第4話 故郷の炎

前回のあらすじ
伊佐美勇は、私の家の近くでブレンを使ってみせてくれた。
けど、オルファンで付き合いのあった人が追い掛けてきたから、色々あったみたい。
ひだまりの館を泥津波から守ってくれたのには、感謝するけど。
救助隊
「よ〜し、行ってくれ」
 〃
「サンキュー・ベリマッチ、ブレンパワード」
ナンガ
「どういたしまして」
比瑪
「じゃ、みんな避難出来たのね?」
楓先生
「みっちゃんの怪我が心配だけどね」
比瑪
「ご馳走様」
楓先生
「人参がなくてごめんね」
比瑪
「美味しかったわ」
ラッセ
「ご馳走様」
楓先生
「お体に気を付けて」
ナンガ
「比瑪ちゃんのママか……」
「どうしたんだ?」
ラッセ
「豚汁だ。惜しかったな」
ナンガ
「豚汁?」
「何だい? 豚汁……?」
比瑪
「ポーク入りのベジタブル・スープ」
ナンガ
「ポーク? 何で教えてくれなかったんだよ」
ラッセ
「国では食べるのか?」
ナンガ
「食べるさ。津波の片付けで働いてんだから、そういうのは欲しいよな」
比瑪
「楓先生、仕事の邪魔したくなかったのよ」
「でもあの子は、取りにもこなかった」
ナンガ
「アンチ・ボディの戦闘しか考えてない、リクレイマーか……」
「こうやって食べていられるのも、お前が元気で居るからだ」
「有難うな」
ナンガ
「一人で戦うのに拘っているのは、近親憎悪って奴かね?」
ラッセ
「単純に、一人で出来るって思ってるんじゃないの?」
比瑪
「甘えん坊とか寂しがり屋の反動かも……って、見えるけど」
「だけど……」
「俺とお前だけで戦うんだぞ」
比瑪
「待ちなさい、勇。その子はまだ疲れているわ」
「……もう!」
ラッセ
「敵を求めて幾千里……かい?」
ナンガ
「面倒見切れんぞ」
比瑪
「あいつったら……!」
研究員
「あれ? ブレンパワードだ……」
「迂闊だったよな……ビー・プレートのデータっていうの、盗んでおけば良かったよな」
アノーア
「グランチャーを撃墜したという事は、ノヴィス・ノアのブレンパワード部隊の初陣としては評価出来る物です」
ゲイブリッジ
「お孫さんが活躍した様子ですな」
直子
「比瑪ちゃんでしょ? それに、ナンガさんもラッセさんも、いいパイロットになりましたから」
アノーア
「――何だ?」
ノヴィス・クルー
「移動するアンチ・ボディの、オーガニック・エナジーを捉えました」
アノーア
「グランチャーか?」
ノヴィス・クルー
「ウェイブ特性からは、ブレンパワードのものです。現在、西東京方面に移動中」
アノーア
「分かった、直ぐにブリッジに行く」
「恐らく、伊佐美勇君だと思われますが……お心当たりは?」
直子
「家に帰るつもりかしら……」
アノーア
「家?」
ゲイブリッジ
「考えられるな。あそこはいい土だった」
「野菜の味は良かったし、ここまで来るなら、勇君だって帰る気にはなる」
カナン
「カナン・ギモス、グランチャー搭乗記録D0728……」
「プレート回収作業は、ケイディ・ディンと行う」
「妨害なし、周囲は静か」
「これより、私は伊佐美博士の特命任務に就く。ケイディはプレートと共に待機」
ケイディ
「グランチャーで行かないのか?」
カナン
「爆撃に行く訳じゃないわ」
ケイディ
「ノヴィス・ノアのブレンパワードが来るかもしれない」
カナン
「そうなったら、教えてね」
ケイディ
「……クインシィの言っていた通りだ。カナンは、伊佐美勇みたいにブレンパワードに汚染されている可能性がある」
カナン
「私は、何を期待しているのかしら……」
「こんな所に、カナンのグランチャーだって? それにケイディが付いてんのか」
