第12話 ガラリアの追跡

前回のあらすじ
バイストン・ウェルの物語を覚えている者は幸せである。心豊かであろうから。
私達は、その記憶を記されてこの地上に生まれてきたにも拘らず、
思い出す事の出来ない性を持たされたから。
それ故に、ミ・フェラリオの語る次の物語を伝えよう。
ミの国に侵入したドレイク軍は、キロン城を攻めた。
ピネガン王はバーンに討たれ、ゼラーナもまた支え切れず、ピネガンの妻子と共に、ミの国を脱出した。
トッド
「ふぁっ……ブルベガーを出して一気に叩いた方が、早いと思うがな」
ガラリア
「力押しでは国民を味方には出来ない……」
「我々だけでゼラーナを撃破すれば、ミの国の人々は我が軍を受け入れるだろう」
トッド
「城攻めから一睡もしていないんだ。その上で、俺達だけで叩けっていうんだぜ?」
ガラリア
「親方様が我々の力を認めてくださればこそ、ゼラーナの追撃を命令されたのだ」
トッド
「ガラリアの熱心さには頭が下がるぜ」
ガラリア
「ふふっ……戦士として当然の事をしているまでだ」
マーベル
「狭い所で申し訳ありません」
パットフット
「お気になさらずに」
エレ
「すみません、マーベル……」
マーベル
「いえ……では、仕事がありますから失礼致します」
マーベル
「フォウの方も見ておいて、コタノ」
コタノ
「了解。ショウにも降りてきてくれるように言ってください」
マーベル
「分かったわ」
キーン
「ドルプル達、私達がラウの国へ向かってるの知ってるのかしら?」
ショウ
「メカニック・マンなのか?」
ニー
「ショットの所に居た鍛冶屋だ。ゼラーナの整備には必要な男だ」
ショウ
「鍛冶屋がゼラーナを設計したのか……」
ニー
「戦力になる男だ」
兵士
「わっ……!」
上官
「武器の不整備は軍紀の乱れだ」
「軍紀の乱れは、忠誠心の乱れる素である! ドレイク様は厳しいお方だからな!」
兵士
「ふんっ……昨日まではピネガン王に忠誠を誓っておいて、よくも抜け抜けと……」
 〃
「ああでもしなけりゃ……」
上官
「貴様達、聞いているのか!」
「これはバーン様……!」
バーン
「ミの国では、兵に忠誠を誓わせるのに、こんな物を使わねばならんのか?」
上官
「はっ、それは……」
バーン
「そのような心構えだから、ミの国は敗れたのだ」
「兵には恩情を持ってな」
ドレイク
「フラオン王の大いなる望みは、諸君らの平和な暮らしを守る事である」
「ピネガンは他国を脅かしても、諸君らの生活だけを守ろうとした」
「しかし最早、そのような世の中ではないのだ」
「このバイストン・ウェルそのものから戦乱を無くす事が、フラオン・エルフの望みであり私の望みでもある」
「協力を求めたい」
バーン
「はっ……」
「本日、ミの国の人民に徴兵令を発する!」
ミの民
「徴兵……!」
 〃
「兵隊になるのか、若い連中は……」
バーン
「これは、十五歳以上五十歳未満全ての男子に課せられる」
「ただし、これに応じられない者は、銭二十袋でこれを免除する」
ミの民
「銭二十袋……」
 〃
「二十袋だなんて、とてもそんな……」
巫女
「我がラウの守護神、タータラの神々よ……その姿を見せよ」
ショウ
「娘と孫を助けるのに、一々お告げを聞かなきゃいけないのかよ……」
ニー
「土地土地の習慣があるのさ。我々の事もあるしな」
マーベル
「おせっかちな所は、やはり日本人ね、ショウ」
ショウ
「ちっ……」
巫女
「雨土に精霊達が宿りて、その善き力が我らに教えを給わらん事を……はぁぁっ!」
「守護神タータラの教えは、国王のご意志通りと出ましたぞ」
フォイゾン
「そうか……」
「ニー・ギブンと申したな」
ニー
「はい」
フォイゾン
「義に反し徳に背くドレイク・ルフトを恐れぬ、勇敢な若者と聞く。噂に違わず凛々しい顔立ちだ」
ニー
「恐れ入ります」
フォイゾン
「諸君らに協力しよう」
「しかし、苦しくなるぞ……ドレイクのやる事は全てに悪意が満ちている」
ニー
「国王には、ゼラーナ・ダンバインをお造りになる力があると伺いましたが……」
フォイゾン
「技術を提供してくれれば、ラウに直ぐにでも機動部隊を作ってみせよう」
ニー
「是非とも」
フォイゾン
「地上人も、いつか故郷に戻れるよう努力しよう」
