第11話 キロン城攻防

前回のあらすじ
バイストン・ウェルの物語を覚えている者は幸せである。心豊かであろうから。
私達は、その記憶を記されてこの地上に生まれてきたにも拘らず、
思い出す事の出来ない性を持たされたから。
それ故に、ミ・フェラリオの語る次の物語を伝えよう。
世の中に動乱の渦が起これば、父と子が敵味方に分かれ、一方が敗れるという事もある。
それが、バイストン・ウェルの今……。
ショタン
「ここでの御躊躇いは犠牲者を増やすだけです。ドレイク軍へ和平の使者をお出しください」
ピネガン
「何の和平だ? ロムン・ギブンと交わした密書など、ありはしないというのに」
「それを理由に我が国を滅ぼそうというドレイクに、何の和平があるものか」
ショタン
「しかし、ラウの援軍は当てには出来ません」
パットフット
「申し訳ありません……」
ピネガン
「気にするな、パットフット」
「私が戦い抜いてみせれば、ラウの国王も私の事を認め、パットフットの事も許してもくれよう」
パットフット
「それ程に優しい父ではありません」
ピネガン
「いや、ドレイクがこのキロン城を攻める事が如何に悪い事かという事は、分かるお方だ」
ショタン
「では、戦いは……」
ピネガン
「我が身が滅びようとも」
エレ
「お父様……」
パットフット
「貴方……」
兵士
「報告致します」
パットフット
「何か?」
兵士
「ニー・ギブン様の機械が入場致します」
ニー
「全員、着陸用意」
「マーベルどうだ、キロン城の様子は?」
マーベル
「歓迎してくれているようだわ」
ショウ
「ピネガン王が来いというから、入場するんだろ?」
マーベル
「国王に会うまでは信用ならないわね」
ショウ
「へぇ、オーラ・シップだろ?」
マーベル
「ショットが初めて造った型ね。15隻ぐらい売ったっていうわ」
ショウ
「2隻もある。大したもんじゃないか」
チャム
「オーラ・バトラーはないってよ」
キーン
「でも、ミの国王も馬鹿よね……」
ショウ
「何でだよ?」
キーン
「私達の首をドレイクの所へ持っていけば、このお城は攻められないのよ?」
チャム
「え?」
ショウ
「そうか、あり得るな……」
チャム
「やだぁ……」
マーベル
「やめてよキーン、そんな事言うの」
ニー
「ドワ、エンジンは止めるなよ」
ドワ
「はい」
ショウ
「大丈夫なのか、ニー?」
ニー
「心配は要らんだろう。仕掛けるのならとっくに仕掛けているよ」
ピネガン
「ニー・ギブン殿か。ピネガン・ハンムだ」
ニー
「国王、わざわざお出迎えを……」
ピネガン
「気にしないで欲しい。貴方がたが我が軍を助けてくださった事は聞いています」
ニー
「恐れ入ります。加勢が遅れた事を心苦しく思っております」
ピネガン
「いやいや、私こそ貴方がたがドレイク軍のスパイかと疑った事もあるのです」
「皆さんも城内へどうぞ」
エレ
「お二人が地上人……?」
パットフット
「エレ、失礼ですよ」
エレ
「でも……地上の方ですって」
マーベル
「変わった所、御座います?」
エレ
「いえ、あまりにも私達と同じで御座いますから、珍しくないのが珍しいのです」
ピネガン
「エレ、いい加減になさい」
エレ
「はい」
ピネガン
「ロムン・ギブン殿は信義に厚い方と知っている。援軍を嬉しく思う」
ニー
「今の一言で、死んだ父も無念が晴れましょう」
ピネガン
「キーン・キッスと申したな」
キーン
「は、はい!」
ピネガン
「年も行かぬのに、よくニーに協力をしている……疲れたのか? 戦いで友を亡くしたのか?」
キーン
「は、はい」
チャム
「キーン……」
ショウ
「昨日の戦いで、父親を亡くしたんです」
パットフット
「まあ……」
エレ
「可哀想に……」
キーン
「つい取り乱しまして……」
バーン
「ガラリアめ……!」
「パトロール中のトッドに止めさせろ!」
兵士
「はっ!」
トッド
「あれか? ガラリアめ、何度言ったら分かるんだよ」
兵士
「わっ……ドッキングされました」
ガラリア
「トッドか」
トッド
「ガラリア、バーンがやめろと言っている」
ガラリア
