第10話 父と子

前回のあらすじ
バイストン・ウェルの物語を覚えている者は幸せである。心豊かであろうから。
私達は、その記憶を記されてこの地上に生まれてきたにも拘らず、
思い出す事の出来ない性を持たされたから。
それ故に、ミ・フェラリオの語る次の物語を伝えよう。
フェラリオの国に入ったゼラーナは、彼らの協力を得られなかった。
再び、コモンの世界に戻ったショウ達は、そこにドレイク軍の惨劇を見た。
整備兵
「ゼット様、このドラムロの頭の接続部分が滅茶滅茶です。どうします?」
ゼット
「ビランビーのアタッチメントが一つ残っていた筈だ。それで何とかしろ」
整備兵
「は、はい!」
 〃
「こう無茶な戦い方されちゃ、堪らんぜ」
 〃
「全く、頭に来た……イタッ!」
ゼット
「急げ! 昼までには完璧な形で元通りにするんだ」
整備兵
「だからやってるだろ……」
バーン
「後続部隊として本隊と合流する途中にゼラーナと接触、独断で攻撃を掛けた事は軽率であったな」
「殊にガラリア……己のオーラ力を信じ過ぎ、トッドの援護も遅れる結果となった」
「キロン城を落とした後で、厳罰があると思え!」
ガラリア
「ふん、目の前に敵が居れば、まずは討って出る……当然の事をしたまでだ」
バーン
「ガラリア!」
トッド
「バーン・バニングス……いいじゃないか」
「ガラリアのオーラ力は鍛えられ始めているんだ」
「任せたらどうだ?」
バーン
「しかし……」
ミヅル
「バーン殿、トッド様の言う事も一理ある」
バーン
「多少オーラ力を自覚したからといって、ガラリアに身勝手に振舞われては、指揮が乱れる」
「いつでも他の者に代える!」
ミヅル
「議論は戦いが終わってからにしましょう」
「バーン殿、キブツ・キッスの前線部隊が、ヘッドバーンの湖に到着する頃合だ」
バーン
「分かった」
「キロン城に辿り着く為の最後の難所だ。一同出撃だ!」
「……ガラリア、自重しろよ?」
ガラリア
「分かっている」
民間人
「はっ……!」
兵士
「そうら!」
民間人
「坊や!」
兵士
「ははっ、どうだ俺の腕は!」
「あっ……!」
 〃
「ゼラーナ!」
 〃
「ギブン達の船だ!」
キーン
「人でなし!」
兵士
「わぁぁっ!」
老婆
「返してください……!」
兵士
「放せ!」
老婆
「あぁっ……!」
兵士
「こいつ、せっかくの米を!」
「くだばれ……うっ!」
キーン
「早くこっちへ!」
「この船に乗って逃げるのよ!」
兵士
「ゼラーナだ! ゼラーナが来たぞ!」
ショウ
「急いで!」
「難民を助けてる暇はないと言いながら、結局こうなっちまう……!」
「急いで!」
老婆
「溢すでない!」
ショウ
「頑張って……!」
マーベル
「ニー、やって! 追っ手が増えるだけよ!」
民間人
「うぅっ……!」
マーベル
「はっ……!」
ショウ
「落ちるなよ!」
キーン
「すいません、少し休ませてもらっています」
ニー
「何なら、今の内に少し眠っておけ」
キーン
「眠れそうもないわ」
ニー
「元気ないな」
キーン
「父が、この人達の村を襲ったのだと思うと、堪らないのよ……!」
ドワ
「あたたっ……!」
ニー
「それくらい我慢しろ!」
キブツ
「2番機3番機、投石器を潰せ!」
「砦からオーラ・バトラーが出たぞ!」
ミの国・兵士
「てぇいっ!」
 〃
「うわぁぁっ!」
キブツ
「たった1機のオーラ・バトラーだ。包囲して撃ち落とせ!」
ガラリア
「トッド様は剣は使えるのか?」
トッド
「ご免被るね。俺には飛び道具がある」
ガラリア
「だが、弾には限りがあろう」
キブツ
「城門はまだ破れないのか」
ミの国・兵士
「いいぞ」
キブツ
「あのオーラ・ショット砲を叩かねば、状勢は変わらんぞ」
「ええい迂闊な、たった1機のオーラ・バトラーに……!」
