第2話 ギブンの館

前回のあらすじ
バイストン・ウェルの物語を覚えている者は幸せである。
私達は、その記憶を記されてこの地上に生まれてきたにも拘らず、
思い出す事の出来ない性を持たされたからだ。
それ故に、ミ・フェラリオの語る次の物語を伝えよう。
モトクロッサーになる夢を抱いていたショウ・ザマは、
フェラリオの開いたオーラ・ロードを通って、
バイストン・ウェルのアの国の、ドレイク・ルフトの領地へ降下した。
ショウ
「わぁぁっ!」
「どこだここは? 海と陸の間の世界だって?」
「そんな……そんな世界があるもんか!」
「お、お前か……!」
バーン
「良き力を持つ地上人よ」
ショット
「出来る。諸君らなら、オーラ・バトラーを操縦出来る」
「ダンバインはそういった乗り物だ」
ショウ
「オーラ・バトラー?」
「幻か?」
「父さんも母さんも、俺の居なくなった事に気が付いてるのかな?」
「1・2、1・2……!」
「はっ!」
「こんな事になるんなら、もっとやっとけば……」
リムル
「貴方が館を出てくださればいいのです」
トッド
「待ってくれよ」
「お嬢さん、俺だって好きでこんな所へ来たんじゃないんだ」
リムル
「ですけれど、貴方がたがいらっしゃって……」
トッド
「お嬢さんに言われたって、『はいそうですか』って地上に帰れないんだからな、俺達」
リムル
「ですから、取り敢えずはこの館を出て頂ければと、お願いに上がったのです」
「父は、貴方がたが来てくれたので、恐ろしい計画を進めるのを急ぎ出しました」
トッド
「嫌だね。逃げ出してバーンとかって奴に刺されたくないからな」
「それとも、あんたが俺を地上の世界に戻してくれるのか?」
「それ見ろ」
「シルキーってのが言う事を聞かなくちゃ、それも出来ないんだろ?」
リムル
「でも、貴方はオーラ・バトラーを使って、人殺しをさせられるのですよ」
「そんな事が平気で出来るのですか?」
トッド
「それをやらせようとしているのは、あんたの親父さんだろ? 文句は親父さんに言えよ」
ショウ
「あれが、ドレイク・ルフトの娘か……」
「どうぞ」
「入っていい。誰か?」
兵士
「入ります」
ショウ
「あ、あぁ……」
兵士
「おはようございます。朝食の用意が整いました」
ショウ
「あ、今行く」
「飯はちょっと遅れる」
兵士
「は?」
「館の中は、あまり……」
ショウ
「ちょっと、お庭でジョギング!」
ショウ
「リムルさん」
「今の話、聞かせてくれよ」
リムル
「今の話……?」
ショウ
「トッドとの話を聞いたんだ」
リムル
「無作法な……地上の人は、そんなにも礼儀知らずなのですか?」
ショウ
「悪かったよ。でも、聞き捨てにならない言葉があったな」
リムル
「地上の人には、マーベルのような方が一杯いるかと思っていました」
「けれど、トッドという方も『この国は面白そうだ』と笑ってみせる」
「ショット・ウェポンみたいに……」
ショウ
「マーベルって言ったな」
リムル
「もう信じられません。頼めません、地上の方には」
ショウ
「ちょっと……!」
リムル
「触らないで!」
ショウ
「一方的じゃないか!」
「俺達は好きでここに来たんじゃないんだ。貴方の言う事情だって聞かせてくれたっていいだろ」
リムル
「私がお父様の手からシルキーを救い出して、貴方がたを地上へ追い返します」
ショウ
「そうしてくれれば最高だ」
リムル
「嘘です。貴方も父に手を貸すわ」
ショウ
「リムルさん……!」
リムル
「貴方がたがオーラ・バトラーで戦おうとも、ニー・ギブンが必ず貴方がたを倒しますからね!」
ショウ
「ニー・ギブン……?」
リムル
「あっ、チャム・ファウ。こんな所に居たの?」
「ここにだってお前の仲間は居るのよ? 見付かったら苛められるから」
チャム
「ニー様がリムルの事を見てこいって言うから、こんな朝早くから来てやってるのに、何さ」