ショウ
「有難う御座います、フォイゾン王」
「事の起こりは、同じ地上人であるショットやゼットらの悪しき野心が原因となっての動乱です」
「何としても彼らの野望を打ち砕きたいと念じております」
フォイゾン
「部屋を用意させてある。ゆっくり休むといい」
マーベル
「フォイゾン王」
フォイゾン
「ん?」
マーベル
「私達の事より、パットフット様とエレ様を……」
フォイゾン
「駆け落ちした娘を助ける訳にはいかん!」
パットフット
「んっ……」
エレ
「ご無理な事です、母上……」
パットフット
「けど、エレ……」
ラウの兵士
「ふぁっ……うっ!」
 〃
「ん……わっ!」
ラウの技術者
「このオーラ・マルスは加工方法が違うようだ。我々のポゾンにもこれが使えれば、性能アップになるな」
 〃
「ウィング・キャリバーも大分軽いみたいだな」
 〃
「参ったな、一ヶ月やそこいらで真似の出来るものじゃないぜ……」
ガラリア
「不味いな、ゼラーナがここに逃げ込んだとなると……」
トッド
「ダンバインとゼラーナを叩いても、すぐに後が来る……」
ガラリア
「フォイゾンめ……ドレイク様に敵対するつもりだな」
トッド
「なら、今この機械の館を叩くに限る。効率がいい」
ガラリア
「そうだな。オーラ・バトラーの増援を頼むか」
トッド
「ああ」
キーン
「はぁっ、はぁっ……」
「ニー、ショウ、ちょっと来て」
ニー
「マーベルの所か?」
キーン
「ええ。パットフット様とエレ様の様子がおかしいのよ」
チャム
「お城を出て、山に篭るって言ってるの」
ニー
「山に……?」
「フォイゾン王を説得するんじゃなかったのか?」
ショウ
「簡単に諦めるんだな。頑固者には頑固に対決するしかないのに」
キーン
「フォイゾン王は、何であんなに冷たいの? 本当の親子でしょう?」
ショウ
「そりゃ、家庭の事情ってのは色々だからな。キーンのように考える人ばかりじゃないよ」
キーン
「でもさ……」
ニー
「山に篭る必要があるというのが分かりませんね」
パットフット
「エレがそう言うのですから、私は信じるのです」
マーベル
「エレ様が……?」
パットフット
「はい……この子には、生と死の狭間を通して、地上界とバイストン・ウェルの繋がりが見えるようなのです」
ニー
「世界の繋がりが見えるというのですか?」
チャム
「凄い……エ・フェラリオ以上ね!」
エレ
「オーラ・ロードが開かれて、地上の人々がこの世界に入ってきたという事は、不吉な事の兆しのように思えます」
ショウ
「何故です?」
パットフット
「地上界とバイストン・ウェルは、魂の生と死を通して繋がっていた世界だからです」
エレ
「それがオーラ・ロードによって、人が出入りするようになりました」
ショウ
「生と死によって繋がっていた世界……そうなのか?」
マーベル
「知らないわ。私……私だって、ナックル・ビーに、ただ強制的にここに連れてこられただけで……」
ニー
「何故不吉なのだ? オーラ・ロードが開かれたという事が……」
エレ
「分かりません」
トッド
「ドレイク様に面談したい。取次げ」
アの兵士
「親方様は只今、ショット・ウェポン様と会見中です」
ガラリア
「オーラ・バトラーが要る。出撃をさせたいのだ。バーン・バニングスを叩き起こせ」
アの兵士
「バーン様も、親方様と御一緒であります」
ガラリア
「では入るぞ」
「ラウの国が立とうとしているというのに、何の会談だ……?」
ドレイク
「フェラリオのシルキー・マウもまた、月が満ちる筈だ」
「もう一度、地上人を喚ばせる時も近いな」
アの兵士
「ガラリア様とトッド様がいらっしゃいました」
バーン
「ゼラーナを撃墜したのか?」
ガラリア
「ゼラーナは、ラウの国のタータラ城に逃げ込みました。追撃が間に合わずに……」
バーン
「私に報告するのが先であろう」
ドレイク
「そういう教条的な物の言い方はやめよ」
「フォイゾンは迎え入れたのだな?」
トッド
「ゼラーナ、ダンバインを製造する腹積もりのようです」
ショット
「深刻だな……それを知って、おめおめ帰ってくるとはな、トッド」
トッド
「だから、タータラの機械の館に入ったゼラーナ・ダンバインを攻撃する為には……」
ガラリア
