第14話 魂は孤独?

TV関係者
「あの、島のように見えるのがオルファンでしょう。そうとしか考えられません」
 〃
「あんなものが宇宙に飛ぶ訳はねぇだろう」
 〃
「もっと島に接近しろ!」
 〃
「筋雲を避ければいいんでしょ?」
 〃
「近付けよ!」
 〃
「うわぁぁっ……!」
コモド
「筋雲だってカーテンだって、バイタル・グロウブのネットなんだよ? ボヤボヤするから……!」
比瑪
「勇ブレンは……」
「勇ブレンを捜すのよ! どきなさい!」
「ごめん、勇ブレン! 私は馬鹿だ! 君を一人にしちゃって、ごめんなさい!」
「勇ブレン!」
「怪我してない? 何処か痛い所ない? 引き攣るとかさ、ね……!」
「手と足はちゃんと付いてるわね?」
「凄い! ちゃんと戦ってちゃんと生きてる! 偉いよ、君!」
「怖い? 怖くないの? どうなの?」
「き、君……どうしたの? 何処に行くの?」
ナンガ
「比瑪……比瑪! 何処に居る? 別働隊が居るぞ」
比瑪
「あいつ、勇の気性が移ったんじゃないのか?」
「馬鹿か、お前は!」
「図体がデカイからって、パイロットが乗ったグランチャーと戦えるほど、お前はよく出来ちゃいないんだ!」
「親父達が何と言おうと、お前達は、人間を乗せる為のスペースを用意して生まれたんだ」
「それは何故だか分かるか? え?」
「お前達が、この地球の進化の歴史の中で学んだ事だよな?」
「人間の反射神経と判断と感性……それに、生殖だけは人間のものを利用するつもりだからだ」
「こいつのコピーは面倒だもんな」
「しかし、力を行使する事は自分達のものにした」
「人間って奴は、力の使い方を知らない、エゴイスティックな動物だからだろう」
「だからお前達は、お前達に必要な人間だけを摂取して」
「地球が育てた生体エネルギーの全てを吸収して、銀河旅行をするつもりだ」
「それがお前達だ」
「けど、そういうお前達が、何故かグランチャーとブレンパワードという二つに分かれて生まれた」
「しかも、雄と雌との関係でもない」
「もっと根源的に、陰陽とかプラスマイナスくらい、はっきりと反発しあう習性を持ってる」
「何故だよ? 一つで完全無欠に永遠であるものなど、この世の中にはない」
「だからこうやって、グチャグチャに生まれてきたんなら、オルファンだってそうだろ」
「自分の反対にあるものと戦って、探してるものがあるんだろ」
「ビー・プレートとか、もう一人のオルファンとかさ」
「オーガニックで有機的なものが、一つのものである訳はないのに」
「貴様は、お前は……比瑪程度の女に唆されて……!」
「馬鹿野郎!」
「お、おい、怪我はないよな? どうだ、え?」
ノヴィス・クルー
「勇ブレンが戻ったぞ!」
「ブレン、痛い所はないか? 悪口は言ったつもりはないぞ」
「よし」
ノヴィス・クルー
「身体検査しないと駄目だろ!」
「よく戻ってきた、ブレン」
「……震えてるのか? 何があったんだ?」
「俺が付いててやるから、怖がるな。何が怖かったのか教えてくれるか?」
ノヴィス・クルー
「勇ブレン、また発進!」
アイリーン
「任せておいて」
桑原
「オルファンの動きは止まりましたね」
アイリーン
「バイタル・ネットは?」
桑原
「安定した出力を見せています」
カント
「そのネットとノヴィスのオーガニック・エナジーが、三隻の随伴艦のプレートととも繋がって……」
「オルファンの動きが止まったんですか?」
桑原
「そう考えるしかないタイミングじゃないか」
カント
「ここの数値は全て、ノヴィスを設計した人間が弾き出した数字です」
アイリーン
「オルファンには通用しないというのね?」
カント
「それも断定出来ませんけど……」
アイリーン
「そうであっても、私達は最善の事をやるしかないです」
カント
「大人は大変ですね。僕は子供のままで居たいな」
アイリーン
「君の頭と口先は、立派な大人よ?」
カント
「違いますよ」
アイリーン
「不幸ですけど、大人です」
カント
「本当ですか、博士?」
桑原
「天才少年って褒めたいけれど、君はニーチェを超えてるな」
カント
「粗製濫造された神々が、踊り狂ってるんですよ」
アイリーン
「やっぱり大人じゃない」
依衣子
「本当にオルファンは、頭を押えられているというのだな?」
兵士
「海上には、上からの力が掛かっているというデータが」
依衣子
