第1話 深海を発して

研究員
「あっ……逃げろ、倒れるぞ!」
 〃
「噴火も始まったのか」
カナン
「大丈夫、勇?」
「大丈夫だ。カナンこそどうなんだ?」
カナン
「勇のような無茶はしないわ」
「プレートか……」
ノヴィス・クルー
「カーテン発生まで、後100秒」
「カーテン発生します。80秒前」
 〃
「ん、どうなってるの……」
ノヴィス副官
「ノーマル・エンジン、停止」
「オーガニック・エンジンの始動テストだよ。カーテン出たらやって見る。電波障害が出なけりゃいいんだ」
アノーア
「オーガニック・エンジンか……」
「はっ……」
ノヴィス・クルー
「カーテン来ます。2・1……」
ノヴィス副官
「オーガニック・エンジン、始動」
ノヴィス・クルー
「電波障害は出てます」
ノヴィス副官
「オーガニック・エンジン、動きました」
「またこれだ……ノーマル・エンジンに切り替えろ」
「こんなので現代の方舟っていうんですか、ノヴィス・ノアは」
アノーア
「艤装中なのに十秒は動いたのだ。順調ですよ」
ノヴィス・クルー
「地震キャッチ」
アノーア
「イランドを発進。周辺のプレート、チェック」
研究員
「よし」
 〃
「アンチ・ボディだな……グランチャー・タイプだ」
 〃
「あんなのが本当に、海の中から出て来たのか」
「これもビー・プレートとは違うな」
カナン
「どちらにしても、プレートは全て回収でしょ?」
「真面目だな。そんなにオルファンに認められたいのか?」
カナン
「私はグランチャーのパイロットになれた事を誇りに思っているのよ?」
「それに、オルファンのリーダーが御両親の勇とは、身分が違うでしょ」
「そんなの関係ないだろ」
「また地震?」
カナン
「東の方に新しいプレート? クインシィ・イッサーに照会するわ」
「『プレートは全て回収せよ』だろ?」
研究員
「あいつら、プレートを運んでいるぜ」
 〃
「何て連中だ」
ユキオ
「また余震だ」
アカリ
「今度は近かったんじゃない?」
比瑪
「アカリ、登る道を見付けて」
アカリ
「うん」
ユキオ
「よ〜し」
比瑪
「せっかくみんなの食料も見付かったんだし……」
アカリ
「こっちが道になってる」
比瑪
「最終のバスに乗らないとね」
「あ、あれ……」
ユキオ
「あっ!」
アカリ
「何?」
比瑪
「走りなさい!」
避難民
「プレートだ!」
 〃
「こんな所にプレートが出るのか?」
 〃
「走ってるぞ!」
比瑪
「右に逃げて!」
アカリ
「比瑪姉ちゃん!」
比瑪
「これ以上来て、どうするつもりなの!」
「逃げて!」
「泣かないでよ、クマゾー」
「プレートからアンチ・ボディが生まれる……テレビで言ってたリバイバルって、この事?」
「あっ……!」
ユキオ
「グランチャーっていう奴が出来たんだ」
アカリ
「嘘だ〜」
「あ、あれさ、悪い奴じゃないの?」
比瑪
「そういうのって分かってないみたい。グランチャーっていうのと違うわ」
「この子……この子って……」
クマゾー
「比瑪姉ちゃん」
ユキオ
「駄目だよ」
比瑪
「この子、優しい目をしてるよ」
「ほらね、見ててご覧」
ユキオ
「でもさ」
「駄目だよ、比瑪姉ちゃん」
比瑪
「この子、生まれたばかりの赤ちゃんなのよ」
アカリ
「これで赤ちゃん?」
消防士
「そのアンチ・ボディから離れなさい」
比瑪
「この子は誰かに、面倒見てもらいたがってんでしょ?」
「あれ、ここに入れるの?」
消防士
「何がどうなるか分かっていないんだ」
比瑪
「調べもしないで……!」
