第5話 敵か味方か

ヒギンズ
「本日付けで、ブレンパワードのパイロット候補としてノヴィス・ノアに配属となりました、ヒギンズ・サスです」
ナンガ
「キメリエスでは、君を手放すのを嫌がったらしいな」
「俺はナンガ・シルバレーだ。一応、ブレンパワード隊の責任者という事になっている」
ラッセ
「ラッセ・ルンベルクだ。宜しくな」
ヒギンズ
「まだ、リバイバルしていないんですね?」
ナンガ
「グランチャーとの戦いが本格化してくるというのに、困ったものだ」
「おまけに、パイロットも子供の方が腕が良くてね」
ヒギンズ
「宇都宮比瑪ですか? いいセンスをしているって聞いてますけど」
ラッセ
「ああ、いい子だよ。ノヴィス・ノアの一号機のパイロットだものな」
「それと、リクレイマー上がりの坊やだ」
ヒギンズ
「伊佐美勇ですね?」
「私を見て、リバイバルしてくれないのかしら……」
アノーア
「私は伊佐美勇を、全面的に信用している訳ではありません。彼はグランチャーに乗っていた少年です」
ゲイブリッジ
「だからこそ、ブレンパワードのパイロットとしても、心強いのではないかね?」
アノーア
「……何故、彼はリクレイマーを裏切る気になったのでしょう?」
直子
「あの子は、両親とは違う道を見付けたんだと思います。そういう子です」
アノーア
「親子の絆がそれで断ち切れるものでしょうか?」
直子
「それは……」
ゲイブリッジ
「今オルファンと戦うには、彼の協力が必要だ」
アノーア
「直感ですか?」
ゲイブリッジ
「ま、そうだ」
アノーア
「総司令がそう仰るのなら……」
ゲイブリッジ
「大丈夫ですよ、直子さん」
直子
「有難う御座います」
アイリーン
「ユウ・イサミ、気分が悪い?」
「ユウ」
「勇……」
「痺れるよ……ジリジリする……ああ、痛いよ……」
「大丈夫です、貴方なら我慢出来るわ。強い子だものね。上の村の山と川で鍛えた子だものね」
研作
「アルファ、ベータ、セータ……各波は同じように上がっている」
「乱れではない。これはグランチャーとシンクロしているんだ」
「流石に我が子だ……アンチ・ボディたるグランチャーと、一心同体になれるデータが取れてるんだよ、翠!」
「貴方の叡智と私の忍耐力……それを受け継いだ勇なら、依衣子以上のパイロットになれるわ」
「グランチャーの抗体としてね」
「あぁ、ジンジンするよ……!」
「オルファンに選ばれたんだから、大丈夫よ」
「あぁっ……!」
「勝手に、こんな所に連れてきて……!」
アイリーン
「伊佐美勇、大丈夫?」
「……どうでした、僕?」
アイリーン
「問題なし」
「何か、体に埋め込まれていたとか……」
アイリーン
「DNAの書き換えもないみたいね。そっちの方は、もう少し時間を掛けて調べるって」
「僕の疑いが晴れたって事?」
アイリーン
「それは、私の判断する事ではないわ」
「私は、オルファンを修復したリクレイマー達を、マッド・サイエンティストとは思ってないし」
「……何?」
アイリーン
「何?」
アカリ、クマゾー
「別に」
アイリーン
「そう」
「俺を見張ってんだな?」
アカリ、クマゾー
「うん。……あっ!」
「誰の命令なんだかさ」
比瑪
「そうね。反応係数をもう少し高めに設定して……」
ユキオ
「比瑪姉ちゃん」
比瑪
「なぁに、ユキオ?」
ユキオ
「休んでなきゃ駄目じゃないか。休むのも任務の内だろ?」
比瑪
「有難う。でもね、勇の使ってるこの子の事、放っておけなくて」
アカリ
「バレた!」
クマゾー
「バレバレ!」
アカリ
「比瑪姉ちゃん!」
クマゾー
「姉ちゃ〜ん!」
アカリ
「バレた! スパイしてるのバレた!」
比瑪
「ああ、いいのよ。アイリーンさんの所でしょう?」
「何してんだ! 俺のブレンパワードだぞ!」
比瑪
「コックピットの調整よ」
「勝手に弄るな」
比瑪
「近付くんじゃない!」