「その程度の事で、オルファンが止まるのか! ノヴィスが何か作戦をやったというのか……」
ジョナサン
「それなら、こちらも同じ事をするまでだろう、クインシィ・イッサー」
依衣子
「ジョナサン……」
ジョナサン
「こんな所にノコノコ出て来るからさ! 力のない者が!」
カナン
「何? あの艦隊は……」
ヒギンズ
「こちらに断りなく出て来た国連軍でしょ?」
ラッセ
「ああなったら、只の虐殺じゃないか」
シラー
「食らえ!」
「ジョナサンの邪魔はさせない!」
ナンガ
「イランド部隊は国連の艦隊を守れ。俺と比瑪はグランチャーを止める」
比瑪
「あの船には、何百人もの人が居るんだ。これが戦争なんだ」
「怖い? そうだよね、本当は戦いたくないよね?」
「でも、みんなを守らないと……。勇ブレンだって戻ってくれるよ?」
ナンガ
「こいつら一体、何機居るんだ?」
ラッセ
「数で勝てないが、指揮官を落とせば……!」
ナンガ
「待て、ラッセ!」
ラッセ
「止めてみせる!」
ジョナサン
「まだまだ!」
カナン
「ラッセ……!」
シラー
「カナン! 裏切りの代償は払ってもらう!」
カナン
「シラー・グラス?」
ラッセ
「こいつ……!」
「うっ……!」
ジョナサン
「死ねって事よ!」
ラッセ
「痛みが来た……何?」
ジョナサン
「トドメを貰う!」
「ジョナサン! もうやめろ!」
ジョナサン
「勇、やっと来たか。逃げ出したかと心配したぜ」
カナン
「ラッセ……ラッセ・ルンベルク! 大丈夫なんでしょ? 生きているんでしょ?」
「ラッセ……ラッセ!」
ラッセ
「大丈夫、生きてるよ」
カナン
「了解、ラッセ・ルンベルク」
シラー
「仲良く死なせてあげようっていうのに……当たらない?」
比瑪
「カナンさん、早く!」
「勇!」
「ジョナサン、貴様は……アノーア艦長に……!」
ジョナサン
「ぐぁっ!」
「お袋さんに復讐する為に、リクレイマーになったんだろ?」
「お袋さんは……アノーア艦長は、責任を感じていた!」
「だから、プレートと一緒に海に消えた! 居なくなったんだよ! もう他人を巻き込む必要はないんだ!」
ジョナサン
「もうあんな女の事に拘っちゃいない!」
「そんなパンチ……!」
ジョナサン
「自分のプライドしか考えられない女の事などで、誰が思い悩むか!」
「嘘を吐け! 親子の情をそんな簡単に切れるものか!」
ジョナサン
「ははっ……貴様は覚悟が足らないから、そういう事を言うんだよ!」
「意気地なしめ、男じゃないんだよ!」
「意気地なし? 覚悟がない?」
ジョナサン
「本当の覚悟が出来ていれば、親殺しだって出来る!」
「切れてやるんじゃない。逆上しなくたって、正義の確信があり」
「信念を通そうという確固たるものがあれば、出来るもんだ」
「事情があった! 事情が……!」
ジョナサン
「ははっ……覚悟がないから、オルファンだって沈められないんだ!」
「な、何……?」
ジョナサン
「本気でオルファンを沈めるつもりがあれば、お前が来た時、原爆なり水爆を持ち込めた筈だろ」
「その程度の事では、オルファンは沈む訳はない!」
ジョナサン
「沈むな。20、30の核を体内で爆発させてみろ。オルファンだって沈む」
「沈まない!」
ジョナサン
「勇よ、可笑しかないか? なら何で外に出て行って、オルファンを沈めようなんて言ってんだ?」
「それは……マイクロ・ウェーブとか、ビー・プレートとかの可能性はあった」
ジョナサン
「二親と姉さんの居るオルファンなんか、端から沈める気はないんだ」
「それがお前の本当の気持ちだから、アンチ・ボディ戦なんかやってみせて」
「ノヴィス・ノアから食い扶持を貰う為に格好だけは付けてんだ」
「違う!」
「あいつらはオルファン諸共、消えてなくなればいい!」
ジョナサン
「本当にそう思えるか?」
「何を言いたい……?」
ジョナサン
「俺さ、クインシィ・イッサーと愛し合ったな」
「俺の知った事か」
ジョナサン
「粉を掛けたら、すぐに寄って来たんだ」
「男と女のやる事、珍しくもない」
ジョナサン
「ドクター・ミドリ……イサミもなんだ」
「何を言ってるんだ……?」
ジョナサン
「いやさ、ババァなんて馬鹿にしてたさ……。がね、いや味わい深かったって感動した」
「クッ……!」
ジョナサン
「ははっ、怒れよ!」
「はぁぁっ……!」
ジョナサン
「普通、こういう話は面白がるんだぜ? 怒るって事の意味は分かるよな?」
