第20話 ガバナーの野望

前回のあらすじ
私の一杯のお母さんの思い出は、私のプライドであり、幸せの素になっている。
だからって、積極的に人には話さない。
勇にとってのネリー・キムさんの事は、辛い思い出だろうけど、大切にしなければならない事ではある。
民間人
「あの塔は落ちるんじゃないか?」
 〃
「家財道具ぐらい拾わせてよ……!」
 〃
「お、落ちる……!」
 〃
「銀行の建物が塞がっちまった!」
 〃
「お金が……!」
比瑪
「何て事でしょ。大陸に上がっても、オルファンは地面を削ってるだけよ?」
「オルファンの頂上はとっくに宇宙を覗いている。しかしまだ、大地を離れてはいない」
ナッキィ
「こんなものを見れば、軍事力になると思ったり、自分達の領土にしたいと思う連中は出てくるよな」
「そうだよな……」
ナッキィ
「比瑪、勇。ノヴィス・ノアへ戻るぞ」
比瑪
「勇、そうしよ」
「ネリー・ブレン、比瑪とナッキィに従え」
比瑪
「オルファン、貴方はどこに行くつもりなの……?」
ノヴィス副官
「国連総会での各国の反応は意外に冷静です」
「オルファンの位置付けも、アメリカの属州である事より、宗教的ニュアンスで捉えてる方が大多数です」
モハマド
「各国の政治体制が機能を停止しているから、宗教的解釈に寄り掛かるしかないのだよ」
ノヴィス副官
「そうだとすると厄介ですな。世界中が神と崇めているものを敵に回すんですから」
アイリーン
「仕方ないでしょ?」
ノヴィス副官
「ですが、このまま難民孤児を収容し続けていては……」
モハマド
「世界を敵に回しているからこそ、孤児院の機能が必要なんですよ。それが正義になるんですから」
アイリーン
「孤児院のアイデアは、こういう事態を想定しての事だったんですね?」
モハマド
「私はそれほど策士ではありませんよ、アイリーンさん」
アイリーン
「でも、利益を上げる為の損得は考える……」
モハマド
「そりゃ、生きる為にはね……ははっ」
ユキオ
「こら! 遊んでる暇なんかないんだぞ! 自分達の食べ物の事は自分達で……」
「あ、みんなに怒鳴ったんじゃないの。今日ここに来た子は、この畑の手入れをしてくださいね」
「こうやって、下の土と上の土を混ぜてくれればいいんだ」
「ミミズだ」
子供達
「わぁっ……!」
ユキオ
「ミミズは土を良くしてくれるものだから、潰したり捨てたりしないで、土に戻してやる事」
子供達
「は〜い!」
子供
「真水は大事に使えって言ってるだろ?」
アカリ
「遊んでないで、頼んだ苗を持ってらっしゃいよ」
モハマド
「ここに来たら、食べ物の心配はしなくてもいいけど、ちょっとお仕事はしてもらうぞ?」
ノヴィス・クルー
「カント・ブレン、単独飛行テストに入ります」
カナン
「スリット・ウェハーは、体に合ってるのね?」
カント
「ええ、僕に合わせてくれています」
カナン
「任せるわ」
「ナッキィを慕ってきたのに、有難うね、カント・ブレン」
カント
「よ〜し、真っ直ぐに飛んでみよう。ゆっくりね」
子供
「ブレンパワードが飛んだぞ!」
 〃
「オルファンをやっつけに行くんだ!」
ナンガ
「へぇ、シートもコンパネもなしでやったか」
コモド
「流石、大人子供のやる事ね」
カント
「うん、それでいい。僕の気持ち、分かってくれるね?」
「どうしたんだ、あっ……?」
ナッキィ
「何だ?」
カント
「こら、大人しくするんだ!」
比瑪
「カント君? カント・ケストナー君が乗ってるの、それ?」
「カントがコントロール出来る訳ないじゃないか」
ナッキィ
「勝手に俺のブレンに……。後退させろ」
カント
「聞かないんですよ。貴方が言い聞かせてやってください」
「ほら、カント・ブレン、やめろって」
比瑪
「勇、私のブレンも気が立ってるみたいなの」
「いつもと違うのか?」
比瑪
「うん」
「あっ……!」
「比瑪、カント!」
ナッキィ
「こんな所で、バイタル・ネットに乗ったのか?」
アイリーン
「勇、帰ってきたのね?」
「あ、ええ……。帰りました、艦長」
「カントがブレンを刺激したんじゃないんですか? 比瑪ブレンとどっかに行ってしまいました」
アイリーン
「それはこちらでも確認したわ。オーガニック・レーダーで追跡させてますけれど」