「ゼラーナのキロン城への入城を許したのだぞ?」
トッド
「だから明日にも城攻めをしようとしてるんだろ?」
ガラリア
「キブツ・キッスが失敗しなければ、こんな事にはならなかったものを……」
トッド
「追い詰められた敵は『火事場の何とか』だ、侮れんぞ」
ガラリア
「しかし……!」
トッド
「ドレイク様が本陣に入らぬ前に失敗でもしたら、お前の先走りが追われるだけだ!」
「そうなったら、明日の城攻めにも加えてもらえないぞ」
ガラリア
「分かった」
ニー
「そうか、今夜か」
「ご苦労」
ホン
「はっ!」
ニー
「ドレイクが今夜にもレッド・バーの本陣に入るそうです」
ピネガン
「そうか……城攻めは明日の朝か夜か」
ショタン
「王よ、私がドレイクと会ってきましょう。ドレイク本人と会談すれば停戦の可能性も探れましょう」
ニー
「停戦……?」
ショタン
「はい」
ピネガン
「一度ぐらいドレイクの真意を聞く機会は欲しい」
「交渉事をすれば、時も稼げるしな」
マーベル
「恐れながら、ドレイク・ルフトという方は国王のお考えのような人物ではありません」
ショタン
「交渉にも応じないという事か?」
ショウ
「ドレイクは、飽くまで占領工作を実行するつもりです」
ショタン
「まだ戦いには負けてはおらん」
ニー
「ショタン様、いらっしゃるのならゼラーナでお送り致します」
ショタン
「交渉事は古式に則ってやるのに限る。オーラ・シップで行ったりしてみろ、ドレイクを脅かすだけだ」
ミズル
「レッド・バーの砦です」
ドレイク
「うむ、よく整備して展開している。誰の仕事か?」
ミズル
「バーン・バニングス殿であります」
ドレイク
「バーンも多少は使えるか」
バーン
「お疲れであります。今夜中には整備も整い、後は親方様の御命令を待つだけであります」
ドレイク
「キブツ・キッスの姿が見えないが……?」
バーン
「キブツは、昨日の戦いで戦死しました」
ドレイク
「ゼラーナか?」
バーン
「はい」
ドレイク
「鍛えようによっては良い武将になったものを……」
ガラリア
「キロン城にニー・ギブンの入城を許したのも、キブツの未熟な戦い振りの為であります」
トッド
「ガラリア……!」
ドレイク
「賢しいぞ、ガラリア!」
ガラリア
「はっ……」
ドレイク
「バーン、戦場での責任は全て指揮官にある。キブツの穴埋めをして城攻めをせい」
バーン
「はっ!」
「……ドラムロに乗れよ」
ガラリア
「何?」
バーン
「先程から、キロン城の使者が待っておりますが……」
ドレイク
「会おう」
バーン
「はい」
コタノ
「ね、スペア次第でしょ?」
ショウ
「どうせなら、もう二つくらい付かないのかよ?」
コタノ
「無理ですね。お尻の所に付けるつもりですから」
ショウ
「キーンはどうなんだ?」
チャム
「元気でないみたい」
ショウ
「そうだろうな……」
チャム
「あ、お姫様」
エレ
「ご苦労様」
ショウ
「いや、何か……?」
エレ
「これがオーラ・バトラーなのですね。不思議な機械……」
チャム
「不思議?」
エレ
「そうでしょ? 機械が空を飛ぶんでしょ?」
チャム
「うん、そりゃそうだわね」
エレ
「他にも機械があるんですって?」
ショウ
「え? 船首の下に、ウィング・キャリバーのフォウがあります」
エレ
「ふふっ……」
ショウ
「え?」
エレ
「やっぱり珍しくはないわね」
チャム
「当たり前でしょ」
ショタン
「我が王ピネガン・ハンムは、ロムン・ギブンと謀議を企てた事はありません」
「ドレイク・ルフト閣下に置かれましては、誤った情報を元にして、この度の行動に出たと推察致します」
「よって、ピネガン・ハンムは、貴軍の撤退を願うものであります」
ドレイク
「世の中が変わったのだ。先が見えんな、ピネガン・ハンムは……」
ショタン
「は……?」
ドレイク
「確かに、謀議の件は私の捏ち上げだ」
「しかし、捏ち上げではあっても、私はアの国王から軍を動かす許可を貰った」
「つまり私は正義だ。正義の前には賊軍は敗れる……」
ショタン
「閣下……!」
バーン
「返事は我が方が届けさせてもらう!」
ショタン