「オーラ・マシンが要るのです。機械の館諸共に叩くには……」
トッド
「バラウとドラムロだけでは無理だ」
ドレイク
「よし、出撃を許す」
ガラリア
「はっ!」
トッド
「これで手柄も立てられる」
ドレイク
「ただし正規軍ではない……お前達の独断という事にする」
「そうでないと、外交上面白くない」
ガラリア
「はっ、少数の独立部隊で出ます」
ショット
「トッド、ゼラーナとダンバインは確実に叩けよ」
トッド
「分かっているって」
ラウの兵士
「証明する物がない限り、取次ぎは出来ない!」
ドルプル
「本当に、ギブン家に仕えるドルプル・ギロンだ! ゼラーナがお城に入ったと聞きましたので……」
ラウの兵士
「どの道、夜は駄目だな。明日になったら……」
チャム
「ドルプル……待ってたわよ!」
「ニーが待ってるわよ!」
ドルプル
「じゃあ、みんなは元気なんだな?」
チャム
「ええ!」
「入れてください。この人達は大切な人なんです」
ラウの兵士
「フェラリオの言う事なんか信じられるかよ!」
チャム
「じゃあ、キーンでもショウでも呼んできてよ! 取次がないと、フォイゾン王に叱られるわよ!」
ラウの技術者
「ポゾンを造った時より、技術は進んでおります」
ニー
「どのくらい時間が掛かりますか?」
ラウの技術者
「ダンバイン・クラスでも、一ヶ月は……」
フォイゾン
「そうなのか?」
ラウの技術者
「はい……我々の知らない部品もありますので」
ラウの兵士
「陛下」
フォイゾン
「何か?」
ラウの兵士
「この席の、ニー様に会いたいという方が参りました」
ニー
「私に……?」
ラウの兵士
「はい。ドルプル・ギロン様です」
マーベル
「ドルプルが?」
ショウ
「メカニック・マンが来たんだ」
フォイゾン
「どういう事だ、ニー・ギブン?」
ニー
「はっ……ゼラーナ・ダンバインを造った工兵であります」
フォイゾン
「ほう、ゼラーナを追ってきたか」
ニー
「はい。この席へ……」
フォイゾン
「入れよう」
「ならば、後は任せられる」
ラウの技術者
「は、はい……それはもう」
フォイゾン
「ドルプル・ギロンを」
ラウの兵士
「はっ!」
キーン
「ドルプル、どうぞ」
マーベル
「ドルプル……」
ニー
「よく追い付いてくれた」
ドルプル
「遅くなって申し訳ありませんでした。避難民に紛れてきましたので、時間が掛かりました」
ニー
「いや、よく間に合ってくれた。助かる」
「フォイゾン王、ドルプル・ギロンです」
フォイゾン
「うむ、新しい血を注ぎ込む者達よ」
ドルプル
「はっ!」
フォイゾン
「心から歓迎する」
ドルプル
「はい、有難う御座います」
トッド
「バーンは居ないのか?」
アの兵士
「機械の館を襲撃するだけだろう?」
トッド
「ゼラーナとダンバインが出てくるんだぞ」
ガラリア
「もういい、トッド……すぐにタータラの兵器廠を攻める」
ドルプル
「構造そのものはポゾンと同じです」
「オーラ増幅器の基礎回路が倍のビットになって、それに伴ってマルスの強化が行われております」
ラウの技術者
「ん?」
 〃
「何だ……?」
 〃
「うわぁぁっ!」
ドルプル
「ダンバインとゼラーナのエンジンを始動させろ!」
ラウの技術者
「はっ!」
ドルプル
「急げ!」
フォイゾン
「何の爆発だ?」
キーン
「ドロの音が聞こえたわ」
マーベル
「はっ、あれは……!」
ショウ
「ドロか!」
ニー
「ドレイク軍……!」
フォイゾン
「機械の館を狙ってか? 若者達よ、私に続け!」
ニー
「フォイゾン王!」
ショウ
「ご自身で出撃なさるんですか?」
フォイゾン
「我らが開発したオーラ・バトラー『ポゾン』とて、オーラ・マシンである事に変わりはない!」
マーベル
「実戦のご経験は?」
フォイゾン
「ポゾンとして模擬戦はやっておる」
ニー
「国王はお下がりください!」
マーベル
「私達がやります!」
フォイゾン
「国王自らが行動しなければ、人々は付いてはこん! これがワシの流儀だ、案ずるには及ばん!」
キーン
「チャムは残ってなさい」
チャム
「嫌、私だって戦えるわ」
キーン
「どうやって?」
エレ
「はっ、ドレイク軍が……!」
パットフット
「エレ、中に入ってなさい」
エレ
「はい」
トッド
「ガラリア、ドラムロも出るぞ!」
