第2話 ギブンの館

前回のあらすじ
バイストン・ウェルの物語を覚えている者は幸せである。
私達は、その記憶を記されてこの地上に生まれてきたにも拘らず、
思い出す事の出来ない性を持たされたからだ。
それ故に、ミ・フェラリオの語る次の物語を伝えよう。
バイストン・ウェルに落ちた日本人ショウ・ザマは、
ドレイクに敵対するギブンの館を攻撃して、聖戦士としての最低の働きは示した。
トッド
「ダンバインを撃墜された身でこういったパレードに出させるなんて、ちょっと酷いんじゃないの?」
バーン
「なら、ダーナ・オシーぐらい分捕ってくるんだったな」
「パレード用にドラムロを余分に運ぶ手間だって掛かっている」
ショウ
「一方的にロブンの館を攻撃しておいて、パレードなんて……よくやる」
ドレイク
「この度の諸君らの働きは、オーラ・バトラーの存在を示し、ルフト家の正義を示すものである」
「盃を取りたまえ」
「このドレイクの感謝の気持ちだ。聖戦士達に乾杯を」
バーン
「有難き御言葉、光栄で御座います」
トッド
「ふぅ、いい酒だぁ」
ドレイク
「トッド・ギネス殿は、今後の活躍を期待して……という事だがな?」
トッド
「いつまでも只酒を飲むつもりはありませんよ、ドレイク閣下」
ドレイク
「楽しみにしている」
「ううむ、リムルは今日も顔を出さぬな……どうなんだ?」
ルーザ
「何やら、今朝も気分が悪いと……」
ドレイク
「我儘娘が……どうせ仮病だろう」
ルーザ
「では」
トッド
「ショウ、決めたぜ。俺はここに住み着く」
ショウ
「いいんじゃないですか? お好きにやれば」
「リムルって、ドレイクの娘が言う通りかもしれないな……」
「俺達の存在を変に漏れたてようとする、パレードとパーティ」
トロウ
「よよ、戦士ぃ」
ショウ
「放せよ!」
トロウ
「地上の話を話してくれよな」
ショウ
「今はそんな暇ないよ」
「……ん?」
ニー
「キーン! こういう物はさっさと片付けろ!」
マーベル
「ニー……貴方の悔しさは分かるけど、もう少し落ち着いてくれない?」
ニー
「落ち着いて何をしろと言うんだ?」
「バーンのオーラ・バトラーにやられた、母とツオーの冥福を祈ったって、何にもならん!」
マーベル
「ふぅっ……」
キーン
「お屋敷を焼かれてしまったのよ?」
マーベル
「でもこの戦力で、あのドレイクのドロ隊に勝てるとは思えないわ」
キーン
「エ・フェラリオのナックル・ビーが居れば、マーベルの仲間を地上から呼べるのにね」
マーベル
「あのダンバインを操るショウ・ザマという男、私達に協力してくれそうに思えるんだけど」
ニー
「それまで待てというのか? いつ寝返るか分からん男を?」
「いや、悪かった……つい取り乱してしまって……」
「親父と工場はどうなったのか、それを考えると……」
キーン
「チャム! どうしたの?」
チャム
「あ〜、悔しいわぁ!」
「ラース・ワウではお祝い事をやってさ」
マーベル
「ショウ・ザマって子も?」
チャム
「あったりまえ!」
リムル
「ニー・ギブン様の消息は分かりませんか?」
侍女
「私には分かりません」
リムル
「ゼラーナは大丈夫なのですね?」
侍女
「はい」
リムル
「良かった……」
侍女
「ですけど、ギブン家はバラバラに散ってしまったとか」
リムル
「あぁっ……!」
侍女
「お嬢様……」
リムル
「大丈夫です。貴方はもう下がって頂戴」
侍女
「でも、お嬢様……」
リムル
「頼みます。お下がり」
侍女
「あ、はい」
リムル
「ニー・ギブン様……」
ショット
「ルーザ様……こんなむさ苦しい所へ、何か?」
ルーザ
「気になさらずに。勝手に見学させて頂きます」
「こちら、クの国の国王ビショット様が、お前達の働きを見たいと仰せですので参りました」
ショット
「ようこそ」
ルーザ
「ショット・ウェポンです」
ビショット
「噂は、我がクの国まで響いています」
ショット
「光栄です」
ビショット
「これだけ素晴らしい機械があれば、私達の積年の念願が叶う日も近いですな」
ルーザ
「仰せの通りで御座います」
ショウ