ケイディ
「今確かに、ブレンパワードの反応があったか。ノヴィス・ノアの物か、勇の野郎だったのか分かりやしねぇ」
「丸っきりデータがないとよ」
「誰のバイクだ?」
「カナンの敵になっちゃうのは、勘弁して欲しいな」
カナン
「チェストの棚の下、ですか……?」
「余りに古典的な隠し方というのは見付かりにくいし、見付かっても今更ね」
カナン
「了解しました。あの……」
「はい?」
カナン
「着物は持ってこなくて宜しいんでしょうか?」
「気に入った着物があれば、上げますよ」
カナン
「はい」
カナン
「伊佐美翠博士には、母親の香りは感じない……」
「でも、この伝統的な衣装には、女性の体を包んでいたものがある」
「女の体を包んでいたもの……」
回想
「その腹の子供は俺の子じゃないんだろ、下ろせよ!」
 〃
「何でそう思うんです? 神掛けてお腹の子は、貴方の子です!」
 〃
「分かるもんか! 手前の……!」
 〃
「臨月なんです! もう産まれてくるんです!」
カナン
「ひ、酷いよ、母さん……私は、誰にも愛されていなかった」
「そ、そうよ。生まれる前から、ずっと……」
「ここら辺は七年前と同じだ」
「あっ……!」
カナン
「勇!」
「カナンじゃないか。どうしてこんな所に?」
「俺の家に、用事があったんだ?」
カナン
「違うわよ。この辺りにもプレート反応があったから、探していただけよ」
「そうなのか」
カナン
「でも、貴方に会えるような気はしていたわ」
「カナン、オルファンを捨ててくれないか?」
カナン
「出来る訳ないでしょ。出来ないわ」
「シラーもジョナサンも、クインシィに親父にお袋……」
「カナンもだけど、みんなオルファンに寄り掛かってるよ。それでは子供のままじゃないか」
カナン
「思い通りにならないからって、お家を飛び出してしまう方が、ずっと子供だって思わない?」
「俺はオルファンの間違いに気が付いたんだ。オルファンでは、選ばれた人間だけが生き残れると教えられた」
「オルファンに呼ばれたリクレイマーだけが生き残るって……それってさ、絶対間違ってるよ」
「俺さ、ブレンパワードに乗った時に分かったんだ」
「オルファンではちゃんと動かなかったあれさ、動いてくれたんだぜ?」
カナン
「……ケイディ、こちらカナン。迎えに来て」
ケイディ
「了解。近くにブレンらしい物をキャッチしたけどな……何か変わった事はないか?」
カナン
「まだ何もないけど……勇なら会ってみたいわね」
ケイディ
「ああ、勇を捕えれば、伊佐美博士もお喜びになる」
カナン
「早く来て」
ケイディ
「了解。一分後に……」
カナン
「三十秒よ。それ以上待てないわ」
「カナン……」
カナン
「逃げるなら今の内よ」
「カナン、聞いてくれ」
カナン
「私は貴方と違って、帰る場所はオルファンにしかないのよ」
「さ、行きなさい」
「カナン、あっ……」
カナン
「これ以上貴方と一緒に居たら、私は帰る場所をなくしてしまうわ」
「さようなら、勇……」
「婆ちゃん、二ヶ月は放ったらかしてるぞ」
「碌な物ねぇな……」
「カードがあっても、マシンがなけりゃな」
ケイディ
「だからさ、俺は嫌だって言ったろ?」
カナン
「伊佐美翠博士のカードも回収した。プレートも運び出せるのに……」
ケイディ
「村の連中に大騒ぎされながら、お前を回収したんだぜ?」
「何であんなに慌てて俺を呼んだ? 何があった?」
カナン
「何がって……」
ケイディ
「伊佐美勇に会った」
カナン
「冗談言わないで」
ケイディ
「そんなのはいいんだ、こうやって戻ってきたんだからな」
