第19話 動く山脈

前回のあらすじ
あのネリー・ブレンがスケートをやったという話も、私は後で聞いたんだ。
ネリーさんと勇の事は想像出来ない。私は、見たものしか分からないし、見えないものなんかに興味ない。
人を理解するって、それでいいんだって思う。
「うっ……!」
「オルファンだ……。まだ大陸……ノヴィス・ノア……」
「涙が枯れたと同時に、極東に戻れたという訳か」
「ここは中国か」
「お前だって、いつまでもメソメソしてるなよ。俺を乗せてくれたんだ」
「二人してこの苦難を乗り越える……。俺のブレンは雄々しかったんだぞ」
「そのビットだって取り込んだんだ。もう泣くんじゃない」
「うっ……!」
「疲れたのか。この辺りで寝る場所ったって……」
現地人
「何? また形の違うアンチ・ボディだ。一体、どれだけ災難が来れば終わるんだ……!」
「うっ、くっ……!」
「俺もお前と同じだ。でも、じっとしていても回復出来ないのが、俺達人間なんだよな」
「瓜は食べた事ないけど、甘い筈だよな」
「はっ……!」
コモド
「ナンガ、ここにもアメリカ軍よ?」
ナンガ
「何でアメリカ軍が、中国大陸でデカイ面をしてんだ?」
軍人
「パスポートが欲しけりゃ、ちゃんと並べ!」
現地人
「このゲート、同じ事を言いやがる!」
軍人
「一週間ぐらいはみんな待ってるんだ! さもないと撃つぞ!」
三尾
「ヘイ、ヘイ! 乗せてって!」
「……もう、軍人は横柄なんだから……!」
「今度こそ……!」
「ね、こら、お前! 乗せなさい! 乗せろっていうの!」
「くっ、誰が落ちるもんですか……!」
軍人
「ん……?」
三尾
「乗せろって言ってるでしょ!」
軍人
「死にたいんですか? 怪我しますよ?」
三尾
「私は日本政府直轄の、理化学研の研究員なんですよ?」
軍人
「研究員?」
三尾
「是非、オルファンに入国をしたいのです」
軍人
「ゲートに行って申告してください」
三尾
「半月とか一ヶ月掛かるんです。私は……!」
軍人
「出せ」
三尾
「あん、鬼畜ベイベー!」
ナンガ
「暫く振りだな、ドクター・ミナモトノじゃないか」
三尾
「まあま、ナンガさんにコモドさんもいらっしゃるなんて」
ナンガ
「大陸に進出なさっても、お元気で……」
三尾
「元気じゃないわよ。ノヴィス・ノアは今何処? 勇は戻ってきたの? あ〜、ナンガさ〜ん!」
コモド
「ふふっ……」
比瑪
「アンチ・ボディの反応があったのは、この辺りよね?」
「ここに出られたって事はそうなんでしょ、ブレン?」
ナッキィ
「こいつらが嫌がってないって事は、グランチャーではないって事だけどな」
比瑪
「そうだよね。勇がここに出て来たんだ」
ナッキィ
「別に、あいつとは決まってない。ブレンパワードは世界各地で生まれてるんだから」
比瑪
「何て意地悪な言い方でしょ」
ナッキィ
「比瑪ちゃん、僕はブレン三人のリバイバルに立ち会った男なんだぜ?」
比瑪
「嘘仰い! ノヴィスにそんな人、居ないわ! この辺りに転がっていたブレンを拾ったんでしょ?」
ナッキィ
「その言い方は酷くないか、比瑪ちゃん?」
比瑪
「だったら……!」
ナッキィ
「だからでしょ? 俺みたいな男はさっさとオルファンにぶつかって、居なくなれと連れ出した」
比瑪
「違うわよ。ノヴィスに居辛そうだから、ご一緒しましょって誘ってあげたんじゃないの」
ナッキィ
「別に居辛くはない」
比瑪
「貴方は勝手過ぎるんです」
ナッキィ
「ラッセ・ルンベルグは、僕のブレンを自分のにしたんだぞ?」
比瑪
「あれは、あのブレンがラッセを気に入ったんだから、貴方に何も言う権利はないわ」
