第23話 スイート・メモリーズ

前回のあらすじ
何か大事な事って、私が居ない所で起こるんだよね。
勇とお姉さんの依衣子さんとの事は、首を突っ込んじゃいけない事なんだろうけど、
クインシィ・グランチャーの爪が伸びた事件は、そりゃ見たかったわ。
ホラーは嫌いだけどね。
ヒギンズ
「あのグランチャーに付いていけば、オルファンに潜入出来る」
「タイミングを合わせればいいんだから……」
「レイト艦長、私がキッチリ片を付けてみせるよ」
シラー
「あ、ごめん。ここが痛いかい? 遠慮なくお言い」
「クインシィと仲良かったって、私は気にしないんだからさ」
「ジョナサン、指以外の傷は無いみたいだよ」
ジョナサン
「じゃあ何で、この中にクインシィは乗ってないんだ?」
「どっかに落っことして、一人で戻ってきたとでもいうのか?」
「依衣子が戻ったんじゃないの?」
ジョナサン
「コックピットは空です」
「空? 乗っていない? 何故です?」
ジョナサン
「さ〜てね……。ノヴィス・ノアに捕まったか、或いは、勇にやられましたかね?」
「ははっ……!」
「グランチャーを調べましょう。そうすれば、何が起こったか分かる筈よ」
ジョナサン
「娘の安否など、忘れているのかと思ってましたがね」
「貴方は、バロン・マクシミリアンのアンチ・ボディになりきったようね」
「ガバナーに近い私に近付くなと命令されているんでしょ? そうでなければ、あれから一度も……」
ジョナサン
「博士こそ、オルファンの銀河旅行も近いんで、俺なんかには飽きてるんじゃないかと思ってました」
「ふふっ……」
「……私が来る前に勝手に触って!」
シラー
「あっ……!」
「私の仕事を取らないで!」
シラー
「何だ、このババア……ヒステリー起こして……!」
「けどさ。お前、結構クインシィを好きだった筈なのに、何で、クインシィを見捨てて来ちまったんだよ?」
研作
「オルファンといえども、海底から浮上するまでは時間が掛かったが、地球の重力から逃れるのは容易な筈です」
バロン
「お嫌なのか? オルファンが宇宙へ飛ぶのが……」
研作
「オルファンは、内部に取り込んだ我々の情や意思を汲み上げるように作用する事も分かってきました」
「という事は、我々が地上で暮らす事を願えば、オルファンは人類の新しいエネルギー源にする事も出来た筈なのです」
バロン
「ほう……」
研作
「しかしそれが出来なくなったのです。今ここに居るアメリカ軍も女達も、地球から逃げ出す事しか考えていない」
「それでは、オルファンはジャンプします」
バロン
「オルファンは、ブレンパワードを自らに引き入れたりする、身勝手な所もある」
「それを考えれば、オルファンは好きにやると思えるが?」
研作
「ミサイル攻撃の後の、消失したブレンの事か?」
バロン
「そうだ」
研作
「宇都宮比瑪のものです。オルファンはあの子に興味を持った。だから取り込んだのですよ」
直子
「比瑪ちゃん、比瑪ちゃん……」
比瑪
「母さん……?」
直子
「気が付いた? 比瑪ちゃん……」
比瑪
「あ、直子お婆ちゃん……」
直子
「大丈夫?」
比瑪
「直子お婆ちゃん、何してんの?」
「あれ……。あっ、ここ……!」
「直子お婆ちゃん、どうしてオルファンに居るんです?」
直子
「ゲイブリッジさんに付いてきたら、ここに来てしまった……」
比瑪
「どうして……?」
直子
「オルファンを復活させたガバナーだったのよ、彼……」
比瑪
「ゲイブリッジ司令が? ガバナーって何です?」
直子
「リクレイマーの統括者で、オルファンの力を調整しようとしている人……」
比瑪
「リクレイマーの? そんな……!」
「どうしたの、ブレン?」
「はっ……」
軍人
「オルファンの表面に、局地的な微振動が観測されています」
 〃
「外界反応の痙攣か?」
 〃
「はっ!」
 〃
「懲戒中のグランチャーを向かわせ、原因を確認させろ!」
 〃
「はっ!」
 〃
「オルファンの対抗要員、ブレンパワードの接近か」
ヒギンズ
「不味ったな……。オルファンに近付いたのはいいけど、どこから潜入すれば……」
「はっ、アーミィのグランチャー……!」
「ここで見付かったら、レイト艦長に会わせる顔がないわ。静かにね」
軍人
「ん、痙攣が消えました」
 〃