「貴方が近付くと、碌な事がないんだからね!」
「どういう事だよ?」
比瑪
「触るんじゃない! 引っ付くんじゃない!」
アカリ
「引っ付くな!」
クマゾー
「引っ付く」
「いけないか?」
比瑪
「キスがいい訳ないだろ?」
ユキオ
「キス?」
アカリ、クマゾー
「キス?」
ユキオ、アカリ
「したのか?」
クマゾー
「した」
「キス? 挨拶はしたけど」
「な?」
比瑪
「ああ、一年振りの挨拶。ひつこいもんね」
「そうだったかな……。悪かったよ」
「お前は、これでいいんだな?」
比瑪
「この子、このブレンパワードに好かれてるんだ……」
カナン
「オルファンが動き出しているわ。本当に、宇宙を求めているのかしら……」
依衣子
「勇がノヴィス・ノアに、このオルファンの弱点を教えているのだから」
「防衛の為にグランチャー部隊を強化するのは当然でしょう」
研作
「オルファンが浮上すれば、ノヴィス・ノアなど問題ではない」
依衣子
「勇はグランチャーの抗体にならなかったにしても、オルファンを知っています」
研作
「あれはお前の弟なんだぞ? それを倒そうというのか?」
依衣子
「異分子は排除しなければならない」
「それは、貴方が決める事ではないわね、依衣子。全ては……」
依衣子
「依衣子などここには居ない。私はクインシィ・イッサーである」
「……そうしたのも、オルファンの意思を受けて、私達が……」
依衣子
「クインシィをやっているのは、私なんだよ」
「勇がビー・プレートを手に入れたらどうなる、博士?」
研作
「ビー・プレートの事は、まだその威力も存在も、仮定のものなんだ」
依衣子
「しかし、オルファンそのものの存在に影響を与える。そういう性格を持っているものだと、博士は言ってる」
カナン
「――戦闘データだ」
研究員
「有難う御座います」
研作
「そうだからこそ……」
依衣子
「グランチャーの補修技術の開発を急ぎ、部隊そのものの補強が先決なんだろ」
「話は分かってます。ですから、ジョナサンにも率先して出て貰います」
ジョナサン
「同時に、ノヴィス・ノアの動向も探ってきますよ」
「カナン」
カナン
「何か?」
ジョナサン
「先発で出てくれないか?」
カナン
「また?」
ジョナサン
「いいだろ?」
カナン
「ああ、了解」
依衣子
「ジョナサン……迂闊ではないのか?」
ジョナサン
「クインシィ・イッサーの不安も、一挙に解消してみせますよ」
カナン
「リクレイマーは、勇の事を敵と見做している。オルファンの事しか考えない」
ジョナサン
「……カナンを見張っていれば、裏切り者が出て来る筈だ」
シラー
「はっ!」
ジョナサン
「オルファンは伊佐美ファミリーの所有物ではない。それを彼らも知るべきだな」
依衣子
「成程、カナンを試す……という訳かい? ジョナサン」
ジョナサン
「はっ……。ドクター達には、プレートの加工をやって頂けますな?」
依衣子
「やらせてます。あれはいいシールドになる」
ジョナサン
「では……」
比瑪
「クマゾー、こっち向いて」
「ほら、口を拭いて」
「オルファンでは何を食べてた?」
「人間どこに居たって、食べるもんは変わるもんじゃない」
比瑪
「そうそう。直子お婆ちゃんの畑のトマト、美味しかったね」
「あれは、昔からああして作ってんだ。コツあるしな」
比瑪
「ふうん……お婆ちゃんに教えてもらったんだ?」
「なのに、どうして今はお婆ちゃんと話さないの?」
「関係ないだろ」
比瑪
「でもさ……」
コモド
「こんな所に居た」
「ユウ・イサミ、私はコモド・マハマ。手身近に言うわ。貴方のブレンパワード、私に譲ってくれない?」
「何言ってんだかさ」
コモド
「私はパイロットよ? だけど、ブレンパワードがなければ戦えない」
「俺だってオルファンを潰す為に出て来たんだ。そっちの事情なんて知りたくもない」
コモド
「貴方は自分の勝手で戦うんでしょ? 私達は違うわ」