リムル
「ごめん、チャム。ニー様のお託けでも持ってきたの?」
チャム
「残念でした。ニー様はそんなに筆まめでは御座いません」
「リムルの元気なお目覚めをニー様に伝えるのが私の役目」
「それだけでもニー様は喜ぶんだからね、どうかしてるわ」
「ね、今お庭で話をしてたね?」
リムル
「え、そう。地上の人とね。私達の力になってくれそうもないわ」
チャム
「殴ってくる!」
リムル
「駄目よ。朝の内にニー様の所へお帰りなさい」
チャム
「はいはい」
ドレイク
「ロムン・ギブンから、話し合いたいという書名が届いた」
バーン
「こちらから来いという事ですか。厚かましい事です」
ドレイク
「いいではないか。敵状視察も兼ねてギブン家まで行ってこい」
バーン
「はい」
ドレイク
「私に協力はせんだろう。その時はそのまま……」
バーン
「では、オーラ・バトラーも出す用意をしておくという事ですか?」
ドレイク
「地上人を騎士達に引き合わせたら、すぐに発て」
バーン
「勇敢な騎士達よ。我ら騎士団に、新たに二人の地上人を迎える。認可されたい」
「トッド・ギネス」
トッド
「……儀式だって分かっていても、面白くないな」
バーン
「許せ」
「ショウ・ザマ」
ガラリア
「騎士達よ、認可は如何に?」
トッド
「わっ、こんなのは聞かされてないぜ?」
ショウ
「どういうつもりだ!」
バーン
「……あの小僧め」
ガラリア
「良い動きをしている……」
「騎士達よ、認可されるか!」
トッド
「これがここの流儀なのかよ?」
ドレイク
「戦士に対する式典だ。皆は共に戦場では助け合い、生死を共にする仲間である」
バーン
「では、第八騎兵隊、前へ!」
「これからロムン・ギブンとの交渉に行くにあたり、援護を頼む」
ショウ
「ギブンだと?」
「バーン。バーン・バニングス」
「俺も連れて行ってくれ」
トッド
「ゴールド・ウィングとはねぇ」
ショウ
「アスペンケードだ」
「しかし、この世界はどうなってんだ?」
「ガソリンはあっても、今までは内燃機関はなかった」
トッド
「ここは魂の安息の場所……豊かだったからさ」
「しかし、お前は物好きだな」
ショウ
「何でだよ」
トッド
「そうだろ? 言われた事だけやってりゃいいのにさ」
ショウ
「外へ出れば、地上に帰れるチャンスが見付かるかもしれないじゃないか」
トッド
「甘いなそりゃ」
バーン
「ショウ・ザマ、出るぞ!」
トッド
「オーラ・バトラーに乗れるってのは、超エリートなんだ」
ショウ
「あんたとは話が合いそうもないな」
トッド
「地上で……いや、日本ではそんなにいい生活が待ってんのかい?」
ショウ
「大きなお世話だ」
ショウ
「バーン・バニングス。あの羽根のあるフェラリオってのは、何だい?」
バーン
「ミ・フェラリオだ。フェラリオの最下等の連中でな、告げ口するわ酒は飲むわで碌な奴は居ない」
ショウ
「魔法使いとかっていうんじゃないんだろ?」
バーン
「ガロウ・ラン一族には妖術を使う輩も居るというがな」
子供
「わぁ、機械だよ機械」
ショウ
「あんまりペタペタ触らないでよ?」
バーン
「気にせんでくれ」
「私のようにオーラ・バトラーを使えるようになれば、君のマシンの事も多少は分かるが」
「彼らはまだ、オーラ・ボムもピグシーもよく知らんのだ」
ショウ
「それで戦争をやろうっていうのか?」
バーン
「兵は養成している」
「それに、この近くを平定するのに4、5機のオーラ・バトラーがあれば、どうという事はない」
「行くぞ」
ショウ
「ニー・ギブンみたいなのが居てもか?」
バーン
「出迎えが来た」
ショウ
「女の騎兵も居るのか」
ニー
「ドレイク・ルフトの使いの方、ご苦労です」
バーン
「バーン・バニングスです。わざわざのお出迎え、ご苦労様です」
「行くぞ。向こうは用意万全らしい」
村の女
「若様がお通りよ、見てご覧!」
