第10話 プレートの誘惑

前回のあらすじ
ジョナサン・グレーンさんって、お母さんに会いにきたんだって、絶対に思うな。
クマゾーは何も説明してくれないから、あの人に感化されていなければいいって思うんだけど、分からないな。
心配しても仕方のない事だから、良かった良かったって言ってるけど……。
ノヴィス・クルー
「艦長のせいで大掃除なんて、堪ったもんじゃねぇな」
 〃
「全くよ……」
比瑪
「アイリーンさんは、艦長さんの息子さんがリクレイマーだったという事、どう思ってるんです?」
アイリーン
「裏切られたという気分はあるわね」
比瑪
「そうですよね?」
アイリーン
「でも、具体的な被害はなかったのだから、問題はないわ」
比瑪
「そうですか?」
「そうだよ。艦長本人には関係のない話だ」
比瑪
「でも艦長って、勇とカナンさんとは立場が違うわ」
「だからって、艦長を疑うような口振りは良くないな」
比瑪
「疑うんじゃなくて……」
「他人が信じられないようじゃ、ここもオルファンと同じになったな」
比瑪
「ノヴィス・ノアはいい所よ?」
「いい所で陰口叩くのか?」
比瑪
「殴るわよ?」
「キスするぞ」
比瑪
「汚らわしい奴!」
アイリーン
「……仲良くなったのね」
「まさか」
ノヴィス・クルー
「駄目ですね。プレート置き場のプレートが死んでいるとしか思えません」
ゲイブリッジ
「しかし、オルファン封じ込み作戦は、急ぐ必要が出て来た」
ノヴィス副長
「ですが現状では、オーガニック・エンジンが臨界に達しません」
ゲイブリッジ
「エンジンは佐世保で修理させる。プレートは各国に協力を要請している」
ノヴィス副長
「バイタル・グロウブとプレートの関係だって、まだよく分かってないんですよ?」
ゲイブリッジ
「アンチ・ボディを飛行させるエネルギー・ネットが、バイタル・グロウブなのだ」
「そのエネルギーを集約……」
ノヴィス・クルー
「キメリエス、レイト艦長より入電」
ゲイブリッジ
「こちらに出してくれ」
ノヴィス・クルー
「はっ!」
レイト
「機動潜航艇からの索敵報告はありません」
ゲイブリッジ
「そうか」
レイト
「アノーア艦長は如何です?」
ゲイブリッジ
「彼女だって、一人になりたい時はあるさ」
民間人
「何だ、あの光? 朝ぱらから不知火か?」
「うっ……!」
「何してんだ?」
直子
「アノーア艦長の様子を見ようと思ってきたんだけど……」
「八方美人をやってんだな?」
ユキオ
「は〜い、宅配便で〜す」
「あ〜あ、また食べてない」
アカリ
「艦長さん、お食事」
クマゾー
「まんま、食べよう」
直子
「アカリちゃん、今は……」
アカリ
「ん、水の音だよね……?」
「シャワーじゃない」
「ロックされてる」
直子
「お声を聞かせてくださいませんか?」
アカリ
「私、ブリッジに知らせてくる」
クマゾー
「クマゾーも」
「えっと……これか」
「居ない」
「はっ……」
ユキオ
「な、何……?」
「アイリーンさんを呼んでこい」
ユキオ
「う、うん」
「急いで」
直子
「どうしたの?」
「アノーアさん……!」
アノーア
「出て行きなさい。リクレイマーと話す事など、私にはない」
ジョナサン
「ノヴィス・ノアは、ビー・プレートの存在も知りませんでした。恐れる事はありませんよ」
「判定は私達がします」
依衣子
「何、そんなに偉ぶってるの?」
ジョナサン
「連中が確保しているプレートの数は大した事ありません」
「何か企んでいたとしても、効果は期待出来ないでしょう」
「オルファンが浮上した後は、死滅した地球の海を漂うだけです」
研作
「それは……」
ジョナサン
「皆さん方がいらっしゃるんです。勇君はまともに戦える訳がない」
研作
「勇は、アンチ・ボディである事を忘れていない」
「それに、ノヴィス・ノアの情報でも持って戻ってくれば……」
依衣子
「あんた達ドクターは、まだそんな甘い事を期待しているのか。それでは母親丸出しではないか」
「私は、あの子のアンチ・ボディとしての適正に期待しているだけです」
