第25話 オルファンのためらい

前回のあらすじ
勇の姉さん、依衣子さんが逃げ出した時、私のブレンに乗っちゃったんだよね。
あの子、よくも付き合ったもんだ。
だから、勇の故郷に出ちゃったんだけど、あれ幻かもしれない。
でも依衣子さんは、間違いなく赤いバロンズゥに乗って消えたんだから、現実でしょうね。
驚嘆、驚嘆……。
「監視しなくちゃならないのは、俺達じゃないだろうに」
ナンガ
「アメリカはオルファンに世界中を這い蹲らせて、地球を傷だらけにしちまうつもりだぜ」
ラッセ
「かといって、オルファンが宇宙に飛び出せば、オーガニック・エナジーを吸われて地球はお終い……」
コモド
「黙って見てろっていうの? そんな事、絶対にさせないわ!」
ナンガ
「やめないか、コモド」
アイリーン
「桑原博士が責任を感じ過ぎる事はありませんよ」
カント
「そうです。オルファンの活動を止めりゃいいんです」
アイリーン
「簡単に言うわね」
カント
「僕、あのお二人が鍵を握ってると思います」
「何です?」
比瑪
「はい?」
カント
「ね?」
アイリーン
「そうみたい」
カント
「オルファンの事、みんなに話してあげてくださいよ」
比瑪
「オルファンは、敵っていうものではありませんね」
ナンガ
「じゃ、何だってんだよ?」
カナン
「それって、比瑪ちゃんと勇の感じ方でしょ?」
「比瑪の言う通りです。俺とカナンが教えられていたのは、リクレイマーの一方的な理屈だったんです」
「つまり、脱走したい人……逃げ回りたい人の考え方だった」
カナン
「そっか……そうね、オルファンの抗体になれば、悲しい事はなくなると信じてた」
ラッセ
「現実逃避の思想だな」
「考えてもみてください」
「オルファンは、自分一人でだって宇宙に出られるのに、どうしてアンチ・ボディなんかが必要だったのか」
「何故、リクレイマーの進入を許したか」
アイリーン
「オルファンにとって、人間が必要だという事?」
「姉さんも言ってました。グランチャーだってブレンパワードと同じように、感情があるって」
「ですから、オルファンだって……」
ヒギンズ
「気持ちを通わせて、話が出来るって事?」
「ええ、そういう可能性は感じました」
ナッキィ
「おいおい、本気で言ってるのかよ? あれと一体どうやって話をするんだ?」
比瑪
「私、オルファンの女の子の声を聞いたわ。寂しいって泣いてる姿も見ましたよ」
「だから私、話し合いは……」
「だから、オルファンは誰かに傍に居て欲しいって思ってるわ」
カント
「本来、その役目はオルファンと対になる存在……ビー・プレートと呼ばれているものの筈なんですけどね」
比瑪
「彼女は宇宙の迷子なのよね?」
「同時に、ブレンやグランチャーの母でもある」
「それに賭けてみません?」
ネリー
回想:「勇、忘れないで。憎しみだけで戦わないでね。それではオルファンは止められないわ」
「上手く行くよ」
モハマド
「何をどうやるつもりです?」
「グランチャーの数は圧倒的だし、例えオルファンに近付けたとしても、話を聞いてくれるかどうか……」
「比瑪や勇が潜入した時も、オルファンは止められなかったのだろ?」
カント
「それについては、僕は心配していません」
「ブレンパワードに乗ってみて分かったんです。彼らの力は日々強くなっています」
モハマド
「しかし……」
ユキオ
「どうしたの?」
「あ、ネリー」
「おい、興奮するんじゃない。一体どうしたんだ?」
アイリーン
「勝手に持ち場を離れないで」
クマゾー
「動くも」
比瑪
「どうしちゃったの?」
ラッセ
「何かに引っ張られてるんだ」
「おい……!」
比瑪
「何してるの?」
カナン
「力んでる?」
「うっ……」
比瑪
「何やろうってんです?」
モハマド
「あっ……」
ヒギンズ
「チャクラを纏めるつもり?」
カナン
「そうなの?」
ラッセ
「お前達……!」
ナンガ
「勝手にどこかに行っちまうんだろ?」
比瑪
「そうか、オルファンまで道が続いているのよ」
「だったら何だっていうの?」
比瑪
「行くんでしょ?」
「あ?」
ナッキィ
「何て分の悪い賭けだ」
ナンガ
「なら降りるかい?」
ナッキィ
「こんな馬鹿な事、俺達がやらなきゃ誰がやるんだ?」
カント