「よっ」
ビショット
「おっ……」
ショウ
「あっ……ごめん、邪魔した?」
ビショット
「いや、ご苦労」
「確かにこの百年、バイストン・ウェルそのものの倫理が崩れて、ガロウ・ランまでが暗躍する時代」
「斯様な機械は、確かに必要です」
ショット
「はい」
ルーザ
「その節は宜しくお願い致しますよ、ビショット・ハッタ様」
ビショット
「こちらこそ」
ショウ
「……臭い連中だ」
トッド
「ん、何だ?」
ショウ
「あ、いや……何でもない」
リムル
「どなた?」
ドレイク
「私だ」
「上着をこんな所に……」
リムル
「何でしょう?」
ドレイク
「ううむ、顔色は良くないようだな」
リムル
「申し訳ありません。夕べから風邪気味で……」
ドレイク
「久し振りにビショットが来た。お前も同席させようと思ったが、まあいい」
「大事にな」
リムル
「お父様……!」
ドレイク
「ん、何だ?」
リムル
「あの……」
「いいえ、早く良くなります」
ドレイク
「そうだな。顔を見せぬでは領民達も寂しがる」
兵士
「どう、どう!」
ガラリア
「騒々しい男だ……どうも好かん」
村の男
「ドレイク様が戦争をおっぱじめるって、本当かい?」
トロウ
「知るもんかよ。領主様の考えてる事なんて……」
村の男
「おっ」
「ありゃ聖戦士じゃねぇか?」
トロウ
「え? ははっ、ショウだ」
「よう、聖戦士よう!」
「おっ」
村の男
「何だ、騒々しいこった」
「なぁ、トロウ」
 〃
「あれ、連れてかれちまったよ」
 〃
「そうかい」
トロウ
「何すんだよショウ、降ろしてくれよ」
ショウ
「あんたに頼みたい事がある。ちょっと付き合ってくれ」
トロウ
「あぁ、そりゃ難しいな」
ショウ
「会う手引きをしてくれりゃ、地上の面白い話を一杯してやる」
トロウ
「え? ねね、どんな話?」
ショウ
「例えば……」
トロウ
「うん」
ショウ
「リムルさんに会わせてもらってからだ」
トロウ
「ケチ!」
「分かりましたよ。何とかやってみましょう」
「でも、リムルを愛しても無駄だよ? リムルの婿さんは、バーン・バニングスなんだ」
「どう見ても、あんたよりバーンの方がいい男だからね」
ショウ
「ちぇっ」
ショウ
「どうだった、リムルさんの返事は?」
トロウ
「近頃の若い娘の気持ちは分かんないね」
ショウ
「どうなんだ?」
トロウ
「あそこ……あの廊下、真っ直ぐ行けば、リムルは待ってます」
「番兵にはお酒鱈腹飲ませてヘベレケにしておいた」
ショウ
「ご苦労。でもこの事は、絶対に内緒だよ?」
トロウ
「分かってます。僕はそれ程、口の軽いフェラリオじゃありませんからね」
トロウ
「へぇ〜、乱れたよねぇ、このバイストン・ウェルもさ……」
「寝よ寝よ」
「おぉっ……!」
バーン
「トロウか……珍しく素面だな」
トロウ
「えぇ、酒嫌いだ」
バーン
「待てトロウ」
「滅多に手に入らぬ時代物だぞ。飲まないか?」
ショウ
「リムルさん」
トロウ
「ウィ〜、全くよぅ……」
バーン
「だから何だっていうんだよ、トロウ?」
トロウ
「あのショウ・ザマってのが、この夜中にリムルさんとこ行こうってんだからねぇ」
バーン
「何?」
トロウ
「リムルさんだってリムルさんなんよ。『ショウ・ザマに会いたい』なんて……」
「地上人ってみんなああなんすかねぇ、美人と見りゃすぐ手出して」
「やってられねぇや、口利き役なんて……あっ」
「イテッ」
「嘆かわしいんだよなぁ!」
リムル
「それで、ニー・ギブン達は……?」
ショウ
「逃げ延びたよ」
「バーン達は、ニーがまた来るんじゃないかって神経を尖らせてる」
リムル
「そう。お屋敷が焼かれたと話を聞いたから心配していたのよ。良かった……」
ショウ
「ドレイクの娘が喜ぶのか?」
リムル
「父のやろうとしている事は、悪い事よ? ニー達の方が正しいわ」
ショウ
「なら、俺みたいのが手伝うというのは、面白くない訳だ」
リムル
「ええ」
ショウ
「なら、シルキーに言って俺を地上に戻してくれないか? 方法は知ってるんだろ?」
リムル
