第24話 記憶のいたずら

前回のあらすじ
私は情けない! 気が付いたらオルファンの中に居て、直子お婆ちゃんとゲイブリッジ司令に会ってしまった。
見たものしか信じないにしても、「何で」と考えてしまうのは、分からない事は怖い事だから。
でも、オルファンは心優しい存在だと分かるよ。今だけかもしれないけど。
ノヴィス・クルー
「オルファン浮上速度、7%上昇」
 〃
「地殻振動収まりません。エネルギー量、マグニチュード3.5。津波が断続的に起きています」
ノヴィス副官
「船首を波に向けろ」
ノヴィス・クルー
「はっ!」
 〃
「正面より飛行物体」
アイリーン
「モニターを最大望遠に切り替え」
ノヴィス・クルー
「ブレン四人です。比瑪ちゃん、勇、ヒギンズにカナン!」
ノヴィス副官
「あぁっ……!」
アイリーン
「救護班を着艦デッキへ」
ユキオ
「帰ってきたぞ!」
クマゾー
「比瑪姉ちゃん!」
アカリ
「みんな揃ってるって!」
依衣子
「グランチャー……。あの子は、私が居なければ……あの子は硬化してしまう……」
「帰らなければ……」
「帰らなきゃ……」
「ネリー・ブレン、あれが戻る所だって分かってくれてるよね?」
比瑪
「うわ! お家だお家!」
「比瑪ブレン、はしゃぎ過ぎると詰まらない所で大怪我するぞ」
比瑪
「子供達が一杯居るお家に早く帰りたいのよ、比瑪ブレン」
ノヴィス・クルー
「興奮してるぞ」
「おい、冷やしてやれ」
 〃
「お〜し、冷却フェロモンを入れてやる」
「お疲れ、比瑪ちゃん」
比瑪
「お願いします」
「大冒険しちゃったものね、ブレン」
アカリ
「比瑪姉ちゃん、オルファンに行ったの?」
比瑪
「お話だってしてきたよ」
ユキオ
「お帰り!」
アカリ
「お帰り!」
クマゾー
「比瑪も!」
比瑪
「みんなも面倒見なきゃいけないチビちゃんが多くて、大変でしょ?」
ユキオ
「好き勝手言う奴ばっかりでさ」
ノヴィス・クルー
「ネリー・ブレンも冷やした方がいい」
「遠慮しなくていいよ。ここがネリー・ブレンの家なんだから」
子供
「……何よ?」
 〃
「ってぇな!」
「姉さん、元気に……?」
ノヴィス・クルー
「のんびり歩ってんじゃねぇよ!」
依衣子
「くっ……!」
「比瑪、子供達を」
比瑪
「え?」
ユキオ
「比瑪姉ちゃん!」
「くっ……!」
ユキオ
「うぉぉっ!」
「あっ……!」
比瑪
「しゃがんで!」
「姉さん!」
比瑪
「あっ……失礼じゃない、踏ん付けちゃって!」
「姉さん!」
「比瑪ブレン、姉さんの言う事は聞かなくていいんだ!」
「うっ、あっ……!」
ユキオ
「比瑪ブレン、動くなよ」
比瑪
「その子は疲れてるんだから、さっさと降りなさい!」
依衣子
「ブレンパワードだって、私の想いが通じれば動いてくれる」
「お願い、ブレンパワード。私は帰りたいの。家に帰らなくちゃならないの」
「色々ある。何がどうなり、どうなって行くのか……貴方だって知りたいでしょ、ブレン?」
「あっ……有難う、ブレン」
比瑪
「あぁっ……!」
「クインシィ・イッサーの言う事を聞くのか、比瑪ブレン!」
「クインシィに付いてったら、わっ……!」
「あっ……!」
カナン
「比瑪ブレン? いやに元気に飛び出して……」
「ブリッジ、どうなってるんです? 比瑪ちゃんの息遣いは聞こえなかったけど……」
アイリーン
「比瑪ちゃんはデッキに居ます」
ノヴィス・クルー
「パイロットは呼び掛けには応じません」
アイリーン
「呼び戻せないの?」
ユキオ
「っしょ……」
「いつもこうだ、姉さんのやり方は……!」
ユキオ
「どうすんだよ? 追い掛けたって……」
比瑪
「勇が深追いしたら危険よ」
「比瑪ブレンが可哀相だろ」
比瑪
「そんなの……」
