第7話 開戦前夜

前回のあらすじ
バイストン・ウェルの物語を覚えている者は幸せである。
私達は、その記憶を記されてこの地上に生まれてきたにも拘らず、
思い出す事の出来ない性を持たされたから。
それ故に、ミ・フェラリオの語る次の物語を伝えよう。
ゼラーナの補給部品を運ぶニーの父、ロムン・ギブン。
ショウ達の作戦のミスが、ロムン・ギブンの死を招いた。
子供
「わっ、くせぇ! 何だこいつ!」
ニー
「ははっ……」
「そんならよ、道を開けてくれよ」
子供
「すっげーくせぇ! こんなの珍しいよなぁ!」
農夫
「こら、余所様をからかうでね!」
子供
「だってこいつ汚ねぇんだもん!」
ニー
「ははっ、ははっ……」
ホン
「町の中で隠せる場所ねぇ」
マーベル
「ニーに何かあった時、すぐ助けに行けるくらいの所じゃないと困るでしょ?」
ホン
「いえ、そりゃそうなんですがね」
ショウ
「マーベルもお人好しだな」
マーベル
「何で?」
ショウ
「そうじゃないか。ニーの復讐やら恋の手伝いをしようっていうんだから」
ホン
「え?」
マーベル
「それは違うわ」
ショウ
「何故さ?」
マーベル
「ニーがリムルに近付くのは、情報収集の為よ」
ショウ
「建前はそうでも、結局はリムルにのぼせてんだろ?」
マーベル
「ニーはね、もっと大きい人よ」
ショウ
「マーベルはそれでいいのかよ?」
マーベル
「いいわ」
ショウ
「ニーは個人の感情だけで戦ってるんじゃないのか?」
マーベル
「ドレイクの陰謀の意味を知ってるから戦ってるのよ」
ホン
「ん、ここか」
「ここ……」
マーベル
「何があるの?」
ホン
「地下水道ですがね、ゼラーナを隠すという訳には行きません」
マーベル
「ダンバインとダーナ・オシーなら隠せるでしょ?」
ホン
「えぇまあ、それくらいならねぇ」
マーベル
「ゼラーナは却って人目に付き易いから、丁度いいわ」
「ね、ショウ?」
ショウ
「いいんじゃない?」
マーベル
「何怒ってんの?」
兵士
「よーし、次」
「そこで止まれ」
「名前は?」
ニー
「ノロクサだ。国境いから三日も掛かったすよ、ここまで」
兵士
「あまり喋るな」
ニー
「オラ、体の丈夫なのが取り得なので、何とか……」
兵士
「分かった分かった。行っていいぞ」
ニー
「本当すか、有難う御座います」
兵士
「おい、今の奴」
「宿舎へ行ったら、まず風呂へ入れ。いいな?」
ニー
「へ、へぇ、有難うごぜぇます」
ドレイク
「ご苦労。ここへ」
ガラリア
「はい」
ドレイク
「直ちにアの国王、フラオン・エルフの元へ走ってもらいたい」
ガラリア
「はい、畏まりました」
ドレイク
「お前がロムン・ギブンを倒した時、ロムンはミの国王宛の手紙を持っていたな」
ガラリア
「手紙……ロムン・ギブンが?」
ドレイク
「お前は、その手紙を発見したな?」
ガラリア
「はっ……?」
ドレイク
「この書類入れの中に入っている手紙だよ」
「ロムンがミの国王を唆して、我々アの国を攻めようという手紙だ。忘れたのか?」
ガラリア
「忘れてはおりません」
ドレイク
「流石はガラリアだ。フラオン王からロムンを倒した時の御下問もあろう」
「その時は、よくお話申し上げろ」
ガラリア
「はい」
ドレイク
「それ故に、私はフラオン王に代わり、ミの国を成敗する為に……」
ガラリア
「はい」
ドレイク
「軍を動かしたい。その許しをフラオン王から頂くのだ」
ガラリア
「はっ!」
ドレイク
「一刻も早く発て。ブルベガーを貸し与える」
ガラリア
「はい!」
ドレイク
「ミズル、頼むぞ」
ミズル
「はっ、失礼致します」
ドレイク
「……志願兵の集まりはどうか?」
バーン
「順調です」
ドレイク
「うむ。前線の固めも急がせておる。編成を急げよ」
バーン
「はっ!」
ドレイク
「バーン」
「リムルを見舞ってやってくれんか。あれも寂しがっておる」
侍女
「お薬をお持ちしました」
リムル
「私は、病気でも何でもないわ」
侍女
「そういう御様子が、御病気で御座いますよ」
リムル
「ねぇ、外はどんな様子なの?」
侍女
