第5話 キーン危うし

前回のあらすじ
バイストン・ウェルの物語を覚えている者は幸せである。
私達は、その記憶を記されてこの地上に生まれてきたにも拘らず、
思い出す事の出来ない性を持たされたからだ。
それ故に、ミ・フェラリオの語る次の物語を伝えよう。
ラース・ワウから脱出したリムルは、ニー・ギブンに出会う間もなく、
再びバーンの手に堕ちてしまった。
マーベル
「大分マシンに愛しさを感じるようになったみたいね」
ショウ
「どうですかね」
チャム
「ハイヨ〜」
ニー
「チャム! 機械の部品は玩具じゃないんだ。やめないか!」
チャーム
「ふ〜ん……あっ!」
マーベル
「チャム!」
チャム
「このくらい、私だって……」
「はぁっ、ふぅっ……」
ニー
「だから遊ぶなと言った筈だ。言う事を聞かないから……」
チャム
「そんなに怒んなくったっていいでしょ?」
キーン
「ほ〜んと、キリキリしてんだから……!」
ニー
「月の森に着くまでに、ダーナ・オシーはバラして欲しいな」
キーン
「どうして?」
ニー
「置くスペースが要る。父上が新しいオーラ・バトラーを持ってきてくれるかもしれんだろ」
ショウ
「整備は順調だと思うよ」
ニー
「結構だ」
ショウ
「オーラ・ショット用のミサイルが欲しいな」
ニー
「分かっている」
チャム
「……どうしてなの? 男のヒステリー!」
キーン
「大好きな人を助けられなかったからでしょ?」
「それで遊んじゃ駄目!」
チャム
「リムルは私だって好きよ? キーンだって好きでしょ?」
キーン
「そういうんじゃないのよ」
チャム
「や〜ん!」
ショウ
「俺が失敗したからだ」
マーベル
「え、何か言った?」
ショウ
「ん、ニーが苛々するのも分かるさ。俺が……」
マーベル
「それは違うわ。ダンバインで戦うっていったって、まだ貴方には無理よ」
ショウ
「しかし、そんな事は言ってられないんだろ?」
マーベル
「それはそうだけど……」
リムル
「ニー・ギブン様……」
「お母様」
ルーザ
「リムルにしては上手だと思ったわ。リムルが弾きたくないと我儘を言ったのですね?」
ミュージィ
「いいえ、そんな……」
ルーザ
「出て行きなさい」
リムル
「お母様、私がいけないんです」
ルーザ
「お黙りなさい」
「私は貴方に、リムルを厳しく鍛えるように頼んだ筈です」
リムル
「先生……」
ルーザ
「ミュージィ、一度だけです。次にもこのような事があれば、音楽教師は辞めていただきます」
ミュージィ
「申し訳御座いません」
リムル
「ごめんなさい、ミュージィ」
ルーザ
「……貴方はどうして私が困る事ばかりしてくれるのです」
リムル
「そんな……!」
ルーザ
「お黙りなさい」
リムル
「私は、表向きだけ取り繕って、人を苦しめるような政治をなさろうとする父上が……」
ルーザ
「それは貴方の考え違いです」
リムル
「そうでしょうか」
ルーザ
「お父様は、アの国……いえ、バイストン・ウェルに戦乱が続くのを心を痛めて……」
リムル
「なら、地上の人の力などは借りず、シルキー・マウの力も借りずに出来る筈でしょう?」
「あっ!」
ルーザ
「父上のなさる事をそのように批判する子供は、もう外に出しません!」
リムル
「お母様……!」
「お母様……酷いわ……」
バーン
「これより、マウンテン・ボンレスから北へ向かった、ゼラーナを捜索する」
「先発隊に合流しつつ、奴らを国境まで追い上げる!」
「行けっ!」
「……ガラリア殿」
「俺はドラムロの整備が終わり次第追撃する。お前がその気なら参加させてもいいと思っている」
ガラリア
「同情なら要らない!」
バーン
「バラウの操縦を見せてもらったから言うんだ。僻むなよ」
ガラリア
「僻みに見えるのか?」
バーン
「ふっ、支度をしておけ」
ガラリア