「連れ戻してきてやるから」
比瑪
「私のブレンよ?」
「何やってんだよ?」
比瑪
「早く。依衣子さんを追い掛けなさい」
「二人も行く事はない」
比瑪
「私が迎えに行って何故悪いの?」
「ネリー・ブレン、行きなさい」
クマゾー
「ネリー・ブレンも」
ユキオ
「ああ、勇と比瑪姉ちゃんを乗せてるもんな」
「あんな事やってて、ブレンも二人も、体がもつのかよ?」
クマゾー
「もつも」
カナン
「勇とブレンが比瑪ブレンを? これ、ちょっと……何故追い掛けないの? 行っちゃうでしょ」
比瑪
「早い! いい子じゃない、ネリー・ブレン」
「いいか比瑪。これは俺達、姉弟の問題だ。干渉するな」
比瑪
「何言ってんの? 私のブレンを持って行っちゃったのよ?」
「見えた」
比瑪
「え?」
依衣子
「始めは機嫌が良かったけど、拒否反応が出て来た……?」
「私だって、アンチ・ボディ乗りなんだよ?」
「姉さん! 聞こえるだろ? 応えてくれ、姉さん!」
比瑪
「依衣子さん、引き返しません?」
「姉さんは、ノヴィス・ノアには慣れたんじゃないのかよ?」
依衣子
「駄目なんだ! 私は家に帰らなければならないんだ」
「くっ、何だブレン……?」
「姉さん!」
依衣子
「私はね、自分の為に誰も犠牲になんかしたくないんだ」
比瑪
「比瑪ブレン、依衣子さんをノヴィス・ノアに連れ戻して。お願い」
ジョナサン
「では、決行はいつにするのだ?」
バロン
「今日だ。既にアーミィ・グランチャー部隊を掌握している」
「これでオルファンは、ジョナサン……お前の物となる」
ジョナサン
「過分な使命だ。俺に出来るのか?」
バロン
「あの無能なガバナーにだって出来た事だ。お前に出来ない筈がない」
ジョナサン
「ん? クインシィ・グランチャーが動いた」
バロン
「硬化が始まっているのに……?」
「人に反応しているな……」
ジョナサン
「あっ、ありゃクインシィに呼ばれてるんだ」
「キョッホーッ!」
バロン
「何をするつもりだ?」
ジョナサン
「硬化し掛かったグランを呼び付けるクインシィだ。そういう女は力になる」
バロン
「クインシィなど必要ない。そんな事をするとまた、伊佐美ファミリーに……」
ジョナサン
「ははっ……そんな心配、無用でありましょうが」
バロン
「……下衆な思いを……。勢いがあるだけで良しとするか……」
「今だ! ネリー、捕まえろ!」
比瑪
「落ちた!」
「追え、ネリー・ブレン!」
依衣子
「帰らないと……。帰れない、帰らなければ……帰らないから……」
「帰りたい……帰りたい、私……」
「はっ……」
「ここ、知ってる……?」
「上の村……?」
比瑪
「どうして私のブレンって、ここばかりに来たがるんだろう……」
依衣子
「違うぞ、私が帰りたいのはここじゃない! 私の家はオルファンだ!」
「こんなものが事実であるものか」
「何? 何が起こってる?」
比瑪
「水の中でリバイバルの光が?」
「プレートがあるのか」
「はっ……」
ジョナサン
「何だ、ここは……」
「ん?」
依衣子
「プレートが私を呼んだのか」
「はっ……」
「私のグランチャー!」
「お前、来てくれたんだね?」
「リバイバル……?」
比瑪
「でしょ?」
ジョナサン
「始まった……」
母親
「直子、直子……」
「直子、お昼寝ならお部屋でしなさい」
依衣子
「直子……?」
母親
「そんな所で寝てると、風邪引くわよ」
依衣子
「私は……」
TV音声
「海底探査の結果、明らかに古代文明の形跡らしいものを発見したという事です」
依衣子
「私は誰なの? クインシィ、依衣子、直子……」
依衣子
「この湖のプレートは生きている。こんな所で私は生まれた……」
「私はクインシィ? 依衣子? それとも、直子……?」