「いよいよ戦争が始まるそうです」
リムル
「えっ?」
「戦争……」
トッド
「マメだね、次々と新型を造るとは」
バーン
「やむを得んだろう。ショット様だって、すぐには完全なオーラ・バトラーは造れん」
ショット
「ドラムロを壊し続けるお前には、分からん苦労さ」
トッド
「悪かったよ」
バーン
「ではショット様、宜しく」
トッド
「未来の嫁さんとこか?」
ショット
「よーし、気を付けてやれ。そうだ」
ニー
「わ〜、待ってくれぇ!」
「わっ……!」
「こっちじゃない、向こうへ行け……あっ!」
「お〜い、と、止まれぇ!」
「いいぞ、このままリムルの所まで突っ走れよ」
バーン
「おい、お前」
ニー
「お助けくださいませ〜!」
「わっ!」
「バーンに会うとは……!」
バーン
「あの程度の馬も乗りこなせんとはな。新兵か?」
ニー
「は、はい」
「へへっ、お侍様のようには行きません……」
バーン
「精々、訓練に励め」
ニー
「ははぁっ……!」
バーン
「身嗜みにも気を付けてな」
ニー
「はぁっ、気ぃ付けます」
リムル
「戦争が始まるというのは本当ですか?」
バーン
「我が国を威かす隣国、ミの国を諫めなければなりませんからね」
リムル
「何故? いきなり戦争などと、話し合いで済むでしょうに」
バーン
「世の中は、姫様のような理想は通りはしないのですよ」
リムル
「んっ……」
バーン
「この戦いに功績があれば、姫様との婚約がドレイク様から許されます」
「いつまでも曖昧なままでは、いつぞやのように姫様の気紛れが出ないとも限りませんので」
リムル
「あれは……」
バーン
「必ず手柄を立てます故、お待ちを」
「私は全力を尽くして、姫様の心を動かしてみせます」
リムル
「気合だけで、女の心が動かせるものですか!」
キーン
「恥知らず! そんな事をお父様がお考えになるなんて……!」
キブツ
「まだ治り切っていないのだ。寝ていた方がいい」
キーン
「このキッス家は、何代も前からギブン家の世話になっているのよ?」
キブツ
「キッス家を再興する為だ。仕方なかろう」
キーン
「でもよりによって、ドレイク軍に入るなんて……お父さんには、恩に報いるという事がないのですか?」
キブツ
「一族を食わせる為にはやむを得んだろう」
「ドレイクに攻め滅ぼされては亡くなる」
キーン
「お父さん……!」
キブツ
「お前にも分からぬ道理ではあるまい」
キーン
「うぅっ……!」
チャム
「やっぱり帰ってたのね。安心したわ」
「どうしたの? 何が悲しいの?」
キーン
「駄目だわ、もう駄目よチャム」
チャム
「え?」
キーン
「もうここには居られない」
チャム
「ど、どうして……」
キーン
「こんな不義理な家に居たくないわ。ニー達の所へ行く!」
家臣
「フラオン王様、ドレイク・ルフトの上申書をお読み頂けましたでしょうか?」
フラオン
「あぁ、読んだ読んだ」
家臣
「ドレイク様の御家来がお返事をお待ちしておるんですが」
フラオン
「使いが待っておる? やれやれ」
フラオン
「難しい問題故、頭を悩ませた」
ガラリア
「はっ!」
フラオン
「我が国を威すミの国はけしからんな」
「宜しい、ドレイク・ルフトの上申を許可しよう。頼むぞ」
ガラリア
「有難き御言葉。ドレイク・ルフト、必ずや忠誠に励むと存じます」
フラオン
「ん、期待しておるぞ」
新兵
「参ったな」
 〃
「夕飯の後も扱かれるんじゃ、堪んねぇな」
 〃
「こんなとこ、来るんじゃなかったぃ」
ニー
「えっ、ロムン・ギブンの密書だって?」
新兵
「そうよ。ロムンがドレイク様を倒そうなんて考えなきゃ、戦争は起こらなかったんだってよ」
 〃
「そうそう」
ニー
「ドレイクめ、捏ち上げたな……!」
新兵
「閉めろよ、風が入ってくるじゃないか」
ニー
「リムルを攫ってこの城を脱出する」
「ドレイクのやる事、尽く許せん!」
キーン
「しっかりバランス取って……!」
ドワ
「やってるよ」
チャム
「ああん、こんなに木を倒したら見付かっちゃう〜!」
キーン
「仕方ないでしょ?」
マーベル
「こっちよ、ショウ」
ショウ
