第13話 トッド激進

前回のあらすじ
バイストン・ウェルの物語を覚えている者は幸せである。心豊かであろうから。
私達は、その記憶を記されてこの地上に生まれてきたにも拘らず、
思い出す事の出来ない性を持たされたから。
それ故に、ミ・フェラリオの語る次の物語を伝えよう。
ラウの国タータラ城に、パットフット親子を届けたゼラーナ。
それを追ったトッドとガラリアは、ダンバインを撃破するには至らずに後退した。
ショウ
「キーン、今度は急降下だ」
キーン
「了解」
「くっ……!」
ショウ
「何をやってる? 引き起こすんだ、キーン!」
キーン
「やってるわよ!」
「きゃぁぁっ!」
ショウ
「逆噴射を掛けろ!」
キーン
「くっ……!」
ショウ
「キーン、キーン……!」
「キーン……」
「わっ……どう、どう!」
「あれが俺達を援護しに来たのか」
チャム
「そうよ」
「遊んでるとしか見えないじゃないか」
チャム
「キーンの練習してるんですもの」
ショウ
「キーン、まだまだだな。フォウの引き起こしに時間が掛かりすぎる」
「さ、操縦を替わろう」
キーン
「嫌よ。出来るまで何度だってやるわ」
ショウ
「おい……!」
チャム
「あ〜あ、あんな事やってたら、ドルプルのせっかくの荷物、バーンに襲われちゃうんだから」
「全くだ。オーラ・バトラーの部品がタータラ城に着かなかったって、知らねぇぞ」
トッド
「何? 俺達が嘘を吐いてるっていうのか?」
バーン
「そうではない。戦果の確認が曖昧だと言っているのだ」
「それに、ダンバインを傷付けただけの戦果が何になるというのだ」
アの兵士
「あ、ショット様……」
トッド
「あんたはダンバインを過小評価してるんだ。あれは……」
ショット
「確かにそうかもしれない」
ガラリア
「分かってくださいますか?」
トッド
「俺が負け惜しみじゃないって、分かるよな?」
ショット
「元々オーラ・バトラーは、パイロットのオーラ力でパワー・アップが計れる性能を持っている」
バーン
「ショウ・ザマのオーラ力の方が、貴公より優れているという訳だな」
トッド
「俺だって、前と今では違うぜ」
「ショット・ウェポン……俺にダンバインを造ってくれ」
ショット
「トッドは自分のオーラ力を鍛える事だ」
アの兵士
「バーン様、親方様がお呼びで御座います」
バーン
「すぐに行く」
「親方様は、シルキーにオーラ・ロードを開かせるつもりだ。ショット殿も御一緒に」
ショット
「はい」
トッド
「オーラ・ロードを開く……」
「喚ぶのか、新しい地上人を」
ガラリア
「馴染めぬ奴が来たら、気が重いな」
ルーザ
「リムルの我儘には手を焼きます」
ドレイク
「ははっ……リムル、私はシルキーを愛している。お前と同じ程にな」
リムル
「では、シルキーを苦しめるのはやめてください」
ドレイク
「誰がシルキーを苦しめようなどと思うものか。それはシルキーにも分かっていよう」
バーン
「遅れて申し訳ありません、ドレイク様」
ドレイク
「うむ、シルキーには優しくな」
バーン
「はっ……」
リムル
「やめなさい、バーン!」
ドレイク
「構わぬ。リムルはここに居るだけで役に立つ」
バーン
「月も満ちた事だ。今夜にもまたオーラ・ロードを開いてもらいたい、シルキー・マウ」
シルキー
「んっ……」
ドレイク
「シルキー、聞くがいい」
「私はバイストン・ウェルに真の平和をもたらしたいと考えている」
「しかし、私の行動を理解しない地上人が、娘の命を奪おうとしている」
「その娘を守る為に、私は地上人が必要なのだ」
リムル
「それは嘘よ、聞いてはいけないわ!」
「シルキー、シルキー……!」
バーン
「シルキー……!」
「気を失いました。水牢へ戻しますか?」
ドレイク
