第13話 堂々たる浮上

前回のあらすじ
勇がお父さんを追い掛けた時、クマゾーが付いていってしまった。
クマゾーは、シラー・グラスというグランチャー乗りと仲良くなった気配がある。
男は、あの歳からそういう事をやっているの?
愚行するに、クマゾーが居たから、勇はオルファンに潜入出来たって考え方もあるんだよね。
ノヴィス・クルー
「た、高波を横に受ける馬鹿が居るか!」
アイリーン
「あっ、すみません」
ゲイブリッジ
「何……これからはずっと続くぞ」
アイリーン
「わ、分かってます」
「オルファンの浮上は?」
ノヴィス副官
「間違いなく続いています」
ノヴィス・クルー
「既に、オルファンの頭部は、海上に出ているかもしれません」
アイリーン
「本当に、あのシルエットがオルファンなんですか?」
ゲイブリッジ
「そうだろう」
アイリーン
「オルファン……つまり、孤児っていうコード・ネームは、妙ですね」
ゲイブリッジ
「中核に人の形があったからだろうな」
「気持ち悪くないか?」
クマゾー
「うん、大丈夫も」
カナン
「あの雲の中に、私の居たオルファンが居る……」
民間人
「わぁぁっ!」
依衣子
「静止衛星軌道上の監視衛星は?」
「全て撃破しましたよ」
研作
「これがオルファンの威力だ。太平洋沿岸の国々は、どう考えようと連携行動は出来まい」
依衣子
「博士……敵に、我々の手の内を見せ過ぎてはおりませんか?」
「オルファンは全能です。もう誰にも止められません」
依衣子
「浮上中のエネルギーの分散化は、オルファンを無防備にするのではなかったのですか? 博士」
アカリ
「クマゾー、勇、ご飯だよ」
比瑪
「カナンさんもどうぞ」
ユキオ
「食べられたらの話だけど……」
アカリ
「トンカツだって」
ユキオ
「うぇっ……!」
クマゾー
「まんま? 降りる!」
「降ろしても」
「ブレンから降りたら、船酔いになるんじゃないの?」
クマゾー
「降りるも」
カナン
「有難う、頂くわ」
「気が重いのは分かるけど……」
比瑪
「別に、責任感じなくたっていいんだよ?」
「何をさ?」
比瑪
「オルファンの事よ」
「忘れてた。オルファンの新しいデータ、整理しといたんだ」
比瑪
「え?」
「へぇ、マメじゃない」
「勇……!」
アカリ
「……どうしたの?」
比瑪
「な、何でもないよ」
ユキオ
「勇、変じゃない?」
比瑪
「感じやすいってのは、ナイーブな事なんだけど……」
「勝手に参っていていいって時じゃないと思うな」
民間人
「押さないで!」
 〃
「上が閊えてんだ!」
 〃
「神様! 罪深き私達をお許しください!」
桑原
「オルファン浮上に伴う津波は、かつて地中海のミロス文明が消滅したのと同じ結果を生みます」
ゲイブリッジ
「それは、オルファンの肩が海上に出たぐらいでの話だ」
「オルファンが本当に浮上したら、どうなるのかね?」
桑原
「オルファンのオーガニック・エンジンが加速しますので、生命体に影響を与えるものになります」
アイリーン
「ノヴィス・ノアのオーガニック・エンジンは、人体への影響は認められないのに……ですか?」
桑原
「エネルギー総量の問題なのです」
「オルファン規模のエネルギー吸収量を持ったものが、海上から浮上して」
「衛星軌道に上る間に、どれほどの被害を及ぼすか……」
比瑪
「すいません、遅れて……。すいません!」
アイリーン
「……オルファンを止めましょう」
比瑪
「は、はい……」
カナン
「オルファンを止める……?」
ヒギンズ
「あんな容積のあるものを?」
ラッセ
「どうやって止めるんです?」
ノヴィス副官
「艦長、成算があるんですか?」
アイリーン
「桑原博士や源野博士に、オーガニック・エンジンの調整をしてもらいました」
「尚且つ、本艦に収容されている、プレートを調べてもらいました」
「これらのプレートの硬化現象は、進んでいなんです」
ゲイブリッジ
「伊佐美勇君の言っていた、ビー・プレートの可能性があるという事かね?」
アイリーン
「そうです。ですから、それらのプレートをレディ1以下に搭載して、オルファンを包囲します」
「プレートの共振によって、オルファンの頭が押えられれば……」
桑原
「オルファンは、自分自身が放出するエネルギーの反発を受けて、沈んでくれます」
ゲイブリッジ
「性格的な事を考えれば、ブレン自体もビー・プレート的と言える」
