第9話 天と地と

前回のあらすじ
バイストン・ウェルの物語を覚えている者は幸せである。心豊かであろうから。
私達は、その記憶を記されてこの地上に生まれてきたにも拘らず、
思い出す事の出来ない性を持たされたから。
それ故に、ミ・フェラリオの語る次の物語を伝えよう。
二度目のラース・ワウの攻撃を仕掛けるショウ。
しかし、ルーザの脅しの前にショウはシルキーを助け出す事なく、引き上げざるを得なかった。
キーン
「ニー、どうあってもフェラリオの世界に行くつもり?」
ニー
「シルキー・マウを助け出せなかったんで、ショウがフェラリオに会いたいんだとさ」
ショウ
「それは違うだろ、ニー。ミの国を助けるには戦力が足らないんだ」
「だからフェラリオに協力を取り付けたらって……」
マーベル
「言い争いは下でして頂戴。ドワが操縦出来ないでしょ?」
チャム
「クスタンガの丘へ行っても、何も教えて貰えないわ」
ドワ
「でもなチャム、コモンのみんなが苦しんでるのに」
「あんた達のお姉さん方が知らん顔ってのは、虫が良過ぎるんじゃないか?」
チャム
「昔からずっとそうなんだもん」
ショウ
「シルキーはドレイクに手を貸しただろ?」
チャム
「あれはドレイクがいけないのよ」
ニー
「本来、フェラリオとコモンは関わり合いを持ってはいけなかったが」
「ドレイクはどっからか、フェラリオを閉じ込める為の結界を手に入れたんだ」
一同
「わっ……!」
チャム
「嵐の壁よ。ゼラーナだって突破出来ないわ」
ニー
「ドワ、パワーを上げろ!」
ドワ
「今で一杯です!」
ニー
「機械的なオーラ増幅器では限界なのか?」
マーベル
「ゼラーナやドロはただ動くだけよ? オーラ・バトラーとシステムが違うわ」
ニー
「しかし、地上人が二人も乗ってるんだ。パワー・アップさせられんのか?」
ショウ
「俺達は手品師じゃないんだ」
チャム
「戻ろ戻ろ」
ショウ
「喋るな、チャム」
ショウ、チャム
「わっ……!」
ニー
「基本の仕掛けは同じ筈だ。パワーは上がる!」
マーベル
「感動的に純粋なのね」
ニー
「悪いか? オーラ力を信じるんだよ!」
「フォウが……!」
ショウ
「あっ……!」
マーベル
「前方に光が見えるわ」
「はっ……!」
「後一息みたいよ、ニー」
チャム
「着いちゃった、私達の国に……」
「怖い! お姉様達に見付かったら、お仕置きされちゃうの!」
キーン
「オーラの力で嵐の壁を突破したという訳……?」
ニー
「それはどうかな。ゼラーナの力だけだったかもしれない」
マーベル
「この様子では、壁を越えたら不幸に見舞われるという伝説は、嘘のようね」
ニー
「チャム、降りるぞ。クスタンガの丘へ案内してくれ」
チャム
「駄目……お姉様達の所なんか行かない!」
ニー
「チャム……」
「出てきてくれ、チャム」
チャム
「嫌! 乳母が居るわよ。乳母に聞けばいいでしょ?」
マーベル
「乳母はどこに居るの?」
チャム
「その辺を飛んでるでしょ。もう喋らせないで!」
ミ・フェラリオ
「あぁ、コモンの機械だ。本当に空を飛んでいるわ」
 〃
「ねぇ、みんなに知らせないといけないんじゃないの?」
 〃
「乳母に知らせなくっちゃ」
 〃
「コモンの機械だって? 知らせて!」
ミ・フェラリオ
「ああんっ!」
ショウ
「フェラリオが蜘蛛の巣に引っ掛かってる……」
ミ・フェラリオ
「コモンの方か。く、蜘蛛が……!」
ショウ
「乳母を捜してるんだ。教えて欲しい」
ミ・フェラリオ
「乳母? ……時間ないわ、赤ちゃんが産まれるっていうのに」
ショウ
「あ、おい……!」
ミ・フェラリオ
「さ、いらっしゃい」
「新しい命です。祝福してやってください」
トッド
