第4話 リムルの苦難

前回のあらすじ
バイストン・ウェルの物語を覚えている者は幸せである。
私達は、その記憶を記されてこの地上に生まれてきたにも拘らず、
思い出す事の出来ない性を持たされたからだ。
それ故に、ミ・フェラリオの語る次の物語を伝えよう。
ショウはリムルと共に、ラース・ワウを脱出した。
しかし、追撃を逃れる間に、リムルをボンレスの森へ落としてしまった。
リムル
「はぁっ、はぁっ……」
「あっ、くっ……!」
「きゃぁっ!」
「あったわ」
「嫌ぁっ、ぁっ……!」
マーベル
「ゼラーナも動けないらしいわ。こちらから行くしかないわね」
「リムルさんを落とした所、分からないの?」
ショウ
「ここに来るまで捜してもみたんだ」
「けどね、戦闘中だ。正確に覚えている訳はないだろう?」
マーベル
「それでドレイク達に聖戦士などと煽てられて、いい気なものね」
ショウ
「仕方ないだろ? 事情が分からないんだから」
マーベル
「それがお調子者の悪い癖なのよ」
「そのお陰で、私達はどんなに苦労したか……!」
ショウ
「だからこうして手伝いに来たんだろ?」
マーベル
「ごめん。これからは当てにしていいの?」
ショウ
「知るもんか」
「んっ」
マーベル
「ショウ、火を……!」
ショウ
「火?」
マーベル
「ボンレスに生き血を吸われたいの?」
「ダンバインには火炎放射器はないの?」
ショウ
「ドラムロじゃないんだ……わっ!」
マーベル
「ダンバインを発進させて!」
ショウ
「あぁっ、くっ……!」
マーベル
「ショウ、早く!」
マーベル
「高度を取らないで。バーン達に見付かるのは面白くないわ」
ショウ
「分かってる」
マーベル
「直進してくれれば、ゼラーナと合流出来るわ」
ショウ
「あんた、アメリカ人だろ? 日本語上手いんだな」
「トッドもトカマクもそうだったけど」
マーベル
「ふっ、違うのよ。私は英語を喋ってるのよ?」
ショウ
「でも、会話してるじゃないか」
マーベル
「テレパシーみたいなものがあって、会話してるように思えるのよ」
「私は『禅』という日本語ぐらいしか知らないわ」
ショウ
「禅……やってるのかい? 日本の禅」
マーベル
「少しはね。座禅ぐらいはやるわ」
ショウ
「へぇ、手の上で?」
マーベル
「ね?」
「ふふっ……」
ショウ
「ははっ……!」
ドレイク
「それでお前は、おめおめと帰ってきたというのだな?」
ガラリア
「はっ……」
「うっ!」
ドレイク
「馬鹿者! 何の為の親衛隊か!」
ガラリア
「うっ……!」
ドレイク
「捜索隊は?」
バーン
「はっ……第四騎馬隊とドロの兵隊を出しました」
「ガラリアは、自分一人の捜索よりは兵を出した方が確実かと」
ドレイク
「庇う事はない。バーンも出ろ」
バーン
「はっ」
ドレイク
「貴様が捜し出してやれば、リムルも喜ぼう」
「リムルは体が弱いのだ。この夜露を凌げまいと思うと、居ても立っても居られぬ」
バーン
「はっ」
ドレイク
「頼んだぞ」
ゼット
「ガラリア殿」
ガラリア
「バーン・バニングスにいい顔ばかりはさせておけない事となった」
ゼット
「こんな夜中に戦陣争いですか?」
ガラリア
「ゼット・ライト、大至急ドロを修理してくれまいか? バーンより先にゼラーナを叩きたい」
ゼット
「朝には何とか型になりますから、もう少しの御辛抱を」
ガラリア
「それまで待てない。今引き渡しを……」
ゼット
「無茶な事を……鍛冶工は寝ています」
ガラリア
「なら、私にオーラ・バトラーでも……」
ショット
「なりませんな」
「この夜半に……まして貴方には、バーン程のオーラ力もない」