「直子さん、少し休んだら?」
依衣子
「大丈夫よ。もう少しで終わりだし……」
「有難う」
「イサムさんは大丈夫? もうすぐ論文の提出日でしょ?」
「君が研究室の仕事をやってくれたお陰で、論文に集中出来た。有難う」
依衣子
「じゃあイサムさんも、これでめでたく助教授ね?」
「まだ分かんないさ。決めるのは教授会だから」
依衣子
「イサムさんの研究は米軍がスポンサーになってくれてるし、ネイチャー誌にも載ったじゃない」
「もう決まりよ」
「みんな君のお陰さ」
依衣子
「あら、いつ日本にいらっしゃったんです? ゲイブ」
ゲイブリッジ
「今日は、お二人さん。夕べ空港ホテルに泊まったんだが、湿気がなくて助かってる」
ゲイブリッジ
「君のお陰だよ。人類に役立つ貴重なデータが手に入った」
依衣子
「私は何もしていません。大学とイサムさん……イサムさんの功績ですよ」
ゲイブリッジ
「彼の実績と出会えたのは君が居たからだろ? 私と共にカナダへ飛んでくれないか?」
依衣子
「お国に帰るのではないのですか?」
ゲイブリッジ
「オーガニック・エンジンの開発が始まっているのだ」
「人類は新しい視野を手にする事が出来るから、そんな世界を私は君と一緒に確かめたい」
依衣子
「私は……貴方を愛しているわ。でも私は、アメリカ大陸の風土は馴染みません」
ゲイブリッジ
「風土……?」
依衣子
「私は、ここに居なければならないの。私の家はここだけだから……」
直子
「お元気で、ゲイブ」
依衣子
「母さん、お母さん。手伝ってよ、母さん。全部、私一人にやらせる気?」
「母さん?」
直子
「母さん……!」
依衣子
「まあ、こんなに?」
「下の村で貰ってきた。これだけ地震や津波が起きれば、配給制だっていつまで保つかな」
依衣子
「またすぐ出掛けるんでしょ?」
「ああ。また新しい断層が現れたんだから、仕方ないだろ?」
依衣子
「体、大丈夫なんですか?」
「今度の現場は近いから、すぐに帰ってくる」
「それまでいい子にしててくれ、翠ちゃん」
「ふふっ……」
「あ、そうそう。エア・メールが来てたよ。ゲイブリッジさんからだ」
「消印はメルボルンになっている。暫くぶりだよね?」
依衣子
「有難う」
「そうだ。今度帰ってきたら、大々的にトマトを植えるよ」
依衣子
「トマト?」
「お前は野菜一辺倒だからさ。大きいトマトは潰しが効くしさ」
調査員
「イサミ先生、みんな集まりました」
「おう」
「直子、翠を頼む」
依衣子
「はい」
直子
「あの人は、あれっきり帰ってこなかった……」
「この家には帰れなかった人……」
調査員
「地割れのあったとこなんだよ〜」
 〃
「それが崩れたんだよねぇ」
依衣子
「ごめんなさい。私、貴方の事やっと愛せるようになったのに……」
「でも、貴方も嘘を吐いたわね。私を幸せにするって言ったのに」
「湖の真ん中、光ってるね」
依衣子
「そうだね。何かしらね?」
「んー、お父さんだよ。お父さんの魂」
依衣子
「難しい言葉知ってるんだ、翠ちゃんは」
「お母さんがいつも言ってるじゃない」
依衣子
「そうだったっけ?」
「そうだよ?」
「あのねあのね。だから私、大きくなったら私、科学者になる」
依衣子
「そう、いいわね。お父さんと一緒ね」
「母さん」
直子
「え? 何、改まって……」
「私、結婚する事にしたの」
直子
「何を言っているの? 貴方はまだ学生よ?」
「桑原君じゃないわよ」
直子
「あの暗い子の方かい?」
「別に母さんと暮らすつもりはないから、安心して頂戴」
直子
「でも、ね……」
「私達はね、家族とかって狭い視野で結婚するんじゃないわ」
「私達の結婚でオーガニック・エンジンの研究が十年は進むのよ?」
「そういう事が、母さんには分からないんでしょ?」