「バーンの隊は、ミの国の国境を越えたんだろ? 急ぐ事はないだろうに」
ガラリア
「明日が城攻めだ。支度がある」
ニー
「取り込み中で恐縮だが、教えて頂きたい」
ミ・フェラリオ
「コモンの方々に教える事はありませんが」
ショウ
「お姉様方に会いたいんだ」
ミ・フェラリオ
「コモンの方に行けるとは思えないけど……助けてくれたお礼にお教えしましょう」
「ほら」
「あのガラの山は、天に届いてるでしょ?」
「あの山に添って天に登れば水の国に入れるけれども、生身の体では天に潰されるだけよ」
ショウ
「有難う、じゃ」
ニー
「失礼する」
ミ・フェラリオ
「……あ、ごめん。まだまだ足らなかったのね」
チャム
「やめてニー、お姉様方の所まで行くなんて、出来る訳ないでしょ?」
ニー
「やってみなければ分からないだろ」
ショウ
「何だ、ニー?」
ニー
「もしもゼラーナで天の壁を突破出来なかった場合は……」
ショウ
「ダンバインだけでも突破してみせる」
チャム
「天の壁は、嵐の壁なんかとは違うわ!」
ニー
「チャム……オーラ・シップは、バイストン・ウェルのエネルギーを吸い込んで、力にしているんだ」
マーベル
「それに、ショウのオーラ力は増幅してるわね」
ニー
「あぁ、認める」
ショウ
「チャム、俺は何としてもフェラリオ達の本音を聞きたいんだ」
チャム
「天の壁にぶつかって、ゼラーナは壊れるわ!」
ニー
「その時は、我々に運がなかったと諦める」
「精神を前方の天の壁に集中しろ! みんなにオーラ力がある事を信じるんだ!」
チャム
「やめてぇ!」
ショウ
「ニー、行け!」
チャム
「やめてよニー、やめなさい!」
ニー
「よせ!」
一同
「わっ……!」
ニー
「体が、体が重い……!」
ショウ
「うぅっ……!」
「行ける!」
「はっ……!」
エ・フェラリオ
「ジャコバ様、コモンの機械が現れました」
ジャコバ
「私も見ている」
ニー
「エ・フェラリオの住処だ」
キーン
「こんなに沢山?」
マーベル
「ショウ、聞こえる? 前方にフェラリオが居るわ」
ショウ
「大体ここは、バイストン・ウェルの空の上の、海の中なんだろ? 何でこんな所があるんだ?」
マーベル
「気圧計は高くも低くもないわ。どういう事なの?」
ニー
「分からん。海中らしいのだが……」
ジャコバ
「コモンの者達よ!」
「恐れを知らぬコモン達よ、フェラリオの安住の地へ何故、足を踏み入れた?」
マーベル
「何……?」
ニー
「こ、こりゃ……!」
ジャコバ
「我々の学びの時を乱した罪は深いぞ。天罰がお前達の身に襲い掛かる」
ニー
「待ってくれ。我々の頼み事を聞いて欲しい」
ジャコバ
「フェラリオが何故にして、コモンの頼みを聞かねばならんのだ?」
ニー
「ここに地上人が居る。地上人をバイストン・ウェルへ誘い込んだのはお前達の仲間だ。この責任はどうする?」
ジャコバ
「我らフェラリオには関係のない事だが」
ショウ
「冗談じゃない! 俺達はあんたらに会う為に、真っ直ぐここに来た!」
マーベル
「今なら、悪意を持って機械を操る人々を、鎮める事が出来ます」
ジャコバ
「死ぬ者に未来はない。死ぬ者に過去はない。ただ静かに眠るがいい」
ショウ
「俺は、お前達の仲間のシルキーに呼ばれた!」
ジャコバ
「シルキー? シルキー・マウか……」
エ・フェラリオ
「シルキー・マウは、学ぶのが嫌いで遊び好きのフェラリオです」
ジャコバ
「結界を取られたのか……」
「知らん! シルキー・マウの事なぞ知らん!」
ショウ
「何?」
ジャコバ
「消えろ! コモン達、地上人達!」
一同
「わっ……!」
ショウ
「ぬぅ、あぁっ……!」
「このままじゃ、ゼラーナと逸れちまう! フェラリオめ……!」