バーン
「騎馬隊、止まれ!」
ガラリア
「何?」
「バーン、何故一挙に攻め込まない?」
バーン
「キブツ・キッスの活躍振りを暫く見物する」
ガラリア
「物見遊山に来たのではないぞ、我々は」
バーン
「遅かれ早かれあの砦は落とせる。キブツに任せておけば良い」
「出来る事なら、我々の部隊は無傷で済ませたい」
ガラリア
「狡猾な……この男、いつかは私の前に跪かせてやる」
ミの国・兵士
「うわっ!」
 〃
「うぅっ……!」
 〃
「く、来るぞ!」
バーン
「頃合だな」
「兵士達よ、これより謀反を企むミの国最大の砦を叩く為、キブツ・キッスを援護する!」
ガラリア
「謀反を企む逆賊か……ふん、よく言う」
ミの国・兵士
「わぁぁっ!」
バーン
「ビランビー、いい動きをする」
キブツ
「バーン様、お手数を掛けます」
バーン
「キブツ・キッス、この程度の砦を落とすにしては、手間取ったな」
キブツ
「申し訳御座いません。ドロも2機失いました」
バーン
「しかし、働きは見事と言っておこう。これでキッス家は安泰というものだ」
キブツ
「有難う御座います」
「しかし、決して安くはない捕り物だ」
バーン
「ヘッドバーンの砦を落とした。勝ち鬨を上げろ!」
ショウ
「砦が落ちたのか」
チャム
「見張りよ」
キーン
「あっ……!」
ホン
「ワン、ワン……!」
兵士
「犬が出たぞ」
 〃
「こんなとこで恐れちゃ詰まらん。行くぞ!」
ホン
「……はぁ、どういうつもりなんすか?」
ショウ
「あいつらを捕えなくったって、親父さんの居場所は直ぐに分かる。焦るなよキーン」
キーン
「くっ……」
ショウ
「急ぐなキーン」
チャム
「焦っちゃ駄目だって言われたばっかでしょ、キーン」
キーン
「あっ……」
部下
「……この戦で、働きは認められたのです」
 〃
「バーンの進言で、ドレイクも我々を優遇してくれるに違いありますまい」
キブツ
「それは当てには出来んな。バーンが一国の主にでもなれば話は別だが」
部下
「ドレイク様はキッス家をお認めにならないとでも……?」
キブツ
「それはそうだろう。せめて家が潰れぬだけでも幸いと思う事だな」
部下
「親方様……」
キブツ
「出世を望むなら、いつ俺から離れても構わんぞ」
部下
「そのような……」
 〃
「私達は……!」
キブツ
「それはいい」
キーン
「父上……!」
キブツ
「お前……!」
ショウ
「声を出すと撃つぞ!」
キーン
「お父さん……私はお父さんの通った後の、町と村を見ました!」
「何故、あんな軍の為に手を貸したのです!」
部下
「お嬢様……親方様は、家を守る為に……」
キーン
「黙ってて! 貴方なんかに私の……!」
キブツ
「来るんだ!」
キーン
「あっ……!」
キブツ
「お前達は見張っていろ」
部下
「は、はい!」
キーン
「ただ家を守る為だけに、どうして屈辱的な生活を選ぶの?」
キブツ
「私には、そうしなければならない義務がある」
キーン
「何故?」
ショウ
「貴方のやっている事は、家の為ではない。ドレイクに力を付けさせる事だとは考えませんか?」
キブツ
「地上人か……余所者には関係ない」
ショウ
「やってはいけない事を、貴方はやろうとしている」
キブツ
「キーンを連れて去れ!」
キーン
「あっ……!」
ショウ
「後悔しますよ、キブツさん……」
キブツ
「武家の立つべき道がある。義がある。キーンを連れて去れ」
キーン
「父上……!」
キブツ
「親子の縁は切った! 行かねば斬るぞ……!」
キーン
「うぅっ……!」
チャム
「あ、キーン!」
ショウ
「貴方は、家の為には子供を捨てるというんですか?」
キブツ
「家がなければ人は生きて行けぬ。子も作れん」
「家があっての武人である道理、地上人であろうとも分からぬ事はあるまい」
ショウ