「道具を頼りにするようでは、グランチャーは落とせないよ」
コモド
「貴方と戦って証明してみせましょうか?」
比瑪
「コモド、あのブレンパワードは、勇を認めているのよ?」
「他の人が無理に乗ったら、どうなるか分からない」
コモド
「私が認めさせるわ」
「誰かが来る……誰だ?」
カナン
「まだこんな所をウロウロして。勇、居るんでしょ? 出ておいで」
ノヴィス・クルー
「グランチャー1機、接近!」
アノーア
「1機だけだと?」
ノヴィス・クルー
「はい」
アノーア
「対空戦用意!」
「たった1機で接近……?」
「うわ、何すんだ?」
アカリ
「勇は動いちゃ駄目!」
クマゾー
「動くな!」
「グランチャーが来てんだろ?」
比瑪
「貴方には待機命令が出てるのよ? 私達に任せて」
「カナンが来たんじゃないのか?」
「ほら、分かったから。離れてくれよ」
「信用されてないんだな」
アカリ
「そういう訳じゃないけど」
「そうなんだよ」
カナン
「勇、居るのね」
ナンガ
「敵が1機だけとは思えない。注意しろよ」
「行け!」
比瑪
「あのグランチャー、勇と一緒だった女の人のだ」
「勇を連れ戻しに来たんなら……!」
カナン
「勇は出て来ていない?」
「はっ……!」
「勇!」
「カナンか?」
コモド
「何でなのさ、答えなさいよ」
「何でさ」
「出るからね」
ノヴィス・クルー
「イランドじゃ、グランチャーと接近戦なんて出来ねぇぜ?」
コモド
「そんなの」
ノヴィス・クルー
「ヨルバの神様が、グランチャーを知ってんのかよ?」
コモド
「オグンの神よ、この戦いの我を守りたまえ」
比瑪
「ひょっとしたら、勇を取り返しに来たんでしょ、貴方は!」
ラッセ
「こっちの事を全く分かってないで出て来たのか、あいつは」
カナン
「あの時のブレンパワード? 貴方に会わなければ、勇も私も迷う事なんてなかったのに!」
比瑪
「パワーではグランチャーに敵わない?」
ナンガ
「比瑪、離れろ!」
比瑪
「え?」
ナンガ
「コモド、こんな時にセレモニーはするな。右に回り込め」
コモド
「オグンよ、私は命を懸けて戦います!」
ノヴィス・クルー
「上がってもお祈りをやりやがって」
ヒギンズ
「同じアンチ・ボディでも、グランチャーの方がパワーがあるんじゃないの?」
「カナン? カナン一人で来てるのか」
ラッセ
「逃げたぞ。どういうつもりで来たんだ?」
アノーア
「どう思われますか?」
ゲイブリッジ
「偵察というところだろうが、オルファン側の作戦とは思えないな」
アノーア
「ブレンパワード達は帰投待機、イランド隊は偵察。散開させろ」
直子
「勇を連れ戻しに来たんだわ……」
ゲイブリッジ
「綺麗なもんです」
直子
「ええ」
「有難う」
ゲイブリッジ
「尤も、あれが日本で見れるのは、人類にとってあまりいい事ではありませんが」
直子
「勇は大丈夫でしょうか?」
ゲイブリッジ
「オルファン体験が心の傷になっても、ここに居てくれれば癒されますよ。直子さんの存在も大きいでしょうからね」
直子
「そうでしょうか。ふしだらな所を見せているような気がします」
ゲイブリッジ
「初恋がふしだらですか?」
直子
「いえ……今でもここに、その殿方がいらっしゃるのが……」
ゲイブリッジ
「若者達は分かってくれていると思いたいのですがね」
比瑪
「勇、昼間のグランチャーのパイロッ……何?」
「二人居るの? クマゾー?」
「頼む、どうしても行かなければならない所があるんだ」
「よし、いい子だ。大した奴だよ」
ノヴィス・クルー
「お、おい、何やってる?」
 〃
「誰だ、降りろ!」
「前より反応が早い。ここの修理のお陰だってのか」
「迂闊に動いたら面倒な事になるから、動くなよ」
「そこか」
カナン
「勇、来てくれた」
「神殿の周りを清める為の、鈴の音か……」
「来てくれて嬉しかった」
