第6話 月の森の惨劇

前回のあらすじ
バイストン・ウェルの世界には、太陽も月もない。
しかし、夜、月に似た光るものを見る所が幾つかある。
蒼白く光るこの光は、月ではない。
天空にある海底に棲息する深海魚の群れが集まり、
大きな塊となってバイストン・ウェルの世界を照らしているのだ。
月の森でゼラーナは、ロムン・ギブンと落ち合う為に急いでいた。
しかし、ニーの態度に苛立つキーンは、一人シュットを駆ってコラールを飛び、ギャラウに襲われて負傷した。
トッド、ガラリアの追撃を躱すショウ達は、キーンをゼラーナから降ろすしかなかった。
ニー
「左だ。左に大きなのがある」
ドワ
「は、はい」
ニー
「引っ掛かった。左へ抜けろ、左へ」
ドワ
「は、はい」
ロムン
「月の森まで無事に着けば、報酬は倍に弾むぞ。迷路の谷へ入れ」
従者
「へい、ご領主様。逃げ切ってみせますぜ」
ニグ
「矢を……矢を撃て!」
従者
「わぁぁっ!」
ニグ
「どう、どう……!」
「迷路の谷を抜ける気か」
「谷の行き着く先は、月の森だ。分散して追え!」
ニー
「いいな、後は任せるぞ」
ドワ
「この先はカーテンを潜るみたいなものですから」
ショウ
「何? スペア弾はもうないっていうのか?」
コタノ
「ダーナ・オシーのミサイルが使えたからいいようなものの、そんなにある訳ないじゃないですか」
ショウ
「じゃあ、オーラ・ショットを掃除したってしょうがないじゃないか」
マーベル
「左舷、下の方も障害物はなくなったわ」
ショウ
「どうなの?」
マーベル
「もう約束の場所よ」
ショウ
「この辺なら、森の上空を飛んだっていいだろうに」
マーベル
「ドレイクの領内よ? どこで見付かるか分かったもんじゃないわ」
ショウ
「よくやるな……」
「マーベルは、何でそんなにやるんだ? ニーの為に……」
マーベル
「仕方ないじゃない。地上に帰れないんだもの」
ショウ
「オーラ・ロードを開くって事は、難しい事なのか?」
マーベル
「勿論よ」
ショウ
「でも分からないのは、そんなに難しい事が、何でここんとこ次々と起こったんだ?」
マーベル
「時代ね」
ショウ
「時代……?」
マーベル
「時代が大きく変わる兆しよ」
ショウ
「ふうん……」
マーベル
「それも、酷く大きく変わる前兆じゃない?」
ショウ
「悪い方に向かってるのか?」
マーベル
「ねぇ、怖くない?」
ショウ
「あぁ」
マーベル
「何故?」
ショウ
「え?」
マーベル
「どうしてそんなに平気なの?」
ショウ
「もうこれ以上、怖がる事はないさ」
マーベル
「ふうん、ふふっ……」
ショウ
「何が可笑しいんだよ?」
マーベル
「ニーは、あんまり好きじゃないんでしょ?」
ショウ
「あぁ……でも、あんたは気になるし、好きになってもみたい人じゃないか」
マーベル
「私は、ニーが好きよ」
ショウ
「でも、もう決まりって訳じゃないだろ?」
マーベル
「そりゃそうね」
ショウ
「良かった」
マーベル
「あんまり簡単にそう思うのは良くないわ。人にはそれぞれの想い方があるのよ。同じじゃないわ」
ショウ
「そう」
マーベル
「当てにしてるわ、聖戦士さん」
ショウ
「そりゃ俺だって……知らない事、一杯あるしさ」
「ん?」
「月が……満月の筈だったろ?」
マーベル
「あぁ、あれ? 月に見えるけど、月じゃないのよ」
ショウ
「え?」
マーベル
「深海魚の集まりなの。その輝きが月のように見えるだけ」
ショウ
「魚の集まり?」
ニー
「全員に周りを警戒させろ。特に上空だ」
「手間を掛けたな」
マーベル
「貴方も、板に付いてきたわね」
「心配事が沢山あるのに顔にも出さず、キャプテンの役割を見事に果たしてるわ」
ニー
「愚痴は何も生みはしないからな。今はリムルを心配するよりも、早く親父と合流する事さ」
「キーンの怪我だって、こっちで心配してもどうにもなるもんじゃないだろ」
トッド
「ガラリアもそそっかしいが、俺も人の事は言えねぇか」
「ふぁっ……」
ガラリア
「操縦系のワイヤーとマルスはどうか?」