「家がなくても子供は育っていくんだぞ。キーンはこれから一人ぼっちで……!」
キブツ
「男手一つで育ててきた口惜しみなぞ、子供に分かる訳がない!」
ショウ
「俺が子供だというのか?」
キブツ
「子供は育ててはおるまい。キーンと共に行けと言っておる。頼む」
ショウ
「キブツ・キッス……」
キブツ
「……キーンを頼む」
部下
「親方様、宜しいのですか?」
キブツ
「ああいい。仲間の下へ戻ったのだ。あの子の為にはこれでいい。ニーは信頼出来る男だ」
部下
「親方様、私達の為に……」
キブツ
「もういいだろう」
部下
「逃がすな、敵だ!」
 〃
「手を貸してくれ!」
キブツ
「あちらの方へ人影が走った!」
「後は騎馬隊に任せればよい!」
部下
「はい!」
バーン
「何事だ?」
兵士
「ギブン家の者が潜んでたようです」
バーン
「ギブン家の者……」
「キブツ・キッスが見付けただと?」
ニー
「キロン城に入るには、ヘッドバーンの湖の上空は避けねばならんな」
「もっとも、入れてくれればの話だがね」
マーベル
「どういう方なの?」
ニー
「小さい頃あったきりで、よくは知らない。何しろ原因が原因だからな」
キーン
「チキン、おかわりあるよ」
ショウ
「もういい」
ニー
「ホン・ワン、ミの国のピネガ・ハンムの所に行ってくれ」
ホン
「へぇ」
ニー
「返事を貰って、ウォーター・アップで合流しろ」
ホン
「分かりました」
ニー
「ドワ、出発するぞ!」
老婆
「あんな機械があるから、戦争が酷くなるんじゃろうな……」
ゼット
「どうですトッド殿、調子は?」
トッド
「動きがずっと軽くなった。俺のオーラ力がアップしたのかな?」
ゼット
「ご冗談を……新しいオーラ・マルスを組み込んだのです。三割方パワーは上がる」
トッド
「修理の度にグレードをアップするなら、また壊してみるか」
ゼット
「オーラ・マシンの数が増えています。手間を掛けないで欲しい」
バーン
「ドレイク様が着き次第、キロン城を攻める。各ドロ隊は……」
兵士
「バーン様」
バーン
「何か?」
兵士
「ニグ・ロウから報告であります。ゼラーナがウォーター・アップに侵入したとの事であります」
バーン
「ウォーター・アップ……キロン城に近いな」
ガラリア
「取り敢えず、叩く!」
バーン
「ガラリア、待て」
ガラリア
「一々止めるな!」
バーン
「堅苦しく止めるつもりはない。ドレイク様の後続部隊を待つ間の座興に、悪くはない話だ」
トッド
「俺もテストを兼ねて行ってもいいぜ、バーン」
バーン
「いや、聖戦士殿には城攻めで働いてもらおう」
ガラリア
「何を企んでいるのだ、バーン」
バーン
「戦いというものは、戦力よりも部下の忠誠心が勝負を左右するものだ」
「キブツがかつての主、ニー・ギブンの首を取ってくれば、信頼の保証となる」
ガラリア
「それはそうだが……」
バーン
「この仕事、キブツ・キッスが打って付けだ」
ショウ
「へぇ……」
キーン
「地面の熱で、水が下から噴き上げてるだけよ」
ショウ
「間欠泉みたいなものか。まるでバイストン・ウェルだな」
チャム
「何で?」
ショウ
「水が上に流れ……悪が正義に変わるってさ」
キーン
「父は違うわ!」
ショウ
「俺はドレイクの事を言ったんだ。気にするなよ」
キーン
「父は、家や家来の生活の事を考えてるのよ。変わりはしないのよ」
ショウ
「んん……」
チャム
「し〜らない」
キブツ
「私とてドレイク軍の正規軍の筈だ。せめてドレイク軍の軍服で戦わせてくれ」
バーン
「この作戦に限っては許せん。でなければ、ドロ隊はダンバインに敗れる」
「必勝を期するのが軍法ならば、命令は聞ける筈だ」
トッド
「阿漕なやり方だ」
ガラリア
「キブツ・キッスが襲うとなればゼラーナは気後れもしようが、まるでガロウ・ランのやり口……気に入らんな」
