第11話 姉と弟

前回のあらすじ
そりゃ、アノーア艦長が息子さんの事で悩んでいたからって、その事と行方不明になった事は関係がない。
私が出会ったのとは質が違うプレートは、回収した方がいいって艦長は判断したのよ。
それが冷静さを失わせて、プレートに呑み込まれた。とても残念。
カント
「想像していた通りの規模だけど、計算通りの出力が出たらどうなるのかな」
ノヴィス・クルー
「結局、見付からなかったって?」
 〃
「そりゃそうだろ。プレートのスピード、なまじじゃねぇもんな」
ラッセ
「ナンガ、いいのか?」
ナンガ
「オグンの御加護のお陰だね」
ラッセ
「新しい艦長の噂は聞いてるのか?」
ナンガ
「キメリエスのレイトが昇格するんだろ?」
ヒギンズ
「何も聞いてない。レイト艦長は潜水艦が好きだから」
ゲイブリッジ
「待たせて申し訳がなかった」
「アノーア艦長の捜索は続けなければならないが、我々の任務は急を要している」
「ここで緊急対策として、新任の艦長を認めて頂きたい」
ノヴィス・クルー
「新任の艦長?」
 〃
「誰が艦長だっての?」
ノヴィス副官
「静かに。アイリーン・キャリアーは士官学校でも優秀だった」
「その上、医師と針の免許を持ち、我々は彼女に尻の穴まで見られてる現実がある」
ノヴィス・クルー
「賛成だ」
 〃
「オーガニック・シップにはお医者さんがベスト」
ユキオ
「当然、当然」
クマゾー
「当然」
アカリ
「賛成」
カナン
「何ていう船? こんな人選……」
「まったく、みんなで何を考えてんだか」
比瑪
「何が気に入らないのさ?」
「別に。感動してんだよ、民主主義に」
ゲイブリッジ
「満場一致という事で、君に艦長をやってもらう」
アイリーン
「はい」
「では只今より、アイリーン・キャリアーがノヴィス・ノアの艦長を代行させてもらいます」
「本艦はオルファン対策会議の間、機関整備と補給を警戒態勢のまま行います」
「各員、部署へ戻ってください」
ノヴィス・クルー
「働け、働け!」
 〃
「お手柔らかにね」
アイリーン
「こちらこそ」
ナンガ
「病室で教えてくれたって良かったのにさ」
アイリーン
「だって、今日いきなりだったのよ?」
「あんた、それでいいのかよ?」
アイリーン
「こんな時でしょ? やります」
比瑪
「勇……」
アイリーン
「勇は優しいわ。私が重荷を背負わされたと思っているのよ」
比瑪
「あいつ、そういうとこ敏感なんです」
アイリーン
「有難いわ」
「でも、敏感過ぎるのは良くないわね」
「グランチャーに乗っていた事に、いつまでも罪悪感を持っているから……」
「慰めてあげられない?」
比瑪
「私が……?」
三尾
「あら……」
軍人
「ブレンパワード、本当に飛んでいるぞ」
「ブレンが恥ずかしがってる。さっさと行けよ」
三尾
「坊やは相変わらず……ブレンパワードは相変わらず、素敵に雄々しいわ」
クマゾー
「比瑪姉ちゃん」
アカリ
「綺麗な花よ」
ユキオ
「あんまり見ない花なんだ」
比瑪
「本当」
クマゾー
「綺麗」
比瑪
「そうだね。蘭でしょうね、これ」
ユキオ
「でも、葉っぱが違うよ?」
アカリ
「ほ〜ら比瑪ブレン、見えるでしょ? 綺麗な花」
「勇ブレンも見なさい。綺麗だろ?」
「へぇ……」
アカリ
「な?」
「綺麗だな」
アカリ
「あげる」
カント
「植物は強いですよね。地球が汚れてしまっても花を咲かせる……」
「強さと美しさで、人の心を慰めてくれる」
「カント・ケストナーです。想像通り優しい姿に嬉しくなりました、ブレン」
「何でお前みたいのが、こんなとこに居るんだ?」
カント
「こんな所へ? 変な聞き方しますね」
「だってお前、外国帰りだろ?」
カント
「何で分かるんですか?」
「俺もそうだからさ」
カント
「ああ、すいません。行かなくちゃ」
比瑪
「誰?」
「どなたでしょうね?」
三尾
「今日の発表は、リクレイマーに負けちゃいません」
桑原
「私は、彼らと理論闘争をしようとは思っていない」
三尾
「あら、博士は伊佐美博士への当て付けで、オーガニック・エンジンを開発したんじゃないんですか?」
桑原
「違うよ」
三尾
「失礼」
「あっ……」
桑原
「あいつが……?」
研作
「久し振りだな、桑原君」
桑原
「き、貴様こそ、日の光に当たっている顔をして……」
研作