「はっ……」
ナッキィ
「グランチャーじゃないのか」
比瑪
「誰、あの子……」
ナッキィ
「まるで新顔だぞ」
比瑪
「ふうん……」
ナッキィ
「図体は大きいけど、ブレンパワードだ」
比瑪
「うん、この子も優しい顔してる」
ナッキィ
「デリケートな瞳をしている……」
「宇都宮、いいのか?」
比瑪
「大丈夫だよ」
「フリュード・スーツ? 勇のじゃない」
「勇のだ、勇のだ」
「あれ、何だ? ブレスレットみたい……」
「ブレスレットだ。でもこれ、勇のスーツだけどな……」
「ねえ君。このブレスレットは、君と働いてる人の物?」
「そうなんだ……。けど、コックピットにある服は、私の知ってる人の物なんだよ?」
ナッキィ
「んっ……」
比瑪
「何よ?」
ナッキィ
「コックピットの壁……」
比瑪
「え?」
現地人
「子供一人だけなのか?」
 〃
「怪我をさせるな。引っ捕えてアメリカ軍に売るんだ」
ナッキィ
「畑からこっちに逃げ込んできた……?」
比瑪
「勇よ、勇が……!」
現地人
「アメリカ軍がグランチャーを使ってんだから、ブレンには金出すんだ!」
「何だ、アメリカだ褒賞金だって……!」
現地人
「こいつはどうするんだ?」
 〃
「ブレン・タイプのアンチ・ボディは谷へ捨てろ!」
 〃
「アメリカ軍には(?)」
「くそっ、こ、この……!」
ナッキィ
「……こいつが見ていた事なのか」
比瑪
「この前の景色だったわ」
ナッキィ
「オルファンに進駐しているアメリカ軍に引き渡されたら、助け出すのに苦労するぞ」
比瑪
「勇の事?」
ナッキィ
「捜すぞ!」
比瑪
「ブレンはどうするの?」
ナッキィ
「比瑪とここで待っていてくれ。状況が分かったら、ブレンで強襲を掛けて……」
比瑪、ナッキィ
「わっ……!」
ナッキィ
「ひ、引っ掛かった……!」
比瑪
「いったぁ……!」
民間人
「抵抗しなければ命は取らねぇ!」
 〃
「銃とナイフを出しな!」
ナッキィ
「こいつら……!」
民間人
「銃を投げろ!」
比瑪
「どちらの方なんです?」
民間人
「早くしねぇと撃つぞ!」
長老
「殺してもここに埋めればいいだけじゃからな」
比瑪
「こ、こわ……!」
現地人
「金よりオルファンに乗れる権利の方がいいな!」
 〃
「オルファンはアメリカなんだろ?」
 〃
「パスポートがあればさ……!」
 〃
「……どうでした?」
長老
「ワシらの捕まえたブレンは、ノヴィス・ノアのクルーだという」
現地人
「やった! 金もパスポートも貰えるぞ!」
 〃
「これで盗みもやらずに済む!」
長老
「静まらんか! 金ではなく、食料生産のプラントを用意するそうじゃ」
現地人
「冗談じゃねぇ、いつまでもこんな所に居られるか!」
長老
「暫く食い繋げる」
現地人
「なら鶏と豚も要るぞ、ご長老」
長老
「それは引渡しの時に交渉する。何しろ、見た事のないブレンパワードの話をしたら、アメリカさんの声が上ずった」
現地人
「ど、どういう事で……?」
長老
「アメリカ・グランチャーの驚異になるんじゃろう」
現地人
「その褒賞は別に催促したのか?」
長老
「盗っ人百年やってきた知恵は、何も要求せん! 向こうと会ってからの事じゃ!」
現地人
「それが賢いというものじゃ!」
 〃
「全員のパスポートを貰えばいい!」
ナッキィ
「あのな……アメリカ軍に引き渡すって言ってんだから、逃げるチャンスは幾らでもあるんだ」
「そんな事しなくたって……」
「盗賊の村なんだぞ? どうなるか分かるもんか」
比瑪
「無事を喜び合えるっていうの、こういう事じゃなかったんだけどな」