「僕達は、この母なる地球で生きるしかないんですから」
「オルファンにも一緒に暮らすように説得するしかないでしょう?」
アイリーン
「それで決まりね」
「でも今直ぐの出撃はなし。メイン・クルーの休息が足りません」
「でも……」
アイリーン
「艦長命令です。ブレン達の様子からも分かるでしょ? 万全の態勢で臨んで貰いたいんです」
カナン
「お出掛け、ヒギンズ?」
ヒギンズ
「最後の夜になりそうだから……」
カナン
「あぁ……」
ヒギンズ
「でも、別れを言いにいくんじゃないわ。一緒に生きていく為のエネルギーを分け合う為……」
カナン
「いいわね」
ヒギンズ
「貴方だって待ってる人が居るんじゃない? 素直にしないと後悔するぞ?」
カナン
「あ、偉そ……」
カント
「ね、ブレン。貧乏揺すりはやめて、一緒に寝ようよ?」
比瑪
「勇は優しいから家族の事考えるんだよ」
「そんな奴が、親殺しなんか考えるもんか」
比瑪
「ほら、優しいから傷付くんだよ」
「そういうところ、私は好きだな」
「明日で何もかもお仕舞いかもしれないんだ」
比瑪
「私は大丈夫。みんな居てくれるもん」
「怖くなんかないもん……」
ノヴィス副官
「ウェッジに続いてイランド出せ」
アイリーン
「偵察飛行のみ、宜しく」
モハマド
「遂に作戦開始ですか、艦長。生死の恐れはあっても、アイリーンさんと御一緒であるという喜びがあれば……」
アイリーン
「これも、ミスター・モハマドの御協力があったればこそです」
モハマド
「何を仰います。このノヴィス・ノアでは、難民の子供達まで頑張っています」
「ですから、勝てますよね?」
ノヴィス副官
「そりゃ……」
アイリーン
「駄目だったら、私と一緒に死んでくださるんでしょ?」
モハマド
「も、勿論ですとも」
クマゾー
「行ってらっしゃい」
比瑪
「あんた達も……」
「ユキオ、二人を宜しくね」
ユキオ
「心配しなくていいよ」
「お前も、比瑪姉ちゃんを頼んだぞ」
コモド
「オグンよ、この戦いの我を守り給え」
レイト
「帰ってこいよ」
ヒギンズ
「絶対に……」
ラッセ
「太平洋艦隊の目の前で出撃か……」
「カナン、ナンガ、いいぞ」
ナンガ
「急かしなさんな」
「コモド、アメリカさんを牽制してくれよ」
ユキオ
「あいつら、絶対に撃ってくるぞ」
アカリ
「そんなの……」
アイリーン
「ネリー・ブレンに続いて、全員発進してください」
「但し太平洋艦隊は、当方の作戦を認めていません」
ノヴィス副官
「故に、ブレン発進と同時にオーガニック・シールドを展開する」
比瑪
「あはっ、勇のネリー」
ナンガ
「ラッセに負けるなよ、ブレン・シルバレー」
ナッキィ
「行くぜ、天才少年」
カント
「頼みます、ナッキィさん」
「ガバナーの手から離れれば、また貴方が親に命令するのですか?」
依衣子
「宇宙に出た部分と大気圏に浸ってる部分の循環器調整は急ぐのだろ?」
「オルファンの体調を速やかに健やかなものにしなければ、リクレイマーと言えども宇宙に放り出す」
「クインシィ……!」
「貴方……!」
依衣子
「そんな事、予定通りだろう?」
兵士
「はい、ですが……」
依衣子
「分かっている。指揮権は私にある」
兵士
「バロンは、どう……」
依衣子
「ガバナーから目を離すな」
兵士
「勿論……」
依衣子
「バロンとジョナサンは?」
バロン
「女に従ってみせる……という事で、いいのか?」
ジョナサン
「地球に審判を下し、銀河旅行をする時に必要なのは女王です」
「キングでは、リクレイマーや軍人という大衆は付いてきませんよ」
バロン
「流石、私の見込んだ騎士……ナイトである」
ジョナサン
「何故、そこまで私にしてくださるのか?」
バロン
「地球での思い出、貴公と同じように辛いものばかりだったからだ」
ジョナサン
「このバロンズゥの力で、オルファンは何もかも無にして、我々を新しい世界へ連れて行ってくれます」
バロン
「そうだよ、二人でそうしよう」
ジョナサン
「ん……?」
依衣子
「ジョナサン、ブレン達が来るぞ!」
カント
「わっ、出ました!」
ヒギンズ
「お上手」
「あれがオルファン……」
カナン
「上の方はもう宇宙に出てるのよ」
比瑪
「大きい……」
「アメリカさんと詰まらない戦いはしては駄目よ」