「オーラ・ロードを開かせるまでは、そのままにしておけ」
リムル
「シルキー……」
トッド
「ガラリアか……女戦士も変われば変わるもんだな」
「レディを遠乗りにお誘いしても宜しいかな?」
ガラリア
「試してみたら?」
トッド
「それっ……!」
「ゼット・ライトに何を頼んだんだ?」
ガラリア
「ふっ、一度デートして欲しいって誘ったの」
トッド
「どう!」
「成程……その代わりが俺では不服か」
ガラリア
「楽しませてくれる?」
トッド
「存分にな」
「行く先はラウの国、タータラの機械の館というのはどうだ?」
ガラリア
「オーラ・バトラーを手に入れて、この場所で今夜落ち合うのかな?」
トッド
「くっ、そういう事……!」
ショウ
「チャム、ドライバー取ってくれないか?」
「チャム……?」
チャム
「後にしてよ、おやつ食べてんだから」
ショウ
「手伝ったっていいだろうが」
「ありますよ。マルスの加工の機械は全て持ってきました」
ニー
「あと問題なのは……」
ドルプル
「人手ですね。かなり神経を使う仕事ですから」
ショウ
「ショット・ウェポンかゼット・ライトを、攫ってくるってのはどうだい?」
マーベル
「冗談はやめて、ショウ」
「あ、そうそう……後、ショットが開発中の、新型のオーラ増幅器の図面があれば……」
ドルプル
「そりゃ、鬼に金棒だけどな」
ニー
「新型のオーラ増幅器……」
「リムルが渡そうとしたのは、それだったのか」
マーベル
「それ、どんな物なの?」
ドルプル
「バイストン・ウェルの人間でも、地上の方と同じように、楽に操れるものだそうです」
ショウ
「あり得るな……そういった点では、ショットは天才的だからな……」
バーン
「水牢に戻れないのは苦しいだろう、シルキー……戻して欲しいか?」
「やってくれるか?」
シルキー
「私がオーラの道を開かないと、リムルさんの命が……」
バーン
「そうだ。リムル様の命を守る為に……」
リムル
「シルキー……!」
「シルキー、やめてください! 騙されないで!」
トッド
「やるのかよ……!」
リムル
「シルキー……お父様、やめて! やめてください!」
ドレイク
「シルキー、やってみせろ」
トッド
「あっ……!」
ドレイク
「来るぞ!」
トッド
「三人も……俺達もああやって、この世界に呼ばれたのか……」
「ん?」
「アレン……!」
ガラリア
「地上人が来たか」
「トッドの奴、来てくれるのか……?」
トッド
「んっ……!」
アの兵士
「誰だ!」
トッド
「トッド・ギネスだ。出撃する」
アの兵士
「聞いておりませんが……」
トッド
「隠密作戦を、一々命令書付きでやるのか?」
アの兵士
「それは……」
トッド
「扉を開けろ!」
トッド
「ここに来てまで、アレンに先輩面をされてはたまるかよ!」
バーン
「トッドが……極秘の作戦で出たというのか?」
アの兵士
「ドラムロでバラウを操縦して、お一人で出られましたが」
「どうもその様子がおかしいので、ご報告だけでもと思いまして……」
バーン
「どういうつもりか、あの聖戦士は……」
ショット
「やむを得んだろう」
バーン
「何故でありましょうか?」
ショット
「碌な手柄を挙げてはいないのだ。こうして新たに地上人も来たとなれば、焦りもしよう」
「どうだろう、トッドの振る舞いに目を瞑ってはくれまいか? ドレイク様には私から取り成しておく」
バーン
「同じ地上人、分かりますが……」
ショット
「私だって、いつかバーン様のお力になれるかもしれん」
バーン
「この地上人達はどうしましょう?」
ショット
「ショウやトカマクのように失敗したくはない。ゆっくり教育しよう」
ガラリア
「トッド、遅いぞ」
トッド
「一人でも行くつもりだったのか?」
ガラリア