カナン
「なら戻りましょう」
ケイディ
「嫌だ。勇の機体らしいのが一機……それに、ノヴィス・ノアのアンチ・ボディも動いてるってんだ」
「チャンスじゃねぇか、撃墜するんだよ。ノヴィス・ノアなんて、訳の分からん連中の寄せ集まりなんだ」
「ブレンパワードなんて、元々、機能不良のアンチ・ボディなんだぞ?」
カナン
「オルファンではね」
ケイディ
「生身で勇と会えば迷っちゃうのはよく分かるぜ、カナン」
「だからブレンパワードを倒す。そうすりゃ勇の事なんて、ばっさり忘れられるってもんさ」
カナン
「ケイディは、グランチャーの抗体……つまりパイロットになって、どんな気分?」
ケイディ
「体に芯が通るって感じだな」
カナン
「私、時々、凄く気分が悪くなる瞬間があるわ」
ケイディ
「カナンはグランチャーの抗体になり切れない、か……」
「なら、オルファン好きのリクレイマーになりゃいい」
カナン
「そうね……」
ケイディ
「グランチャー部隊の目的は、浮上するオルファンをあらゆる敵から守る事なんだ」
「勇がブレンを使ってみせたとなりゃ」
「ノヴィス・ノアのブレンパワードだって、動きが悪い内に撃破しておかなくちゃ、人類の未来はなくなっちまう」
カナン
「ケイディはアンチ・ボディね」
ケイディ
「ああ、グランチャーとオルファンのな」
カナン
「素敵、ね……」
「これは二十年前の日記かよ」
「このインデックスは大学時代のノートで、ビー・プレートの研究時代ってのは、もっと後だもんな」
ナンガ
「この家かい?」
比瑪
「ええ、一年振りだわ」
ナンガ
「ゲイブリッジ司令の恋人の家ね」
ラッセ
「追っ付け、焼け木杭の二人も来るぜ。火傷しないように気を付けよう」
比瑪
「何言ってんの、二人共」
ナンガ
「子供が口を挟む事じゃない」
「今時、こんな雑草取りをするとはね」
ラッセ
「DNAファームなら虫も付かないし、雑草も生えないもんな」
ナンガ
「ああ……俺は、何であいつがオルファンから逃げ出したか、分かったような気がするな」
ラッセ
「何でだよ?」
ナンガ
「二・三ヶ月前までは、ちゃんと畑をやってた所だ。奴は、直子さんのこんな仕事を見て育った」
比瑪
「そういえば、向こうのトマト畑の雑草は取ってあったわね」
ラッセ
「という事は、家の中に居るのか? ブレンは見えなかったぞ」
ナンガ
「ここは奴のホーム・グラウンドだぜ?」
比瑪
「こんな所で、こんな家と畑が好きだったのよ、勇って子は」
ナンガ
「ああ。そういう奴が海中に居て、グランチャーの矯正に従うなんて無理な話だ」
比瑪
「なら、ノヴィス・ノアに来てはくれないわね」
ナンガ
「まあな。ノヴィス・ノアは、DNA操作と有機培養の塊で……」
ラッセ
「挙句に、世界中の官僚共にコントロールされてんだもんな」
ナンガ
「襲われるぞ?」
比瑪
「いいもん。ここは直子お婆ちゃんの家よ」
「何だ? 綺麗……」
「うわ、これって直子お婆ちゃんが着たの? それとも、勇のお母さんかな? 姉さんのかな?」
ラッセ
「比瑪、勇は二階だ」
比瑪
「は、はい」
ナンガ
「おい、恋人達も来たぞ」
比瑪
「可愛い寝顔」
「わっ、つっ……!」
直子
「勇」
ラッセ
「どうしたんです?」
ゲイブリッジ
「何でもない」
「婆ちゃん……!」
直子
「い、痛くないかい?」
「こんなの、どうって事ないさ」
直子
「大きくなって……」
「ゲイブリッジさん?」
直子
「知っているの?」
「ノヴィス・ノアの情報は大雑把に聞いている。婆ちゃんの事も分かってたから……」
「会いたくってさ」