カナン
「勇、皆さん。出て来たわ」
ジョナサン
「ははっ、ブレンパワードなんか!」
ゲイブリッジ
「ジョナサン君はまだ戦いに拘っている……」
直子
「アーミィ・グランチャー達も……」
ゲイブリッジ
「彼らこそ度し難い」
バロン
「そうですか?」
「ガバナーが軍を呼び入れたのは、アンチ・ボディやオルファンの体力を付ける為でありましたろ?」
ゲイブリッジ
「しかしこちらから戦端を開く事はなかった」
バロン
「それはそうでしょうが、軍というものは屑も多い」
「そういうものを整理する為には、ま、戦争というものは便利な物です」
シラー
「上にやるか! ブレンの特攻なんて戦術以下なんだよ!」
ヒギンズ
「死ぬ為に来たんじゃない!」
シラー
「チャクラ・フラッシュが歪んだ? オルファンは、何故こいつらを近付けさせる?」
カント
「ブレン、ご免! 頑張って!」
比瑪
「もっと上手に使ってやらないと、ブレンが可哀想でしょ?」
カント
「すみません」
「君の反射神経は僕以上なんだから、任せるよ」
ジョナサン
「何やっても遅いんだよ、勇!」
「お前だって逃げ回っていた!」
ジョナサン
「俺が何から逃げてるってんだよ?」
「一人で戦い、一人で生きる事をだ!」
ジョナサン
「クハァッ……!」
ゲイブリッジ
「オルファンの熱病は上がっているようだ」
直子
「大丈夫でしょうか?」
ゲイブリッジ
「オルファンが我々を黴菌と間違う事はありません」
バロン
「しかし、オルファンはこのまま宇宙に飛ぶぞ?」
「ガバナー、それではオルファンを領土にしたアメリカの思惑とも違ったな」
ゲイブリッジ
「オルファンを遺跡と考えてしまった初期の誤りがあったからだ。オルファンの生命力は強過ぎた」
バロン
「人間のエゴが強過ぎたから、オルファンが反発しているという事もあるぞ?」
直子
「えっ……?」
ゲイブリッジ
「ああそうだな」
「オルファンの力で、より多くの人々を救おうとするには、ノヴィス・ノアのような強い意思は邪魔になる」
「彼らは、例え地球が滅びると分かっていても抵抗を続ける。それはアメリカもそうだ」
「そんな人間のエゴに、オルファンは苛々しているのだろうな」
直子
「私には、このオルファンの神経の経穴のような所に囚われていても、そういった苛立ちは感じませんけど……」
バロン
「何を仰る、伊佐美直子? 貴方がそう感じられるのは、貴方がオルファンに選ばれた人だからです」
「オルファンに乗せられる人類は限られている」
「人間のエゴというオーガニック・パワーも吸い上げて、オルファンは旅立つのだ」
ゲイブリッジ
「バロン、君は何を……君は何を求めているのだ?」
バロン
「貴方々に分かりはしないだろうな。この私の今の幸福感など……」
直子
「分かる訳はありません!」
「ゲイブだって間違ったやり方もしたかもしれませんけど、この人の理想を……」
「人類を救いたいという想いを、貴方も分かりはしないでしょ?」
「似た者同士、戦うのはやめようぜ!」
ジョナサン
「誰が似ている?」
「俺が両親を憎んだように、ジョナサンはアノーア艦長を憎んだ! 愛していたからだ!」
ジョナサン
「俺は誰も愛していない!」
「踏ん張れよ!」
「やめよう、ジョナサン! こんな事をしてる暇はない!」
ジョナサン
「やってやろうって……何!」
シラー
「ジョナサン、退いてください! 奴に呑まれてます!」
ジョナサン
「俺は勇なんかに負けちゃいない!」
「シラー、邪魔をするな!」
シラー
「そ、そのつもりでは……!」
「どうしたの、ネリー・ブレン?」
カナン
「ブレン、何が起こったの?」
比瑪
「ブレンが……アンチ・ボディ達が共感している?」
「勇!」
ヒギンズ
「グ、グランチャーの影が、見えなくなってる?」
ナッキィ
「ブレンにはこんな力があったのか?」
「オルファンのフィギア……」
ナンガ
「どうも臭いな……グランチャー達はすぐに戻ってきそうだ」
「カント、大丈夫か?」
カント
「え、えぇ……。フィギア、見えますか?」
ナンガ
「おうよ。奴らが戻ってくる前に、オルファンに飛び込むぞ」
比瑪
「よく見て! 赤いグランチャーが居るでしょ?」
カナン
「赤いバロンズゥ……」
「姉さん……!」