ガラリア
「この作戦で名を挙げなければ……!」
フォイゾン
「宜しいか、聖戦士殿?」
ショウ
「行ってください!」
「かなりの加速だ……!」
フォイゾン
「宣戦布告もなく闇討ちとは、どこまでも汚いやり口だ!」
キーン
「置いていかないでよ!」
トッド
「ゼラーナはどこだ?」
ガラリア
「機械の館の右手だ!」
トッド
「あれか!」
「軽い軽い、キロン城とは大違いだぜ!」
ガラリア
「ん、ダンバインが出てきた……?」
「当たれ!」
「よし、もう一度ゼラーナを……!」
ショウ
「わっ、フォイゾン王……!」
「フォイゾン王、逃げていては駄目です! ドロの懐へ飛び込んでください!」
フォイゾン
「分かっている、分かって……!」
ショウ
「やった!」
フォイゾン
「ドロ如きに、このポゾンは負けはせんよ!」
ラウの技術者
「消火班、こっちだ!」
アの兵士
「わぁぁっ……!」
ショウ
「あ、ダンバインが……!」
「高度を下げてください!」
フォイゾン
「うむ!」
「おぉっ……!」
ガラリア
「ふん、ショウ・ザマ……今頃お出ましか!」
ショウ
「うっ、くっ……!」
マーベル
「ショウ!」
ショウ
「俺は大丈夫だ。ゼラーナが狙われている!」
トッド
「ニーとマーベルか。貰ったぜ!」
「うわっ!」
マーベル
「国王は本気で戦うつもりね」
ニー
「あぁ、あの方の言葉には嘘はないな」
マーベル
「厳しい方なのね、ただ頑固なだけでなく……」
ショウ
「動け、動け! 腕一本ぐらいが何だっていうんだ!」
マーベル
「酷いわ……!」
ニー
「左舷だけだ。動かせば弾は当たらなくなる筈だ」
マーベル
「了解」
フォイゾン
「ドレイク・ルフトの手先め、キロン城は落とせてもワシの城は渡さん!」
トッド
「何? 城の主がオーラ・バトラーで戦うというのか?」
フォイゾン
「如何にも! ラウの国王、フォイゾン・ゴウだ! 思い知らせてくれる!」
トッド
「国王自らご出陣とは、呆れるぜ!」
フォイゾン
「これがワシの流儀だ!」
ショウ
「わっ……!」
「動いた! まだまだダンバインは動けるんだ!」
「行くぞぉっ!」
トッド
「くっ、そんな姿で戦うのか……?」
ショウ
「トッドか!」
トッド
「くっ……!」
「こ、こいつ……!」
フォイゾン
「ワシが止めを刺してやる!」
ガラリア
「トッド、下がれ!」
トッド
「ガラリア、助かった! 恩に着るぜ!」
ガラリア
「構わん! これでいつぞやの借りは返したぞ!」
ニー
「ゼラーナ、出るぞ!」
ショウ
「バランスが取れない!」
「腕一本で、こうもバランスが崩れるのか」
「国王!」
「一機で深追いなさるから……トッドにガラリアめ!」
フォイゾン
「これしきの事で……!」
マーベル、ニー
「国王!」
ショウ
「フォイゾン王、ご無事ですか?」
フォイゾン
「腰を強かに打っただけだ。敵はどうしたか?」
ショウ
「撤退しました。国王」
フォイゾン
「確かに、ドレイク軍のオーラ・マシンは侮り難いな」
ショウ
「はい……しかも、新型機も次々と出てくるようです」
フォイゾン
「ドレイクの企みがよく分かった。城に凱旋してくれ」
ショウ
「はい」
トッド
「片腕のダンバインを落とせなかった……ショウ・ザマ、奴は力を付けている」
「それなのに……!」
ガラリア
「ラウの国が自力であれだけのオーラ・バトラーを製作していた事が敗因だ」
「悔やむ事はない、トッド」
パットフット
「それでは皆さん、色々とお世話をお掛けしました」
マーベル
「とんでも御座いません。お役に立てなくて……」
ショウ
「途中までお送りしましょう」
パットフット
「いえ、ここで……」
キーン
「フォイゾン王ったら、見送りにも来ないのね……!」
チャム
「それに、汚い馬車!」
パットフット
「馬車を与えてくれただけでも、感謝しております」
ショウ
「エレさん」
エレ
「え?」
ショウ
「もし……もし、不吉が何であるか分かったら……」
エレ
「真っ先に貴方にお報せしましょう」
ショウ
「はい。お達者で」
パットフット
「皆様も……」
マーベル
「あの……!」
「いいえ……お気を付けて……」
フォイゾン
「すまんな、パットフット、エレ……今は国を守る事が急務なのだ……」