「本艦のプレートとブレンの存在で、オルファン封じ込め作戦の……」
カナン
「そうか……オーガニック的な力というのは、そういう可能性も孕んでいるのね……」
比瑪
「アイリーンさんって偉い!」
カント
「馬鹿みたいだけど、考え方としては素敵ですね」
「オーガニック的なるものというのは、無機的に定められたものではないですからね」
「俺はここに帰ったつもりで居たけど、オルファンが追い掛けてきちゃったか……」
「さあ、私達の家に帰るのよ」
「もう……男の子はいつまでも甘えん坊で困るわ」
「ほら、これで家族一緒よ」
依衣子
「勇ったら、照れて暴れるなんて」
「誰も笑いはしませんよ」
「無視されて当然なのか、子供の気持ちなんて……」
比瑪
「勇、居るんでしょ? 勇?」
「開けないなら、アノーア艦長の時のように開けちゃうから」
「煩い!」
「うっ……?」
比瑪
「カナンさんも心配して、司令に言ってくれたのよ?」
直子
「勇がオルファンを浮上させた訳ではないんだから……」
「分かってるよ」
ゲイブリッジ
「太平洋の土地の被害、我々には、直接助けられる力はない」
「当たり前です」
ゲイブリッジ
「……が、君が提供してくれたデータだが、オルファンのエネルギー総量の推測がついた」
「桑原博士達も、プレートの……」
「ゲイブリッジさんは、どうして婆ちゃんと一緒にならなかったんだ?」
ゲイブリッジ
「ん……?」
直子
「勇……」
「あんた達が一緒になってれば、あんな馬鹿なお袋は生まれる事はなかったし、俺だって生まれなかった」
直子
「め、巡り合わせです」
ゲイブリッジ
「そう、巡り合わせだった……」
「私は、直子との結婚を考えて、軍を辞めたんだ」
「しかし、日本に行く途中、オルファンの存在を知るチャンスを得た」
「招かれたと思える体験だった」
「それで結局軍に戻って、オルファンの探査チームを創設したりして、直子を裏切る結果になった」
直子
「私に堪え性がなかったのよ」
ゲイブリッジ
「しかし、私は後悔していない。お陰でお前のようなお孫さんが育ってくれたからね」
「どういう意味です?」
ゲイブリッジ
「意味など……」
「魂胆というか、考え方ですよ」
ゲイブリッジ
「オルファンからリバイバルしたブレンを連れてきた君を、人類の救世主だと思っている」
「俺は何も出来てない! 誰も救えないで、こんな天国みたいな所でウダウダしてんだ!」
直子
「そんなに自分を卑下する事はないわ」
「もう婆ちゃんの時代は終わったんだ! 悪かったよ、昔の事なんか持ち出して……」
「あんた達は、老いらくの恋を楽しんで、青春を謳歌すりゃいい!」
直子
「勇……!」
ゲイブリッジ
「直子……」
「ではジョナサンは、グランチャー部隊を指揮出来ると思っているのね?」
ジョナサン
「そりゃそうです。クインシィ・イッサーは、ドクター達のお子さんだから遠慮してました」
「しかし、オルファンが頭を海上に出し始めたんだ」
「核保有国が水爆を連発して打ち込んできたりすりゃ、オルファンだって分かったもんじゃない」
「そうでしょ?」
「危険要因の一つではありますね」
ジョナサン
「だから、娘を第一線に出したくないという、あんたの気持ちも分かります」
「それとこれとは違います」
ジョナサン
「そりゃどうでもいいんだ。グランチャー部隊の実質的指揮権を頂けりゃ、鬱憤晴らしが出来る」
「世界中の人間に向かってな」
「女へ、母親への恨みもぶつけられる」
「そういう男が好きな女も居るのは、忘れないで」
ジョナサン
「了解している、ドクター」
「……可愛い動物だこと……」
「私は、こういう下等な雄しかいない地球が、ほとほと嫌なのよ……!」
ナンガ
「おう、似合ってるじゃないか」
「あ……」
比瑪
「どう、きつくない?」
「いいね。オルファンのフリュード・スーツより楽だな」
カナン
「採寸が良かったのよ」
比瑪
「あら、そんな事したんですか?」
カナン
「しなくて体に合う訳ないでしょ?」
比瑪
「そうか〜?」
「そうでしょ?」
比瑪
「カナンさんが取ったの?」
カナン
「ええ、まあ……」
ナンガ
「御一同、プレート運搬作業急ぐぞ」
「ようし……!」
ユキオ
「こういうの見せられて、ようやく伊佐美勇も一人前だよね」
「よく言うな、ユキオ」
アカリ
「本当だもの」
クマゾー
「本当も」
ナンガ