依衣子
「まあノコノコと来てくれて好きにやってくれたけど、これ以上は無駄だね」
ナッキィ
「こいつは俺が押さえる! 勇、比瑪、オルファンに行け!」
「ナッキィ、やめろ!」
依衣子
「ふんっ……!」
ナッキィ
「隠れた?」
依衣子
「オルファンはこういう使い方が出来る!」
ナッキィ
「わっ……!」
「姉さん、もう一度話をしよう!」
依衣子
「もう遅い!」
ラッセ
「カナン、撃つな! 俺が止める!」
「な、何だ?」
カナン
「ラッセ、どうしたの?」
ラッセ
「近付くな、カナン!」
「力が抜けて……」
カナン
「ラッセ! そのスキン・ウェハーから手を離して!」
「オルファンのスキンの機能に、そんなものが……?」
ラッセ
「びょ、病気の俺が狙われたのか……!」
カナン
「ラッセ!」
カント
「駄目ですよ! ラッセさんに触ったら、カナンさんまでエネルギーを取られてしまうじゃないですか!」
カナン
「ラッセ! バイタル・グローブに飛べば、スキン・ウェハーから離れられます!」
ナッキィ
「たった一人のグランチャーに近付けないのか?」
ヒギンズ
「撃ってもこちらのエネルギーを吸われる?」
「比瑪ちゃん、どうしたらいいの?」
依衣子
「何だ?」
比瑪
「駄目!」
依衣子
「はぁぁっ!」
「比瑪ぇぇっ……!」
比瑪
「オルファンさん、お願い! 私達の声を聞いて!」
研作
「可笑しいな……」
「計算ではオルファンはもう飛び立てる筈なんだが……何故かな?」
「計算なんてオルファンには役に立たない事は、もう証明済みでしょ」
研作
「いや、何かが……何かが足りないのだ。宇宙に飛び立つ為の決定的な……」
「決定的にオーガニック的なものって何だろう?」
「オルファンの求めているものは、新しい生命……力でしょ?」
「為に必要なものは、オーガニック・エナジーの総量です。全地球の生命力です」
研作
「そういう数量的なものじゃない。量じゃないんだよ、翠」
「なら、パッションとでもいうんですか? 情愛的なものをオルファンが欲しがっていると? 全く……!」
研作
「そうだな、それではお笑い種だ」
「ん……?」
「姉さん、やめようよ!」
依衣子
「やめるのは、ブレンパワードが居なくなってからだ!」
比瑪
「考え過ぎです、依衣子さん! オルファンさんは一人でやっていける方です!」
「守る事なんて考えなくたっていいんです! でも、放っておいては可哀想なんです!」
「放っておくと可哀想……?」
依衣子
「乙女チックな事を……!」
「はっ……!」
「オルファンは比瑪の言う事に応えたのか? 私ではなく?」
「うっ……!」
比瑪
「勇!」
「依衣子さん?」
依衣子
「オルファン、あんたには私が居るじゃないか! 他の誰も要らない……私がずっと居てあげるから!」
比瑪
「勇、依衣子さんが……」
「オルファンに還る……?」
「姉さんのバロンズゥが……」
比瑪
「オルファンさんに……?」
依衣子
「あっ……!」
ラッセ
「バロンズゥとかいう奴、オルファンに……?」
カナン
「オルファンの抗体になるという事は、こういう事だったの?」
ナンガ
「ああやって抗体になったら、中の人間はどうなっちまうんだよ?」
「勇、カナン……!」
ナッキィ
「あの透明の物が盾のように並んでるって事は、ブレンパワードを取り込むつもりはないらしいな」
カント
「相手は生物的な特性を持ってるんです。そんな事分かりませんよ」
ヒギンズ
「だったら比瑪ちゃん、勇。ブレンのチャクラを集中して、あの急所を攻撃する!」
比瑪
「攻撃、攻撃……そんな事じゃ終わりませんよ!」
「勇……!」
「姉さん!」
比瑪
「落ち着きなさい! このまま突っ込んだら、勇も取り込まれるわ!」
「比瑪……」
比瑪
「オルファンさん、目覚めるわ」
「オルファンが目覚める……?」
研作
「あのデータは間違いなく依衣子のだ」
「クインシィ・イッサーのものです、確かに」
研究員
「聞いた事のない音だ!」
 〃
「オルファンのエネルギーの総量が……!」
直子
「ゲ、ゲイブ……」
ゲイブリッジ
「オルファンの変体が始まったんでしょう」
直子
「脱皮でもするというのですか?」
バロン
「始まったのか……」
依衣子
「ははっ、ははっ……!」