マーベル
「分かってください! 世に顕れる事は全て関わりがあるというのに、何故、無関心でいられるんです?」
ジャコバ
「バイストン・ウェルは魂の安息の場である。肉を持つ者との関わりはない」
ショウ
「口先ばかりのエ・フェラリオめ!」
ジャコバ
「エ・フェラリオではない。ジャコバ・アオン!」
「今日がミ・フェラリオの生まれた良き日でなければ、うぬらは死者になっていた!」
マーベル
「あのフェラリオは、ガロウ・ランじゃないの?」
チャム
「ジャコバ様を怒らせたからいけないのよ! もうお終いよ!」
ショウ
「ハイ・ウェイ……!」
マーベル
「ダラスの町……私の故郷が目の前よ!」
ニー
「何、本当か?」
マーベル
「ええ」
チャム
「へぇ、四角でガラスばっかりの箱みたい」
ショウ
「また嵐の壁だ」
ニー
「バイストン・ウェルに戻ったのか?」
マーベル
「今、ダラスを見たというのに……」
チャム
「嵐の壁? じゃ、クスタンガから離れたのね?」
「あ、フォウが飛んでる!」
「ニー、元の所へ戻ってこれたのよ。ニー」
ショウ
「間違いなく俺達は、バイストン・ウェルから戻ってこれたんだ」
マーベル
「でも、ショウも見たでしょ? ダラスの町を……あの町は私の故郷なのよ」
ショウ
「フォウを取ってくる」
「ニー、ドッキング完了だ! ゼラーナの下に回り込む!」
ニー
「了解。しかし、ドッキングしたままでやるのか?」
ショウ
「勿論」
「帰還した。パワー全開だ、ニー!」
ニー
「了解!」
ニー
「ああ、コモンの世界に戻った……」
マーベル
「でも、何も得られなかったわ……ほんの僅かの協力さえも……」
ニー
「俺達が甘かったんだ。バイストン・ウェルの法は、まだまだ残っていたのか」
キーン
「こんなんじゃ、コモンの世界に戻ってきたって仕方がないじゃない」
ショウ
「そんな事ないさ。俺達だけでも全力を尽くして戦ってみせれば、ドレイク軍に手傷ぐらい負わせられる」
マーベル
「何故、そう思うようになったの……?」
ショウ
「今見た町が本当にダラスだとしたら、この世界と地上の俺達の世界は繋がってるんだ」
「あのフェラリオが言うように、無関係である訳がないんだ」
マーベル
「えぇ、そうね……」
ショウ
「マーベルの言ってた通りさ」
「オーラ・バトラーをもっとコントロール出来たりしたら、地上へも自由に行ける……」
「そしたら、ドレイクは何を考える?」
キーン
「でも、地上にあんな町があるなんて信じられないわ」
ドワ
「どこか、港の方の町じゃないのか?」
マーベル
「生命保険会社のビルがあったわ。英語の文字も見えた」
ニー
「あれはバイストン・ウェルの光景じゃない……」
「ショット・ウェポンめ、この世界を破壊するような機械を作ったというのか」
ショウ
「それを関係のないもんだと思っているフェラリオの連中に、はっきり教えてやらなくっちゃ」
「法を破る機械の出現は、人の魂を滅ぼすんだって事をさ」
ニー
「行くぞ、ミの国へ! ドレイクの軍を止めなければならない!」
キーン
「父上が……父上がドレイクに手を貸して、何の罪もない人々を苦しめてるなんて……!」
ニー
「ぐ、軍は動き出していたのか……!」
ショウ
「ドレイクめ……出るぞ、ニー!」
ニー
「よし、行ってくれ!」
ショウ
「あっ……!」
マーベル
「どうしたの、ショウ?」
チャム
「ショウ!」
ショウ
「大丈夫だ。躓いただけだ」
チャム
「顔色良くないよ?」
ショウ
「大丈夫だって」
マーベル
「私もフォウで出るわ」
ニー
「オーラ力を使い過ぎたのかな?」
マーベル
「大丈夫よ」
ニー
「総員、敵を分断していく! いいな?」
