症例紹介

動脈管開存症


● 動脈管とは
赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる間、胎児は呼吸をしないので、肺に血液を送る必要がありません。動脈管は、胎児期に肺動脈(肺へと血液を送る大血管)から大動脈(全身に血液を送る大血管)へと血液をバイパスし、肺を通らずに済むいわゆる胎児循環を成立させるのに不可欠な血管なのです。
そして出産直後、正常な仔犬では、自分で呼吸し始めると同時に短時間でこの動脈管は閉鎖します。
これにより正常な全身循環を成立させているのです。
しかしながら、この動脈管が生後2〜3日を経過しても閉鎖せずに、血液の流れる異常血管として残存してしまうことがあります。
この心臓病を、動脈管開存症 Patent Ductus Arteriosus:PDAと呼びます。

動脈管開存症は、生まれつきの心臓病の中で最も多く見られる病気です。犬で多く、猫でもまれに見られることがあります。
動脈管開存症では、大動脈(高圧系)から肺動脈(低圧系)へと血液が異常に短絡してしまうため、心臓の各部位(左心房と左心室)・臓器(肺)への血流量が異常に増加してしまいます。そのため、心臓や肺に多くの負担が掛かることになってしまいます。

動脈管開存症は、純血種の雌犬に比較的多いと病気であり、主な犬種は、マルチーズ、ポメラニアン、トイプードル、ミニチュアダックスフンド、ヨークシャテリアなどが挙げられます。

動脈管開存症の仔犬のほとんどは、臨床症状が全く認められず、本当に病気なのかと思ってしまいます。しかし徐々に、咳をしたり運動を嫌がるなどの症状が現れます。症状は少しずつ進行しますが、急性心不全を起こして急死してしまう可能性もあります。したがって元気だからといってそのままにしておいて良いものでは決してありません。

ブリーダーさんから「心臓が弱い」と言われ、譲り受けたトイプードルの女の子です。
生年月日が不明のため、正確な年齢はわかりません。(推定10ヶ月齢?)
ワクチン接種とフィラリア予防のため、当院に来院され、身体検査の際に心雑音が聴取されました。
心臓の雑音は「連続性雑音」であり、股動脈圧が異常にはねるように触知されました。
これは、バウンディングパルスあるいはウォーターハンマーパルスといって、動脈管開存症に特徴的な所見です。
また、連続性雑音も動脈管開存症に特徴的な所見です。
心臓の状態を把握するために、レントゲン検査、超音波検査、心電図検査、血圧測定を行いました。
検査の結果、動脈管開存症と確定診断しました。

動脈管開存症の治療は、動脈管を結紮する外科手術によって行われます。
この手術は、診断後出来るだけ早い時期に実施することが望まれます。
大動脈と肺動脈という一番重要で太い血管に隣接する動脈管を剥離して結紮するためとても難易度が高い手術です。
手術をしない場合は、1〜2歳でうっ血性心不全や肺水腫を起こして亡くなってしまう場合がほとんどです。
また、診断が遅れて病期が進行してしまったケースでは、手術が出来ずに手遅れになってしまう場合もあります。

この症例は、診断から1週間後に手術を行いました。
このピンセットで示しているところが動脈管です。
動脈管に糸をかけたところです。
動脈管を結紮した(縛った)ところです。
手術の翌日。とても元気で食欲も旺盛です。手術の4日後。今日退院です!

手術に成功すれば、普通の子と同様に生活をすることができます。
ただ、この手術はとても緊迫した状況で、集中して行います。
終わってほっとしたとたん、どっと疲れが出ました。
でも、手術後の元気な姿を見て、疲れも吹き飛びました。

先天性心疾患(生まれつきの心臓病)の中には手術ができるものとそうでないものがあります。
いずれも早期発見がその後の治療において重要ですので、子犬のうちは定期的に健康診断を受けられることをお勧めします。





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