「オーラ・バトラーに乗るのは危険極まりない」
ガラリア
「気力で動かしてみせます」
ショット
「それ程功名が欲しいのなら、リムル様を救い出す事が先決ではないですか?」
ガラリア
「もういい、頼まぬ!」
キーン
「あ、ここもこんなに裂けてる……もう少し強い装甲があるといいのに、もう!」
「ニー!」
チャム
「マーベルは?」
「もう死んじゃったのかしら? 帰ってこないのかしら?」
ニー
「馬鹿な事を言うもんじゃない」
キーン
「大丈夫よ」
「簡単に死ぬような人じゃないわ。明るくなったらもう一度捜しに行きましょう」
ニー
「それしかないな」
「どうだ、破損の具合は?」
キーン
「弱いのよね、継ぎ目が……」
ニー
「その辺の詳しい設計図も欲しい所だな」
キーン
「あら?」
ニー
「何だ?」
「敵襲だ! ブリッジ、何をしている? 警報だ!」
キーン
「配置に就いて!」
兵士
「はっ!」
ニー
「ダーナ・オシー!」
「撃つな、マーベルのオーラ・バトラーだ!」
ショウ
「くっ……!」
マーベル
「うっ……!」
キーン
「マーベル!」
マーベル
「もうちょっと何とかならなかったの?」
ショウ
「すまない。こんな重い物を持って着地するのは初めてでね」
ニー
「奴は、ショウ・ザマ……!」
ショウ
「何だよ、その目? 俺がマーベルを助けたのが迷惑みたいじゃないか」
ニー
「恩を売って近付いて、我々を探るという魂胆かもしれない」
「リムルの事だって信じられない」
ショウ
「根性が曲がると、人の好意を受けられないって事かい」
ニー
「マーベルはリムルを見たのか?」
マーベル
「ダンバインの左手に人が乗っていたわ」
キーン
「リムルさんがそんな事出来る訳ないじゃないの」
マーベル
「そりゃ夜で、はっきりとリムルだって分かった訳ではないけど……私は信じるわ」
ショウ
「ボンレスっての、人間の生き血を吸うんだろ? 知らないぜ……」
ニー
「じゃあ案内しろよ。リムルをどこに落として来たのか」
ショウ
「分かる訳ないじゃないか!」
ニー
「では信じられん」
「しかし、もし貴様の言う事が本当なら……」
ショウ
「俺は、このマウンテン・ボンレスの事はよく知らないからな」
「あっ!」
ニー
「リムルにもしもの事があったら、貴様を殺すぞ!」
ショウ
「勝手やってくれちゃってさ」
ニー
「捜しに行く! ピグシーを出してくれ!」
チャム
「本当なの、ショウ?」
ショウ
「フェラリオは、人の心の事は分からないのか?」
チャム
「私は下等なフェラリオです、ふんっ!」
ショウ
「待てったら、気が短い人だな……!」
「ガラリアに連れ戻されたかもしれないんだぞ?」
ニー
「確認したのか?」
ショウ
「え?」
マーベル
「ニー」
ショウ
「手伝うよ。お前の坊ちゃん育ちには付き合えないけどな」
ニー
「好かれようとは思わん」
ホン
「ニー様、捜しましたぞ」
ニー
「ホン・ワン……父上は?」
ホン
「ご無事です。至急連絡を取り、オーラ・バトラーの部品をお渡ししたいと」
ニー
「よし、明後日、月の森で合流しましょうと伝えてくれ」
ホン
「ははっ!」
ショウ
「はぁ〜……」
バーン
「あれは……」
「ガラリア、親方様の許しも得ずに……」
ガラリア
「おめおめ指を咥えていたくはない。バラウの操縦も馬を扱うくらいには出来る」
バーン
「成程、追ってきたのはそれが目的か」
ガラリア
「共にリムル様を捜したい。それが筋だろう?」
バーン
「分かった……親方様には後で許しを貰う」
「バラウを操縦してもらおう」
リムル
「ニー様、うぅっ……!」