「当たり前だ。せっかく手に入れたビランビーだ」
トッド
「よくゼットが言う事を聞いたもんだな」
ガラリア
「地上人は何人来たのだ?」
トッド
「人生とは皮肉なもんだな、ガラリア」
ガラリア
「何の事だ?」
トッド
「俺にとっちゃ、目標になっていたパイロットが居た」
「そいつが今度はここに来て、俺の生活を脅かそうとしてるんだよ」
ガラリア
「今度来た地上人の中に、知り合いが居たのか?」
トッド
「何としてでも手柄を立てなくちゃならんのさ、俺は……!」
「ガラリアはここで待て。ダンバインとゼラーナを俺が引き寄せる」
「手薄になったところで、裏手から城に攻め込むんだ」
ガラリア
「そして私が機械の館を攻撃した後で、ダンバインとゼラーナを挟み撃ちで仕留める」
トッド
「そういう事だ」
ガラリア
「上空で待つ」
トッド
「よーしバラウ、当たれよ!」
ラウの兵士
「ウィング・キャリバーが来るぞ、撃てっ!」
 〃
「うわぁぁっ!」
 〃
「くっ、敵襲だ!」
ショウ
「夜襲か?」
ニー
「オーラ・バトラーの生産を阻止するつもりらしいな」
チャム
「ニー、ショウ!」
ニー
「敵の数は、チャム……?」
チャム
「分からない……でも、西の森の方から飛んできたみたい」
ショウ
「よし、ダンバインを出す!」
ニー
「ゼラーナ、エンジンを始動しろ!」
ショウ
「コタノ、左腕は使えるのか?」
コタノ
「もう大丈夫です!」
ショウ
「動かせるオーラ・バトラーは空へ!」
ラウの兵士
「空には何も見えないぞ!」
トッド
「さあ出てこい。ダンバイン、ゼラーナ!」
「ガラリア、二人でいい夢を見ようぜ!」
ショウ
「ダンバイン、出るぞ!」
ニー
「どうだショウ、敵の位置は分かるか?」
ショウ
「何も見えない……バラウ一機で来るなんて事はない筈なのにな」
「臭いな、どういう事だ……?」
「何?」
「そこか!」
トッド
「よくもかわした、ショウ!」
ショウ
「よくも懲りずに、トッド!」
トッド
「ショウ・ザマ、今夜は勝負を付けるぜ!」
ショウ
「当たるか!」
トッド
「貰った!」
マーベル
「ニー。ドラムロ一機というのは、ちょっと変じゃない?」
ニー
「ドワはどこへ行ったんだ?」
キーン
「知らないわ」
ニー
「マーベルはフォウだ」
マーベル
「了解」
ニー
「あ、待て」
「フォウにはキーンがやれる。出来るな?」
キーン
「了解」
マーベル
「ニー……まだキーンには無理じゃないの?」
ニー
「いや、マーベルはポゾンで出てくれ。借りられる筈だ」
マーベル
「分かったわ」
「気を付けてね、キーン」
キーン
「任しといて」
ショウ
「避けた!」
ニー
「敵はドラムロ一機だ」
「どこへ行ってた?」
ドワ
「すみません」
ニー
「出るぞ!」
フォイゾン
「敵はどこの手の者か?」
ラウの兵士
「ドレイク軍の者らしいとの事です」
フォイゾン
「オーラ・バトラー1機か」
ラウの兵士
「はっ!」
「マーベル様が、ポゾンをお借りしたいと申しておりますが」
フォイゾン
「何故、ワシに訊ねる?」
ラウの兵士
「貴重なオーラ・バトラーです」
フォイゾン
「聖戦士に使って貰わんで、何のオーラ・バトラーか! 使って貰わねば、タータラ城は守って貰えんぞ!」
ラウの兵士
「はっ!」
フォイゾン
「ドレイクめ、一度ならず二度までも……!」
トッド
「ゼラーナが来たか!」
ニー
「ショウ、深追いはするなよ!」
チャム
「おかしいわ、他には居ないみたい……」
ショウ
「パイロットはトッドの筈なのに、スピードが違う!」
「トッドめ、オーラ力がアップしているのか!」
トッド
「掛かったな、ショウ・ザマ……仕掛けてくれ、ガラリア!」
ガラリア
「分かった、トッド!」
マーベル
「うっ……!」
