第17話 カーテンの向こうで

前回のあらすじ
オルファンを前にして、勇がお姉さんとぶつかってしまった。
ナッキィ・ガイズはグランチャーだから、戦力になるようでならなかった。
その間に、勇はお姉さんに抱かれて消えちゃったの。
あれじゃ今頃、別の銀河の惑星に行っちゃって、オルファンが勇を追い掛けていくって事だってあるんじゃない?
依衣子
「勇……勇……」
「こんな所で寝ていると、風邪引くよ?」
「ああ」
依衣子
「お茶淹れたの。みんな待っているわ、いらっしゃい」
「有難う」
依衣子
「何してるの? 早くいらっしゃい……仕方ない子ね……」
「みんな居るんだね」
依衣子
「まだ寝惚けてるの? 早くいらっしゃい、勇……」
「分かってるよ」
「冷たい……」
「雪じゃないか、これ」
「ん? うぅっ……!」
「何処なんだ、ここは……。生きてるよな、俺……」
「そうか、飛ばされてたんだ」
「ブレン、お前が呼んでくれてたのか?」
「まるで知らない景色だ……」
「お前、大丈夫なのか?」
「俺が感情で流されたばかりに、お前をこんな酷い目に遭わせちまって……済まない、ブレン」
「どうするかね……?」
「状況が分からないなら、じっとしてない方がいいけど……」
「よし、いい子だ」
「ん?」
「怯えなくていい。敵だと決まってる訳じゃない。仲間かもしれないだろ?」
「ん? 何だ?」
「グランチャーのシルエットに似てるけど」
「来た!」
「グランチャーなのか?」
ジョナサン
「ふふっ、ははっ……!」
「ジョナサンの幻覚などに騙されるか」
ジョナサン
「残念だな、勇!」
「本物なんだよ! 幻でもないし、お前の錯覚でもない!」
「お前の頭が可笑しくなってない事は、この俺が保証してやる!」
「生きていたのか?」
ジョナサン
「今のお前と同じようにな」
「やれよ!」
「ブレン! 貴様……!」
ジョナサン
「再会を祝って歓迎してやったんだろ。孤独であるより楽しいぞ?」
「オーガニック・エナジーが作ってくれた、再会のチャンス! 共に祝おう!」
「ブレン、逃げろ! 相手に出来るもんじゃない! 逃げろ!」
ジョナサン
「行けぇっ!」
「無理だ! ブレン、下がれ!」
「無理だって……!」
「はぁっ、どうしてもやるのか? やれるのか? あんな変なグランチャーとでも、ブレン!」
ジョナサン
「ふっ、そうだよ。勇のブレンが泣いてるな! 勇、貴様が泣くのを見られるとは、人生捨てたものじゃない!」
「舐めるな! どういう状態だろうと……!」
ジョナサン
「まだ、そんな力が残ってんのか!」
「バイタル・ネットに引っ掛けたのか!」
「ブレン、これが分かってたのか。保つのか?」
「よくやった! もういい、逃げろ!」
「んっ……?」
ジョナサン
「嘗ての戦友だ。このぐらい力があった方が、倒し甲斐があるってものだ」
「伊佐美ファミリーにはそろそろ引っ込んでもらいたかったんで、血祭りの手始め!」
「覚悟してもらうぜ!」
「分かった、ブレン! もう戦わなくていい! 抵抗せずに一気に……!」
ジョナサン
「ははっ、消えてなくなれ!」
「最後の一手は俺が打つ……!」
ジョナサン
「何だ、勇の援軍か?」
「別のアンチ・ボディ……ブレン・タイプに見えるけど……」
ネリー
「貴方達の邪気がこの森を……バイタル・ネットが造る結界を汚しています」
ジョナサン
「何を偉そうに物を言うか! ここは俺とバロンズゥの造る結界だぞ!」
「生意気な……!」
ネリー
「やはり、バロン・マクシミリアン……」
「バロン・マクシミリアン?」
ネリー
「バロン・マクシミリアン! グランチャー・バロンズゥを嗾ける事は、罪を犯す事です」
「バロンズゥを退かせなければ、私のブレンパワードまで暴発するかもしれません」
「それでは私も罪を犯し、私も貴方も罰を受ける事になります」
「罪を犯し、罰を受ける……? バロンだと?」
ジョナサン
「勇と一緒に潰してやる。それで貴様の罪と罰もチャラにしてやるよ」
ネリー
「おやめなさい、バロンズゥを操る人……貴方には、貴方が思うほどの力などはないのです」
「バロンズゥ、お帰りなさい。貴方のプレートに」
ジョナサン
「俺のバロンズゥ、何ビビってる? たった一人のブレンだぞ?」
バロン
「ジョナサン・グレーン、退くがいい」
ジョナサン