「なら、私にドラムロを貸してくれ」
バーン
「何?」
ガラリア
「ドラムロをどこまで動かせるか、試してみたい」
バーン
「図に乗るな!」
チャム
「ギャラウだ、ギャラウが吼えてる!」
「きゃっ!」
「ショウ、放してよぉ」
ショウ
「何だい、そのギャラウって?」
チャム
「怪獣よ。空を飛ぶ怪獣」
ショウ
「怪獣……?」
チャム
「痛い痛い、こら放せ!」
「痛いよぉ!」
ショウ
「もう一つ教えてくれよ」
チャム
「何?」
ショウ
「マーベルを呼んだフェラリオは、どこに居るんだ?」
チャム
「ナックル・ビーがどこへ行ったか知らない!」
「ギャラウよ〜!」
ショウ
「何も聞こえないよ」
チャム
「ニー、ギャラウよ〜!」
ショウ
「ギャラウって何だ?」
ニー
「大型の鳥だ」
「チャム、声を聞いたのか?」
チャム
「近くに居るわ」
ショウ
「危険はないんだな?」
ニー
「ギャラウか。このゼラーナから出なければ、食われる事もない」
「ダンバインの整備は進んでいるのか?」
ショウ
「やってるよ」
ニー
「……何をしに来たんだ?」
キーン
「あの人はまだ、この世界の事何も知らないのよ?」
「整備やれって言ったって、ちゃんと出来る訳ないじゃない」
「マーベル手伝ってやってよ。ニーが怒ってるわ」
マーベル
「え? そうね……ごめん」
キーン
「私達と戦うのが嫌になったの……?」
マーベル
「そんな事はないわ」
チャム
「『ナックル・ビーに会わせろ』って、ショウが言ってる」
ニー
「ショウが?」
「ちゃんと監視する必要もあるな、奴を」
マーベル
「何でそんな事を……?」
ニー
「今は大人しくしているが、ドレイクのスパイだっていう事だって考えられるんだぞ?」
キーン
「格好付けの人だと思ってるけど、リムルを連れて脱出してきたわ」
ニー
「あれは軽率な行動だった」
マーベル
「そんな気持ちじゃ、仲間は手に入れられないわ」
ニー
「しかしな……」
キーン
「あの人、私達の為に戦ってきたわ」
ニー
「リムルを危機に陥れた」
キーン
「ニーは二言目にはリムルね。それじゃ、マーベルや私はチャムはどうなるの?」
ニー
「感情的になるなよ」
「キーン、リムルは危険を冒して俺達に情報を渡そうとしたんだぞ?」
キーン
「マーベルさんはニーの為に、ダーナ・オシーに乗って戦ってくれたのよ?」
「私だってそうだわ。ニーがやるからって……」
「チャムだってニーの考え方が正しいから手伝ってるのよね?」
「それを『リムル、リムル』って、堪ったものじゃないわ!」
ニー
「キーン!」
「俺は、そんなにリムルの事だけを……」
マーベル
「さあ、分からないわ」
ニー
「マーベル……」
バーン
「ガラリア、バラウの操縦で不服か?」
ガラリア
「不服なものか。このバラウとて、オーラ・シップと違ってオーラ力の要るものだ」
「慣れる!」
バーン
「ははっ……いつかはオーラ・バトラーも扱えるようになる」
「トッド・ギネス、どうか?」
トッド
「似たようなものだ。精神の集中の仕方も分かってきた」
バーン
「結構な事だ」
「騎馬隊に追い付くぞ!」
キーン
「ニーなんか嫌いだ!」
「嫌い嫌い、みんな嫌いよ!」
「リムルリムルってさ。私なんて、名前を呼ぶような人、居やしないのよ!」
ショウ
「キーン!」
「キーン、戻れ! こんな霧の中に飛び出しちゃ危険だ!」
「何だ? 何の音だ……?」
「キーン、何かが行ったぞ!」
キーン
「あっ?」
「ギャラウ……!」
チャム
「ギャラウだ!」
マーベル
「キーン!」
ニー
「馬鹿な、フォグ・ゾーンと知ってて、何故飛び出したんだ!」
ショウ
「これか!」
「どこだ、どこへ行った!」
「居た!」
「くっ!」
「駄目だ、射撃なんてやった事ないから……!」
ニー
「機銃を撃つのをやめないか!」