「それは無理よ。オーラ・ロードを開く事なんて、そんなに自由に出来ないわ」
「月が変わらなくちゃいけないし、シルキーがその気にならなければ不可能な事よ」
ショウ
「全てが一方的なんだな」
リムル
「私が……?」
ショウ
「いや」
リムル
「一方的ついでに、私をニー・ギブンの所へ連れてってくださらない?」
「父に協力したくない、地上に帰れないのなら、ニー・ギブンを助けてやってください」
「父の野心は……」
「どなた?」
バーン
「入る!」
リムル
「どなたです?」
バーン
「私だ!」
リムル
「失礼でしょう?」
バーン
「貴様ぁ……!」
ショウ
「うわっ」
リムル
「バーン……!」
「バーン・バニングス!」
「その方を呼んだのは私です。私が地上の話を是非と願ったのです」
バーン
「姫様、私はこの男が何を企んでいるのか分かっている!」
リムル
「私の言葉を信じられないのですか?」
ショウ
「そういう事なんだ、バーン・バニングス。分かったらそんな物騒な物は引っ込めてくれよ」
バーン
「夜中に女性の部屋に入り込むのは、不謹慎ではないか」
「姫様も姫様です」
ショウ
「地上では、まだ宵の口さ」
バーン
「ここはバイストン・ウェル……高貴な方の暮らし振りもある」
「無礼である事には変わりない」
「すぐに出て行かねば、兵を呼ぶぞ!」
ロムン
「早々にここは引き払え、ドルプル」
ドルプル
「ダンバイン型の製造をやめてですか?」
ロムン
「バーンが来るからだ」
ホン
「ロムン様」
ロムン
「おぉ、見付かったか、ニー達は」
ホン
「はい。ミロの森の方へ向かったのを見た者が居ります」
ロムン
「よし、ミロの森へ入り、ニーと会って落ち合う場所を決めさせろ。どこかで弾薬を渡したい」
ホン
「ははっ!」
リムル
「バーン、何の騒ぎです?」
バーン
「ギブン家の隠し工場に仕掛けます。ロムン・ギブンの動きが知れませんので、ま、炙り出しです」
リムル
「ゼラーナに仕掛けるのですか?」
バーン
「ニーは大した男です。蝙蝠共と息を潜ませているんでしょう」
「今日は奴らの工場を押さえて、ギブン家の反逆の証拠を押さえるんです」
リムル
「反逆は父ではないのですか?」
バーン
「勝てば正義です。歴史の教える所でしょう」
チャム
「あ、来た!」
ニー
「バーンの奴、どこへ行くつもりなんだ?」
マーベル
「キーン! キーン、手伝ってよ」
キーン
「こっちも手が塞がってるのよぉ」
マーベル
「仕事にならないわ。ニーはいつ帰ってくるの?」
キーン
「攻める事しか頭にないのよね」
マーベル
「マシンの整備をしてくれなくっちゃ……」
キーン
「ひたすら戦うだけ。いいけどね」
「あら?」
チャム
「ただいま」
キーン
「いやに張り切ってるんじゃない?」
ニー
「出撃するぞ」
マーベル
「え、どこへ……?」
キーン
「ラース・ワウは見張りだらけなのでしょう?」
ニー
「主力の騎馬隊が、ラース・ワウを出たんだ」
マーベル
「オーラ・マシンは居るんでしょう?」
ニー
「機械の館の方で整備中らしい」
チャム
「バーンに付いて、お城を出たドラムロもあるわ」
キーン
「出撃は本気なのね?」
ニー
「ドレイクが国王フラオン・エルフに、ギブン一族に反逆の意思有りと訴えたらどうなる?」
「俺達は本当の逆賊になってしまう」
マーベル
「国王に、ドレイクが正義だと思われるのは、面白くないわね」
ニー
「だからツオーの仇、母の仇を討ってみせて、我々の潔白を証明しなければならない」
キーン
「こっちから仕掛けて上手く行くの?」
ニー
「主力隊とバーンが居なければ、付け入る隙はある」
「ドレイクを倒せば事態は変わる」
マーベル
「条件はあるわ。一撃離脱……長い時間、ラース・ラウの上空に滞空は出来ないわね」
ニー
「うむ、本館撃破のみ」
トッド
「ダンバインより出力は高いのか?」
整備兵
「はい、内臓武器がありますから」
トッド
「ショウ、夕べお姫様の部屋に忍び込んだんだって?」
ショウ
「そういうんじゃない!」
トッド
「じゃあ何だよ、え? 寄りによってトロウなんてお喋りに手引きさせてさ」