バーン
「城攻め前にドロを失う訳には行かん」
「キブツ・キッス、お前の隊だけで見事ゼラーナを仕留めてみせろ」
キブツ
「分かりました。キッス家の名に懸けて、必ずやゼラーナを」
バーン
「よく言ってくれた。期待するぞ、キブツ・キッス」
部下
「親方様、キーンお嬢様もいらっしゃるのですよ?」
キブツ
「もう何も言うな。相手は国賊だ……そう思え」
部下
「しかし、このドロ諸共ゼラーナに……ゼラーナに味方するという方法もあります」
キブツ
「ミズマヤ、それを言うな。そんな事をしたらお前の家族はどうなる? ドレイクが黙っていると思うか?」
部下
「あぁ、はい……」
キブツ
「ドレイクの身内に居れば、いつかドレイクは討てる。それまでの辛抱だ」
「お互いに一気に勝負を付けよう」
「そうすれば楽だ」
部下
「はい」
キブツ
ゼラーナのブリッジを狙え。ダンバインが出てきたら接近戦に持ち込め。これが作戦の全てだ」
チャム
「ん?」
「あら、来たぁ!」
「きゃっ!」
ドワ
「どうした、チャム?」
チャム
「敵が来る! ドロだ、ドロ!」
ドワ
「全員敵襲! ダンバイン、ショウ、出てくれ!」
「エンジン始動、いいな、ニー!」
ニー
「ショウ!」
ショウ
「出られるのか、コタノ!」
コタノ
「当たり前でしょ。」
キーン
「チャム、オーラ・バトラーが来たの?」
チャム
「ドロよ、ドロだわ!」
キーン
「ドロ……ドロは、父さんかもしれない……」
「父さんが……!」
キブツ
「仕掛けるぞ!」
「キーン、共に潔くな!」
ニー
「全員、戦闘配置に就け! 後続のオーラ・バトラーの警戒を忘れるな!」
マーベル
「キーン……!」
「キーン、貴方はゼラーナに残りなさい!」
キーン
「嫌! フォウは私に操縦させて!」
ショウ
「ドロが3機か!」
キブツ
「まだだ、もっと近付け!」
ショウ
「やったか!」
キブツ
「ダンバイン……!」
ショウ
「しまった!」
「やるな!」
キブツ
「貰ったぞ、地上人!」
ショウ
「チッ!」
「やられた!」
キブツ
「よーし、後一息だ!」
キーン
「やっぱりあれは父よ!」
キブツ
「新手か!」
マーベル
「そんな仕掛け方じゃ、やられるだけよ!」
キーン
「嫌! お父さんにやめるように言わなくちゃ!」
ショウ
「何だ、さっきので……!」
「はっ……!」
マーベル
「何をするの?」
キーン
「話すの!」
マーベル
「キーン、やめなさい!」
「キーン!」
キーン
「やめてぇ!」
キブツ
「キーン……!」
ショウ
「キーン!」
キーン
「やめて、お父さん!」
キブツ
「キーン!」
ショウ
「キーン、やめろ!」
キーン
「お父さん、やめてください!」
「あぁっ……!」
キブツ
「わぁぁっ!」
ショウ
「当たっちまった……直撃だ!」
キーン
「お父さん!」
「あぁっ……!」
ショウ
「駄目だ、爆発に巻き込まれちまった!」
部下
「お、親方様が……退けぇっ!」
 〃
「親方様がやられた!」
 〃
「親方様が……!」
ショウ
「キーンすまない、俺、迂闊に……」
キーン
「いいのよ。ショウのせいではないんだから……」
ショウ
「キーン……」
キーン
「ショウは気にしなくっていいのよ」
ショウ
「キーン……」
キーン
「私が父を愛していたのは血が繋がっているからじゃないのよ」
「私が間違ったり跳ね返ったりした時に、叱ってくれる父だったからなのよ」
「それを、ただ家の為だけに……恩義を忘れた父なんて……!」
ショウ
「恩義か……」
「でも、俺のやり方も軽率だった……」
ニー
「え、申し出を受け入れた?」
ホン
「はい。ミの国の国王、ピネガン・ハンム様は是非ともお会いしたいと」
ニー
「よし、我々もキロン城に入ってドレイク軍を迎え撃とう」