「貴様は貴重な弾を使って、敵に居所を報せるつもりか!」
兵士
「ん、スパイの狼煙が上がっているぞ! 急げ、この先にニー達が居るぞ!」
バーン
「狼煙か……!」
「やはりフォグ・ゾーンのコラールに入り込んだか。隠れ場所を探しているな?」
「急ぐぞ!」
ニー
「ギャラウを追え、ドワ。ゼラーナで妨害するんだ!」
チャム
「嫌! ギャラウに近付くの、嫌〜!」
ドワ
「邪魔だよチャム、前が見えないよ!」
ショウ
「ゼラーナの弾を使わなけりゃいいんだろ?」
マーベル
「キーン! そのままゼラーナに飛び込んできなさい!」
「キーン!」
チャム
「あ、ウィング・キャリバーのフォウが出た!」
ドワ
「誰だ? これじゃやりにくくなるばっかりだ!」
ニー
「ショウの奴だ」
ドワ
「ちょ、ちょっとニー……!」
ニー
「ん?」
ドワ
「追い掛けるぞ!」
ニー
「急げ!」
キーン
「ショウーッ!」
「あっ!」
ショウ
「キーン、離れるんだ!」
キーン
「ショウ!」
ショウ
「来るな、キーン!」
キーン
「あぁっ!」
ショウ
「キーン……!」
チャム
「やった! ショウがギャラウをやった!」
ニー
「そんな……ショウは、フォウは初めての筈だ」
ドワ
「は、はい。乗った事はない筈です」
マーベル
「ショウ!」
ニー
「流石に聖戦士というのか」
「ドワ、キーンは落ちた筈だ。降下しろ!」
ドワ
「はっ!」
ショウ
「キーン、キーン……!」
「はっ……!」
「キーン……!」
ショウ
「全身を打ってるぞ」
キーン
「うぅっ……!」
マーベル
「キーン」
ニー
「無茶をするから……」
ショウ
「そういう言い方はないだろ?」
「ブリッジで何があったか知らないけど、キーンは泣いてシュットで飛び出していったんだぞ?」
ニー
「泣いていた?」
ショウ
「苛めたか怒らせたんじゃないのか?」
ニー
「ショウ……!」
マーベル
「言い争いしている暇はないわ。早く楽な姿勢にしてあげないと……」
「有難う、ショウ」
「お医者様に診せなくっちゃ……!」
チャム
「……ショウ、優しいね」
ショウ
「何故そう思うんだ?」
チャム
「キーンの心を分かってるじゃない?」
ショウ
「ふ〜ん……」
バーン
「どこだ、ニーのゼラーナは……!」
トッド
「居ないじゃないか、敵はよ」
ガラリア
「バーンやトッドより先に見付ければ、このバラウでダンバインを討つ事も可能な筈だ」
「ミサイルとかは、臼砲より威力がある筈」
ニー
「何故だ?」
医者
「手当ては済んだから出てってくれと言っとる。理屈だろ?」
ニー
「安静にさせろと言ったのは先生でしょう」
ショウ
「厄介には巻き込まれたくないって訳か」
チャム
「こんな山の中に住んでる人は、世捨て人だもんね」
キーン
「うぅっ……!」
チャム
「キーン」
キーン
「大丈夫よ、このくらいの傷……!」
ニー
「金は置いていきます」
マーベル
「あの子が一人で歩けるようになるまで……」
医者
「ゴタゴタはご免なんだ」
「それにワシャ、あんた達の機械がコソコソとあそこに降りるのを見た」
「あんな奇妙な機械に乗る人間に、碌な奴は居ない」
ニー
「それは誤解です」
医者
「そうは思えんな」
マーベル
「先生、私達は機械を使ってバイストン・ウェルを支配しようとする人間と、戦っているんです」
医者
「機械を使う人間を諭すのに、機械を使ってか?」
マーベル
「はい……私達には、まだ力がありませんから……」
医者
「何故そうなった?」
ショウ
「地上の人間がバイストン・ウェルに入り込んだからさ」
医者
「ほう……」
ショウ
「俺達のような地上の人間を呼んで、オーラの機械を使わせようとした男が居る」
医者
「地上の人間なのか?」
ショウ
「ああ」
ニー
「この女性もだ」
医者
「ほう」
ショウ