「私達は、人類の未来の為に働くんです!」
直子
「研究の邪魔だっていうの?」
「今だけですよ」
直子
「この子達は貴方の子でしょ?」
「勿論です。だから必ず迎えに来ます」
「それじゃ……」
直子
「ちょっと待ちなさい、翠……!」
「何て子だろ……」
依衣子
「ごめんね、お婆ちゃん」
直子
「いいのよ。貴方達はいい子なんだから、お婆ちゃんの所に幾らだって居てもいいんだよ」
「この家の物は、みんな自分の物とお思い」
依衣子
「私は誰? 伊佐美直子、伊佐美依衣子? それとも……」
依衣子
「ねえ、お婆ちゃん」
直子
「何だい、依衣子?」
依衣子
「お婆ちゃん、幸せ?」
直子
「そうだね。お婆ちゃんはお前達と居られるから、幸せだね」
依衣子
「私は幸せじゃない。お父さんともお母さんともバラバラに暮らしてるなんて、やっぱり変」
「僕、幸せだよ。僕、お婆ちゃん好きだもん」
依衣子
「私だって、お婆ちゃんが大好き」
「僕も!」
直子
「ふふっ……」
依衣子
「嫌! お婆ちゃん、勇!」
「私、ここに居たいの! ここが私のお家なの!」
直子
「翠、考え直してくれないかい? この子も、やっとここに慣れて……」
「この子は私の子です! 私達の研究に必要なの!」
依衣子
「お婆ちゃん……!」
研究員
「呼吸、脈拍正常。脳波レベルの各周波、安定値維持。チャクラ波動上昇中」
「被験者の鼓動と動悸……」
「やはり思った通り……あの子は使えますね。今までのシンクロ値の最高値が出ているわ」
依衣子
「お前は生きてるんだよね? 絶対乗り物なんかじゃない……」
「だとしたら、こんな私を乗せてるんじゃ気持ち悪いだろ?」
「お前、優しい子なんだ」
「グラン、ど、どうしたの? 冷たい空気が吹き込んでくるよ?」
「ああそっか、嫌なんだ……疲れたね」
研究員
「グランチャーの全ての反応が停止しました」
依衣子
「私は一体何を……?」
「ブレンだ! 姉さんだったら、ブレンにリバイバル出来る! そうしろ!」
比瑪
「勇?」
依衣子
「私は家族を守りたかっただけなのに……!」
ジョナサン
「家族なんて、何の役に立つ?」
「あんなもの、俺達の思考を鈍らす単なるノイズさ」
「だから俺も、マコーミックの名を捨てた」
「お前は、クインシィ・イッサーを名乗れよ」
依衣子
「どういう意味、それ?」
ジョナサン
「オルファンを補佐する女王とかさ、上等な女とかさ、色々あるよな」
依衣子
回想:「私はクインシィ・イッサーだ! 伊佐美依衣子ではない!」
回想:「姉さん……!」
「姉さん!」
依衣子
「家族なんか……!」
「姉さん……」
比瑪
「私のブレン! 大丈夫?」
「あれ、バロンズゥ……」
比瑪
「何て趣味の悪い赤でしょ」
ジョナサン
「ははっ……バロンズゥを呼び出したのか。クインシィは真の抗体になったって訳だ!」
「バロンズゥ良かったな、兄弟が出来たぞ!」
依衣子
「おうさ、ジョナサン。オルファンを助ける女王として……」
「私は脱皮出来たんだ。あらゆる過去の束縛から……」
ジョナサン
「おうよ! なら、彼奴らを叩きのめして……!」
依衣子
「ま、待ってくれ」
ジョナサン
「ん?」
依衣子
「この子がオルファンに行きたがっている」
「ジョナサンのバロンズゥが住処にしている所を確かめてから、アンチ・ボディとして戦いたいのだと……」
ジョナサン
「そうなのか、バロンズゥ」
比瑪
「っしょ……もう震えなくていいの、ブレン」
「いい加減にしなさい。もう怖いの居なくなったでしょ?」
「勇、依衣子さんが悪い方に進化したなんて事ないよね?」
「ねえ、悪い方に……」
「誰が悪い方に進化なんかさせるもんか!」
「そんな事、僕がさせやしない!」
比瑪
「ご、ごめん……ごめんよ、勇……」