研作
「……女達は何を考えているのか」
「女は、モロにオルファンのアンチ・ボディになってしまうのか」
ジョナサン
「あの女は益々、抗体化が進んでいる」
「心底俺の物にしたら、伊佐美夫妻を抹殺させて、オルファンは俺の物だ」
「昨日、貴方が見たあれが、貴方のジョナサンなんです」
「オルファンに居る時も、あいつはあんなものだった」
「ああいうジョナサンにしたのは、貴方だった」
アノーア
「オルファンで洗脳されたのよ……」
「悪いのは全てリクレイマーです! そういう所だったんでしょ、オルファンって……!」
「あんたがあいつを捨てたから、あんたへの憎しみを人類にぶつけようとしてんだ」
アノーア
「私は捨てた憶えはありません! 私が憎いなら、何故あの子は、私に引鉄を引かなかったの!」
「親を撃ち殺したくなった子供の気持ちが、あんたには分からないのか?」
直子
「アノーアさん……!」
アノーア
「寄るな! 腕を折るぞ!」
「聞けよ艦長……選ばれた人間以外は死んでもいいなんて、間違ってる」
「そう言いたくても聞いてくれなかった親は、殺すしかないだろ」
アノーア
「ドクター伊佐美はそうだろうが、私は愛し続けてるから銃を向けられなかった!」
「ジョナサンはママンを欲しがってた! ママンは居なかった!」
アノーア
「ママンは、私……!」
「お袋が居れば、ジョナサンはああはならなかった」
アノーア
「あぁっ……!」
直子
「アノーア・マコーミックさん」
「婆ちゃん」
直子
「ま、待ちなさい」
アイリーン
「艦長……!」
ゲイブリッジ
「アノーア君……!」
アイリーン
「勇君、ここには誰も入れないように」
「あ、あぁ……」
ユキオ
「な、何で……何でさ?」
「いいから」
比瑪
「何があったの?」
「知らない方がいい」
カナン
「何があったの?」
「アイリーンさんとゲイブリッジ司令に任せてある」
カナン
「どうしたの?」
「子供達は入れない方がいい」
「何でああなるんだ、女って……!」
キメリエス・クルー
「機動潜航艇がオーガニック・ウェーブを捉えました」
レイト
「アンチ・ボディか」
キメリエス・クルー
「プレートのようですが、動きが上下に振れています」
レイト
「非常警戒だ」
「ノヴィス・ノアへ伝達、ブレンパワードが必要かもしれん」
コモド
「オグンの導きは、自分でも気付かない役割を示してくれたわ」
「イランドの使い方次第では、ブレンパワードの応援も出来るようになる筈だし、あんたも見ていてくれるしね」
「行くわ」
アカリ
「比瑪姉ちゃんは?」
比瑪
「勇が雲隠れ……一緒にプレート探しに行かないとなんないからね」
ユキオ
「何処でサボってるのかな」
クマゾー
「サボってる」
ラッセ
「よ、大将。プレートの捜索に行く筈じゃないの?」
「あんたが行ってよ」
ラッセ
「相棒が杖を付いてりゃ、護衛に回るさ」
「いい身分だな」
ラッセ
「何、拗ねてるんだ?」
「この船は、オルファン封じ込め作戦なんて考えてるようだけど……」
「ビー・プレートの事も知らない司令の作戦なんて、たかが知れてる」
ラッセ
「リクレイマーだって、ビー・プレートを探してるってレベルなら、分かってないのは同じじゃないか?」
「そうさ。だからオルファンを潰す為には、まずビー・プレートを……」
ラッセ
「何言ってんの? 勇は結局、カナンや比瑪も当てにしていて、一人で戦っているというんじゃない」
「現に、ノヴィス・ノアで飯食って……」
「んっ……」
ラッセ
「怒るなよ」
ゲイブリッジ
「事実ではあるね」
「何?」
ゲイブリッジ
「チーム・ワークだって捨てたものではないと、分かってくれている筈だ」
「無駄な事はしてる暇ないんだ」
直子
「やってみなくては分からない事は、世の中には一杯あるでしょ」
「それで、年甲斐のない恋をしてんだ」
ゲイブリッジ
「ラッセ君、放っておけ」
「チッ……!」
研作
「本当に、ノヴィス・ノア側の作戦に、可能性はないのか……?」
「オルファンが動く、プレートが共鳴する……以前、この事を考えた事があったな」