「使者に対して……!」
バーン
「御免!」
ショタン
「ぬっ、わぁぁっ……!」
ピネガン
「作戦上の最後の頼みがある」
ニー
「何なりと」
ピネガン
「万一だ……万一、この城が敗れるような事があったら、妻と娘をラウの国へ脱出させてやってくれまいか?」
ニー
「ピネガン王……」
ピネガン
「フォイゾン王は、新式のオーラ・バトラーを開発した国力を持っている。力にはなってくれよう」
ニー
「しかし、この城は抜けません」
ピネガン
「無論だ。これは万一の話だ」
兵士
「王……ピネガン王!」
ピネガン
「何か?」
兵士
「はっ……ドレイクの使者が、正面に近付きつつあります!」
ピネガン
「ショタンではないのか?」
兵士
「は、はい!」
ミの兵士
「来たぞ! ショタン様ではないぞ!」
 〃
「ドレイク軍の者か?」
アの兵士
「キロン城の方々、ドレイク・ルフトの返答を伝えたい。お出会いください!」
「バイストン・ウェルの古式に則って、使者はお返しする」
ショウ
「殺して返す事はないだろう!」
アの兵士
「我が軍は、アの国王フラオン・エルフの命令により、城攻めを開始する!」
「古式通り女子供を解放する時間を与える!」
ミの兵士
「矢を掛けろ! 絶やすな、撃てっ!」
キーン
「ニー!」
ニー
「ドレイクは走り出した。もう止められん」
ピネガン
「君達はこの城を出てくれ」
マーベル
「国王……私達は、戦う為に城に入ったのです」
ショウ
「戦っている間に、ラウの国の援軍が来るんでしょう?」
ピネガン
「それはどうかな……」
ショウ
「義理とはいえ親子なら、この苦戦を見過ごす親は居ない」
ピネガン
「率直だな、地上人」
ニー
「こう致しましょう。近くの安全な場所に、パットフット様をお隠しして戦います」
「そして、万一の時は……」
ピネガン
「戦場を退いてくれるか?」
ショウ
「ピネガン王」
「負け戦の事だけを考えるのは、本当の負けを呼びます」
ピネガン
「ふふっ……勝つ事を考えよう、ショウ・ザマ」
トッド
「城攻めっていうから格好良くドンパチかと思えば、荷物運びかよ」
「いいのかよ、ガラリアさん?」
ガラリア
「私はドラムロを与えられた……その期待に応えて働いてみせるだけだ」
バーン
「騎馬隊軍団か……いい物だ」
「いつかはこれをオーラ・バトラーに変えて、私が指揮してみせる」
エレ
「私だって、ボウガンの一つぐらい撃てます。お城で父上と戦わせてください」
ピネガン
「エレ、これは命令だ」
パットフット
「父上の御命令通り、外で戦いの済むのを待ちましょう、エレ」
ピネガン
「……何かな、エレ?」
エレ
「駄目ですよ父上、死んでしまっては……!」
ピネガン
「ん?」
エレ
「父上……いけません、お父様!」
ピネガン
「ははっ……やめなさい、エレ」
「ショウ・ザマに私は叱られたのだ。不吉な事を言うとそうなるとな」
エレ
「でも、でも……!」
ピネガン
「パットフット」
パットフット
「貴方……」
「地上の方、案内を頼みます」
ショウ
「はい。お供の方は、馬車で出られました」
ニー
「お嬢様、お急ぎください。時間が御座いません」
ショウ
「俺はタイム・スリップをしたのかな?」
マーベル
「何で?」
ショウ
「こういう光景を見るとは、思ってもいなかったからさ……」
マーベル
「でも、地上だって国民がみんな兵隊に取られる国はあるし、戦争もしているわ」
「あっ……こちらです」
パットフット
「はい」
ドレイク
「総攻撃を!」
バーン
「ドロ隊の第一波攻撃を援護する! 特にダンバインに近付けさせるなよ!」
ガラリア
「了解」
トッド
「第一波で、フレイ・ボムのエネルギーを使い切る事になるぞ?」
バーン
「それで敵の動きが封じ込められるのなら、それでもいい」
「ゼラーナとダンバインが出てきたら後退しろ」
トッド
「過去は過去……俺だって、ドラムロの扱いには慣れてきている」
バーン
「そう願いたいものだな、トッド」
ピネガン
「ナムワン1、湖に対して左の方を守れ! ナムワン2は城の上を!」
ニー
「ドワは後部機銃をやってくれ。ゼラーナの操縦は俺がやる」