「オルファンは、そのくらいの物は完備しているさ。自給自足しているんだからね」
依衣子
「発進準備、出来ているな? 指名された者は揃っているな?」
「待ちなさい! 貴方の考えている出撃は軽率です」
依衣子
「ドクター達の独断的行動のお陰で、オルファンに危機を呼ぶかもしれないのだ」
「ブレンパワードの性能は、私達が思っていた以上だった……。あの人はそれを確かめに行ったのです」
依衣子
「何も自分が行く事はない」
「心配しなくても、お父様は……」
依衣子
「心配なのは、あの人の頭脳がノヴィス・ノア側に利用される事だ」
「そんな事は有り得ません」
依衣子
「お前達は、オルファンの循環器の整備をすればいい」
「クインシィ・イッサー、まるで……まるで軍隊気取り……」
依衣子
「オルファンが輝きを増してる……銀河を夢見てるんだ」
「太陽か」
「久し振りに海の上に出た」
「本当に綺麗……勇にも見せてあげたいな」
「あの子ったら、何処に行ったのかしら?」
「しょうがない子だ。ちっともジッとしていないで、いつも心配ばかり掛けて」
桑原
「オルファンが海面に浮上する際の津波による被害は、既に述べた通り、甚大な物になりますが」
「本当の危機は、オルファンが海面から宇宙に飛び立つ時でありまして」
「膨大なオーガニック・エナジーが地球から失われるという事です」
「それを定数化したものが、これです」
官僚
「悲観的過ぎないか?」
 〃
「何て数字だ」
桑原
「シダ類以下の菌類は生き残りますが、生き物らしいものは全滅するでしょう」
官僚
「全滅だって?」
 〃
「ノヴィス・ノアは、それをさせない為の船なんだろ」
桑原
「ノヴィス・ノアは、三隻の随伴艦と行動を共にしております」
「各艦には、プレートが搭載されておりますので、これらをオルファンを囲む位置に配置しまして」
「オーガニック・エンジンとプレートを共振させ」
「更に、バイタル・グロウブのオーガニック・エナジーとも共振させ」
「オルファンのオーガニック・エナジーを宇宙に放出させます」
「そうすれば、オルファンは沈水化します」
研作
「エネルギーが放散されるだと?」
桑原
「この予測について、私以上にオーガニック・エナジーについて詳しい」
「伊佐美研作博士の見解を伺いたいのです。どうか……」
研作
「オルファンは止まるかもしれないな」
桑原
「はい、プレートについての……」
警備員
「止まれ!」
「奴はリクレイマーだぞ! 俺は直接関係者なんだ!」
桑原
「失礼しました。では、伊佐美博士、お願いします」
官僚
「オルファンのアンチ・ボディ!」
 〃
「ははっ……!」
研作
「まず最初にお伝えしたい事は、オルファンの制御は不可能ではないという事です」
「親父の言う事なんて、嘘だ!」
警備員
「いい加減にしろ!」
ゲイブリッジ
「放してくれまいか」
アイリーン
「彼はノヴィス・ノアのクルーで、ブレンパワードに乗ってる少年です」
警備員
「は、はっ……!」
「何で親父に話させる?」
アイリーン
「彼は研究員として、正規のルートでこの会議に出席しているのよ?」
「だからって……」
ゲイブリッジ
「現実を認めるんだな」
「ノヴィス・ノアの建造費を出してる者の中にも、リクレイマーに支援している者も居るのだ」
「自分達だけが助かりたくて、オルファンに乗せてもらいたがってる連中の事か」
アイリーン
「そういう人達を怒らせたら、ノヴィス・ノアは動かなくなるわ」
「何て事だ。それが現実だって……」
ゲイブリッジ
「そうなのだよ、勇君」
研作
「植物の光合成と、オーガニック・エナジーの繋がりについては、未だに……」
官僚
「貴様は、グランチャーの動きはどう説明するんだ?」
 〃
「勝手にプレートを集め回って、各地で事を起こしてる」
桑原
「そうです。博士はアンチ・ボディについては、一切触れていませんでした。その点……」
研作
「花……蘭の花か」
カント
「博士は、光合成について正確には説明なさっていませんでしたが?」
研作
「そ、そうだったか?」
桑原
「光合成との関係……?」
カント
「はい、植物も生物だと……」
「あいつ、何だってんだ……?」
カント
「オルファンの現象は、生命体全ての問題ですから、グランチャー現象は瑣末な問題です」
「無視して宜しいでしょう」
「この、バイタル・グロウブのネットが……」
「何者なの?」
アイリーン