「何故止める、バロン・マクシミリアン?」
ネリー
「可哀想……動けます?」
「ブレンに聞いてやって」
ネリー
「あぁ……」
「大丈夫なんですか?」
ネリー
「分かりません」
「でも行くんですね?」
ネリー
「はい。憎しみの瞳の前には、居られないでしょ?」
ジョナサン
「おめおめ逃がすかよ!」
バロン
「やめろ、ジョナサン」
ジョナサン
「バロンがこのグランチャーを、俺に与えてくれたからって……!」
バロン
「君は自分の感情に流され過ぎる。それでは、そのバロンズゥの能力を引き出す事は出来ない」
ジョナサン
「そんな事はない! 俺はオルファンでグランチャーを……!」
バロン
「未熟だからここに飛ばされたのだ。急ぐ事はない。あのブレンとはすぐに会える」
「それまで学ぶ事がまだある」
ジョナサン
「くっ……!」
ナンガ
「じゃあ、勇のブレンパワードは、バイトル・グロウブに乗って強制的に飛ばされたって訳か」
カント
「それ以外考えられませんし、そうなら撃墜はされてないと思います」
「オルファンから逆流した膨大なオーガニック・エナジーを受け止めるには、ブレンパワード一体では荷が重いんですよ」
ナンガ
「じゃあ、前にグランチャーを吹き飛ばしたのも、同じ現象なんだな?」
コモド
「でも、何処に飛ばされたか分からないんでしょ? オーガニック・レーダーだって」
ナンガ
「ありゃ、カバーが狭いもんな」
カント
「そうなんですよね。バイタル・グロウブのネットの分布って、まだよく分かってないし……」
カナン
「でも、カント・ケストナー」
「バイタル・ネットを使って、帰ってくる事だって出来るんでしょう?」
カント
「そりゃ出来ます。理論的にはね」
カナン
「なのに連絡もない……」
カント
「オルファンの移動によって、地球上のバイタル・グロウブが乱れ始めています」
「そのせいで、彼の位置を掴み辛くなっているという問題もあります」
ナンガ
「しかし、勇が生きている可能性は皆無ではない……」
カント
「そりゃそうですよ。ブレンが付いてるんですよ?」
コモド
「なら、決まりだね」
ナンガ
「何がだ?」
コモド
「オグンの神に祈るの」
ナンガ
「なら、俺の分も祈ってくれ」
ナッキィ
「あはっ、全員ここに居るじゃないですか」
カナン
「何の用です?」
ナッキィ
「ご挨拶ですね……僕だってまだブレンが居るんです。仲間に入れて欲しいな」
ナンガ
「今は警戒態勢中だ。持ち場に戻るぞ」
比瑪
「……何するの?」
ナッキィ
「同情するよ。恋人のユウ・イサミの生死が心配だろ?」
比瑪
「短絡的な表現しか出来ない人ね」
ナッキィ
「済まない」
比瑪
「だけど貴方は、ノヴィス・ノアに馴染んでくれて、一緒に戦ってくれると思ってる」
ナッキィ
「それはそうしたいけど、分からないな……」
比瑪
「何が……?」
ナッキィ
「好きでもない奴の為に、思い詰められる女の子ってさ」
比瑪
「はっ……!」
ナッキィ
「ふふっ……」
ネリー
「どうぞ」
「君は……?」
ネリー
「ネリー。ご覧の通りの女です」
「そうでしょうけど……」
ネリー
「どうぞ?」
「済まない」
ネリー
「ここなら安全です」
「そ、そうですか」
ネリー
「でも、ここではブレンの傷を治してあげる事は出来ません」
「でも強い子ね……。私のブレンの傍に居れば、少しは落ち着いてくれるわね」
「あ、あの……君は何者で、何故ブレンパワードに乗ってるんだ? あのグランチャーは何なんだ?」
「ここは……」
ネリー
「ふふっ……」
「何が可笑しいんだ?」
ネリー
「貴方が訊いてばかりいるから。それに私、暫く人と話してなかったから、嬉しくなったの」
「すぐ吹雪が来ます。小屋に入りましょう」
「あ、ああ」
ネリー
「お友達をお願いね?」
ネリー
「ベッドは貴方が使っていいのよ?」
「もう少し見ていたいな」
ネリー
「何を?」
「君を……」
ネリー
「どうして?」
「君が、知ってる人に似てるから」
ネリー
「どんな所が?」
「顔……じゃないな。全然性格は違うんだけど、雰囲気なんだな」
「ブレンと話をしてるみたいなところなんか、そっくりなんだ」
ネリー
「だって、本当に話してるのよ? 貴方だって話せるでしょ?」
「少しは……いや、嘘だな。俺にはあいつの言葉は聞こえない」
ネリー