整備兵
「宜しい筈です」
「バーン様、如何でしょうか?」
バーン
「大丈夫だ」
ゼット
「……よく寝ていられるもんだな?」
トッド
「ひと働きした後だ、いいじゃねぇか」
ゼット
「お前さんは、そろそろオーラ・バトラーに慣れちゃどうだ?」
トッド
「何言ってんの。生体エネルギーでパワー・アップするなんて、便利な機械をよくも作ったもんだ」
ゼット
「ショウはダンバインをパワー・アップさせてる様子だ。違うか?」
トッド
「ふんっ……」
「ん?」
兵士
「ニグ・ロウが入るぞ!」
ニグ
「どう、どう!」
トッド
「……あの連中は、主人の居る所ってのがすぐ分かるんだな」
ゼット
「金に忠義を尽くすんだよ」
バーン
「……ロムン・ギブンだと?」
ニグ
「はっ!」
バーン
「数は?」
ニグ
「五台の内、一台は撃破しました」
「月の森方面に逃走中。恐らく、息子のニーと合流するのではないかと」
バーン
「追跡中か」
ニグ
「はっ!」
バーン
「ううむ、しかしきついな……夜明けまでには、ミの国へ攻撃を仕掛ける命令が出ている」
「寄り道をしている訳には……」
ガラリア
「私が行きます」
「バラウの修理は終わった訳です」
トッド
「俺も行くか?」
バーン
「次の作戦の話はした筈だ」
トッド
「本当の戦争に入る前に、雪辱戦をしたい」
ガラリア
「私一人で荷駄隊はやれる」
トッド
「ダンバインが出てくるかもしれん」
ガラリア
「トッド・ギネス、無礼な……!」
トッド
「やるかい?」
ガラリア
「例え聖戦士と言えども……!」
バーン
「やめろ。無駄なエネルギーを消耗するだけだ」
「ガラリア、お前はバラウでロムンを攻撃しろ」
ガラリア
「私一人でいいのだな?」
バーン
「トッド、私はミの国侵攻の増援部隊を待たねばならん。頼むぞ」
トッド
「おう」
バーン
「月の森へ出撃だ。誰か、ガラリアと共にバラウに乗り込め」
兵士
「はっ!」
ガラリア
「私一人でよいものを……」
ドワ
「着陸します」
ニー
「よーし」
「ん?」
「チャム、信号を送ってくれ」
チャム
「了解」
「空に月、月に水、森に蛍が飛ぶ……あっ!」
ニー
「チャム、何度やるんだよ。透明なガラスには慣れなくっちゃな」
チャム
「んん、はいはい」
チャム
「森の精よ、森の精よ……蛍達を呼び集めておくれ」
「森の精よ、月の精霊達よ!」
「この指と〜まれ!」
ショウ
「何やってんだ?」
マーベル
「信号弾みたい」
チャム
「この指と〜まれ!」
「そ〜ら、縦の竿にな〜れ!」
ホン
「おぉ、見付けた……ドルプル様、ゼラーナです」
ドルプル
「先に行ってくれ」
「こういう時に、ガロウ・ランって連中は便利なものだ」
「おい、入ってこれるか?」
従者
「な、何とか……何とか入っていけます」
バーン
「いいか、テスト飛行も兼ねているんだ。荷駄隊をやったら直ぐに引き上げろ」
ガラリア
「分かっている」
ゼット
「俺の整備が信用ならんのか?」
トッド
「違う違う。朝に出撃というんなら、チェックしておかなくっちゃ……」
「ん?」
ゼット
「俺は寝かせてもらう」
トッド
「ガラリア、付き合わさせてもらうぜ」
バーン
「トッド」
トッド
「ガラリア、ドッキングさせてもらう」
ガラリア
「トッド・ギネスか。いいぞ、トッド」
バーン
「あの二人め、繋がってるのか」
ショウ
「ホン・ワン、案内は出来るな?」
ホン
「はい。ショウ様、参ります」
ニー
「何かあったら無線を使え。届く筈だ」
ショウ
「了解」
チャム
「気を付けてね」
ショウ
「あぁ」
「じゃ……」
マーベル
「シュットのコツは、上がって滑る」
ショウ
「うん」
チャム
「……大丈夫かな?」
マーベル
「あ、チャム……」
チャム
「私も行く!」
トッド
「ガラリア」
ガラリア
「何か?」
トッド
「お互いに、抜け駆けはなしだぞ」
ガラリア
「トッド殿は聖戦士だろ? 私がトッド殿より先に手柄を立てられるものか」
トッド
「そう自棄は起こしなさんなよ。あんたにだって脈はあるぜ」
従者