「ノヴィス・ノアに、ビー・プレートがあれば……」
ヒギンズ
「出現位置はこの辺りだけど」
カナン
「気紛れなプレートみたいね」
ヒギンズ
「無駄足か……。散歩でもしてこっか、ブレン」
カナン
「機嫌いいのね、どうしたの?」
ヒギンズ
「貴方さっき、ラッセと一緒に居たでしょ」
カナン
「え、えぇ」
ヒギンズ
「ああいう貴方なら信頼出来るわ。孤独じゃない女は強いもの」
カナン
「ヒギンズ……」
アイリーン
「ノヴィス・ノアのパイロットが一つに統合されていく、気のようなものがあります」
アノーア
「艦長が不甲斐ないのに……?」
アイリーン
「船は一人が動かしていくものではありません。子供達も自分の役割はちゃんと……」
アノーア
「親にも役割があるんだろうがね」
アイリーン
「やり直せますわ、どんな事でも」
アノーア
「……言うのは容易いが……」
キメリエス・クルー
「オーガニック・プレート探知! ノヴィス・ノアを追尾するコース!」
レイト
「ん、いつ回り込まれたんだ?」
「ノヴィス・ノアへ緊急連絡!」
ノヴィス副官
「プレートが本艦を追尾している?」
ノヴィス・クルー
「イルカが船を追うような感じだと……」
アノーア
「状況はどうなっている?」
ゲイブリッジ
「アノーア君、気分はいいのだね?」
アノーア
「迷惑をお掛け致しました」
ゲイブリッジ
「声を聞いて安心した」
アノーア
「有難う御座いました」
コモド
「灯台下暗しって諺があったね」
ノヴィス・クルー
「何ですか?」
コモド
「比瑪に聞いたんだよ。船に戻るよ」
レイト
「コースのデータを送ります。プレートの現在位置はノヴィス・ノアの後方、約百キロです」
アノーア
「双子とイランドを出したのか?」
ノヴィス副官
「呼び戻しています。ラッセと勇を出します」
アノーア
「任せる」
レイト
「艦長、お体もう宜しいんですか?」
アノーア
「ああ、心配掛けたな」
ラッセ
「よよ、今度は付いて来るのか? どういう訳だ?」
「飯代ぐらい働くさ。勝手に覗くな」
ラッセ
「分かったよ」
「何故、ノヴィス・ノアを追ってるんだ? そういう動きをするのがビー・プレートなのか?」
「ったく、データないもんな……」
「あれか?」
ラッセ
「プレートを捕捉しました。映像を送ります」
アノーア
「海中を走る不知火か……」
ノヴィス副官
「何だって?」
アノーア
「どうした?」
ノヴィス副官
「グランチャーの影があるようだと?」
「艦長」
アノーア
「ブレンにはグランチャーを牽制させる。プレート回収にはウェッジを出す」
比瑪
「プレートを回収する? 無理じゃないんですか?」
ノヴィス・クルー
「あっ……」
アノーア
「名誉挽回の為に、プレートの回収ぐらいはしてみせる」
比瑪
「お前も何か感じる? 何かが起こるのね?」
「でも今は、グランチャーの相手が先なのよ」
ゲイブリッジ
「アノーア君が元気になって良かったが、グランチャーの影か……」
ノヴィス副官
「プレート周辺からは反応が消えました」
ゲイブリッジ
「しかし、プレートはまだ近くに居る……。我々の動きを読もうとしているプレートかもしれん」
ノヴィス・クルー
「帰還中のヒギンズ機より入電、グランチャー発見」
カナン
「このグランチャー達、プレートを捕まえるつもりなのね?」
「という事は、特別なプレートなの?」
ヒギンズ
「上からの攻撃では……」
カナン
「誘い出します。いいわね?」
ヒギンズ
「来た……!」
「グランチャーが3機も?」
ラッセ
「カナンとヒギンズだけなら、援護に行く」
「一人で行ってくれ。俺はプレートが気になる」
ラッセ
「どういう事だ?」
「あれがビー・プレートだったら、ウェッジで捕えられる訳はない。頼む」
ラッセ
「分かった」
アノーア
「この光、ノヴィス・ノアを追っているという事……」
「オーガニック・エンジンと共振しようとしているのか」
ノヴィス副官
「艦長、ブレンチャイルド・チームがグランチャーと戦闘に入りました。船に戻っ……」
アノーア