「こうしてフリュード・スーツを着てくれた事には、感謝するよ」
「俺の身勝手でやってる事さ」
カナン
「私を誘ってくれた時から、勇は一貫しているわ」
ナンガ
「君は、直感的に可能性を洞察している」
「な、比瑪ちゃん?」
比瑪
「そういう男の子だよね?」
「……とは言えないな」
「な、天才カント・ケストナー君」
カント
「何です、急に?」
「俺も、アイリーン艦長の作戦に賛成した。けどこの作戦、可能性はないんだろ?」
カント
「全否定はしてません」
「バイタル・グロウブのネットとオーガニック・エナジーの関係から、実行する価値はあります」
ナンガ
「天才の保証があれば、勇気百倍だ」
カント
「それに、全てがオーガニック・エナジーの影響下にある事件です」
「皆さんの生き生きとした働き、これが一番の力になる……僕はそう洞察します」
直子
「え、えぇ……そうですよね」
ラッセ
「また盛り上がっているようだな」
カナン
「そんな風に見えるわね」
コモド
「さっさと済ましとくれよ?」
ナンガ
「オグンの御加護があるさ」
ヒギンズ
「気圧の変化も激しくなっている」
比瑪
「変だよこれ、勇……!」
「あっ……!」
「当たり前だろ。オルファンの浮上は続いてんだから」
桑原
「また馬鹿にしに来たのかね?」
カント
「いえ、この元気な花を見て欲しいんです」
桑原
「ほう……この船のオーガニック・エンジンと共生しているのかね?」
カント
「そう考えていいでしょう」
「これであのプレートがビー・プレートなら、作戦は完璧なんですけど……」
桑原
「この艦のブリッジがピラミッドの形をしている事も、計算に入れて欲しいな」
カント
「ですから、オルファン封じ込め作戦、全面否定なんかしてませんよ」
「――出来てるの?」
ノヴィス・クルー
「支度は順調だ。全部使えるとは限りません」
比瑪
「オルファンから設計図持ってきたの?」
「接近戦用の道具は必要だろ? 使えるかどうか……」
ユキオ
「勇、少し休みなよ」
「駄目か……」
「次を試させてくれ」
ノヴィス・クルー
「どうぞ」
ナンガ
「危ないじゃないか」
ヒギンズ
「何やって……」
「ようし……係数熱量、出てるね?」
「次を試すぞ」
アイリーン
「勇、ご苦労様。医務室へ来て頂戴」
「あ、はい」
アイリーン
「不整脈はないけど、疲れているわね……」
「フリュード・スーツを着てみせるなんて、気がいいのね?」
「気が付いていても体は正直よ。虚していて反応は遅いわ」
「虚して……虚脱の“虚”ですか?」
アイリーン
「そうよ。肉体そのものもね、いい体験や悪い体験の記憶はしている」
「吐き出すものは吐き出させてあげないとね」
「分かるけど……僕に出来るのかな?」
アイリーン
「出来るわよ」
ノヴィス副官
「艦長、オルファン封じ込めシフト完了」
アイリーン
「了解、すぐに上がります」
「勇は、15分ほど静かにしていて」
「はい」
依衣子
「オルファンの処女飛行が始まって、空中に体を晒すと」
「オルファンは防衛能力がないものとやらなければならない」
「故に、全機出撃!」
ジョナサン
「そりゃ駄目です」
依衣子
「何故だ?」
ジョナサン
「勇ブレンの潜入もあったんだ。グランチャーの動かし方は、俺に任せてもらう」
依衣子
「私はガバナーからの信託を受けている。外に出ても、外敵オルファンに入れなければいいのだ」
「それに……!」
ジョナサン
「それに?」
依衣子
「勇を倒せば、ガバナーの信頼を確実に得る事が出来る」
ジョナサン
「しかし博士、母親にとって息子は恋人同然であると言います。宜しいのか?」
「そのような例え、何と古風な事……」
ジョナサン
「では小生は、伊佐美勇を恋敵というつもりで排除する事に全力を尽くします」
「クインシィ・イッサー」
依衣子
「何で一々、あの女の確認を取るのだ!」
ジョナサン
「グランチャーの補強にも力を貸して頂いておりますから」
依衣子
「あの二人、何があったのだ? あの二人に……!」
ノヴィス・クルー
「オーガニック・エナジー、上昇ノーマル」
ノヴィス副官
「レディ1・2・3、オーガニック・エナジー感応」
「姉ちゃんだって……」
アイリーン
「状況は?」
カント
「異常なし、ですね……」
桑原
「プレートに変化なしでした」
ゲイブリッジ
「オーガニック・エンジンは順調です」
ノヴィス・クルー