ルーザ
「バーンからの報せは入らないのですか?」
ドレイク
「そう上手くいく訳はない」
「マウンテン・ボンレスはあれで、かなり深い山だからな」
ルーザ
「貴方がリムルに甘過ぎるからです」
「女達は、リムルがあの聖戦士とやらを唆したのではないかと、口さがのない事を……」
ショット
「同感です。親方様は姫様に優し過ぎる」
ドレイク
「娘に厳しさは要求せぬ。美しく誰からも好かれる女性であってくれればよい」
ルーザ
「将来は、どこかの国の王の下へでも嫁がせようというのに、こんな噂が流れるのでは……」
ショット
「成程、奥様の御心配もご尤もです」
ドレイク
「ふん……ルーザ、賢しいぞ。ワシは血縁なんぞ、百害あって一利なしと考えている」
「実力だ。力だよ」
ルーザ
「貴方……」
ドレイク
「動乱となれば親子も兄弟もない」
「下克上が世の習いなら、討たれるべき王を力ある者が討ち滅ぼし、世を平定する」
「その為のオーラ・バトラーであり、聖戦士なのだ」
バーン
「姫様……何故、あんな聖戦士と城を抜け出そうとしたのか……」
「シルキー・マウめ、とんだ食わせ物を呼び込んだものだ」
ガラリア
「大の男が世間知らずの小娘に振り回されるとはな」
兵士
「姫様との繋がりが目当てなのでしょう。専らの噂です」
「姫様と通じて親方様と繋がるのが、バーン様の目的だと」
ガラリア
「出世とは、戦いで功名を上げて勝ち取っていくものだ」
「女を出世の道具にするとは、バーン・バニングスもそこまでも男さ」
兵士
「姫様、リムル様!」
「お助けに上がりました! お返事を!」
リムル
「父上の兵……」
ニー
「ショウ、間違いなくこの辺なのか?」
ショウ
「だと思う。飛んできた方向や何かを考えれば……だと思う」
チャム
「そういう言い方はないでしょ? 貴方が連れ出して落としたんでしょ?」
ショウ
「キャーキャー、キャーキャー、煩いな! 妖精ってのはもっと上品なもんなんだろ?」
チャム
「私はフェラリオです!」
ニー
「チャム、ショウの邪魔はするな。森を監視するんだ」
チャム
「分かってま〜す」
「本当、ガラスの外の景色が映ったり、こんな大きな人の形したものが飛んだりしてさ」
「私達の存在価値なんてなくなっちゃったわ」
ショウ
「存在価値なんて、難しい言葉知ってんだな」
チャム
「失礼しちゃう」
ショウ
「そうか、フェラリオってのは飛ぶしか能がない訳だ」
チャム
「とりゃ!」
「これも才能の内ね」
「あっ、リムル……!」
ショウ
「見えたのか?」
チャム
「ええ。リムルの光が見えたみたいなの」
ショウ
「光?」
チャム
「リムルの燐の光よ」
ショウ
「燐の光?」
チャム
「オーラの光ね。私には時々見えるの」
「そのまま降りてみて」
ショウ
「よし」
「リムルのオーラの光が見えたってさ。何だい?」
ニー
「人の持っている生体エネルギーが残す光だ」
キーン
「チャム、どうなの、分かって?」
チャム
「こっちの方へ真っ直ぐ行ってるわ」
ニー
「チャムに続け!」
ショウ
「よし!」
「チャム、ダンバインに乗れ。危ないぞ」
「ニー、聞こえるか? 前方に光が見えた。ラース・ワウからも捜索隊が出てるんだ」
ニー
「了解した。オーラ・バトラーか?」
ショウ
「え、飛行機みたいだ」
ニー
「何?」
バーン
「間違いない。あれはダンバインの影だ」
「リムルを捜しているのか? それとも、我々を討とうというのか」
「ガラリア、川へ向かえ! 地上人のダンバインだ!」
ガラリア
「川か」
リムル
「あれはショウのダンバイン!」
「ショウ!」
ガラリア