「グランチャーからの報告は?」
 〃
「ありません」
 〃
「オルファンがジャンプする前兆か……」
ヒギンズ
「何、あの光? 呼んでいるみたい……」
「あ、あれは……!」
「あれは、一年前の私……?」
「ブレン……お前、引き寄せられてるわよ?」
直子
「比瑪ちゃん……!」
比瑪
「貴方って人は、何て大人なんでしょう!」
直子
「比瑪ちゃん、ゲイブリッジさんは……」
ゲイブリッジ
「いいよ、直子」
比瑪
「良かぁないわよ、嘘吐き! 貴方が一番悪い人だって分かったんだから!」
ゲイブリッジ
「比瑪ちゃんの気持ちは分かるが……」
比瑪
「比瑪ちゃんじゃない!」
ゲイブリッジ
「私は、天然自然の成すものに、人類が畏敬の念を起こして欲しいと願っているんだ」
比瑪
「えっ……?」
ゲイブリッジ
「物事が人の願い通りに都合良く行くものではないと教えたいのだよ」
比瑪
「オルファンはブレンと同じ生き物ですよ? ちゃんと面倒見てあげれば、私達とだって仲良くしてくれるわ」
ゲイブリッジ
「オルファンは地球外の産物だ。地球との共生は有り得ない」
比瑪
「オルファンは、ずっと海の底で、海の生き物と暮らしてきました」
ゲイブリッジ
「だがオルファンは、その海から離れたのだ」
比瑪
「そ、そうだけど……」
「え?」
「ちょっと君、どうしたの?」
直子
「ゲイブ……!」
ゲイブリッジ
「調べているのだろう、敵であるオルファンを……」
比瑪
「駄目よ! そんな事したら、オルファンに力を吸い取られちゃう!」
「やめなさい!」
「こら、勝手に動かないで! オルファンの中なのよ?」
直子
「比瑪ちゃん、落ちないで!」
「はっ、ゲイブ……!」
ゲイブリッジ
「直子の……。直子……!」
比瑪
「ブレン、大人しくして! あっ……!」
研究員
「わっ……!」
 〃
「きゃっ……!」
 〃
「と、父さん……! 父さんを連れて行かないで!」
 〃
「あ、あれは……。嫌! パパ、ママ!」
 〃
「あの時、誰も……誰も助けてくれなかったじゃないか! だから俺は……!」
比瑪
「ブレン、酔っ払ってるの? アルコール無しで酔うんじゃないの!」
シラー
「お前はお休みだ」
「ガバナーは現状を監視しろというが、そういう甘い事ばかり言っていて何が分かる?」
ジョナサン
「シラー、俺もすぐ行く」
兵士
「おい、大人しくしろ!」
「わっ……!」
ジョナサン
「何?」
兵士
「わっ……!」
「何事です!」
ジョナサン
「そりゃこっちの台詞だ! ありゃ一体何なんだ?」
「何って……あれは何?」
ヒギンズ
「うっ、潜入成功したの……?」
「大人しく待ってなさいね」
「アーミィとリクレイマーを統率している人物が居るって、勇は言ってたわ」
「その人物を始末すれば、オルファンを止められるかもしれない……」
「はっ……!」
比瑪
「あっ、わっ……!」
「酔っ払って! どうしたっていうの、ブレン! オルファンの中なのよ?」
「っしょ……!」
シラー
「ブレンがオルファンの中で遊び回ってるなんて、どういう事だ!」
比瑪
「三人もグランチャーが?」
「ブレン、逃げましょ!」
「うっ、あっ……!」
シラー
「このスタン・バー、効くぞ!」
比瑪
「きゃっ……!」
シラー
「いいザマだねぇ。オルファンの中で好きにやるから、こういう目に遭うんだよ!」
比瑪
「ブレーンッ!」
シラー
「ブレンという奴は、力を溜め込むのか?」
比瑪
「うはっ!」
「また、オルファンのウェハーが光る?」
シラー
「オルファンのウェハーが裂ける!」
比瑪、シラー
「あぁっ……!」
ヒギンズ
「騒がしくなった。潜入がバレた……?」
「熱い……薔薇が燃えている……?」
兵士
「おい、お前!」
ヒギンズ
「はっ……!」
兵士
「所属、姓名は? ノヴィス・ノアのクルーじゃないか!」
ヒギンズ
「くっ……!」
兵士
「ノヴィス・ノアのクルーを発見した! 援軍を回せ!」
比瑪
「痛っ……!」
「ヒギンズ・ブレン、どうしてここに?」
「あわわっ……!」
シラー
「くっ、何がどうなって……」
「はっ、ブレンが二人も……。こいつら、中からオルファンを潰しに来たのか!」
比瑪
「ヒ、ヒギンズさん、中に居ないんですか?」
ゲイブリッジ
「バロン・マクシミリアンの命令か」
研作