直子
「お帰り、勇」
ゲイブリッジ
「むっ……!」
「何だ?」
比瑪
「ナンガ、あっ……!」
ラッセ
「やりやがったな!」
ナンガ
「アンチ・ボディは何処だ?」
比瑪
「ブレンに乗るわ」
ラッセ
「おう」
直子
「勇……!」
「ズボンだ」
ゲイブリッジ
「直子さん、ここは危険だ」
直子
「は、はい」
比瑪
「何処から?」
ナンガ
「何機なんだ?」
ラッセ
「山の向こうから狙ったのか?」
「カナンか?」
比瑪
「ブレン!」
ケイディ
「勇のブレンじゃないのか? ノヴィス・ノアのか?」
「カナン、一機じゃないぞ」
「ん、何だと?」
比瑪
「後ろを取られた?」
カナン
「この子、あのブレンパワード……!」
比瑪
「あの人、迷ってくれている?」
カナン
「去年、東京で出会ったブレンパワード……?」
ケイディ
「カナン、援護してくれ」
カナン
「くっ……!」
比瑪
「貴方……!」
「カナン!」
カナン
「勇?」
「カナン、オルファンに頼ってる限り、幸せになんかなれないぞ」
カナン
「私は……私はただ、生まれてきた事を後悔したくないだけ!」
「だったら、尚更オルファンから離れなくちゃ駄目だ!」
ケイディ
「カナン!」
カナン
「え?」
ケイディ
「ブレンパワードに汚染されている者の言葉など、聞く事はない!」
カナン
「うぅっ……!」
「カナンは、誰からも愛されてないって思い込まされてるんだ!」
カナン
「私は、生まれる前から愛されてなかった!」
「見付けりゃいい! 自分で育てればいい! 愛ってそういう……!」
ケイディ
「聞こえている! 汚染された者の戯言が!」
「ブレンを動かした貴様は死ぬんだよ!」
「カナンを巻き込もうとしたな、ケイディ!」
カナン
「勇?」
ケイディ
「オルファンには全生命を治める力がある! 絶対者だ!」
「その絶対者を守る使命を与えられたリクレイマーは、間違いを犯す事のない者だ!」
ブレン
「救われなかった者も選ばれなかった者も、救えるのが絶対者だ! リクレイマーはオルファンの使いじゃない!」
ケイディ
「リクレイマーはオルファンを目覚めさせた! オルファンを守った!」
「勝手な言い草!」
「あいつら……」
ラッセ
「わぁっ……!」
ナンガ
「ラッセ、大丈夫か?」
「ん?」
ケイディ
「勝手なのは人類の方だ。地球を荒しきった!」
「絶対者なら、それを丸ごと救える筈だ!」
ケイディ
「どういう事だ、カナン? ブレンパワードがグランチャー並のパワーを発揮している」
カナン
「勇の生体エナジーが復活させた? なら今は、ケイディ……」
「ケイディ!」
ケイディ
「下がるにしても!」
「あいつ……!」
「カナン、避けろ!」
カナン
「勇?」
「やれた?」
ケイディ
「ブ、ブレンか? 勇なのか? ブレンパワードがやったというのか?」
「何でだよ!」
比瑪
「つ、強い……!」
ナンガ
「もう一機は何処だ?」
比瑪
「え?」
「ケイディの奴、もう少し……もう少し何とか……」
「カナンだって……!」
ラッセ
「見ちまったぜ……グランチャー乗りがブレンパワードを使うと、ああなるのか」
ナンガ
「減らず口を叩くのも分かったが、それにしちゃビビっているようだな」
比瑪
「あいつ、ナーバスなんだ」
「あの時、カナンに相談している暇なんか、なかったじゃないか」
カナン
「ブレンに乗って勇は強くなっていく。私はこのまま……このまま……?」
「また、頭痛が来た……」
「学生時代の恋人かよ」
直子
「覚悟してましたから……」
比瑪
「ね、ノヴィス・ノアに来なよ?」
「今は考える時間が欲しいんだ」