「バーン、見付けた! リムルを……姫様を見付けた!」
バーン
「ダンバインが来る! 姫様は……!」
ガラリア
「ダンバイン?」
バーン
「離脱するぞ!」
「ガラリアの馬鹿め……迂闊にミサイルを撃ち込むな! 森の中にはリムル様がいらっしゃる!」
「どこだ……!」
ショウ
「バーン、貰った!」
キーン
「ニー、ダンバインがオーラ・バトラーとウィング・キャリバーに……!」
ニー
「キーン、騎馬隊だ!」
キーン
「えっ!」
騎馬隊
「見付かったか?」
 〃
「姫様……」
「どこの者だ!」
ニー
「し合うぞ!」
従者
「はっ、若旦那様!」
騎馬隊
「ラース・ワウの者じゃない。ニー・ギブンだ!」
ニー
「たっ、くっ……!」
従者
「わぁぁっ!」
ショウ
「どこに隠れた、バーン!」
チャム
「焦らないで、ショウ」
ショウ
「分かってる!」
「居た!」
「目の錯覚じゃない」
チャム
「凄い……!」
ショウ
「どこだ!」
「はっ……!」
チャム
「ショウ!」
バーン
「この裏切り者!」
チャム
「ショウーッ!」
ショウ
「と、止まんない……わっ!」
ショウ、チャム
「わぁぁっ!」
バーン
「ちっ、また森の中……」
「ん?」
ガラリア
「バーン、姫様がニーに接触しようとしている」
バーン
「何、ニーと……?」
兵士
「近付き過ぎます。木に引っ掛かります」
ガラリア
「差し出がましい!」
リムル
「ニー様ぁ!」
キーン
「リムル!」
ニー
「何?」
リムル
「新しいオーラの増幅器の設計図です!」
ニー
「リムル!」
リムル
「ニー様ぁ!」
ニー
「リムル……あっ!」
ガラリア
「させるか!」
リムル
「あぁっ!」
ニー
「リムル!」
リムル
「ニーッ!」
兵士
「姫様が……!」
ガラリア
「チッ!」
リムル
「きゃぁぁっ!」
バーン
「姫様……!」
ショウ
「逃げていく……追いかけるぞ!」
チャム
「え、えぇ!」
マーベル
「ダンバイン、聞こえて?」
ショウ
「マーベルか?」
「ドラムロとウィング・キャリバーが行く! 援護してくれ!」
マーベル
「了解!」
ニー
「撃つな!」
ショウ、マーベル
「え?」
チャム
「そう、撃っては駄目よ。ドラムロにはリムルが居るわ」
ニー
「そうなんだ。リムルはバーンに助けられた」
ショウ
「チャム、お前にも分からないのか?」
チャム
「持ち物にオーラの光が付いてるなんていっても、水に流れちゃったらお仕舞いよ」
「ニー、そんな格好するのやめてよ」
ニー
「し、しかし、せっかくリムルがあんなに一生懸命に届けようとしてくれたものを……!」
ショウ
「実の娘が、父親のやる事をあんなにも嫌っている……何故なんだ?」
マーベル
「オーラ・マシンというような力は」
「ショット・ウェポンが地上から来て作り出すまでは、この世界にはなかったのよ?」
「その機械の力に惑わされて、この世界を自分の物にしようとドレイクが決心した……」
キーン
「この世界は、この世界に生きている人みんなの物なのよ? ショウ」
ショウ
「分かったよ」
「ドレイクは、ショットの作った機械の力に惑わされて、このバイストン・ウェルを破壊しようとしてるんだ」
「マーベルも、俺と同じように偶々この世界に来たけど、ドレイクの城に飛び込まなかった……」
マーベル
「そうね。だから少なくとも、ドレイクの手伝いをしようとは思わなかったわ」
ショウ
「すまなかったな、マーベルさん」
「俺に、何が出来る……?」
マーベル
「オーラの力は、自分で鍛えてゆけるわ」
キーン
「バイストン・ウェルでは、ショウは聖戦士になれるのよ?」
ショウ
「聖戦士……」