは、お前になんて言ったんだ?」
あの山のように高いプライドの持ち主が、どんな言葉でゼルを口説いたか興味がわいた。
いつかまた喧嘩をふっかけられた時、その言葉で先制を食らわしてやろうという魂胆もあった。
「え、いやー、あいつさぁ・・」
ゼルが真っ赤になって照れ笑いをする。いいから早く言え。

「セフレは俺だけだって、言ってくれんだ。」


は?


大きく眼を開くスコールに、ゼルが慌てて言う。
「あ、勿論俺もセフレはあいつだけだから!」

・・・ちょっと待て。

「・・・それ、本気で言ってるのか?」
「?当たり前だろ。何で?」
「・・・お前達、セフレの意味本当に分かってるか?」
ゼルが明るく胸を張る。
「分かってるって!セックスする友達だろ。俺とサイファーの事じゃん。」

泰山鳴動して鼠ゼロ。

と諺好きのラグナなら間違って言うだろう。呆れ果てて言葉も出ない。
これだけ大騒ぎして、結論はそれか。俺の苦労は何だったんだ。
お前等はセフレなんかじゃない、カップルだ。それも、ガーデン一の問題カップルだ、とはっきり
指摘してやりたい。
が、そんな事を言えばまた、この二人はパニックを起こして暴走するだろう。

肩がガックリ落ちてくる。
魔女討伐の悪夢が蘇る。暴風雨みたいに人を巻き込んで騒ぎを起こすサイファー。訳も分からないまま
流された挙句、問題を一層大きくひっ掻き回すゼル。この二人がいなければ、あの騒動はあんな大事に
ならなかったはずだ。全く、最悪の組み合わせだ。
その上恋愛事には二人とも、信じられない位鈍いときてる。
今回だってそうだ。要するに、お互い浮気はしません、って事だろう?
当たり前じゃないか。お前等はお互いベタ惚れなんだから。浮気なんか出来る訳ないだろう。
そんな当たり前の結論に達するだけで、この騒ぎ。この俺まで巻き込んで。
ここまでくれば、もはや一種の才能だ。

大体、自分はこの二人の関係を反対していたはずなのだ。それなのに気付いたら、すっかり仲直りの
仲裁役だ。しかも、リノアにバレたら大騒ぎになりそうなセリフまで吐いてしまった。
もうこの二人には係わりたくない。自分まで抜け出せなくなりそうな気がする。
その言葉が聞こえたかのように、ゼルが無邪気にスコールを見上げる。
嫌な予感がした。それも、物凄く嫌な予感が。
ゼルが嬉しそうに、しっかりとスコールの手を両手で握る。

「スコール。これからもずっと、俺の相談に乗ってくれるか?」

嫌だ。
そう思ったが、口に出せない。子犬のように自分を慕う澄んだ瞳。
きっと自分は切り捨てられない。この騒ぎに付き合ってしまう。
溜息をついて握られた手を見下ろす。ふと、その指に指輪が嵌ってるのに気が付いた。
銀の指輪。自分がゼルにやった指輪。
「・・ゼル、まだその指輪してるのか?」
「?うん。」
「外さないのか?」
ゼルが心外そうにムッと唇を尖らせる。
「なんで?お前の指輪を外す訳ないだろ!?友情の証じゃんか!」

これくらいの嫌がらせは許されるだろう。
スコールが思う。あの男はきっと、この指輪を物凄く不快に思っているはずだ。だけど、プライドが
高いから自分から外せとは言えないだろう。俺が焼餅を焼くから外せなんて、口が裂けても言えない
だろう。いい気味だ。
俺をこんな騒ぎに巻き込んだお返しだ。弟のように大事にしてた友達を、勝手に攫っていった代償だ。
せいぜい嫉妬に苦しむがいい。
「何だ?スコール、楽しそうだな。」
暢気な笑顔でゼルが尋ねる。スコールがにっこりと華麗な笑顔を浮かべる。
「何でもない。お前が指輪を大事にしてくれて嬉しい。ずっと大事に嵌めててくれ。」

もうこんな騒ぎはこりごりだ。これっきりにして欲しい。
スコールが溜息をついて首を振る。
だけど、それは不可能だ。
暖かく澄んだ南の海で、強い風が吹く度に、台風の種は生まれ続ける。地上から、嵐の消え去る事は無い。
暴風雨のような男と、海の色の眼を持つ男。それは二人の宿命だ。
この二人は次から次へと、騒ぎを起こしてくれるだろう。そして自分を巻き込むだろう。

それでも、暫くは平穏なはずだ。嵐が去った後は大抵、青空が広がり海は凪ぐ。
次の嵐が起こるまで、この二人も一休みだ。甘い蜜月を楽しめばいい。
蕩けるような甘い恋に、二人で溺れていればいい。


END
管理人)長い話にお付き合いさせてしまってすみません。読んでくれてありがとうございます(涙)

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