「わ〜勇、元気だったんだ? ってさ、ヒシっと抱き合って、ロマンチックだな〜って事、全部無し……」
「現実ってこうなんだろうな」
「でも勇、一生懸命やってくれるから……」
「やった。勇の歯、丈夫なんだ」
「勇、どうしたの?」
ナッキィ
「再会のキスでもすれば、ロマンチックなシーンになるぜ?」
比瑪
「そうか」
「ん……?」
比瑪
「ったく……!」
ナッキィ
「ほら、遊んでないで解いてくれよ」
比瑪
「あっ……」
ナッキィ
「手を使っていいんだぜ?」
比瑪
「そっか」
「ここにあるものは全部、盗んできたものだけど……」
「オルファンが上陸して、大陸中が無法地帯になったんだ。村単位で自衛するので必死なのさ」
ナッキィ
「それでアメリカ軍とも繋がるか?」
「まあ、お尋ね者の俺達を捕えれば、そりゃ有頂天になるさ」
比瑪
「何で私達がお尋ね者なのさ?」
ナッキィ
「俺のせいなんだろ?」
「違うよ。ノヴィス・ノアが国連の下に居る。国連とアメリカの諍い……」
勇、比瑪
「あっ……!」
「ブレン! ネリー・ブレン!」
比瑪
「ネリーのブレン……?」
現地人
「だ、駄目だ! 撃っても効かないよ!」
 〃
「おぉっ……!」
「悪い、よく来てくれた」
比瑪
「やっぱこれ、勇が使ってる……ネリー・ブレン?」
「勇のブレンはどうしたの?」
「こいつがそうだ」
比瑪
「嘘吐き! 全然、人相もスタイルも違う!」
「再リバイバルしたんだ。ネリー・ブレンと勇ブレンが体を補い合って、リバイバルし直したんだ」
「よく戦ってくれた」
比瑪
「……誰とさ?」
「ジョナサンの新しいグランチャーとだ」
比瑪
「ジョナサンがまだ生きていたの?」
「信じられないようなグランチャーを手に入れてた」
ナッキィ
「急げ、勇!」
「はっ……!」
長老
「落とすぞ!」
ナッキィ
「危ないぞ、婆さん!」
「ネリー・ブレン。あの村人を、怪我させないで追い払えるか?」
長老
「うっ……!」
「せっかくのお宝が……! これで孫達に肉が食べさせられなくなった……!」
比瑪
「何だか可哀想じゃない?」
「ああいう逞しい人達は生き残るよ」
ナッキィ
「俺が世話になったホウ・チェンとこも大家族で、あんなもんだったな」
比瑪
「モハマドさんを紹介してくれた人?」
ナッキィ
「そうだ」
「モハマドさんとこも大家族でさ。ノヴィスも似たようなもんで、俺はそういうのに縁があるんだな」
比瑪
「ナッキィのお父さんとお母さんは?」
ナッキィ
「そういうのは居ない」
「いいぞ。そのまま後ろを警戒しつつ、前へ回り込め」
「よ〜し、いい子だ」
「へぇ、ナッキィのブレンも凄いんだな」
比瑪
「私のもよ。このブレンと会って、気が利くようになったのね」
「そうなのか」
比瑪
「ナッキィ・ブレン、お利口さんよ?」
「あっ……いつ取ったんだ?」
比瑪
「あの村の人に捕まる前」
「あ、そうか。そうだよね……」
比瑪
「それ、女物よね?」
「ネリー・キムさんの形見なんだ」
比瑪
「形見? 亡くなったの、その方……?」
「ネリー・ブレンが、俺のブレンとリバイバルする時にね……。情け容赦ないんだ」
比瑪
「怖かったんだ?」
「ああ……」
「オルファンが浮上する時に、ネットが歪んだりすればああなるかもな。可能性はある」
比瑪
「そんなに怖い事があったんだ……」
「でも、再リバイバルした時、ネリーと勇のブレン、一緒になったって……そう言ったよね、勇?」
「そう言った……」
「地球の問題やオルファンの事って、全てが絶望的な事じゃないかもしれないんだな?」
比瑪
「そうよ、ブレンは空を飛んでんだもの」
「上手く行くって事だ」
比瑪
「そうだよ、絶対」