「バイタル・グロウブで移動」
ノヴィス副官
「オルファンの方で引かれているようです」
「せっかく避けて戻ってきたというのに……」
「ネリー・ブレン。今消えた二人のブレン、追い掛けられるか?」
「一人はネリーに似た比瑪って子だ。もう一人は素っ頓狂なカント・ケストナー」
ナッキィ
「分かるんなら俺も行くぜ? カントのブレンは、元々俺の物だからな」
アイリーン
「待ちなさい、二人共! まずはノヴィス・ノアに戻ってから……!」
ナッキィ
「いや、アイリーン艦長。ネリー・ブレンは賢いようですよ?」
「待ったなしだ!」
「ネリー・ブレンは、このままバイタル・グロウブに飛ぶ……?」
比瑪
「で、出た! ここは……!」
カント
「あぁっ、くっ……!」
比瑪
「カント君、分かったわ! 貴方は気が立ってるのよ! もっと楽に、リラックスして!」
カント
「してますよ! この子とは友達になれたから、僕、任せているのに……!」
比瑪
「天才少年なのよ! 貴方の知能指数に、ナッキィ・ブレン、感動して興奮してるのよ!」
カント
「そんなの、僕のせいじゃないですよ! ブレン、落ち着いてくださ〜い!」
比瑪
「落ち着きなさいったら、二人共!」
カント
「止まった……」
比瑪
「だ、大丈夫?」
カント
「ええ、何とか……」
比瑪
「やっと落ち着いたみたいね」
「はぁ、ここ何処……? こんな所に何の用があったの?」
カント
「あの西の空……あの影、オルファンですよ」
比瑪
「オルファン……あれが……?」
ジョナサン
「ははっ、亡霊……ブレンパワードの幽霊だっていうんだよ。偵察しているパイロットも見たっていうんだ」
依衣子
「オルファンの体内警備をしている兵士も戯言を聞いたぞ」
バロン
「戯言ではないだろう。オルファンは自分を利用する者に、そういった幻覚を見させて恭順を促す事があるそうだ」
依衣子
「それも進化したグランチャー、バロンズゥが教えてくれたのか?」
バロン
「そうだ。オルファンは人間の浅知恵を笑うともいった」
「御一同、ガナバーがオルファンを入ります。お出迎えなさいませ」
バロン
「そうさせて頂こうかな」
依衣子
「ガバナーが来る……?」
「そういう時期でありましょう?」
バロン
「ジョナサンは会った事は?」
ジョナサン
「ないな」
軍人
「ガバナー・ゲイブリッジに(?)」
「母さん……!」
ゲイブリッジ
「今日までご苦労でした」
研作
「歓迎致します、ガバナー閣下」
ゲイブリッジ
「アメリカ軍を入れた事については、事後承諾となって申し訳なかった」
研作
「オルファンの浮上に時間が掛かっておりますので……」
ゲイブリッジ
「うむ」
研作
「バロンズゥを持ち込みました」
ゲイブリッジ
「バロン・マクシミリアン」
研作
「はい、バロン」
バロン
「マクシミリアンです。宜しく御目文字の程を……」
ゲイブリッジ
「進化したグランチャーには興味があります。研究させて頂きたいな」
バロン
「ジョナサンに任せております故、彼の許可を得て頂きたい」
ゲイブリッジ
「ジョナサン・グレーン、一徹の気性には感銘を受けています。今後の働きには期待するぞ?」
ジョナサン
「ふん、俺もガバナーのお手並みには期待するぜ。ふふっ……」
ゲイブリッジ
「ん? ははっ……」
バロン
「ははっ……」
バロン、ゲイブリッジ
「ははっ……!」
軍人
「コントロールよりフォーン・ワン。コース1705」
 〃
「何だ、あの影は……。あれ、ブレンパワード? ゴーストじゃないのか?」
「ブレンパワードだ! ゴ、ゴースト……!」
「い、居ない……。ビレー、レイチェル!」
 〃
「俺にも見えた!」
 〃
「ああ、私は4機に見えた」
ナッキィ
「ん? 勇、見えるか?」
「グランチャー三人だ」
ナッキィ
「アメリカ軍グランチャーのお出迎えだ」
軍人
「あれは幽霊じゃないぞ」
 〃
「ノヴィス・ノアの偵察隊か?」
 〃
「ゴーストじゃなければ、潰そう!」
ナッキィ
「俺にとっちゃ古巣が相手だ。手は抜かない!」
「待て、ナッキィ! 今は比瑪達を捜すのが先だ!」
比瑪
「カント君、このままって危険過ぎるよ」
「カント君!」
カント