フォイゾン
「やはり別の部隊が居たか……!」
「ええい、何をやっておる! ポゾンは出せんのか!」
ラウの兵士
「もう一機現れました!」
マーベル
「ボゾン、出します!」
ラウの兵士
「わっ……!」
マーベル
「ビランビー……!」
ガラリア
「ラウの国のオーラ・バトラーか!」
「やる!」
「所詮、ショット様の作ったオーラ・バトラーのコピーにしか過ぎん……負ける訳がない!」
マーベル
「ショットの作ったものだけが、オーラ・バトラーだとは思わないでよ!」
ガラリア
「しゃらくさいんだよ!」
ニー、ドワ
「うっ……!」
マーベル
「ニー、ビランビーが出たわ!」
ニー
「何? 謀られたのか!」
「ショウ!」
ショウ
「聞いた! ドラムロは何とかする!」
ニー
「頼むぞ」
「キーン、ショウを援護しろ!」
キーン
「了解! フォウ、出ます!」
トッド
「はっ……!」
キーン
「落としてやる!」
ショウ
「フォウ……キーンか!」
キーン
「ショウ、私にだって出来るわ!」
ショウ
「トッドはパワー・アップしてるんだぞ」
「速い……流石、聖戦士!」
トッド
「ショウ・ザマ、貴様はただ機械に恵まれただけだ……それを思い知らせてやる!」
ガラリア
「死ね!」
マーベル
「パワーが違い過ぎる!」
ニー
「来るぞ、撃て!」
コタノ
「わぁぁっ!」
ニー
「中に入られた!」
「うっ、弾薬庫が危ない! 砲撃主は手持ちの武器を持って、格納庫へ行け!」
兵士
「わっ!」
ガラリア
「小癪な!」
兵士
「わぁぁっ!」
ニー
「振り落とすぞ! 全員、何かに掴まれ!」
「チャムは飛んでろ!」
ガラリア
「あぁっ……!」
「落ちてたまるか!」
「ん?」
マーベル
「ビランビー!」
ガラリア
「後一歩のところで……!」
「トッド、ダンバインはどうしたか?」
トッド
「ダンバインめ……!」
「パワー切れをしてるのか、くっ……!」
ショウ
「キーン、撃て!」
「貰った!」
トッド
「ハ、ハッチが開いちまった……くっ!」
「ショウ、やるのか……!」
ショウ
「訳も分からずに、ドレイクに手を貸すヤンキーめ!」
トッド
「うぅっ……!」
ガラリア
「ドラムロが!」
ショウ
「トッド・ギネス、一緒にこのバイストン・ウェルに降りてきたっていうのに……」
ガラリア
「縁がなかったのさ……」
バーン
「無断で出撃をして『トッド・ギネス殿は死にました』だと? よくも抜け抜けと言えたものだ」
ガラリア
「アの国を攻める時に、後ろからゼラーナが来るのは面白くなかろう。だから出たのだ!」
バーン
「貴様の考えか、この奇襲は……?」
ガラリア
「新たな地上人を呼び込めば、トッドとて焦りはしよう」
「聖戦士に成り切らない内から、望みだけは大きかったからな」
バーン
「ガラリア、ビランビーはどうやって手に入れたのだ?」
ガラリア
「これは私が機械の館から盗み出した。警備に手抜きがあるようだな、バーン」
ショット
「……ふっ、嘘八百も口実としては通用する」
「ゼット、バーンにあまり逆らうなよ」
ドルプル
「修理に五日は掛かります」
ニー
「二日だ」
ドルプル
「二日……?」
ニー
「ドレイクは待ってはくれん」
ドルプル
「分かりました、やるしかないですね」
ニー
「頼む」
マーベル
「ニー」
ニー
「ん?」
フォイゾン
「よくぞ館を守ってくれた。礼を言う」
ニー
「はっ!」
フォイゾン
「活躍ぶり、見せてもらった」
ショウ
「有難う御座います」
「しかし国王、戦いはこれからです。所詮夕べは、ゲリラ戦でしかありませんから」
フォイゾン
「支度は急ごう。ドレイクの横暴をいつまでも見ている訳には行かんからな」
「ゼラーナにももっと働いて貰わねばならん」
ニー
「はい、閣下」