「オルファンに居た時に決めた落ち合い場所といったら、ここしかなかった」
カナン
「ああ、その土地の神社」
「勇が自意識を取り戻せば、あの御両親から逃げ出したいというのは分かるけれど」
「でも、オルファンの目的は……」
「オルファンの目的は分かってるさ」
「人間をみんな、自分に従うものにしちまう」
「ケイディを見ただろ?」
カナン
「それでも、あそこが私の見付けた唯一の安らぎの場所なのよ」
「他の何処に居ても、私は不安で仕方がなかったわ」
「それはカナンの、お母さんの不安だろ? カナンはカナンとして生きる意志を持つべきだよ」
カナン
「そんな事、出来る訳ないわ」
「出来る。俺はそう考えたから行動した」
カナン
「私には、オルファン以外に生きる場所はないわ」
「ノヴィス・ノアがある。あそこはカナンに合うと思う」
カナン
「貴方には?」
「まだ分からないな」
比瑪
「勇ったら、こんな所で何やってんのよ?」
「リクレイマーの連中は遺伝子や記憶が全てだというけど、そうだったら何故、俺達は世代を重ねるんだ?」
カナン
「その間違いを、オルファンが正すのでしょ?」
「違うよ。オルファンには何か……そう、取り敢えずの呪縛のようなものがあるんだよ」
カナン
「取り敢えずの呪縛……?」
「カナンだってオルファンを離れてみれば、分かると思うな」
比瑪
「ったく……!」
「何やってんの? こんな事してたら、貴方の立場は悪くなる一方よ?」
「何が悪いんだよ?」
比瑪
「こんな美人とデートなんて」
「悪いかよ?」
カナン
「大事な話をしているのよ。邪魔をしないで頂戴」
比瑪
「こっちも大事な話だわ」
「失礼だろ?」
比瑪
「何でさ! この人、あんたの姉さんなの? 恋人か?」
「馬鹿言うな!」
カナン
「あっ……!」
「グランチャー!」
カナン
「シラーに付けられていたの?」
比瑪
「あんた、そういう女なんだ?」
シラー
「勇、カナン! 隠れても無駄だよ!」
比瑪
「勇、ここで戦っては駄目よ」
「シラーはそんな事考える奴じゃない」
カナン
「どういうつもりなの、シラー?」
シラー
「そっちこそ、裏切り者とコソコソ密談かい?」
カナン
「私は、勇を連れ戻したかっただけよ」
シラー
「ユウ・イサミは邪魔なんだ、ジョナサンや私にはね。あんたも一緒に死んで貰うよ!」
カナン
「シラー、誤解しないで!」
「カナン、オルファンに取り付かれた奴は、益々こうなると思わないか?」
「うっ……!」
カナン、シラー
「くっ……!」
カナン
「パワー負けしてるのは、気力のせい?」
「何なの? これ……拒否反応?」
シラー
「グランチャーに見捨てられたね」
「カナンにはパイロットの資格もなけりゃ、ましてオルファンの抗体にだってなれやしないのさ!」
カナン
「うっ……!」
「カナン!」
「邪魔するな!」
カナン
「うっ、あぁっ……!」
「な、何故? 何故助けてくれたの?」
比瑪
「私じゃなくて、この子が助けたの。貴方はリクレイマーじゃないって言ってるわ」
カナン
「ブレンパワードが……」
「右後ろ!」
シラー
「お前も死にな!」
比瑪
「はっ……!」
ナンガ
「どうやら間に合ったな」
ラッセ
「比瑪はその女の人を助けりゃいい」
比瑪
「ラッセ、ナンガ!」
シラー
「チッ、二機も出て来た! 引き上げるぞ!」
「行ってくれたか」
「カナン」
「カナン、大丈夫か?」
カナン
「有難う、勇……でもね」
「勇、何が正しいのか分からないわ。私には」
「正しい正しくない以前に、考えなくちゃいけない事がある。世代を重ねる意味という奴をね」
カナン
「母の事を全て自分の身に置き換えて、傷を深くする必要はないっていう事?」
ブレン
「そういう事もあるけど」
比瑪
「……何、話してんだか」
「俺は今、とっても嬉しいんだ。カナンと戦わずに済んでさ」
カナン
「あぁ、そりゃそう。そりゃ私だってそうよ、勇」