「そうは思えないな。瀕死の重傷を負いながらも、貴方のブレンは貴方を守ったのよ」
「貴方達がお話出来ないなんて事ないわ」
「比瑪は『言葉はなくとも、何となく分かる』と言ってた。あいつが話すと比瑪ブレンは喜ぶんだよ」
「俺は弄れてるから……」
ネリー
「そういう風に話せるようになったのなら、もう聞こえるわ。今までは聞こうとしなかったんでしょ?」
「聞こうとしてなかった……?」
ネリー
「そうでしょ? 貴方の気性は激しかった」
「でも、あのブレンと付き合うようになって、柔らかくなったんでしょ?」
「そうか……そうだね……」
ネリー
「その比瑪って人、貴方の大切な人なのね?」
「違うよ。俺にはそんな人は居ない」
ネリー
「ふふっ、そう思い込もうとしてるだけでしょ?」
「人間は、誰だって大切な人を持っているものよ。だから生きていける……」
「一人で生きて行くのは辛いし怖いわ。ブレンパワードのような、オーガニック・マシンと呼ばれる存在だってそうなのよ?」
「だからあの子達、私達のような人を水先案内人として選ぶのよ」
「パイロットって元々そういう意味か……」
「分かったよ。俺みたいな癇の強いのと付き合ったお陰で、あいつはあんな目に遭っちまったんだ」
「それに引き換え、姉さんは……」
「あの時だって見切ってた。グランチャーを傷めないようにした」
「姉さんは、グランチャーの気持ちを分かっている……」
「……君だって、大切な人は居るんだろ?」
ネリー
「勿論居たわ。けど、お別れしてきたの」
「どうして?」
ネリー
「こういう時代でしょ? あの子と居る事を選んだのよ」
「ネリー・ブレンと居る事を……?」
ネリー
「そうする事が、正しいと思ったから……」
「戦う為?」
ネリー
「違うわ。出来れば、あの子と二人で静かに暮らしてきたかった……」
「でも、そういう訳には行かないのね」
「この時代に何かを成す為に生まれてきたものだから、このような事も起こる……それは思っていたわ」
「リバイバルを見たから?」
ネリー
「それはそう」
「痛っ……!」
ネリー
「動かないで。肩の骨が外れて、周りの筋肉が炎症を起こしているのね」
「骨をはめるわ」
「え?」
ネリー
「ん、ちょっと痛いわよ……!」
「済んだわ」
「外れてたんですか?」
ネリー
「ええ。湿布を貼ります。シャツを脱いでください」
「用意はいいんだね。ここに居たんじゃないんだ?」
ネリー
「この上空は、バイタル・ネットのクロスする所……」
「冷ゃっこい!」
ネリー
「暫くは、ここからは出られないわ」
「バイタル・ネットのせいで?」
ネリー
「ええ……それは、あのグランチャー・バロンズゥも同じ……」
「今日の勢いでは、ここでの決着を付けに来るでしょうね」
ジョナサン
「バロンが……バロン・マクシミリアンが慣れる必要があるというから、バロンズゥを出したのだ」
バロン
「その激情を静めるのだ、ジョナサン」
「一瞬のやり取りで敵の力を見極めるという事を……その程度が出来ないようでは、まだまだ……」
ジョナサン
「感謝しているんだ、バロン。あんたがあの強力なグランチャーを提供してくれた事を……」
「自重もしよう、約束する。だからだ……頼む、オルファンに行こう」
「バロンズゥで行けば、伊佐美ファミリーも土下座する」
バロン
「何れ行くつもりだ。私の使命と考えているから……」
ジョナサン
「使命? ガバナーは貴方だったのか?」
バロン
「残念だが違うな」
ジョナサン
「貴方のような方がリクレイマーのリーダーだったら、オルファンはもっと健やかであったものを……」
バロン
「そうなのか?」
ジョナサン
「伊佐美ファミリーの息子は、ノヴィス・ノアに寝返るような奴だ」
「家族同士の甘えの中で、親も子も、自堕落この上ないのです」
「あんなファミリーに再生されたオルファンこそ、同情すべき存在なのですよ」
バロン
「あぁ……」
ジョナサン
「可笑しいな……何故こんな話を、あんたにするんだろう。誰にも話した事ないのに……」
バロン
「相性、というのかな……。合うのだろう」
ジョナサン
「あ、あぁ……」
バロン
「決着は付けてもらう」
ジョナサン
「あの女のブレンパワードをか?」
バロン
「あれの隠れ場所は検討が付いている」
ジョナサン
「流石、バロン・マクシミリアン……」
TV中継