「うわぁぁっ!」
ロムン
「あっ……!」
「ダンバインの部品や武器弾薬が……!」
「急げ、急ぐのだ!」
チャム
「あの光よ。ニーのお父さん達が居る」
ショウ
「よし」
チャム
「イヤン!」
ショウ
「チャム、前が見えない」
「ロムン・ギブンは見付けた。ご苦労」
ホン
「へぇ」
ショウ
「戦うのは手伝ってくれるのか?」
ホン
「ご冗談でしょ」
ショウ
「ご苦労さん」
ホン
「……地上人の癖に、偉ぶらない人だな」
従者
「ロムン様、追っ手は多くありません。ここで踏み止まって戦いましょう」
ロムン
「危険だ。奴らは分散している。いつどこから現れるか分からん」
「ニー達の所まで突っ走れ」
「ん、ぉっ……!」
従者
「親方様!」
ニグ
「ロムン・ギブン殿、その荷を我が方に渡せ。そうすれば命だけは助けてやる」
「既に二台の馬車を討ち取った」
ロムン
「ガロウ・ラン風情が、コモンに言う台詞か!」
「くっ……!」
ニグ
「返答は変わらぬのか? 逃げ道は谷に落ちるしかないぞ!」
ロムン
「くどい! ドレイクに組したら、バイストン・ウェルは……」
「ガロウ・ランのお前らだって自由に振舞えないようになるんだぞ?」
ニグ
「それが返事か」
ロムン
「うわっ……!」
ニグ
「な、何だ?」
ロムン
「む、シュットだ! ニーの手の者だ!」
ニグ
「ニー・ギブンか!」
兵士
「うぅっ……!」
チャム
「え〜い!」
「アッカンベェ、っだ!」
「きゃ〜ん!」
兵士
「うわぁぁっ、くっ……!」
 〃
「逃げろ!」
ショウ
「ガロウ・ランの手合いか、逃げ足が早いのは」
ガラリア
「ここを通ったのは間違いないな」
トッド
「ダンバイン用の補給部品か?」
ガラリア
「らしいな」
「ん?」
トッド
「ガラリア、何を見た?」
ガラリア
「火矢が空で爆発した。迷路の谷、東出口近くだ」
トッド
「急いでくれ」
ガラリア
「了解」
ショウ
「お怪我は?」
ロムン
「大丈夫だ。部下が四人もやられてしまったが……」
ショウ
「残念です。もう少し早く辿り着ければ良かったんですが……」
ロムン
「見掛けない方だが、君は?」
ショウ
「ショウ・ザマです」
ロムン
「どこかで会った事があるな」
ショウ
「はい。バーン・バニングスとお館に向かいました時に」
従者
「何?」
ロムン
「慌てるな」
「ドレイクに呼ばれた地上人が、何故、私を助けてくれるか?」
ショウ
「色々ありましてね」
ロムン
「ニー達は無事なのだな?」
ショウ
「はい。お迎えに参りました」
ロムン
「うむ」
ホン
「親方様、ご無事で」
ロムン
「ドルプルは、ニーと出会えたのだな?」
ホン
「はい」
ロムン
「ご苦労、助かった」
ホン
「そんな……旦那様の為なら、命だって投げ出しますぜ?」
ショウ
「嘘吐け」
ホン
「へへっ、では……!」
ロムン
「ショウ君、ニー達を安心させたい。一足先に行って無事な事を伝えて欲しい」
ショウ
「しかし、一緒に戻った方が……」
ロムン
「一刻も早くニーを喜ばせてやりたいんだ。あの荷物、何だと思うかね?」
ショウ
「ミサイルでしょう?」
ロムン
「製造中の物は爆破されてしまったが、領内に落ちたダンバインの部品が一台分ある」
ショウ
「ダンバインを取ってきて手伝います」
「チャム、どうする?」
チャム
「荷馬車に居る。何かあったら報せる」
ショウ
「分かった」
ロムン
「よし、我々も出発だ」
従者
「おう!」
ショウ
「ダンバインで迎えに行けば良かった。大丈夫か?」
ニー
「よーし、止まれ」
ショウ
「ダンバインを出す」
ニー
「父は?」
ショウ
「バーンの先発隊は蹴散らした」
ニー
「先発隊?」
ショウ
「後にバーンかトッドが出てくる」
ニー
「ダンバインが出るぞ! ゼラーナも発進をする! 積み込みを急げ!」
「ショウ、頼む」
ショウ
「急いでくれ。補給部品が一杯あるんだ」
ドワ
「全員、発進準備用意!」
ニー
「急がせろ。砲撃戦もあるぞ」
ドワ
「はっ!」
ニー
「マーベル、フォウの発進準備を急げ」
ロムン