「ポカポカしてる。スベスベしてるのに柔らかいなんて……」
「外が見える?」
「色んな言葉があった」
「貴方はどうしたいの? 生まれたのなら、貴方、何かしたいんでしょ?」
「立てば? 立ってから考えましょう」
「た、立てるのね?」
「た、立てたのよ、貴方。落ち着いて。貴方はちゃんと歩けるわ」
「さあ、自信を持って」
消防士
「踏み潰されてもいいのか?」
アカリ
「姉ちゃんが乗ってんだぞ!」
消防士
「何言ってるんだ!」
ユキオ
「何すんだよ!」
比瑪
「ウチの子をどうするんです!」
「あっ、何があったの? 貴方……君?」
「別のアンチ・ボディ? あれはテレビで見てるのみたい。あれ、君の仲間なの?」
「動く時はゆっくりよ。物を壊したら嫌われるのよ、君?」
「プレートからリバイバルしてる。カナン、グランチャーじゃないぞ」
カナン
「あのブレンパワードにアジャストした人が居るんだ。誰なの?」
比瑪
「そうよ……」
「そうなのよ、上手じゃない」
「そうやってゆっくり。落ちると壊れちゃうんだから」
ユキオ
「わっ……!」
比瑪
「まだ二人居るのよ? ほら、君……!」
「アカリはクマゾーに手を貸して。急いで」
「そうよ、君上手だね。上手よ」
アカリ、クマゾー
「わっ……!」
「ブレンパワードを動かしてる?」
カナン
「破壊するよ、勇。ブレンパワードにリバイバルしたら、撃破するのが規則だ」
「はっ……!」
比瑪
「貴方……君、どうしたの?」
「落ちてないわね?」
ユキオ
「あ、あぁ……」
アカリ
「比瑪姉ちゃん……」
比瑪
「貴方ね! この子達落としたら、承知しないから!」
「そうよ、そのまま私達の家の方まで行くの」
避難民
「来たぞ!」
 〃
「声に出すなって!」
比瑪
「大丈夫ね? あれがテレビで言ってたグランチャーなら……」
「ブレンパワードに乗っている奴!」
比瑪
「誰の声? 何処に居るの?」
「ブレンパワードの事を知らないのに、乗るんじゃない!」
カナン
「直ぐに降りなさい! 不完全なアンチ・ボディは危険なんです!」
比瑪
「この子、言う事聞いてくれてるわ。お節介はいいわ」
「マスコミの言う事なんか聞いてどうする! ブレンパワードは使っちゃいけないんだ!」
カナン
「押さえて、勇!」
「はっ……!」
「勇、待ちなさい!」
「ブレンパワード!」
比瑪
「な、何よ?」
カナン
「あのブレンパワード、力がある。一体どういう事? オルファンのブレンは、魂のない人形でしかないのに……」
「勇……!」
「貴様!」
「はっ……!」
アカリ
「な、何か光った」
比瑪
「生まれた子が立ち上がって飛びたがってたのよ。それなのに、貴方達が来たお陰でビックリして怖がってるわ!」
「怖がってる、だって……?」
比瑪
「貴方達こそ、一体何なの?」
「グランチャーでオルファンの意思を表すものだ」
比瑪
「オルファンって、海の中にある遺跡でしょ?」
「あっ、君は……!」
「あいつ……」
比瑪
「プレートをちゃんと掴んで! 人間は落ちたら死んじゃうのよ?」
「オルファンなんて……!」
「大丈夫ね?」
ユキオ
「大丈夫みたいだけど」
アカリ
「早く降りようよ」
比瑪
「オルファンなんて、世界中に地震を起こしてる変な遺跡なんでしょ?」
「女の顔をしてるとか、地球を壊すとかってさ!」
「ペラペラ煩い女が、いい加減な事を言うな!」
比瑪
「私は“女”じゃないわ! 宇都宮比瑪っていうのよ!」
「そっちこそ、変な物を使ってプレート集めしてるらしいけど、何でさ!」