「リクレイマー達は統率出来るでしょうが」
「オルファンの機能はオルファンにしかコントロール出来ないのは、貴方だって御存知の筈だ」
バロン
「ジョナサンに制御を行わせて、オルファンの意志に連動させるだけだ。バロン・ズゥがそれを選択した!」
ヒギンズ
「比瑪ちゃん! 私のブレンが立ち上がれないの?」
比瑪
「ヒギンズさんが……来てくれた!」
ヒギンズ
「乗るわ、ブレン!」
比瑪
「迎えに来てくれたの?」
ヒギンズ
「ついでよ。オルファンのガバナーを始末するつもりだったけど、辿り着けなかった」
比瑪
「ゲイブリッジさんがガバナーだったのよ」
ヒギンズ
「司令が……?」
シラー
「こいつらまとめて消してやる!」
「な、何だ? ウェハーが波立ってる!」
「くっ、あっ……!」
比瑪
「な、何?」
「きゃっ……!」
ヒギンズ
「比瑪!」
比瑪
「ここは……一体……」
「プレートが生まれてる所なの? ここ……」
「ここって、まさか……」
「オルファンの子宮なのかしら……」
「はっ、あぁっ……ここは……」
「あ、あれは……」
「お母さん……」
「母さん……」
「有難う、オルファン。母さんに会わせてくれて」
「ねえ、こんなに優しい貴方が、地球に酷い事なんてする筈ないよね?」
「地球ってね、こんな思い出を一杯持ってる生き物達が沢山住んでる星なのよ?」
「え? あ、あれは……」
「オルファンが二人……戦ってるの?」
「うっ……。あぁ、それで地球に落ちてきたの?」
「もう一人のオルファンは? どうなったか分からないの?」
「あぁ、ブレンとグランチャーって、別々のオルファンの子供だったの」
「勇……!」
「比瑪……!」
「いってぇ〜っ……」
カナン
「どうしたの、勇?」
「比瑪が見えた。すぐ消えたけど……」
シラー
「くっ……!」
「はっ!」
ヒギンズ
「あっ、ぐっ……!」
シラー
「ジョナサンの邪魔をする貴様らは、私が許さない!」
ヒギンズ
「うぅっ……!」
シラー
「弟達を飢え死にさせた私でも、ジョナサンの役には立つんだ!」
ヒギンズ
「私だって、動乱の時代に流れ者になって、逃げる先々で家族を死なせてしまった運の無い女よ!」
「でもね、私だって……!」
シラー
「私の方がもっと酷かったんだ! オルファンで地球を滅ぼしでもしなきゃ……!」
ヒギンズ
「そんなんだから、グランチャーはあんたを選んだ! 私は運命に殉じた。そうしたらブレンに出会えた!」
シラー
「運命なんか変えればいい!」
ヒギンズ
「胸に薔薇を刻んで覚悟を決めたらね、プラハでブレンを見た時、この花弁が熱くなったのよ!」
シラー
「くっ、あっ……!」
ヒギンズ
「土人形のゴーレムは花を愛さなかったから土に還るしかなかったけど、ブレンは花を愛する!」
「弱い者を守る為に、強い命が生まれるのよ!」
シラー
「小娘の言う事を……!」
「ちっ、くっ……!」
ジョナサン
「くくっ、ははっ……!」
「こんなとこに居たのかよ、黴菌! 消えろよ!」
ヒギンズ
「はっ……!」
「こ、これは……オルファンが、私に力を貸してくれている?」
比瑪
「何、この光? この透けたプレートは……」
シラー
「馬鹿な……。異分子のブレンパワードが、オルファンのエナジーを使うなど……」
ジョナサン
「くっ、そんな事でバロン・ズゥの力を防ぎきれるものか!」
「せりゃーっ!」
ヒギンズ
「あぁっ……!」
ジョナサン
「それそれ、そりゃーっ!」
ヒギンズ
「うわぁぁっ……!」
カナン
「ヒギンズ・ブレン?」
「オルファンから出て来た」
カナン
「オルファンが吐き出したの?」
「そうなの?」
勇、カナン
「比瑪?」
カナン
「ヒギンズ、大丈夫? 生きてるの?」
ヒギンズ
「あ、有難う、カナン……」
「比瑪ちゃんも出られたの?」
カナン
「元気みたいよ」
比瑪
「オルファン、有難う! 私達の事、嫌いじゃないんだね?」
「ならさ、私のお話だって聞いてよ! 寂しがり屋さんというの、恥ずかしい事じゃないんだよ?」
「比瑪、後退しろ! 何が起こるか分からないぞ!」
カナン
「オルファンが銀河へ旅立つの?」
ヒギンズ
「そうはならないと思うわ」
カナン
「え?」
ヒギンズ
「そんな気がするから……」
「オルファンが……大地を離れる……」
比瑪
「飛べばいいんだよ、オルファン」