「お前には、オルファンを沈める事は出来ない!」
「嘘だ! ジョナサン流の強がりだ!」
ジョナサン
「ならお母ちゃんに聞いてみなよ。情熱を秘めた肉体……」
「貴様……!」
ジョナサン
「済まない、言い過ぎたな」
「しかし、もう一つ現状報告をしておくと」
「女房の態度が変わってもそれに気付かないのが、お前のお父ちゃんって事だ」
「お前は、そういう男と女の間に生まれた子供なんだ!」
「可哀想にな、生きてたって辛いだろ? 楽にしてやるよ」
「心配するな、クインシィだってたっぷり可愛がってやる。俺、包容力ってのはあるつもりだからさ」
「言うなぁぁっ!」
ジョナサン
「ははっ……!」
「何故こんなものだけで、オルファンが停止するのかしら?」
「オルファンのエネルギー・レベルなら振り切れる筈よ」
研作
「こちらの計算ではそうだが、これがオルファンの意志ならどうなる?」
「オルファンの意志なら?」
研作
「どちらにしても、今様子を見た方がいい」
「そうでしょうか?」
研作
「グランチャー部隊にだって影響が出る筈だ」
「なら、引き上げさせましょう」
桑原
「いいぞ、このままオルファンを海底へ押し戻せるかもしれない」
アイリーン
「オーガニック・エンジン、臨界点へ持ち上げてみます」
ノヴィス副長
「了解。カウント・ダウン、開始」
「10・9・8・7・6・5・4……」
ノヴィス・クルー
「国連本部より通信です」
アイリーン
「こんな時に?」
ノヴィス・クルー
「はっ、はっ……」
軍人
「ノヴィス・ノア及び、バイタルティ・ネット作戦に参加してる艦隊の作戦は中止」
「オルファンの静止が認められたので、現状のまま待機」
桑原
「な、何を言ってんです?」
ゲイブリッジ
「オーガニック・エンジンの出力を戻す」
アイリーン
「ゲイブリジ司令……!」
ゲイブリッジ
「上の決定には逆らえん」
桑原
「しかし……!」
ゲイブリッジ
「彼らは、リクレイマーの言い分を信じているようだ」
「オルファンがオーガニック・エナジーを吸収せず、そのまま宇宙へ行ってくれるなら、それでいいのだと」
桑原
「そんな事は有り得ません!」
ゲイブリッジ
「その調査の為の停戦だ」
アイリーン
「リクレイマーが動いたんですね」
ゲイブリッジ
「ああ、そうだろうな」
アイリーン
「仕方がない? 仕方がないんですね?」
カント
「でしょうね」
「この船のオーガニック・エナジーの放出が、オルファンに気持ちいいって事、それは有り得るもんな」
「その結果は、データなんかじゃ分からないよな。あんなもの、過去の検証だけで未来予測はしないもの」
ジョナサン
「ははっ……そういう風に怒るお前には、俺一人落とせやしない!」
「やったな、ジョナサン・グレーン!」
比瑪
「勇、何を撃ってるの? もう相手は居ないでしょ?」
「貴様のやった事、どんな理由があろうと、犬畜生以下だ!」
「鬼だ! 外道の極みだ!」
「うわぁぁっ……!」
比瑪
「勇、どうしたの? 泣いてるの?」
「勇、何で泣いてるの……?」
「放っといてくれぇぇっ!」
ナンガ
「5、6機も落としたか」
コモド
「ああ。引く事はないように見えたけど……」
ナンガ
「そうでもない。勇のブレンは俺のより参ってる」
「さっきは大声を出しちゃって、済まなかった」
比瑪
「何か……」
カナン
「――無茶よ!」
ラッセ
「事情は見りゃ分かるだろ? あの位は無茶な事じゃない」
カナン
「そうだからって、まるで死んでもいいっていうような戦い方は異常です!」
「貴方は、ファイティング・ハイになるような人ではないのに、どうしたっていうの?」
比瑪
「カナンさん?」
カナン
「英雄気取りでやったのなら、もっと質が悪い。ブレンだって大怪我をさせて、得な事なんか何もないのよ?」
ラッセ
「泣くなよ、カナン。そう簡単に俺はくたばったりしない」
カナン
「自惚れないでね」
ラッセ
「ああ」
カナン
「先生を呼ぶわ」
ラッセ
「頼むわ」
「うっ……!」
カナン
「ラッセ? どうしたの?」
ラッセ
「ちょっと目眩がしただけだ。休めば良くなる」
「何だ……?」
コモド
「何を知ってんのさ? 教えなさいよ」
比瑪
「何なんです?」
ナンガ
「あいつ、白血病の持病があって……それで疲れやすいんだ」
カナン
「えっ……?」
比瑪
「でも、今は治らない病気じゃないわ」
ナンガ