「ね? これ、植物の芽ですよ」
比瑪
「うん……」
カント
「これ、大発見ですよ」
比瑪
「何で?」
カント
「ここ、オルファンが通った後でしょ? なのに、こんなに植物の芽が出ているんです」
比瑪
「そうだね……」
カント
「オルファンが植物と共生する性質を持っているんです」
比瑪
「カント君の話では、バイタル・グロウブの併さる所で、植物が増えてるって言ってたよね?」
カント
「ええ」
比瑪
「オルファンが悪者じゃないなら、私達のお願い聞いてくれるかな?」
カント
「は?」
比瑪
「話してみようかな、オルファンに」
カント
「本気ですか?」
比瑪
「ブレンだってグランだって言う事聞くんだぞ?」
カント
「そ、そりゃ……」
比瑪
「あっ……」
カント
「え?」
比瑪、カント
「わっ……!」
ナッキィ
「こんな所に居た!」
「比瑪とカントのブレン?」
比瑪
「捜しに来てくれた訳じゃないのか」
カント
「オマケ付きですからね」
比瑪
「やられる……!」
「有難う、ブレン」
ナッキィ
「せっかくのデートを邪魔しちゃったかな?」
カント
「いえ、いいんですよ。収穫があったから……」
ナッキィ
「アーミィ・グランチャーめ!」
「デートの収穫って何なんだ?」
比瑪
「カント君とデートしたって、手なんか繋いでませんからね」
「そういう事は聞いていない」
比瑪
「あっ……!」
「コンセントレイト・チャクラ・フラッシュ!」
軍人
「うっ、痺れる……!」
 〃
「機体が硬直する! 引き攣ってる!」
「後退する」
軍人
「ヘラク部隊、通信拒絶。ビショップ、ナイブ、ルイン部隊発進。固定作戦実施」
「何とか片付けられたけど……」
ナッキィ
「そのブレンの威力なら、オルファンに対して力を発揮出来ると思うけどな」
「そんな楽観的な……」
「どうしたんだ?」
ナッキィ
「二時の方向だ」
「うっ……?」
ナッキィ
「今度は団体さんか」
比瑪
「あんな数、勝てる訳ないでしょ?」
「ノヴィス・ノアに戻ろう」
カント
「そうですか? 僕達が攻撃目標とは限りませんよ?」
ナッキィ
「何でそう思う?」
カント
「オルファンに乗り込んだのは、アメリカ軍のプロです」
ナッキィ
「でっかく映るな」
カント
「戦争のプロが、ブレンのような曖昧な兵器を潰す事にムキになるとは思えませんからね」
アイリーン
「緊急連絡! ブレン達、応答……応答してください!」
比瑪
「はい! はい艦長、聞こえますよ!」
アイリーン
「アメリカの太平洋艦隊がノヴィスを包囲しています」
比瑪
「包囲……?」
アイリーン
「取り囲んで攻撃しようとしているんです」
比瑪
「そんな事させません! 勇、ナッキィ、カント、戻りましょう!」
アイリーン
「戻ってきては駄目! 貴方達は生き延びて欲しいの。逃げなさい」
ナッキィ
「艦長の言う通りだな。あのグランチャー部隊はノヴィスに向かうんだ」
ノヴィス副官
「総員、第一種戦闘配備のまま待機だ!」
モハマド
「信じられん……。既に千を超える子供達の居るこの船を、アメリカは攻撃する……?」
アイリーン
「決してこちらから攻撃してはならない。挑発に乗るのも厳禁」
ノヴィス副官
「全軍に伝えてあります。オーガニック・シールド発動します」
アイリーン
「どうぞ」
研作
「そういう側面はあります」
ゲイブリッジ
「元々、オルファンの機能を複製するものだったノヴィス・ノアが、危険極まりない存在になってしまった」
「……が、オルファンが浮上すれば、存在する意味も必要もない」
軍人
「太平洋艦隊から報告! ……有難う御座います」
「現在ノヴィス・ノアは、オーガニック・シールドで防御網を張っております」
ゲイブリッジ
「オーガニック・シールドというのか?」
軍人
「は、はい」
ジョナサン
「この生き生きとした姿を見ればお分かりでありましょう? ガバナー閣下」
「何故、我らに出撃を賜らんのだ?」
ゲイブリッジ
「暫くは、リクレイマーには出撃はない」
依衣子
「オルファンを生かしたのは、我々なんだぞ?」
バロン
「理由を伺っても宜しいか?」
「私からも是非……」
ゲイブリッジ
「我が合衆国は建国以来、世界の秩序を保つ尖兵役を担ってきた」