「何で分かるんだ?」
マーベル
「木を倒す音がしたわ」
ショウ
「よし」
チャム
「え、ショウも馬に乗れんの?」
キーン
「みたいね」
ショウ
「わっ……!」
チャム
「ははっ、やっぱり!」
マーベル
「なるべく低く飛ぶのよ、ショウ」
ショウ
「そんなに俺は頼りないのか?」
マーベル
「ごめんごめん、そんな事ないわ」
ドワ
「ダンバイン、ダーナ・オシー、急いで発進してくれ。ゼラーナの体勢を直したい」
マーベル
「了解」
ショウ
「ほらほら、急いでよ」
「張り切っちゃってさ」
侍女
「戸締りをちゃんとしないと。余所者が入り込んでいるから……」
キブツ
「どこへ行く? 城内の者ではないな、その素振りは」
ニー
「ま、待ってください。便所を探していたら、こんな所に……」
キブツ
「城中深くに入り込み過ぎだ」
ニー
「キブツ……キブツ・キッスじゃないか」
キブツ
「何? お前にそんな呼ばれ方をされる覚えはない」
ニー
「私だ。ニー・ギブンだ」
キブツ
「ニー様……!」
ニー
「変装している。お前にも分からないというからには、大したものだ」
キブツ
「何でまた……」
ニー
「私こそ聞きたいな。何故、お前がここに居るんだ?」
キブツ
「何故と申されましても、キッス家と致しましては……」
ニー
「ルフト家に味方せざるを得ないのか?」
「それが世の理というものか」
キブツ
「私にも、部下も居れば家族も居ります」
ニー
「しかし、ドレイクの娘のリムルでさえ、父への反骨の意思を見せている」
「それを、お前が……」
兵士
「異常ないか?」
 〃
「はっ、ありません」
キブツ
「こちらから……!」
ニー
「すまん」
ニー
回想:「敵の情報を取るのが先だ。その為にはリムルに会うか、ラース・ワウから脱出させたい」
マーベル
回想:「無茶よ。一人でラース・ワウに入るなんて……」
ニー
回想:「決めたんだ」
ショウ
回想:「熱くなり過ぎじゃないかな、ニー」
ホン
回想:「危険になったら、この蛍を放してください」
ニー
回想:「すまん、ホン・ワン」
ショウ
回想:「ただリムルに会いたいから出掛けるっていうんじゃないんだろうな?」
マーベル
回想:「ショウ、やめなさいよ」
ショウ
回想:「マーベルはいいのかよ?」
マーベル
回想:「情報は必要よ」
ニー
「うぃ〜っと……お勤めご苦労さんです」
兵士
「お前らの行く所は向こうだろうが」
ニー
「あれ? 来たばっかで慣れてねぇもんで。あらそうですか」
兵士
「こいつ、酔ってるのか?」
ニー
「あんた達だって……!」
兵士
「わっ!」
 〃
「貴様、わっ……!」
兵士
「あっ、貴様……!」
リムル
「誰?」
「何者です、衛兵を呼びますよ!」
ニー
「私です!」
リムル
「誰か……!」
ニー
「リムル、私だ!」
リムル
「気安い事を……!」
「ニー、あぁっ……!」
「お会いしたかった」
ニー
「私も……」
リムル
「お話したい事が山ほどあります」
「もうお会い出来ないものと覚悟していたのに。良かった」
兵士
「うぅっ……!」
バーン
「どうした、何をしている?」
兵士
「あぁ、新入りの志願兵がいきなり殴ってきまして」
バーン
「志願兵が?」
ショウ
「マーベル、弁当食べないのか? 体が参っちまうぞ?」
マーベル
「要らないわ」
ショウ
「体は冷えちゃうしさ。少し休んだら?」
マーベル
「じゃあ、替わってくれて?」
リムル
「ニー、大丈夫? お城を出られて?」
ニー
「大丈夫。ロバの隠してある所まで、もう一息です」
「しまった……!」
バーン
「見事な道化ぶりだったな、ニー・ギブン。残念ながら君の名演技もここまでだ」
兵士
「うっ!」
 〃
「恐れるな!」
バーン
「この城から出すな!」
リムル
「ニー!」
ニー
「えいっ!」
バーン
「前へ回れ、前へ!」
リムル
「ニー!」
ニー
「リムル!」
リムル
「バーン、お放し!」
バーン
「姫様、お戻りください!」
リムル
「放しなさい、バーン!」
バーン
「この男を捕えろ! 殺すなよ!」
ニー
「リムル、すまん!」
兵士