「オルファンと思われる物の、巨大質量の浮上スピード、30%落ちです」
アイリーン
「成功?」
ノヴィス副官
「そう思いましょうや、その方が嬉しい」
ジョナサン
「指揮権を取りたいのなら、実力で見せてくれなければな」
「肉親というのは、身内を見下ろした時には、他人以上に苛烈になるもんだ」
「ほう、出て来たか……」
「ふふっ……親子それぞれ、やってみなよ」
依衣子
「ジョナサン、お前は私に従うものなのだ。分かっているな?」
ノヴィス・クルー
「続いてナンガ、ラッセ・ブレン、出るぞ!」
ユキオ
「比瑪姉ちゃん!」
比瑪
「はい!」
ユキオ
「勇のブレンも連れてけって、艦長さんが言ってる」
比瑪
「どういう事?」
アカリ
「勇がまだ、針治療が終わってないんだって」
ユキオ
「コックピットで確認してご覧よ」
比瑪
「了解」
「聞きました。出来ると思います?」
アイリーン
「ノヴィス・ノアの上空に、滞空させておくだけでいいのよ」
比瑪
「勇、そんなに参ってるんですか?」
アイリーン
「想像力のある子だから、精神的に一人で負っちゃうのよ」
「あ、副長……勇の針、抜いてあげなくちゃ」
比瑪
「大丈夫だよね? 上で飛んでるだけでいいんだから……」
ユキオ
「グランチャーが一杯くるんだ」
アカリ
「ブレン」
クマゾー
「ブレン、一緒に行くも」
アカリ
「馬鹿言うんじゃない」
コモド
「やだ、あんなに居る」
「ナンガ、後ろを取ってもらうよ」
ナンガ
「コモドの野郎、動き過ぎると流れ弾に当たるぞ」
「ん?」
ラッセ
「ナンガめ、一人で前に出るなよ。狙い撃ちにされるぞ」
「来る……!」
カナン
「ラッセも一人で突撃して……!」
ヒギンズ
「もう、みんなして勝手なんだから……!」
「みんな出ちゃったのか?」
「俺のブレンが居ない……え? あいつ……!」
比瑪
「よし、回れ右をするぞ」
「比瑪、何やってる?」
「ブレン、僕はここだ!」
比瑪
「ここでクマゾーやアカリ、ユキオを守っておやり」
コモド
「あっ、イランドでグランチャーに近付くから……!」
ジョナサン
「雑魚はいい! 勇の野郎、何処に隠れてる?」
ナンガ
「今度は、背後から援護してくれりゃいい」
コモド
「りょ、了解!」
ナンガ
「ラッセ、押されやがって……!」
ジョナサン
「勇ブレン以外、興味はないんだよ!」
ラッセ、シラー
「くっ……!」
比瑪
「こんな数の敵、まともじゃ……!」
ジョナサン
「またこいつが邪魔するのか……!」
「何なんだ? このブレンは二度も傷を負わせる……!」
比瑪
「魂胆悪いからでしょ? 宇都宮比瑪ブレン、根性直してやるから!」
カナン
「クインシィ・イッサーも出ている?」
依衣子
「まだ、ノヴィス・ノアの砲門を開かせるところまで行っていないのか?」
「情けないアンチ・ボディ達だ!」
カナン
「クインシィが先頭に立つ作戦なら、彼女を倒すしかないけど……!」
依衣子
「勇だよ! 勇を出しなさい!」
比瑪
「っとに、もう……!」
「あの馬鹿、何格好付けてんだ? 俺はここに居るんだぞ!」
「あの数、姉貴も出て来たんだ!」
アイリーン
「比瑪ブレンを援護します」
ノヴィス副官
「宜しいでしょう」
アイリーン
「キメリエスも援護を」
依衣子
「な、何を……!」
「止まれば狙い撃ちにされるか! ならば、ノヴィス・ノアへ……!」
ノヴィス副官
「二時の方向から来ますが」
アイリーン
「はい。ランチャー、機銃座も宜しく」
依衣子
「勇が居た! 勇が!」
「ブレン一人でクインシィに掛かろうったって、どうなるってもんじゃないだろ!」
ユキオ
「勇のブレンなら出来るんじゃないの?」
アカリ
「そうだよ」
カント
「バイタル・グロウブと連動する活性化があれば、それはオルファンにも同じ効果を上げさせていますから……」
ゲイブリッジ
「アンチ・ボディ戦については……」
ノヴィス副官
「それぞれの個体の能力のぶつかり合いになりますな」
アイリーン
「それでは、昔のままじゃないですか」
「艦長」
アイリーン
「何です?」
「イランドでもウェッジでもいい、俺をブレンにまで連れてって」
アイリーン
「全機出撃中。貴方が呼び戻しなさい」
「ったく……!」
「お前達は救命チョッキを出しとけ」
ユキオ
「了解」
アカリ
「どうしてさ?」
クマゾー
「どうして?」
「ブレン、戻ってこい!」
「無理だ、お前一人じゃ……無理だよ!」