ドワ
「はい!」
エレ
「ショウ、お城と父を宜しく頼みます」
ショウ
「はい。エレ様もパットフット様も、暫くここでお待ちください」
パットフット
「聖戦士殿の御武運をお祈り致しております」
ショウ
「有難う御座います」
ショウ
「武運か……」
「間に合うのか?」
「ここもか!」
「わぁぁっ!」
ピネガン
「ナムワン1、上空からオーラ・バトラーが来るぞ! 下のドロ隊を押さえろ!」
マーベル
「ニー、フォウ出ます!」
ニー
「分かった!」
マーベル
「ドロとバラウめ!」
「当たれ!」
キーン
「次は……!」
チャム
「ニー、左後ろ!」
ニー
「了解!」
「キーン、無駄弾を撃つな!」
チャム
「ドワ、左舷下!」
ニー
「ドワ、聞こえているか?」
チャム
「ニー、上!」
ニー
「何、見えないぞ?」
チャム
「オーラ・バトラーよ!」
バーン
「当たるか、そんな旧式な機銃……!」
ピネガン
「オーラ・バトラーが出てきたぞ! 撃て!」
バーン
「トッド、ガラリア! 火を噴いたナムワンから片付けろ!」
アの兵士
「騎兵が動くぞ……うわっ!」
ドワ
「逃がすか!」
アの兵士
「わっ……ダンバインだ!」
ショウ
「このっ!」
ミの兵士
「撃てっ!」
トッド
「旧式のオーラ・シップなんか、どうって事ないじゃないか」
ガラリア
「ダンバインだ!」
トッド
「やっと出てきたか!」
ガラリア
「速い……!」
チャム
「ショウだ!」
ニー
「マーベル、ショウがドラムロを相手にしてくれている」
「もう一機のオーラ・バトラーをダンバインに近付けさせるな!」
ピネガン
「ナムワン1はどうしたか?」
「ん、ナムワン1……!」
「ナムワンが……」
「総員、左舷上空のオーラ・バトラーを狙え! あれを撃ち落とす!」
バーン
「ふん、多少は手強いか……」
「よし、ナムワンをやってみせる!」
ショウ
「トッドめ……いや、ガラリアか!」
ガラリア
「は、速い……!」
「くっ、ショウ……!」
ショウ
「沈めぇ!」
「ドラムロ型である限り!」
トッド
「俺のオーラ力だって、少しはパワー・アップをしてるんだぜ、ショウ!」
マーベル
「あっ、ナムワンの方に入られた……!」
バーン
「これを落とせば、後はダンバインとゼラーナのみ!」
マーベル
「ニー、ゼラーナ! ナムワンに入るオーラ・バトラーを阻止してください! ニー、ショウ!」
ニー
「こちらも手一杯だ!」
ドワ
「もう少しだけ、お城の方に近付けないのか?」
ニー
「ブルベガーが居るんだぞ!」
バーン
「これさえ落とせば、城攻めは終わったも同じだ!」
ピネガン
「後部銃座……わぁぁっ!」
兵士
「わぁぁっ!」
ピネガン
「オーラ・バトラー、もう古い戦法は通用しなくなったのか……?」
「わぁぁっ!」
エレ
「はっ……!」
ショウ
「はぁぁっ!」
トッド
「ショウめ……!」
「まだまだぁ!」
マーベル
「ショウ! ナムワンが……ピネガン王が……!」
ショウ
「何?」
ニー
「ピネガン王……!」
チャム
「ニー、どうするの?」
ニー
「ショウ、マーベル、脱出するぞ! キロン城は捨てる!」
チャム
「ニー!」
ニー
「まだ仕事があるだろう。パットフット様とエレ様を脱出させる仕事が……!」
ショウ
「当たれ!」
トッド
「ショウ!」
バーン
「トッド、やめろ!」
トッド
「止めるな、バーン!」
バーン
「逃げる敵を追う暇はないのだ! 我々はキロン城を乗っ取るのが第一の目的だ!」
「残党狩りはいつでも出来る!」
トッド
「しかし……!」
バーン
「その左手で勝てるのか? えぇ、聖戦士殿……!」
ニー
「馬車をゼラーナへ……」
パットフット
「ニー殿の命令です。急ぎなさい」
従者
「はい」
パットフット
「エレ……」
エレ
「はい」
「私は、お別れの時に泣いてしまいましたから、もう泣きません」
「参りましょう、お母様」
パットフット
「えぇ」
エレ
「聖戦士殿、宜しく」
ショウ
「はい。申し訳ありません、エレ様……」
エレ
「いいえ、聖戦士殿はよくやってくれました」
「全て、ドレイク・ルフトが行った事です」