「カント・ケストナー。十歳で博士号を取った神童」
カント
「近年、植物の繁茂の著しい地域です。これにバイタル・グロウブのラインを重ねます」
「という訳です。つまり、オルファンと植物に活性化の関係があると知ったのです」
「だから何だっての?」
アイリーン
「いい勘をしている子よ」
ゲイブリッジ
「ん……?」
カント
「蘭の花はその代表的なものです。僕はこの事実を知った時、とても感動しました」
「人類が汚してきた地球は、まだ人類に絶望せずに地球の生態系を救う術を与えてくれていたと」
「この植物の活性化現象は」
「世界各地のプレートの出現場所とバイタル・グロウブのネットと重なる所で起こっております」
「つまり、オーガニック・エナジーの飽和が起こっているのです」
「植物との関係か……」
カント
「この現象の意味するところは、植物の光合成とオルファンの働きには、繋がりがあるという事です」
「この点は、伊佐美博士と意見が似ています」
「けど、博士の意見は嘘です」
三尾
「えっ……?」
カント
「オルファンのエネルギー総量は太陽みたいなものですから、人間にコントロール出来ません」
桑原
「ノヴィス・ノアのエンジンは、光学的に集積力を持っている」
カント
「でも、オーガニック的なものの考え方だと、オルファンは生物ですよね?」
桑原
「そ、そうだが……」
カント
「生物の根本的な作用は追生成です」
「プラス・マイナス、雄と雌、陰陽の二元論に根差しています」
研作
「だから少年、私はオルファンの存在に拮抗する存在として、ビー・プレートを仮定したのだ」
カント
「オルファンが雄なら、雌に相当するものがある……」
「卓見でいらっしゃいますが」
「そのようなものが見付けられない限り、オルファンは銀河系外にそれを求めるでしょう」
ユキオ
「そうなのか。この辺のも外国から入ってきた花が多いのか?」
カント
「港町の宿命だね。在来種の方が少ない」
クマゾー
「綺麗、これ綺麗。光ってる」
カント
「こんな所にまで、オンシジウムの変種が咲いているのか」
アカリ
「光ってるように見えないか?」
ユキオ
「あっ……?」
カント
「こうしたら、どう見える?」
ユキオ
「あぁっ……!」
カント
「という事は、この辺りもバイタル・グロウブの境界線に当たるのかな」
官僚
「ははっ、想像するのと見るのとは大違いですな。二十万トンとか」
ラッセ
「天才少年の出現は面白かったけど、面白がっちゃいられないという面もあるよな」
カナン
「オーガニック・エナジーが数量的に計算出来るようになったのは、最近ですものね」
ラッセ
「ああ。しかし、データよりこうやって付き合ってくれるブレン達を見りゃ……」
カナン
「どうしたの、ラッセ?」
ラッセ
「あいつらの毒気に当てられたのさ」
カナン
「え? あぁ……」
研作
「ここのブレンは生き生きとしている。まるで、ノヴィス・ノアそのものが、ビー・プレートとも思える」
「母さんが心配してるぞ」
「何処にそんな奴が居る?」
比瑪
「あれが勇のお父さん……?」
ノヴィス・クルー
「アンチ・ボディ、五つです。間違いありません」
アイリーン
「只今、本艦に向けてグランチャーが接近中」
「ゲストの皆様は、只今よりノヴィス・ノアからの退艦は出来ません」
官僚
「何だと?」
 〃
「我々を避難させるべきだ」
ゲイブリッジ
「この船は、何の為にあるのですか? 彼らを信じましょう」
ナンガ
「五機だって? 近いじゃないか、アイリーン」
アイリーン
「貴方は駄目よ」
ナンガ
「俺はもう大丈夫だ」
アイリーン
「許可出来ません」
ナンガ
「医者としてか? それとも、艦長として?」
アイリーン
「ここで私を補佐して欲しいのよ。実戦なんて初めてなのよ?」
ナンガ
「あんたなら、すぐに一級の戦術家になれますよ」
アイリーン
「でも……」
「弾幕を前方に展開用意!」
ナンガ
「勇も出られるのか?」
「聞こえてる。ナンガはブリッジに居た方がいいと思うな」
ナンガ
「ほう、いい覚悟じゃないか」
アイリーン
「ミサイル! イランド、ブレンに当たらないように、一斉射!」
依衣子
「ほら見ろ。グランチャーで来てみれば、ムキになって敵対行動を取るのがノヴィス・ノアだ」
「奴らは、オルファンを害する者なんだ!」
カナン
「クインシィ・イッサーのグランチャー?」