「そうなんだが……」
アイリーン
「彼は、一切の治療を拒んでいるのよ。神が成すままに運命を受け入れるって」
カナン
「どうしてなんです?」
アイリーン
「ここに来た時からそう。私にはお灸の治療しかさせてくれないのよ」
カナン
「そんなの変ですよ!」
アイリーン
「勇」
「はい」
アイリーン
「ラッセが呼んでるわ。貴方に話したい事があるって」
「でも……」
比瑪
「私が行く」
「頼む」
「熱くないのか?」
ラッセ
「熱いさ。気持ちいいけど」
「何だよ? カナンは怒って、どっか行っちゃったぞ」
ラッセ
「それでいいさ。泣かれるとは思わなかったんで、結構効いたよ」
「今まで、俺の事を泣くほど心配してくれる奴なんて、居なかったからな」
「だったら、治療すればいいじゃないか」
ラッセ
「俺は、ブレンに会った時に願掛けをしたんだ」
「この気に入ってる地球を」
「オルファンみたいな訳の分からないものに壊されるくらいなら、命を賭けるってね」
「そりゃ分かるけど……」
ラッセ
「だから、一人で戦おうって勇の気持ちは分かってたんだが」
「俺達を利用するくらいの気合を持って欲しいんだ」
「そういう話か」
ラッセ
「一人でやるよりはいいぜ」
「カナンを泣かせるな」
ラッセ
「まだそういう約束は出来ないな。あの子を生かす為に……」
比瑪
「ひだまりの館の先生が、よく歌ってくれた子守唄よ」
「カナンは?」
カナン
「あっ……酷い顔を見に来たの?」
「ごめん、心配で……」
カナン
「有難う」
「いや……」
カナン
「自分がこんなに弱いなんて、思わなかったな」
「カナンは強いよ」
カナン
「両親から望まれずに生まれれば、恨みしか知らずに独りで生きてしまう……」
「そんな私に、人類への復讐も出来て銀河旅行が出来るって言われれば、グランチャー乗りになれると思えた」
「でもそんな事しても、結局は自分の思いからは逃げられないって分かったのよ」
「だからカナンは強いんだよ。俺は逃げてばかりだ」
カナン
「私をここに呼んでくれたのは勇よ。勇は復讐なんて意味がないって分かったんでしょ?」
「それは分かったさ。外からオルファンを眺めて、はっきりそう思えたんだ」
「あれは優しい姿をしていた……。ふくよかで、凶暴なものには全く見えなかった」
カナン
「それ、まるで母なるものの事ね」
「人間の女達が母になる事をしなくなった。それで子供達は奈落に落ちる……」
「だから、オルファンが敵になる……」
「そう、それもあるかもな」
「女が母になる事をやめて、男もそれを許したんだ」
カナン
「戦争がなくなって自由過ぎて、男も女も自分達の欲望だけに目を向けてしまったのよ」
「生存競争を自分に向けたら、エゴだけが育ったんだ」
カナン
「このブレンチャイルドに触っていると、そういう考え方の間違いに気付くみたいで……」
「私、あの人を愛してもいいのかしら?」
「いいよ、素敵な事じゃないか。カナンとラッセならベスト・カップルだ」
カナン
「有難う」
比瑪
「ふーん……」
ナンガ
「このままの状況を永遠に維持出来る筈はないでしょう」
ゲイブリッジ
「それは分かってるが、国連という組織の命令には逆らえない」
コモド
「前線に居る私達の方が、状況は分かっています」
「このままバイタル・ネットが消滅したら、どうするんです?」
ナンガ
「今がチャンスなんです。これを逃せば、オルファンを沈める事は出来ない」
アイリーン
「ここのクルーはみんな頭が固いんです。こうと決めたら……」
ゲイブリッジ
「知ってるとも。このクルーを集めたのは私だ」
「この首一つで人類が救われるなら、賭けてみるか」
アイリーン
「あぁっ……!」
コモド
「よし……!」
カント
「いいんですか?」
桑原
「そうそう大人を疑うもんじゃない」
アイリーン
「問題は、バイタル・ネットで固定出来ても沈められないほど巨大なものを、どうやって……」
「可能性はあります」
ゲイブリッジ
「ん……」
「世の中に、完璧なんてものないんです」
「俺が知ってる情報は全て提供します」
ゲイブリッジ
「助かる」
「でも、両親の口から出た事が全てですから、確たるものじゃありません」
アイリーン
「それは?」
「オルファンは、あれそのものがオーガニック・エンジンなんですが」
「基本的に生物的なものですから、弱点はあるんです」
「例えば、老廃物を排出する器官はあります」