 〃
「ニー様!」
バーン
「……大変な人気だな、ニー・ギブン」
ニー
「有難い事だと思っています」
キーン
「それもオーラ・マシン?」
ショウ
「これはオートバイだ。ガソリンで動く機械だ」
キーン
「貴方、地上から来た人なの?」
ショウ
「そうだよ」
キーン
「マーベル、こいつよ! ダンバインで貴方と戦った人って!」
マーベル
「キーン、おやめ。私達はバーン様のお出迎えに来ているのよ」
チャム
「ニー」
ニー
「チャム、ご苦労」
チャム
「あいつが来てるの? 何で連れて来たの?」
バーン
「あぁ、ショウ・ザマか」
チャム
「地上の人の癖に、バーンやドレイクに手を貸してさ」
バーン
「ははっ、ご挨拶だな」
ニー
「お客様に失礼じゃないか」
チャム
「はいはい」
ロムン
「案ずるな。バーン一人で来たとなれば、場合によっては我が方に引き込んでもよかろう」
カーロ
「それは無理というものです。志こそ違え、バーン様は勇猛な騎士でいらっしゃいます」
ロムン
「ははっ、誘ってはみるさ。駄目で元々というじゃないか」
カーロ
「はい」
マーベル
「只今、ロムン・ギブン様が参ります」
バーン
「うむ」
ロムン
「ご苦労でした、バーン・バニングス殿」
バーン
「何、お隣同士」
ロムン
「訴状のご返事を届けていただけたと」
バーン
「一昨日もドレイク・ルフト様主催の闘技会に」
「ギブン家のものと思われるオーラ・シップとオーラ・バトラーが、嫌がらせの攻撃を仕掛けてきた」
「あの事件の申し開きをお聞かせ願いたい」
ロムン
「申し開きの為に書簡を認めたりはせんよ」
ニー
「近く、ミの国へ軍を動かすという噂も聞く」
バーン
「噂だけで貴公達は、闘技場で楽しむ人々を殺すのか?」
ロムン
「それがそちらの論法なら」
「ダッカを倒せる程のオーラ・バトラーが、我が方に侵入してくる件については?」
ニー
「その時のフォトだ」
「ドロも居た。この世界では古今例のない大戦力だ」
バーン
「何を言いたい?」
ロムン
「金は出す。バーン殿がオーラ・バトラーと共に我々に与してくれれば、更に金を出そう」
ショウ
「金で人を誘うのか、この男は……?」
バーン
「高いぞ?」
ニー
「構わん」
「ドレイクの野望を挫く為なら、この5倍でも構わん。戦いをやめさせる方が安上がりだ」
バーン
「私一人が抜けたぐらいで、ドレイク様はお考えを変えないな」
ニー
「貴方は、ドレイクの騎士団の中でも有力な方だ」
バーン
「買被られたものだな。地上の方々も金で買うのか?」
チャム
「ふふっ、ツオーが居るのも知らないで、よく喋るわ」
バーン
「ショット様は、普通の戦士が使えるオーラ・バトラーの開発もされているんだぞ」
チャム
「ふふっ……」
兵士
「はっ、語り部のフェラリオだ。ロムンの野郎……!」
バーン
「計画は……」
兵士
「すいません、お話中ですが……」
バーン
「……お前の言い分も聞け、というのだな? 分かった」
「一晩時間をくれんか? ロムン・ギブン殿」
「近くの宿にでも泊まって、部下とも相談してみたい」
ロムン
「良かろう。遅くとも朝にはな」
バーン
「ひょっとしたら、今夜にもまたお邪魔する」
「ショウ・ザマ」
バーン
「語り部のツオーを置くなど、ロムンめ汚い……!」
「如何にもロムンの使いそうな手だ」
「ニグ・ロウ、ニグ・ロウ!」
「ご苦労」
「ブルベガーへ伝令だ。合流地点で戦闘の用意をしろと。追っ付け行く」
ショウ
「あ、速い……!」
バーン
「あれしか脳のない連中だ」
「追い掛ける」
ミズル
「整備兵、オーラ・バトラーの整備を急げ。合流地点に近い」
トッド
「ミズル艦長」
ミズル
「トッド・ギネスか」
トッド
「まさかドンパチはないんだろうな? こちらはまだ、オーラ・バトラーに慣れちゃいないんだ」
ミズル
「バーン様の交渉次第だ」
トッド
「いつ分かるんだ?」