「そうだよな! 誰が絶望するもんか!」
比瑪
「そうそう!」
ナッキィ
「何だ、やってるじゃないか」
「そうだよ! そうだったんだ!」
比瑪
「ふふっ……!」
バロン
「ジョナサン、オルファンは女性の姿をその芯に蓄えてるというが、本当か?」
ジョナサン
「ああ、バロン・マクシミリアン。貴方のバロンズゥは、オルファンの懐に飛び込みました」
「貴方はオルファンに迎えられるに相応しい方という証明です」
「リクレイマーは貴方の叡智と高潔さで、より善き方向へ導かれるでしょう」
バロン
「ん、あれは……!」
ジョナサン
「な、何なんだよ、あれは……!」
「オルファンの装甲に、誰がこんな悪ふざけをするんだ!」
バロン
「リクレイマーのものとは思えないが……どういう事なのだ、ジョナサン?」
ジョナサン
「俺が聞きたい」
「バロンズゥ、ソード・エクスを構え!」
「こいつらは、リクレイマーではない」
バロン
「分かっている。入国審査があるようだ」
ジョナサン
「入国審査だと? ジョナサン・グレーンが強力な……!」
軍人
「所属不明のグランチャーに告ぐ! 入国手続きの為、下のシャッターへ進め!」
ジョナサン
「指図をするな!」
バロン
「ジョナサン、ここは彼らに従え」
ジョナサン
「何故です?」
軍人
「オルファンが、アメリカの53番目の州になったのも知らないのか?」
ジョナサン
「オルファン州とでもいうのか?」
軍人
「抵抗するなら、ブレンパワード・タイプと見倣して撃墜する!」
ジョナサン
「面白い! お前達、軍人グランチャーに落とせるか!」
軍人
「うわっ……!」
ジョナサン
「バロン・マクシミリアンのバロンズゥを案内してきたんだ! 不服なら貴様達を……!」
依衣子
「ジョナサン、ご苦労様」
ジョナサン
「クインシィ?」
依衣子
「私からは、ジョナサンの背中が見える」
ジョナサン
「何処に居るんだ?」
依衣子
「中央コントロールのオーガニック・レーダーから端末を繋いだ」
「そのバロンズゥとかの、正面シャッターのデッキに居る」
「バロン・マクシミリアンという男が見える。何者だ?」
ジョナサン
「このグランチャーをリバイバルさせて、私に与えてくれた恩人だ」
シラー
「ジョナサンが帰ってきた」
兵士
「見ろよ、あのグランチャーは進化したタイプだ」
「ジョナサン! 帰ってきたのね? ジョナサン、無事で良かった……!」
「本当に心配していたのよ? 貴方が帰ってくれれば、もうオルファンはすぐにでも銀河に飛び立ってもらえるわ」
ジョナサン
「ドクター、紹介したい人が居るんだ」
「ああ、あの方?」
バロン
「左様。プレートの導きで、ジョナサンと巡り会う事が出来たのです」
「伊佐美翠。リクレイマーの研究班を纏めています」
バロン
「ならばリクレイマーのリーダーの、研作博士は何方かな?」
「あれは、アメリカ軍との応対で飛び回っておりまして……。何処に居るやら……」
バロン
「それは……」
「察するところ、クインシィ・イッサーと見たが?」
依衣子
「名前を知ってくれて嬉しいが、どういうつもりでオルファンに来たんだ、バロン?」
バロン
「グランチャー部隊を取り纏めるご苦労を重ねる貴公を助けたいと考えて、バロンズゥをジョナサンに預けた」
「クインシィを助ける……?」
依衣子
「信じていいのかな?」
バロン
「ジョナサンには良いリーダーが要る」
「余計な事を……!」
ジョナサン
「よう、シラー!」
シラー
「お帰り、面白いグランチャーじゃないか」
「あれ、みんなアンチ・ボディじゃないか」
比瑪
「来る途中、ブレンはここに来たがったのよ」
ナッキィ
