第3話 勇の戦い

前回のあらすじ
伊佐美勇という子と出会った時、彼は一人じゃなかった。
同じブレンパワードといったって、私のとも違っていた。
オルファンから逃げ出してきた男の子なんて、合う訳ないって……それが実感。
アイリーン
「消耗していないのは、流石ね」
比瑪
「分かります?」
アイリーン
「芯に疲れが残っているわ。いいわよ」
比瑪
「はい」
アイリーン
「無駄な力を抜く事を覚えないとね」
比瑪
「そうですね」
通信先
「分かってるな? 実戦になるかもしれないんだぞ。ブレンに何かあったら逃げりゃいい」
アイリーン
「ナンガとラッセなら大丈夫よ」
比瑪
「分かってます」
アイリーン
「なら、何考えていたの?」
比瑪
「他のブレンパワードと会ったんですよ」
アイリーン
「オルファンに居た機体なんでしょ?」
比瑪
「そうみたいです。でも、一緒に戦ったんです」
アイリーン
「一つ仕事が終わったんだから、今は何も考えずにお休みなさい」
ユキオ
「比瑪姉ちゃん」
アカリ
「ご飯だよ」
クマゾー
「ご飯」
アイリーン
「ご苦労様」
比瑪
「有難う」
ラッセ
「ラッセ、着席」
「ナンガ、急げよ」
ナンガ
「急がせると、ご機嫌が悪くなるんだよ」
「よ〜しよし、怖くなんかないぞ」
ラッセ
「オール・セット」
ノヴィス・クルー
「オーガニック・エンジン、係数、熱量出ています」
アノーア
「ナンガ機、ラッセ機、発進」
ノヴィス副官
「地震感知。高波が来ます」
アノーア
「震源地はオルファンか?」
ノヴィス副官
「はい」
アノーア
「ナンガ、ラッセは予定通りに」
ノヴィス・クルー
「よ〜し!」
ナンガ
「ほ〜ら、お前は俺の手と足になってくれてんだろ? カカシのラッセに負けたら恥ずかしいぞ?」
「ナンガ・ブレン、俺の兄弟」
「おっ……」
ラッセ
「そっちじゃないぜ、ナンガ」
桑原
「何言ってんです、あのブレンパワード?」
三尾
「原子力発電の方の電力も回せって言ってるんでしょ?」
「駄目駄目、発振器はそのまま」
研究員
「え、山の上に運ばないんですか?」
三尾
「アンチ・ボディが一人でやるわよ」
楓先生
「今日はトラックが一台だけなんですって」
「だから今日は、お体が痛い痛いの人だけね?」
子供
「あいつ、知らん顔してる」
桑原
「この辺りの市町村の電力を全部寄越せなど、無茶な話よ」
三尾
「あの子は……」
桑原
「本当に、伊佐美翠さんの子供なのか?」
三尾
「悔しいんですか?」
桑原
「何でだよ」
三尾
「『研作博士は若い時からブ男だ』って言ってたじゃないですか」
桑原
「そんな事、言う訳ないじゃないか」
「グランチャーってのは、ブレンパワードに比べて抗体反応って奴が強いんだ」
「オーガニック・エンジンがあれば……」
桑原
「そんなの、ある訳がないだろ。電力だって君が言うほどには回せない」
「オルファンはもう浮上を始めている。海上に出たら人類の手に負えなくなる」
桑原
「だから国連は……人類は、ノヴィス・ノアを建造したんだろ」
「ノヴィス・ノアはサバイバルの為の船だ。地球の海を漂うだけ……」
「けどねおじさん。オルファンって、銀河旅行をする凄い船なんだよ」
「電力だけは回してください」
比瑪
「ご馳走様でした」
アカリ
「後片付けは私達がやる」
クマゾー
「後片付け」
比瑪
「気を付け……」
クマゾー
「わっ!」
ユキオ
「泣くな」
アカリ
「どうしたのよ?」
ユキオ
「平気平気」
直子
「……針をやった後に直ぐ食事が出来るなんて、若いのね」
比瑪
「アイリーンさんの腕がいいんです」
直子
「これ、孫の勇の写真よ。七年前だけど」
比瑪
「間違いありません。ブレンパワードに乗っていた子です」
直子
「元気なのよね?」
比瑪
「私、この子連れ戻してきます」
「勇が行った所には、オーガニック・エンジンを開発した連中も居ます」
「ビー・プレートがあるとも考えられます」
依衣子
「ドクターの昔からの研究仲間が居るんだろ? そいつらがビー・プレートを捕獲しているのか?」
研作
「そんな訳ないだろ」
依衣子
「分かるもんか。勇がビー・プレートを使えるようになったら……」
ジョナサン
「ビー・プレートは、グランチャー以上のアンチ・ボディをリバイバルさせる可能性があるんでしょ?」
「そんな……」
ジョナサン
「ビー・プレートが西東京方面にある事など、我々グランチャー乗りには教えて下さいませんでしたな」
研作
「今日まで、プレート探しは貴公らに任せてきただろう」
ジョナサン