「その秩序ある組織体系の中で、これまでのような個人の思惑や敵意などで行動されては困るのだよ」
バロン
「秩序……?」
依衣子
「アメリカに従えという秩序だろ?」
バロン
「ガバナー閣下。ブレンパワードの幽霊に怯えるアーミィ・グランチャーが、果たして使い物になるのですか?」
ゲイブリッジ
「アンチ・ボディとのシンクロニシティとの第三ステップ……よくある反応だ」
比瑪
「勇、止めるだけなら……!」
カント
「出来ますよ、撃墜するんじゃないんだ」
ナッキィ
「あの痺れはパイロットには堪えるけど、止められるよ」
カント
「そうですよナッキィさん。さっきから考えていたんですけどね、僕らのブレン、オルファンから呼ばれてたんです」
「何?」
カント
「アメリカ軍のグランチャー達は、オルファンが望んでいない抗体なのかもしれません」
「だから僕達を呼び寄せ戦わせる……」
ナッキィ
「正解らしいな、カント・ケストナー君」
比瑪
「まだ採点してもらってないのよ、ナッキィさん!」
軍人
「ビショップ1・2のフォーメーションを……うっ!」
「ナッキィ、単独攻撃は危険だ。さっきと……!」
比瑪
「震えないで! 私も怖いけど、アイリーンさんと子供達を助けてあげなきゃ!」
「君! 怯えてるだけじゃ駄目なのよ?」
「比瑪ブレンが怯えてる……。ネリー!」
「ナッキィ! カント・ブレンは?」
「逃げるだけ?」
比瑪
「勇、敵は戦い慣れてる!」
「軍人だから……。カント、ナッキィ、纏まってくれ!」
「単独戦に持ち込まれた! 比瑪!」
比瑪
「はい?」
「カント!」
カント
「はい!」
「ナッキィ!」
ナッキィ
「おう!」
軍人
「こんな近くに……ブレンだ!」
 〃
「ゴーストなら目を閉じれば……あぁっ!」
 〃
「うわぁぁっ!」
 〃
「味方を撃つんじゃない! みんな、落ち着け!」
「わっ……!」
比瑪
「どうしたの、一体?」
「何で、こんなのが見えるんだ……?」
比瑪
「え?」
「うわ、綺麗……!」
「あれはネリーの事……?」
「ネリー……ネリー……!」
「ネリー、君が助けてくれてるのか……?」
軍人
「あぁっ、来るな……来るな!」
軍人
「攻撃部隊、全機応答なし」
 〃
「大陸からも出られなかったのか……」
「ガバナー閣下」
ゲイブリッジ
「ブレンパワード部隊と接触しているのだろう」
軍人
「しかし、戦力比は圧倒的に……」
ゲイブリッジ
「ノヴィス・ノアの者達は別格です」
バロン
「ははっ……。さあ、我々の出番だ」
ジョナサン
「待ちくたびれていたところです、バロン・マクシミリアン。奴らに我々の本当の力を見せてやります」
「クインシィには指揮を執って頂く。宜しいな?」
依衣子
「それは私の台詞のようだが、頼まれればやってみせよう。バロン・マクシミリアン」
バロン
「よしなに、クインシィ・イッサー」
比瑪
「オルファンよ、オルファンが助けてくれたんだわ」
カント
「僕も同感ですね。オルファンから出たように見えた雲のせいと思えないでもないですから」
ナッキィ
「だからって、俺達を助けたとは限らないぜ?」
比瑪
「どうしてさ?」
ナッキィ
「アメリカさんが嫌いなだけって事もある」
比瑪
「そうか……」
「でもさ。私、オルファンに頼んでみるわ」
「何を?」
カント
「えっ……?」
比瑪
「オルファンだって意思を持ってるんだから、話せばきっと分かってくれるわ」
ナッキィ
「あんな山……山脈そのものって奴に、言葉が通じると思うのか?」
「そうだ、比瑪なら出来るかもしれないんだ。賭けてみるか」
比瑪
「うん、やるよ」
ナッキィ
「おいおい……」
「ナッキィとカントは待機しててくれ。俺と比瑪でオルファンに近付いてみる」
ナッキィ
「そんな無茶な作戦、聞いた事もない……。アメリカ軍にやられるぞ?」
「大丈夫さ。ネリー・ブレンも賛成してくれた。やってみる価値はある」
カント
「分かりました。貴方達なら、きっと成功するでしょう」
ナッキィ
「やれやれ、もう勝手にやってくれ」
比瑪
「はい」
ゲイブリッジ
「アーミィ・グランチャーなど、最初から当てにしてはいない。我々には切り札があるのだ」
「民間人のバロンに想像出来ないのは無理もないな」