「オルファンが必要としてるからだ!」
カナン
「勇、下がりましょう」
「ブレンパワードは、不完全なアンチ・ボディなんだろ?」
カナン
「それに、子供を盾にしているのよ」
比瑪
「盾? 誰が弟や妹達を盾にするもんですか!」
「あっ……!」
ユキオ
「何だ?」
アカリ
「どうしたの?」
比瑪
「あ、何……?」
比瑪
「好きにさせると好きに飛んでさ」
「降りるの?」
アカリ
「着いた……」
比瑪
「降りられるわね?」
ユキオ
「アカリ、クマゾーに手を貸してやれ」
アカリ
「ほら、我慢よ」
直子
「……勇とか、依衣子ではないの?」
「グランチャーではないわ」
比瑪
「か、勝手に降りちゃったんです」
直子
「柔らかくもなく、硬くもなし……でも、重い……」
比瑪
「御存知なんですか? プレート……」
直子
「ああ、オルファンにいらっしゃる方?」
比瑪
「オルファンって、あの太平洋の海溝で発見された遺跡とかって事ですか?」
直子
「あっ、いいのよ。いいんですよ……」
「倒れたトマトは集めないとね。食べるでしょ、皆さん?」
比瑪
「え?」
クマゾー
「トマト……」
直子
「ウチのは美味しいのよ?」
「俺の誕生日なんて、誰も覚えてないだろうな……」
「宇都宮比瑪……確かそう言ってたよな」
「あれ一年前だぞ。どういう子なんだろう」
「俺、17歳になってしまった」
「カナン、悪いけど……」
「グランチャー部隊の、伊佐未勇」
研作
「個人差のある抗体反応を、統一したデータにするんだろ?」
「おう」
「あら、丁度良かった。もう一度貴方のデータを取りたいの。準備してくれる?」
「なっ……!」
研作
「勇……!」
「おやめなさい……!」
「オルファンが海の中から浮上したら、人類はみんな死ぬんだろ? そういうのを手伝う仕事なんか、もう嫌だ!」
「貴方もリクレイマーになって七年……オルファン浮上の為に……!」
「精神も肉体もグランチャーに合わせて、アンチ・ボディになる事は辛いんだぞ」
研作
「勇、冷静に……!」
「親父の研究のお陰で子供が実験台にされたんだ」
「お袋だって姉さんだって、ここに来てからは、まるでオルファンのアンチ・ボディじゃないか」
「姉さん!」
依衣子
「裏切り者は!」
研作
「待て、依衣子」
依衣子
「私はクインシィ・イッサー、伊佐未依衣子ではない」
「くっ……!」
依衣子
「逃がすか!」
研作
「依衣子!」
「これが、オルファンの意思だというのですか」
研作
「そうなのか」
「おい、付き合ってくれるな?」
「お前だって、光っていうのを見たいだろ?」
「そうだ、お前はオルファンに居るような奴じゃない」
依衣子
「――本当なのか?」
隊員
「シートが捲れてました」
「急げよ……こんなブレンパワードのゴミ箱で、金属の塊にはなりたくないだろ」
依衣子
「何をボヤボヤしてた!」
隊員
「はっ!」
依衣子
「ブレンパワードを動かしたのか」
「勇、動かして……!」
「姉さんが可笑しいんだ!」
隊員
「クインシィ・イッサー!」
「いいぞ……そうだ、正面に丸い物が見えるよな?」
隊員
「ランチャーかバズーカを使いますか?」
依衣子
「オルファンの中だぞ。グランチャー部隊に発進を用意させろ。追撃させる」
「外に出たからって!」
「海水が来たぞ。耐圧掛けられるな?」
「よ〜し、いい子だ」
「深海七千メートルだ。大丈夫だよ、お前は潰れていない。強い子だからね」
「さあ、行こうか!」
「出来るじゃないか。けど、ゆっくりは出来ない。……頼むぞ!」