症例紹介

猫の肥大型心筋症/赤血球増加症


肥大型心筋症
心臓の筋肉(心筋)がどんどん厚くなる病気です。
全身に血液を送る左心室の心筋が厚くなると、左心室の内腔が狭くなり、全身に送らなければならない血液が少なくなり、血液循環が悪くなります。また、左心室の上にある左心房という部屋に血液のうっ滞がおこり、左心房が大きく拡張し、その中で血栓(血の塊)ができやすくなります。
血栓ができると、全身の血管に詰まる恐れがあります。特に、後肢にいく血管に詰まりやすく、詰まってしまうと後肢の麻痺が生じます。
また、心拍数の上昇、呼吸速迫(呼吸が速くなること)、高血圧といった症状も見られます。

赤血球増加症
血液中の赤血球が増加する病気です。
血液中の赤血球が増加すると血液の粘度が増加し、血流障害を起こすことから、四肢のふらつきや麻痺、神経症状が現れます。また、高血圧や眼底出血、血栓栓塞なども起こりえます。
相対的増加と絶対的増加に分けられ、相対的増加は脱水などで体内の水分が失われることにより、血中の赤血球濃度が高くなります。
絶対的増加は、一次性と二次性に分けられます。
一次性は骨髄で赤血球が腫瘍性に増加するもの(骨髄増殖性疾患)、二次性は腎臓の腫瘍や心肺疾患など他の病気でエリスロポエチンという造血因子の産生が増加し、赤血球が増加する症候群です。


←瞳孔散大(左目はもともとない猫です)
 ←左前・後肢のナックリング(足先を自分の意志では戻せない状態)

この症例は、10歳齢の♂(去勢済み)の猫で、左半身の麻痺とけいれん発作を起こし、来院しました。
立つことも歩くこともできず、瞳孔散大(黒目の部分が大きくなること)もみられ、光に対する反射もほとんどありませんでした。

血液検査の結果、赤血球量78%(正常猫:30〜45%)と非常に高値を示しており、「赤血球増加症(多血症)」と暫定診断し、治療に入りました。
二次性多血症の鑑別のため、腹部および心臓の超音波検査をしたところ、「肥大型心筋症」だということが明らかになりました。
てんかん発作が何度かみられ、意識も朦朧をしていましたので、
瀉血(血液を抜いて赤血球濃度を薄め、粘度が高まらないようにすること)と点滴で治療し、同時に心筋症の治療も開始しました。
2日目の夜に呼吸速迫がみられましたが、治療に反応し、徐々に回復しました。
左前後肢の麻痺も少しずつ回復が見られました。
治療開始3日目の午後からは、てんかん発作を生じることもなく、元気も食欲も出てきました。
4日間の入院治療を終えて退院する時には、しっかり歩けるようになり、食欲も旺盛で、瞳孔も少し縮小傾向にありました
赤血球量も49%まで下がりました。


肥大型心筋症は、猫の心臓疾患の中で最も多く見られます。
心臓病は早期発見・早期治療が大事です。症状が進行してからですと、予後も悪くなります。
少し元気がないかな?あまり動きたがらなくなったな・・・など普段とちがった症状がみられた場合には、できるだけ早めに診察を受けましょう。
また、四肢の麻痺やけいれん発作などの神経症状は、脳神経疾患からくるものばかりではありません。
詳しく調べることによって、原因が分かれば、治療法も異なります。
この症例の様に病気が一つとは限りませんので、全体を広範囲に詳しく調べることが重要だと改めて考えさせられた症例でした。





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