兵士
「ギブン家のオーラ・シップが来たぞ!」
マーベル
「ショウ、右翼後続部隊は?」
ショウ
「よし!」
兵士
「来たぞ!」
ショウ
「騎兵の足を止めればいいんだ。前方の道を狙え!」
マーベル
「了解!」
兵士
「いいぞ!」
ショウ
「くっ……!」
兵士
「火薬矢を放て!」
ショウ
「迂闊な、力が出ないなんて……!」
チャム
「あぁっ!」
ニー
「不味いな……」
ドワ
「いつものダンバインみたいじゃないな」
ニー
「騎兵を舐めすぎているんだよ」
ドワ
「何か来る」
チャム
「えっ!」
ガラリア
「ゼラーナが居た……その前方はダンバインか?」
兵士
「後続のトッド様を呼び出します」
ガラリア
「私達だけで十分だ」
兵士
「は、しかし……!」
ガラリア
「事あるごとに地上人に助けを求める癖をなくせ。バイストン・ウェルの戦士の誇りを忘れるな」
兵士
「はっ……」
ガラリア
「本陣へのいい土産になる」
カプラン
「うわぁぁっ!」
キーン
「あっ、私が遅かったばかりに……!」
「機首はどうした? 撃たんのか?」
キーン
「カプランがやられたのよ! 今は撃てないわ! まだ温かいのよ!」
トッド
「ガラリアの先走りめ、城攻めまでに間に合えばいいってのに」
「ふぁっ……」
「バラウとゼラーナか。お先走りが!」
ガラリア
「何?」
「またあの女か? 地上人の女に、この世界を掻き回させはしない!」
マーベル
「ドレイクの手先め!」
兵士
「うわぁぁっ!」
 〃
「ぉっ……!」
ショウ
「ん、あの音は!」
トッド
「騎馬隊、邪魔だ! 散れ!」
「動きが鈍い? どういう事なんだショウ、やらせてもらうぞ!」
ショウ
「やらせてもらうだと、くっ……!」
「やぁっ……!」
トッド
「落ちろぉぉっ!」
ショウ
「くっ……!」
トッド
「貰ったぜ、ショウ!」
ショウ
「た、弾が出ない!」
トッド
「何?」
「ガラリア……ガラリア、来い!」
「連中め、腕を上げていやがる」
整備兵
「援軍、ご苦労であります」
ガラリア
「ドラムロを整備させろ」
整備兵
「はい」
ガラリア
「バーン・バニングスは?」
整備兵
「ブルベガーにいらっしゃいます」
トッド
「城攻めまでには直してくれよ?」
「……何故、一人で仕掛けた?」
ガラリア
「トッドが遅かったからだ」
トッド
「なのに、ダンバインとやっている時は手出しをしなかったな?」
ガラリア
「お前にオーラの力を感じたから、勝てると思ったのさ」
トッド
「それ程に手柄を独り占めにしたいのか。それ程、男と対等になりたいのか」
ガラリア
「私は戦士だよ。騎兵の出なのだ」
トッド
「ガラリア……今度だけは黙っていてやるが、このままだと我々はダンバインにやられるぞ!」
ガラリア
「放せ、兵が見ている」
トッド
「都合で男と女を使い分けんじゃないよ」
トッド
「入るぞ」
「ガラリア・ニャムヒーとトッド・ギネス、只今無事到着」
「……と言いたい所だが、ゼラーナとダンバインに接触。ドラムロが損傷した」
「毎度言い訳がましいが、ドラムロじゃダンバインに歯が立たないぜ」
ニー
「ドレイクの機械化部隊の行く所、野火が広がるだけだ」
キーン
「こんな事に、父が手を貸してるなんて……!」
チャム
「仕方ないよキーン、バイストン・ウェルの人達はみんなこうして来たんでしょう?」
キーン
「良くはないわよ……!」
ショウ
「赤ん坊の泣き声が聞こえないか?」
ニー
「いや……」
マーベル
「ゼラーナを止める?」
ニー
「難民を助けるのか? 百人、千人と助けてどうするんだ?」
マーベル
「そうね……私達じゃ食べさせていけないわ」
ショウ
「ドレイクを止めるしかないんだよ……それが……!」