「津波の心配だけではなく、地殻が不安定になっている為に」
「いつ自分の足元の地面に亀裂が入り、地の底に落ちるのか、その不安の方が大きいのです」
「その不安は、軍・治安部隊にまで及び、暴徒鎮圧事態……」
モハマド
「最早……最早、国連など当てにはならん」
アイリーン
「パニックは世界規模になりましたからね」
モハマド
「リクレイマーに、オルファンを止めろという国が何処にも居ないのなら」
「太平洋沿岸の難民の子供達を一人でも多く収容して、インド洋に出て、我々の国に移動しましょう」
アイリーン
「そうします。けれど、オルファンの動きを沈める……戦うのはやめませんよ?」
モハマド
「そりゃそうです。オルファンの怒りのエネルギーが、どういうものか分かっていないんですから……」
アイリーン
「いい事を仰いましたわ、ミスター・モハマド」
モハマド
「は、はい……」
アイリーン
「だからですよ。オルファンの怒りを抑止する為に、私はノヴィス・ノアに子供達を集めたいんです」
モハマド
「はぁ……」
アイリーン
「子供達の溌剌とした生気を、オルファンは全部吸っちゃうのかしら?」
モハマド
「吸っちゃうんじゃないんですか?」
アイリーン
「私、そうは思えなくなったんです」
モハマド
「どうして……?」
アイリーン
「ブレンとグランチャーとオルファンを見てると……」
「それに、生物までの関わりを見ると、一方的に一方のエネルギーを吸い取る関係には見えないんですよね」
モハマド
「第一線で観察した結果がそうなら、嬉しい事ですね」
ノヴィス副官
「天才カント・ケストナー君も言っています。この事件、物理学じゃないってね」
モハマド
「成程。オーガニック・エナジー……生体エネルギーは、情愛とも関連している訳ですね」
ノヴィス副官
「はい」
モハマド
「そうか……子供達も、ノヴィス・ノアの戦力になるんですね?」
アイリーン
「その可能性はあると……」
モハマド
「凄い……!」
ゲイブリッジ
「既にアメリカが動き始めています。ですから私も動きます」
直子
「動くって……?」
ゲイブリッジ
「アメリカの動きを牽制したいのです」
直子
「出来ますか?」
ゲイブリッジ
「分かりません。歴史のないアメリカという国は、あらゆる歴史的なものを手に入れたいのです」
「そのような衝動に駆られてしまうものを押さえるのは、実に難しい事です」
「お付き合い願えますか?」
直子
「はい」
ゲイブリッジ
「驚かないのですね?」
直子
「貴方の事を昔からよく知っていた筈なのに、あの時は即答出来ずに後悔しました」
「もう、ああいう事は嫌ですから……」
ゲイブリッジ
「勇君は分かってくれるだろうか?」
直子
「あの子も、もう大人ですよ」
ネリー
「おはよう、勇ブレン。気持ちは落ち着きましたか?」
「そう、気が合ったのね。ご苦労様」
「私なら大丈夫。勇君もいい友達になれた」
「おはよう、勇」
「おはよう」
ネリー
「この子、貴方に興味があるのね」
「有難いな」
「ブレン、済まないな。何もしてあげられなくて」
ネリー
「駄目。貴方はまだ動いてはいけません」
「ネリー・キムの言う通りだ。もう少し養生するんだ」
ネリー
「聞き分けのいい子だ」
「ブレン?」
「何か来るのか、ネリー?」
ネリー
「分かりません」
「ブ、ブレン……!」
ネリー
「私を貴方の中へ」
「ネリー、またあいつが来たんだな?」
ネリー
「そうでしょう」
「ジョナサンか!」
ジョナサン
「外に居たのは運がいいと言いたいが、この方がいい。バロンズゥの慣熟訓練だからな」
「ブレン、開くか?」
「ネリー」
ネリー
「バロン・マクシミリアンは、あのグランチャーを邪悪に使う事を目指しているだけ」
「それに、あの青年を手伝わせるという心は、一体何なの?」
ジョナサン
「俺は俺の戦い方をバロンに示し、その上でオルファンに凱旋をする」
「行けよや!」
ネリー
「飛びませ、ブレン!」
ジョナサン
「勇を討たせてくれれば、貴様の話を聞いてやってもいいんだぞ」
ネリー
「何故そのような口が、邪悪な心で言えるのです!」
「頼む、動いてくれブレン!」
「そうだ、お前は強い。あのネリー・ブレンを助けられる」
「来た!」
ジョナサン
「はい、これでさよならだ、勇」
「そうなのか?」
比瑪
「勇……」