「他にも居る。ドレイクと手を組んで独裁をやるんだとさ」
医者
「ドレイク・ルフトか」
ニー
「そうだ」
医者
「野心家だったからな……」
ニー
「ご存知で?」
医者
「知らん」
ニー
「先生……!」
マーベル
「キーン・キッスは……キーン・キッスはお願い致します」
「私達がここに居ると追っ手が知れば、この村も……」
医者
「分かっとるわい」
キーン
「私は大丈夫です。歩けるようになったらゼラーナを追い掛けます」
ニー
「すまない」
マーベル
「すぐに良くなるわ」
キーン
「はい」
マーベル
「じゃ……」
ショウ
「じゃあな」
キーン
「ショウ・ザマ」
ショウ
「ん?」
キーン
「有難う、ショウ・ザマ……」
ショウ
「早く治せよ」
キーン
「はい」
チャム
「来たわ!」
ニー
「何?」
ショウ
「ウィング・キャリバーか?」
ニー
「らしいな」
マーベル
「1機じゃないみたい」
バーン
「トッド、霧が濃くなった。無闇に走るな、危険だ!」
トッド
「確かにこの辺に、ゼラーナは着陸したんだろうな?」
バーン
「あぁ、二度目のニグ・ロウの狼煙を見た」
トッド
「よーし、任せておけ」
バーン
「ちっ、フォグ・ゾーンの怖さというものはこんなものではないんだ。気を付けろ!」
トッド
「益々濃くなる……上空へ出るしかないか」
バーン
「ん、待て……トッド迂闊だ、やめろ!」
ドワ
「ニー様、この霧では発進出来ません」
ニー
「しかし、バーンの追っ手が迫っている」
マーベル
「この乱気流で来れるかしら?」
ショウ
「どうした?」
「隠れるには丁度いいのか?」
「どうなんだ、ニー?」
ニー
「霧次第なんだが……」
マーベル、ニー
「あっ……!」
ガラリア
「天の采配とはこの事か!」
ショウ
「あぁっ……!」
チャム
「きゃぁぁっ!」
トッド
「爆発? あそこか!」
ニー
「ドワ、エンジン始動! 真っ直ぐに上昇する!」
ドワ
「了解!」
マーベル
「ショウ!」
ドワ
「うっ……!」
ニー
「総員、応戦用意!」
「発進するぞ!」
トッド
「ショウめ、出てきたな!」
ショウ
「あれか!」
ガラリア
「逃がすか!」
兵士
「ガラリア様、早過ぎます!」
ガラリア
「任せればいい!」
ショウ
「ぬっ!」
ガラリア
「ダンバイン!」
「うっ……!」
トッド
「火線が見えた!」
ショウ
「はっ……!」
トッド
「どこへ隠れやがった、ショウめ……!」
「ぬっ!」
ショウ
「トッド・ギネスか!」
トッド
「くっ……!」
ショウ
「はっ……!」
トッド
「ショウ!」
ショウ
「トッド、ドレイクに力を貸すな! 俺達の仲間になれ!」
トッド
「そうは行くかよ! 俺は『お仲間』っていう甘ったれた台詞が大嫌いなんでね!」
ニー
「総員、気流に気を付けて敵に警戒しろ!」
「ショウ、どうした! ここから脱出する! ショウ、脱出するぞ!」
「応答しろ!」
ショウ
「駄目か……!」
「何だ、あっ……!」
ドワ
「ダンバインも吹き上げられています!」
ニー
「総員、ハッチの中に入れ! 吹き飛ばされるな!」
チャム
「きゃぁっ……!」
ニー
「ショウ、このまま乱気流に乗って脱出する」
ショウ
「分かった。何とかコントロールする」
バーン
「ゼラーナの乗組員がここに入ったと聞いている」
医者
「知らんね。ワシは下界の人間と顔を合わせるのも嫌なんだ」
「来ていれば追い返しているよ」
兵士
「バーン様、天井裏まで探しましたが、居りません」
バーン
「そうか」
「邪魔したな」
医者
「家捜ししといてそれだけか?」
バーン
「二度とそんな口を利いたら、斬るぞ」
医者
「世捨て人だ。いつでも斬ってくれ」
バーン
「……駐屯地へ引き上げる!」
兵士
「はっ!」
 〃
「はい!」
医者
「ふぁっ……」
キーン
「うっ、うぅっ……」