「震えるな。見たいっていうから連れて来てやったんだろ? しっかりしろ!」
「これがアメリカ軍のやり方だ。ちょっと性能が悪いと捨てちまう」
比瑪
「じゃあこれ、アメリカ軍が持ってきたもの?」
「オルファンの物だよ。大陸で出た物を纏めたって、こんな数はないよね、ナッキィさん?」
ナッキィ
「半年以上掛かって、四人集めたのが精一杯だった」
比瑪
「何故ここに捨てたの?」
「アンチ・ボディなら、グランチャーもブレンも同じような場所で墓場を作りたいと思うんだよな?」
「何故なんだ? 教えてくれ、ネリー・ブレン」
シラー
「凄いだろ? あっという間にこうだ」
「軍っていう組織は機能的だし、来た連中も礼儀正しい」
「オルファンにとって、アメリカナイズはいい事だ」
ジョナサン
「シラー貴様、逆上せていないか?」
シラー
「ガバナーだって妥当だって言っているんだ」
「あのクインシィだって、アメリカ軍に従ってるのは見たろ?」
ジョナサン
「クインシィの腹の中くらい、想像が付く」
「……何ですか、ドクター?」
「ちょっと、やつれたかしらね……? バロンに苛められた?」
ジョナサン
「そんな事ありません」
バロン
「グランチャーは、アメリカ軍が持ち込んだのか?」
「オルファンで提供した物が半分、持ち込んできた物が半分……」
「ガバナーの采配で、上手く編成出来ました」
バロン
「オルファンのガバナーか……狡猾な事を……」
比瑪
「何してる訳?」
「ナッキィは、四人のアンチ・ボディに付き合ってるから、俺よりアンチ・ボディを知ってるみたいなんだよな」
ナッキィ
「そうか、分かったぞ。お前達が何でここで死んで行く気になったのか……」
「比瑪、勇。こいつらは、オルファンに行きたくなかったんだ」
「それで人を乗せるのを拒否して、ここに集まったんだ」
「どうしてそんな事が分かる?」
ナッキィ
「こいつらのシャッターもハッチも固く閉じている。人間を乗せる事を拒んだアンチボ・ディは、何れ硬化する」
比瑪
「そ、そうよね……」
ナッキィ
「アメリカ軍の扱いも乱暴だったようだ」
「オルファンから逃げた時に、やられたりもしたのか?」
ナッキィ
「そうだろうな……」
「このブレンは、乗り手をなくしてフラフラしている時も、ハッチは開いていた……」
「オルファンに行く事を予想していないブレンは、そういうものなんだ」
「それに引き換え、彼らは、オルファンが上陸してから逃げ出さなければならなかった」
ナッキィ
「そうなんだよ。もう少し前に出会っていれば、こいつらを助けられたのに」
「それが出来なかったんだよ、俺には」
比瑪
「ナッキィさん……」
比瑪
「カントが言ってたものね。ブレン達は花が好きだって……」
「摘むと可哀想だけど、これなら根付くよね」
「ネリーさんの形見を埋めるの?」
「うん。ここならネリーだって喜ぶ筈だ」
「あっ、わっ……!」
比瑪
「ネリー・ブレン!」
「気持ちは分かるけど、ネリー・ブレン……」
「ブレスレット一つの記憶より、お前と俺の中に染み込んだネリー・キムの思い出を大切にしたいな」
「一杯あるだろ? ここにいる宇都宮比瑪って、いい子なんだぞ? こういう事をちゃんと分かってくれるんだ」
「お前の体の中には、ネリーも俺のブレンも居るんだろ? これで十分じゃないか、ネリー・ブレン」
比瑪
「有難う、勇。でも私、人を愛せない人って嫌いだよ?」
「有難う」
「ネリーはね、ジョナサンとバロンとバロンズゥが、オルファンに入る事を恐れてたんだ」
比瑪
「バロン? バロンズゥ?」
「ああ」
ナッキィ
「一つの記憶を封印するかい?」
「そうする」
「くっ……!」