「見えたぞ、月の森だ!」
ガラリア
「見付けた、荷駄隊だ!」
トッド
「あんなの一撃でお仕舞いじゃねぇか。やれ!」
ガラリア
「了解!」
ロムン
「はっ、ウィング・キャリバー……!」
チャム
「バーンよ、バーンが来た!」
ロムン
「馬車から降りろ! 馬車から離れるんだ!」
ガラリア
「ふふっ、他愛ない。最後の一台は荷物ごと頂く!」
トッド
「駄目だ! ガラリア、仕留めろ! ダンバインが出てくるかもしれん!」
ガラリア
「何を言う! 敵のミサイル一発手に入れれば戦力になる!」
「ロムンならば捕えて、ドレイク様に……!」
チャム
「ショウ、早く来て……!」
トッド
「ガラリアめ……!」
ガラリア
「トッド!」
「逃がすか!」
トッド
「馬をたたっ斬ればいいんだろうが!」
ロムン
「はっ……!」
ショウ
「トッド!」
トッド
「ダンバイン……ショウか!」
ショウ
「トッド、その荷馬車はやらせはしない!」
チャム
「ショウーッ!」
ロムン
「わぁぁっ!」
チャム
「あっ、ロムンおじ様……!」
ショウ
「バラウか!」
「しまった!」
「はっ、正面のキャノピーが!」
「モニターだけか!」
チャム
「ロムンおじさん、大丈夫?」
ロムン
「あ、あぁ……」
チャム
「しっかりして」
「ゼラーナが来るわ。ね、聞こえるでしょ?」
ロムン
「ゼラーナか」
チャム
「ね」
「あっ、きゃっ……!」
ガラリア
「ん?」
「ロムン・ギブンか!」
「ロムンか!」
トッド
「うぅっ!」
「ショウ……!」
チャム
「やめて! やめなさい、野蛮人!」
ガラリア
「騒ぐな!」
ロムン
「う、うわっ……!」
ガラリア
「ロムン・ギブン、捕虜になってもらう」
「ん?」
チャム
「きゃっ、撃たないで! バラウにおじさんが捕まっているのよ!」
ガラリア
「撃ち落とせるものなら、撃ち落としてご覧よ!」
ロムン
「うわぁぁっ!」
マーベル
「はっ、あれはロムン・ギブン……!」
「バラウにロムン様が捕まっている! 撃たないで、ニー!」
マーベル
「聞こえて? バラウにロムン様が……!」
ニー
「父が?」
ドワ
「来ます。バラウが撃ってきます!」
ガラリア
「ははっ、ロムンは人質に頂く!」
ショウ
「当たれ!」
トッド
「わぁっ、ショウめ……!」
マーベル
「ショウ、聞こえて? バラウがロムン様を……!」
ショウ
「何?」
「ガラリアか!」
ガラリア
「ふん、撃てるものか」
「トッド、何をしている? ダンバインを!」
ロムン
「ショウ君、構わん! このウィング・キャリバーを撃て!」
ショウ
「ロムン・ギブン……!」
ガラリア
「撃てるものなら撃ってみな、ショウ・ザマ!」
ロムン
「ドレイク軍の機械は、1機でも少なくしなくてはならんのだ! 撃て、ショウ君!」
ドワ
「どうします、ニー・ギブン? ロムン様が……」
ニー
「成り行きだ。成り行きに任せるしかない……」
ガラリア
「今度斬るのなら、その剣の下にロムンの体を突っ込むぞ!」
トッド
「ガラリア、前が見えない! 当てずっぽうで撃つから避けろよ!」
ガラリア
「了解、撃て!」
「あっ……!」
ロムン
「うわぁぁっ!」
マーベル
「ロムン様!」
ニー
「父さん!」
ショウ
「ロムン・ギブン!」
トッド
「させるかよ!」
ガラリア
「トッドのドジが!」
トッド
「煩い!」
ショウ
「トッド!」
「ロムン・ギブンの仇!」
トッド
「うわぁぁっ!」
「ショウめ……!」
ショウ
「この、動け!」
ロムン
「ニ、ニー……ドレイクはミの国を攻めるつもりだぞ」
ニー
「ミの国を……?」
ロムン
「後を頼む……」
ニー
「あっ、うぅっ……!」
ショウ
「オーラ・バトラーが俺の生体エネルギーで操られるっていうのなら」
「俺さえ……俺の力さえ十分に発揮出来ていれば、こんな事にはならなかったんだ……」
「でも、そんな夢物語みたいな事が出来るのか……?」
マーベル
「出来るわ。これは夢ではないのよ。20世紀の現実の事なんだから……」
ショウ
「マーベル……」
マーベル
「えぇ……」