「そうですか。ならクインシィ・イッサー、私が確認させてもらって宜しいですな?」
依衣子
「行くがいい。伊佐美ファミリーがオルファンを私物化していない事を証明する為だ」
ジョナサン
「はっ、嬉しく思います。ジョナサン・グレーン、クインシィ・イッサーには全身全霊を以て従います」
カナン
「勇が脱出する時に、私に何の相談もなかった。クインシィは許さないだろうし、私だって……」
「許さないよ」
兵士
「カナンの出撃は中止だ」
カナン
「何て言ったの?」
兵士
「ジョナサンが出る。カナン機は待機だ」
カナン
「シラーも連れてくの?」
ジョナサン
「シラー、ノヴィス・ノアのブレンパワードが動いている。覚悟が要るぞ」
シラー
「了解です、ジョナサン・グレーン」
「カナンは勇と行動をし過ぎたから、お留守番ね」
依衣子
「カナン・ギモス、聞こえるか?」
「カナンにはプレート収集に行ってもらう。ケイディと組め」
カナン
「ケイディと?」
「5機で出るのか、ジョナサン……」
ジョナサン
「注水してくれ」
カナン
「ジョナサンは勇を殺すつもりだ。クインシィもそう決めたか」
ケイディ
「待てよ、カナン」
カナン
「何だ?」
ケイディ
「俺達はプレート集めだ。ブレンパワードはジョナサン部隊に任せておけ」
カナン
「分かっている」
ケイディ
「伊佐美博士からの特命もある」
カナン
「ドクターからの特命?」
ナンガ
「……で、彼は何処で?」
三尾
「あっち」
ナンガ
「触らないでくださいよ?」
ラッセ
「ブレンパワードに触っちゃいけませんぜ」
三尾
「この子達に私は好かれていないから、乗る気はないわ」
ナンガ
「事情は聞いたが……オルファンの事、何で一人で戦う気になったか教えてもらいたいな」
「教える事なんてないよ」
ラッセ
「俺達だってブレンパワードで来てるんだ。手助け出来る」
「手伝える訳がない」
ナンガ
「ミスター・ユウ。比瑪の話では、君のブレンはまだコックピットの改装は完璧じゃないって……」
「俺はオルファンで六年間、グランチャーに乗っていた」
アノーア
「比瑪のブレンは追尾しているのだな?」
ノヴィス副官
「はっ、真西へ向かっています」
比瑪
「私ん家の方に来るなんて、嫌だな」
「楓先生、居るかな?」
「あれ、足跡じゃない。あっ……」
「屋根壊したっていうの? あいつがやったんだ」
「みんなは畑仕事に行っちゃったのか」
「何処へ行ったの?」
ナンガ
「オルファンと戦おうというなら、ノヴィス・ノアで一緒に戦おうじゃないか」
「遠慮するよ。あんたら素人と一緒じゃ、何が起こるかさ」
ラッセ
「俺達だって訓練してる。ブレンに取り付けた装備は……」
「装備に頼ってちゃ駄目だな」
「宇都宮比瑪か?」
比瑪
「ああ、そうだ」
「俺は一人で戦って、ノヴィス・ノアが世界中の税金を無駄遣いにしてるって証明してやる」
ナンガ
「オーガニック・エンジンの実用テストをしている船なんだぞ?」
「十年前、親父達が開発した奴だろ? そんなんで……」
比瑪
「だから! みんなでグランチャーを叩いて、オルファンを止めなくちゃならないんでしょ?」
「リバイバルしたまんまで、碌な調整をしていない……」
「今、何した!」
「ペラペラ、ペラペラ……敵を連れてきただけの女が!」
比瑪
「敵?」
三尾
「グランチャーが?」
ラッセ
「乗ろうとしたでしょ」
三尾
「研究者として、ブレンのマッスルは気になりますでしょ?」
ラッセ
「ドクター、敵は我々を狙ってます」
三尾
「あらあら」
ラッセ
「ブレン、上げてくれ」
「源野さん、変電所に近寄らないでください」
比瑪
「あんな物で止められるの?」
「メーカーが違うと、はまらないのか」
「迂闊に上昇するんじゃない。狙われるぞ」
「ブレン、はめてくれよ。電力をみんな貰わないとな」
「はまった。偉いぞ」
「頼むから前に出るなよ。マイクロ・ウェーブのショックで、パイロットにダメージぐらいは与えられる筈なんだ」
「そうしたらやってくれ。分かってるよな、嬢ちゃん?」
比瑪
「あんな事で……」
ナンガ
「グランチャーが撃破出来るのか?」
ラッセ
「アンチ・ボディには……」
ジョナサン
「アンチ・ボディの反応は四つだというのか? そんな機能不全のブレンパワードで!」
「ジョナサン!」
ジョナサン
「敵は殲滅して!」
シラー
「裏切り者を倒すのに、ジョナサンが出る事はない!」
「くっ、ぁっ……!」
ジョナサン
「頭痛か……!」
「今叩くんでしょ! ブレン・バーを使って!」
比瑪
「そ、そっか……!」
ラッセ
「確かに」