ミズル
「さてね」
兵士
「信号です!」
ミズル
「ご苦労です」
バーン
「ツオーに言質を取られた。ロムンは国王に直訴するつもりだ」
トッド
「どうだ? わざわざ出掛けるだけの事はなかっただろうが」
ショウ
「あったよ。いい女が居た。あんたと同じ国の女らしい」
トッド
「東洋人はそれだから嫌なんだよ。白人だからってアメリカンとは限らん」
ショウ
「マーベル・フローズンといえば、アングロ・サクソンだろうに」
ショウ
「気楽なもんだ。好きに地上に帰れないってのが問題なのにさ」
「バーンって奴も、手柄が欲しいだけの男じゃないのか?」
バーン
「騎馬隊が包囲するまで、上空で待機だ」
カーロ
「では貴方、お先に参ります」
ロムン
「すまんなカーロ。明日の昼には私も追い付く」
カーロ
「アの国の為……いいえ、バイストン・ウェルの為になる事ですから……」
ロムン
「ツオー、国王の前で証言は出来るな?」
カーロ
「出しておくれ」
従者
「はい」
カーロ
「では」
ロムン
「……さて、バーンめ。あのまま引き上げたのか?」
「ニーにマーベル殿は?」
従者
「ゼラーナとダーナ・オシーの整備で帰れないそうです」
ロムン
「やれやれ」
兵士
「来たぞ」
カーロ
「はっ……!」
兵士
「カーロ様」
カーロ
「どこの者か?」
兵士
「ツオーも居たぞ!」
カーロ
「館へ戻って」
従者
「はっ!」
兵士
「逃がさんぞ!」
従者
「はぁっ、はぁっ!」
カーロ
「お前だけでもお館へお戻りなさい」
「急いで。あれはバーンの手の者です」
ギブン家の兵士
「親方様! 奥様の馬車が……!」
「はっ、オーラ・バトラー!」
バーン
「騎兵は下がれ! 火炎の巻き添えを食らうぞ!」
従者
「うわぁっ!」
カーロ
「あぁっ……!」
バーン
「ツオーは居たのだな?」
兵士
「はっ、確かに。お見事であります」
バーン
「ははっ……!」
「ロムンの館に火を掛ける! 逃げる者は射殺していい!」
兵士
「はっ!」
バーン
「続け! ニーが出てくる!」
ギブン家の兵士
「ええいっ!」
「ぎゃぁぁっ!」
ショウ
「一方的じゃないか! いいのか、これで……?」
ロムン
「ニーの所へホン・ワンを走らせたか?」
兵士
「はい。しかし、お山からはこの火は見えます」
ロムン
「カーロは?」
兵士
「それが……」
ロムン
「そうか、これがバーンのやり口か」
「逃げるぞ!」
兵士
「はい!」
トッド
「バーンめ、意外とお調子モンじゃないのか?」
「ん、来た!」
「ファイターかよ」
「うっ……!」
ショウ
「トッド、右だ!」
「マーベルか……?」
トッド
「わぁぁっ!」
兵士
「トッド様!」
バーン
「ニーの雇われ地上人め!」
「ダーナ・オシーは所詮旧式……このドラムロに敵う訳がない!」
「ミサイルはなくなった!」
マーベル
「バーン! オーラ力は私の方が強い筈だ!」
操舵手
「援護の砲撃を!」
ミズル
「馬鹿め、味方のオーラ・バトラーに当たるかもしれんのだぞ! 撃ってはならん!」
「し、しかし……空中での戦い、ショット様が仰る程に簡単ではないようだ」
ショウ
「好きにさせるかぁ!」
ニー
「うっ……!」
ショウ
「やったか?」
ショウ
「信じてくれなくても構わないが、引鉄を引いてもミサイルは出なかったんだ」
「死にたい奴がどこに居るもんか」
バーン
「信じよう、地上人」
「トッド・ギネスはどうしたか?」
ミズル
「騎兵が救出しましたが、ダンバインの回収は不可能でした」
バーン
「使える部品がまた一つ、ニーの手元へ残ったという訳だな?」
ミズル
「はい」
ショウ
「あんたは急ぎ過ぎだ。あれじゃ戦争には勝てないんだよ」
バーン
「バイストン・ウェルでの戦いは私の方がよく知っている。地上人は黙っていて貰いたいな」
ショウ
「分かったよ。見せてもらおうじゃないか、バーン・バニングスの手並みをさ」