「この辺りの連中が笑ってるぜ?」
ショウ
「笑わせとけばいいでしょ?」
「ん、ブルベガーか……?」
「バーンの奴、もう戻ってきたのか」
ニー
「マーベル、リムルの部屋だけは攻撃を避けてくれるか」
マーベル
「了解」
「ダーナ・オシー、出ます!」
「戦いに入ったら、気を付けられると思ってるの、ニーは?」
ニー
「リムル、攻撃に巻き込まれるなよ」
ガラリア
「聖戦士の方々、ギブン家のオーラ・シップの攻撃だ!」
「ただちにオーラ・バトラーで対抗されたい!」
ショウ
「しかし……!」
「出られるのか?」
トッド
「出るしかなかろう?」
ショウ
「整備隊を退けろ!」
整備兵
「聖戦士、ミサイルの発射口を」
「はっ!」
ショウ
「トッド、いいか?」
トッド
「先に出てくれ」
ショウ
「了解!」
ガラリア
「編隊を組む必要はない! 発進しろ!」
トッド
「ガラリアさん、どうやるんだ?」
ガラリア
「ゼラーナとダーナ・オシーを出来るだけ城から引き離せ! 森へ追い詰めろ!」
ドレイク
「うっ、ルーザとリムルを地下室へ逃がせ!」
兵士
「はっ!」
ドレイク
「防衛隊は何をしていたのか? むざむざニーの侵入を許すとは!」
「主力隊の居ない時に来るなどと、賢しい事を!」
「うっ……!」
ガラリア
「逃がすなよ!」
マーベル
「来た!」
ショウ
「マーベル・フローズンか!」
マーベル
「あぁっ……!」
ショウ
「マーベル!」
「くっ……!」
ニー
「こいつは俺に任せろ! マーベルはドロ隊をやれ!」
マーベル
「了解!」
ショウ
「速い……!」
「ええいっ!」
ニー
「逃げるのか!」
「はっ……!」
トッド
「たかが1機のオーラ・バトラーに……!」
「そうそうやられるかよ!」
マーベル
「トッドの筈なのに、腕が上がっている……!」
トッド
「ショウ、援護しろ!」
ショウ
「コントロールが効かない!」
トッド
「何?」
「んっ……!」
マーベル
「あぁっ!」
リムル
「あっ……!」
ショウ
「墜落に見せ掛けた! 今がチャンスです、リムルさん!」
「約束を果たします!」
リムル
「ニーの所へ?」
ショウ
「そう!」
リムル
「ちょっと待って」
兵士
「あっ、お嬢さん。地下牢に逃げてください」
リムル
「ダンバインが故障なの。修理工を呼んで!」
兵士
「はい、ただいま!」
トッド
「この女……!」
「当たるかよ!」
ショウ
「目は瞑っていた方がいい」
ガラリア
「ん? ダンバイン、どこへ行くつもりか!」
「ショウ・ザマ! 手にしている物は何か、ショウ・ザマ!」
「トッド・ギネス、ショウ・ザマのダンバインを取り押さえろ!」
トッド
「何、どういう事だ?」
ガラリア
「力尽くで取り押さえるんだ!」
トッド
「ショウ、何の真似だ? 引き返せ!」
ショウ
「これ以上スピードは上げられない。どうする、ショウ……?」
「むっ……!」
トッド
「き、貴様、リムル・ルフトを……!」
ガラリア
「トッド・ギネス、抵抗したら構わぬ、攻撃を掛けろ!」
トッド
「リムルが手の中に居た!」
ガラリア
「傷付けずにだ!」
トッド
「好きに言ってくれる!」
リムル
「ショウ……!」
ショウ
「何?」
トッド
「ジャップ、やっぱりお前とはこうなるって関係だったんだな」
リムル
「あっ、あぁっ……!」
ショウ
「あっ!」
トッド
「ちぃ!」
リムル
「あぁーっ!」
ショウ
「はっ、マーベル!」
マーベル
「うぅっ……!」
マーベル
「貴方の動き、どういう事だったの?」
ショウ
「リムルをニーの所へ連れて行くつもりだった」
マーベル
「ショウ・ザマ……何故?」
ショウ
「俺なりに色々分かりたかったからな」
マーベル
「リムルは?」
ショウ
「落とした」
「到底無事とは思えないけれど……」
マーベル
「木がクッションになっていれば……」
ショウ
「手を降ろしていいかい?」
マーベル
「どうぞ」
「ダンバインの無線、貸してくださる? ゼラーナと連絡を付けたいの」
ショウ
「ここまで持ってこよう」
リムル
「あっ、うぅっ……!」
「ここは……!」