「うっ……!」
ジョナサン
「シラー、右の方を任せる」
シラー
「は、はい!」
ジョナサン
「マイクロ・ウェーブでアンチ・ボディを落とそうなんて……勇、甘いぞ!」
「勇、何処だ……?」
「ブレンパワードがこんなに使えるのか?」
「あっ、くっ……!」
ジョナサン
「伊佐美勇……こういう事なら機体は手に入れられるし」
「シラー、頼むぞ」
「勇の小僧は……!」
「ジョナサン! 俺達が戦ったって、何にもならないんだぞ!」
ジョナサン
「オルファンがやろうとしている事を邪魔する奴は、全て排除する!」
「貴様の任務も同じだった筈だ!」
「今は違う。グランチャーの任務も、オルファンの目的……!」
「オルファンの目的だって、可笑しいんだ!」
ジョナサン
「可笑しくはない!」
「奴は……!」
「ジョナサン!」
「グランチャー部隊の任務なんて、嘘っぱちだ!」
ジョナサン
「オルファンの永遠は、人類の永遠である!」
「その前に、人間が滅ぼされちまう!」
ジョナサン
「人類の遺伝子は、オルファンとグランチャーに残るんだよ!」
「ジョナサン!」
「あっ……!」
ジョナサン
「大体、そんな不完全なアンチ・ボディで、私のグランチャーに勝てる訳がない!」
「死ねよや!」
「な、何だと? ブレンパワードの奴が、ソード・エクステンションを使えるというのか?」
「勇、貴様は私の手を斬った! 勇が……!」
「行ってくれた……」
「あいつ達、大丈夫なのか?」
「アンチ・ボディの空中戦」
比瑪
「はっ……!」
シラー
「こ、これがブレンパワードの反発力? 話が違う……!」
子供
「わっ、落ちたぞ!」
 〃
「ジェット戦闘機が落ちたぞ」
 〃
「爆発したんだ、爆発」
 〃
「先生、大丈夫ですか?」
比瑪
「楓先生は何やってんです? 寄りによってこんな時に戻ってくるなんて」
シラー
「勇の機体は体力を付けているのか」
「ジョナサン・グレーンは?」
子供
「アンチ・ボディだ。グランチャーじゃないぞ?」
楓先生
「比瑪ちゃん? 宇都宮さんね?」
比瑪
「楓先生! 津波も来ます。グランチャーは何をするか分かりません」
楓先生
「クマゾーも、アカリ、ユキオも……!」
子供
「また来た」
楓先生
「え?」
「何やってんだ? お前の仲間が……」
比瑪
「ここは私のお家なのよ。兄弟達に逃げてもらえなけりゃ戦えないでしょ?」
「あいつの家……?」
楓先生
「大根は置いて。バスに乗りましょう」
「直撃される!」
比瑪
「させないわよ」
「邪魔するの?」
「ターゲットが動かなかったら、お前ん家がやられる」
比瑪
「そうか」
「アンチ・ボディ同士の戦いに、みんな慣れていない」
「あいつとなら……」
比瑪
「どうするの、伊佐美勇?」
「避けろ」
比瑪
「え?」
「そういう使い方ではない筈だ。比瑪ちゃん、引っ付けよ」
比瑪
「引っ付く? くっ付くの?」
「狙えないよ」
「狙う事はない。1・2……3!」
「チャクラ・エクステンション!」
比瑪
「シュート!」
ナンガ
「な、何が起こったんだ?」
シラー
「な、何? このオーガニック・ウェーブは……!」
ラッセ
「やれたのは俺の力じゃない……何の光だった?」
比瑪
「何だったの、今の? 伊佐美勇、君……」
「オーガニック・ウェーブ……アンチ・ボディのチャクラ・ウェイブ・モーションって奴かもしれないけど……」
「高波はどうした?」
比瑪
「あっ!」
楓先生
「オーライ、オーライ」
比瑪
「駄目ですよ! ひだまりの館より低い所へ行ったら危険でしょ?」
楓先生
「で、でも、波の高さが……」
「バス二台ぐらいなら、ブレンパワードで運べばいいだろ」
比瑪
「お家はどうするのよ? 波に呑まれちゃう!」
「お前の仲間にも手伝わせて、バスをすぐ運べ」
「波が高い……!」
「チャクラ・シールドは、グランチャーを跳ね除けられたんだ」
「逃げられるよな? ……来い!」
「頼むぜ、ブレン!」
子供
「お家は助かるの……?」
楓先生
「ええ、大丈夫よ。あれなら大丈夫」
比瑪
「これがブレンパワードの威力よね! こういう風に使えばいいんだ!」
ナンガ
「ラッセ、見てるか? グランチャーに六年乗ってたという奴の話は、本当のようだ」
ラッセ
「ああ……となれば、奴が何でオルファンから出て来たんだ?」
「しかも、オルファンではグランチャー・タイプしか使ってなかった……」
ナンガ
「締め上げて吐かせるか」
「な、比瑪ちゃん?」
比瑪
「それは、あいつ次第」
「ふぅ、お疲れさん、ブレン……俺達、何やってるんだろうな?」