「ウェッジ部隊はプレートを捕獲します」
「ノヴィス・ノアはウェッジに何やらしてんです? 司令の命令ですか?」
「え、冗談! 艦長がウェッジを操縦してる?」
アノーア
「ネット射出!」
「よし、行けるぞ!」
「こんな事で捕獲出来るのか? ビー・プレートが……!」
「ワイヤーを切れ!」
アノーア
「ノヴィス・ノアに引っ張っていってやる!」
「誰がプレート如きに引きずり込まれるか!」
構成員
「移動プレートを追跡中の部隊が、ノヴィス・ノアのアンチ・ボディと交戦中」
依衣子
「ジョナサン、もう一度出撃しろ。この動きはオルファン浮上の邪魔になる」
シラー
「クインシィ・イッサー、ノヴィス・ノアのブレンパワードは、カナンや勇も使いこなしていました」
「という事は、あれは我々の物に出来る筈ですから、私が行きます」
依衣子
「ジョナサン、急げ」
シラー
「クインシィ……!」
依衣子
「私の命令が聞こえていなかったのか?」
カナン
「ラッセ、プレートはどうしたの?」
ラッセ
「勇に任せている」
カナン
「勇一人に?」
ヒギンズ
「カナン、前に牽制を」
比瑪
「勇一人で大丈夫なんですか?」
アノーア
「あぁ、あの光はジョナサンも見た光……」
「なら、同じ光に包まれた私なら、ジョナサンに本当の母親の愛を見せてあげられるわ」
「艦長! こんな所で死ぬつもりなのか? あのプレート、普通じゃない」
「艦長、ワイヤーを切れ!」
アノーア
「呼んでる……私を呼んでる! ジョナサン!」
「艦長、無茶するな!」
アノーア
「あぁっ!」
「わっ……!」
「プレートのオーガニック・パワーが強過ぎるのか?」
「どうした、ブレン? やってみるっていうのか?」
ヒギンズ
「この子の力じゃ、まだグランチャーに太刀打ち出来ない」
「え、何? 潜るの?」
「潜れ!」
レイト
「撃て! ヒギンズ、聞こえたぞ!」
ヒギンズ
「お利口さん、ヒギンズ・ブレン」
「やれるな、ブレン!」
「おっ……!」
アノーア
「ジョナサン……ジョナサンの温もりを一杯に感じる……私はママンよ!」
「ジョナサンが呼んでいるのよ!」
「母親ごっこはやめろ!」
「あっ……!」
アノーア
「あぁっ……!」
「プレートの奴、何故行っちまうんだ?」
シラー
「リクレイマーの真の統括者であるガバナーの事を、クインシィ・イッサーは考えた事がありますか?」
依衣子
「お前がそんな事を言うのか?」
シラー
「私は我侭だったので、失敗を繰り返したと反省しています」
「ですから、ガバナーの意思に従う事で、自分をより良いグランチャー乗り……」
「つまり、アンチ・ボディにしたいと考えました。そうしたら……」
依衣子
「ガバナーからグランチャーの指揮を任されているのは、私なんだ」
シラー
「嘘でしょ? 親の七光りでやってるだけ」
依衣子
「シラー!」
シラー
「ジョナサン、私と一緒に作戦に出てくれないか?」
依衣子
「シラー・グラス!」
構成員
「クインシィ・イッサー!」
依衣子
「煩い! 何だ?」
構成員
「追跡隊二機、大破。プレートの反応も消えました」
依衣子
「何っ……?」
ジョナサン
「何て追跡部隊だ」
依衣子
「くっ、もういい……次の作戦は私が出る」
ジョナサン
「ふふっ……」
「プレートの共振をオーガニック・エンジンで増幅して」
「バイタル・グロウブとのネットでオルファンを止める……」
研作
「となると、ノヴィス・ノアはプレートを随伴艦に分散するだろう」
「アイデアを出したのは桑原だろうな」
「桑原君って、オーガニック・エンジン開発の時には、いいアイデアを出したわね」
研作
「奴がノヴィス・ノア建造に関与している事は間違いない」
「連中は、オルファン封じ込め作戦を考えている。その実態は確かめないとな」
「いいの? 恋敵だったんでしょ?」
研作
「殴られるのは覚悟しているさ」
コモド
「他のクルーは?」
比瑪
「勇、艦長さんは? 見付からないの?」
「上から見付からなかったら、こっちで分かるものか」
「あのプレート、迎えに来たんじゃないのかな……」