「待て、待てぇーっ!」
ニー
「とぉっ!」
マーベル
「はっ、ニーが危ない……!」
「ショウ、ニーからの合図が上がったわ! 失敗したのよ!」
ショウ
「言わんこっちゃないんだ」
「何で、そんなに一生懸命になれるんだよ!」
マーベル
「えっ?」
ショウ
「止めるのも聞かずに勝手な事して、危なくなったら助けてくれっていうの、虫が良すぎるよ!」
マーベル
「何言ってるの、今更!」
ショウ
「臭いのする所に待たされてさ……!」
マーベル
「しっかりしてよショウ。きっと今頃、ニーはバーンに捕まっているわ」
ショウ
「知らないよ」
マーベル
「お願いよショウ、私はニーを助けたいのよ」
ショウ
「他の女に会いに行ったんだぜ?」
マーベル
「今の私は、そのニーを助けてあげたいの。好きにさせて。ねぇ、手伝って……!」
ショウ
「俺だって好きにしたいよ……!」
兵士
「逃がすな、足を狙え!」
 〃
「待てぇっ!」
ニー
「とぉっ!」
兵士
「逃がすなぁっ!」
 〃
「待てぇっ!」
ニー
「うっ……!」
兵士
「わぁぁっ!」
リムル
「嫌です! 私はニー様とここを出ます! 放してください、嫌……!」
バーン
「我儘娘が……!」
「どうした?」
兵士
「ドラムロが盗まれました!」
バーン
「ドラムロをビランビーに向けさせるな! 前庭へ誘き出せ!」
兵士
「はっ!」
ドレイク
「ん?」
ルーザ
「何事です、こんな夜分に……」
ドレイク
「新兵共が騒ぎ立てているようだ。どうという事はあるまい」
ルーザ
「軍の集結は、機械の館の方でやって頂きたいものです」
ドレイク
「今後はキロン城でやるよ」
ルーザ
「キロン城?」
ドレイク
「むっ……!」
ニー
「ドレイク・ルフトめ、抜け抜けと観戦か!」
兵士
「撃てぇぇっ!」
バーン
「親方様の寝所には防火線を張れ!」
ドレイク
「ぬっ、ドラムロが……!」
ニー
「ドレイク・ルフト!」
ドレイク
「何者だ!」
ニー
「ニー・ギブンだ!」
ドレイク
「ロムン・ギブンの息子が……!」
ニー
「父の密書があるなどと、貴様、よくも企んだな!」
ルーザ
「貴方、お下がりください!」
兵士
「ビランビーが出るぞ!」
バーン
「ニー・ギブン、親方様に手出しはさせん!」
ニー
「新型のオーラ・バトラー……!」
「速い!」
バーン
「オーラ・バトラーは、貴様のような俗人には扱えんのよ!」
ニー
「追い付かない!」
バーン
「己の力のなさを知るがいい!」
ニー
「くそっ、煩い奴らめ……!」
兵士
「ええいっ!」
ショット
「ビランビー、いい動きをしている」
「キブツ殿、貴方はどちらの肩を持ちますかな?」
ニー
「しまった!」
バーン
「ニー、これまでだな!」
「ダンバイン!」
ショウ
「どうしたニー、大分予定と違うじゃないか!」
マーベル
「ショウ、いい加減にして!」
バーン
「旧式のオーラ・バトラーなど何機来ても、このビランビーの敵ではない!」
トッド
「手伝うぜ、バーン!」
バーン
「トッド・ギネス、助けは要らん!」
トッド
「そう言うなって!」
マーベル
「ショウ、こっちは私が引き受けたわ!」
ショット
「ふふっ、元主の息子さんが苦戦ですな」
キブツ
「意地の悪いお方だ、ショット殿は……」
マーベル
「あっ、あぁっ……!」
ショウ
「マーベル、大丈夫か!」
マーベル
「駄目だわ、ごめんショウ!」
ショウ
「こっちもニーがやられちまって……!」
バーン
「貴様もただでは帰さん!」
ショウ
「んっ、くっ……!」
バーン
「チッ……!」
「何?」
兵士
「おぉっ……!」
ドレイク
「ロムン・ギブンの息子ニーと、ダンバインのショウ・ザマか……」
ホン
「ニー様、リムルの事は暫くお忘れになった方が……」
ショウ
「あんたはもっと、身近に居る人の事を考えてやったらどうなの?」
「このままじゃ、ゼラーナはやっていけない」
「もう、今度みたいな事はご免だぜ、ニー!」
ルーザ
「一度ならず二度までもニーの手引きに乗る……もう一歩もこの部屋から出しません」
「宜しいか、リムル」
リムル
「うっ、うぅっ……!」