ラッセ
「前へ出るぞ。ヒギンズ、カナン」
ヒギンズ
「了解」
「ノヴィス・ノア、後ろから撃ち落とさないで。私のブレン……!」
比瑪
「この敵、変よ? 勇!」
「何だ、この感触……?」
「クインシィ・イッサーか!」
依衣子
「見付けた、勇!」
「姉さんだろ!」
依衣子
「勇、私に撃たれなさい!」
「姉さん……姉さん! 外を見ろよ、外を!」
依衣子
「黙りなさい!」
カナン
「ブレン全員へ! 勇とあのグランチャーを戦わせては駄目よ!」
ラッセ
「カナン、どういう事だ?」
カナン
「あれはクインシィ……勇の姉さんの依衣子さん!」
ラッセ
「何だと?」
比瑪
「勇の姉さん? 落ちる?」
「何を考えてんだ! 親父が国際会議に来て、今度は姉さんまで……!」
依衣子
「研作博士の考える事など、私の知った事ではない! 私はオルファンのアンチ・ボディ!」
「お前なんか……!」
「そこから引き摺り出して、グランチャーに潰させる!」
「クインシィになりきって……!」
依衣子
「くっ、何だっていうの……!」
比瑪
「お父さんも居るのに、何で、お姉さんはノヴィス・ノアを攻撃するの?」
「オルファンで銀河旅行をするつもりだからさ」
比瑪
「本当にそんな事の出来る宇宙船なの?」
「そりゃ、親父達の推論だ」
比瑪
「勇!」
研作
「私だ! 依衣子、クインシィ・イッサー!」
「聞こえるか、応答してくれ! 今はまだ、ノヴィス・ノアを沈めちゃならん!」
依衣子
「話が違う……話が違う! ブレンは連携して戦っている!」
カナン
「クインシィ・イッサー!」
依衣子
「何?」
カナン
「博士の命まで無視する戦い方をして……!」
依衣子
「お前まで勇に惑わされたのか? オルファンに戻らないのか?」
カナン
「グランチャーの抗体反応は、凶器よ!」
依衣子
「黙れ!」
カナン
「ごめん、ブレン! でも、オルファンには戻りません!」
依衣子
「ならば消えろ!」
ラッセ
「うぉっ……!」
カナン
「ラッセ?」
依衣子
「何で、チャクラ・シールドになるんだ?」
ラッセ
「カナン、大丈夫だな?」
カナン
「勿論、ラッセ」
依衣子
「お前達は……!」
「何?」
カナン
「勇! クインシィと……!」
ラッセ
「出るんじゃない、カナン!」
三尾
「あはっ、ブレンが跳ねてるわ!」
ユキオ
「こっちに来るぞ!」
アカリ
「来た!」
ユキオ
「ふ、伏せろ……!」
「あっ……」
アカリ
「ブレンと……」
クマゾー
「ブレン……!」
ユキオ
「しっ……!」
「姉さん、落ち着いてくれ。コックピットから……」
「地上に出たんだ。ここで話せば……」
「離れていろ! 潰されるぞ!」
カント
「確かめたい事があります。気にしないでいいですよ」
「グランチャーだぞ」
「正気か? グランチャーもパイロットも……」
カント
「大切な事なんです、黙っていてください」
「花……?」
依衣子
「光ってる花かい?」
「憶えているかい、勇?」
「な、何を……」
依衣子
「あんたが花をくれた事があったろ?」
「いつも二人だけで、お婆ちゃんは下の村にパートに行ってた頃さ」
「あのプレゼント嬉しかった……誕生日のプレゼントだった……」
「ごめん、憶えていない」
依衣子
「そうかい、そうだろうね」
「あんたは両親を裏切り、家族の絆など断ち切って、オルファンから出て行った!」
「違う! 姉さんだってオルファンを離れれば、俺の言おうとしてる事は分かってくれる!」
依衣子
「お前はオルファンを、傷付ける!」
「姉さん!」
カント
「あっ……!」
「姉さん、あっ……!」
カント
「わっ……!」
「全く、抗体になりきってる……!」
「何が不満なんだ、この世界に……!」
官僚
「いや、流石……」
 〃
「町には、ミサイル一発落ちなかったといいますぞ」
ゲイブリッジ
「皆様のご協力があればこそです」
研作
「……仰られますな、お母さん。我々は人類の敵になる為に、オルファンを復活させたのではありません」
「翠にも依衣子にも、そんな事はさせはしませんよ。それは本当です」
「今あいつをどうにかしたって、オルファンは止まらない……」
「どうするんだ、勇?」
比瑪
「勇、何処に行くの?」
「放っといてくれ」
「ノヴィス・ノアなんかに居られたら、どうする事も出来ないじゃないか。どうする事も……」
「どうする事も出来ないじゃないか!」