第26話 エレの霊力

前回のあらすじ
バイストン・ウェルは、海と陸の間にある人の心の故郷である。
私達はその記憶を忘れて、この地上に生まれ出てしまった……。
しかし、ミ・フェラリオの伝えるこの物語によって、私達はその記憶を呼び覚まされようとしている。
トッド・ギネスは、ガバの島のゼラーナへ近付き、リムルを奪おうとした。
それにバーンも手を貸し、遂にトッドの雇われ人のガロウ・ランが、リムルを奪う事に成功した。
パットフット
「お前の食事は……?」
エレ
「ええ。私は先程、畑の方で食べてしまいました」
パットフット
「毎日このような物では、エレの霊力も付きませんね」
エレ
「自惚れだったのかもしれません。元々私には、霊力などなかったのかもしれないのです」
パットフット
「いいえ、私は信じていますよ。貴方には力があります」
エレ
「あ、はい。お母様……」
ナブロ司令官
「フォイゾン王の命令だ。武器弾薬はくれてやってもいい」
「だが、必要以上にはやるなよ」
ラウの兵士
「はっ!」
アの兵士
「お疲れさんです、ジェリル様」
ジェリル
「あの山に、修行してる親子が居るのだな?」
アの兵士
「はい」
ジェリル
「よし、間違いない。霊の宿る山、そこに居る親子……」
「あの山の中に居る者が、オーラ・ロードを開いたに違いない」
「ショウ・ザマを呼び込んだ奴らが……」
「そいつらを成敗するか。オーラ・ロードを開く秘密を聞き出してやる」
エレ
「はっ……」
「眠れないのですか?」
パットフット
「どうかしたのですか?」
エレ
「いいえ。ただちょっと……」
エレ、パットフット
「きゃっ!」
パットフット
「何者です?」
ジェリル
「成程、口の利き方も只者じゃない」
エレ
「失礼でしょ、貴方がた……!」
「あっ、あぁっ……!」
パットフット
「エレ!」
ジェリル
「この子を握り潰されたくなかったら、答えてもらおう」
「この近くでオーラ・ロードが開かれたが、ショウ・ザマという男を呼び込んだろう?」
アの兵士
「ダンバインに乗ってる奴を呼び込んだんだろう、え?」
「調べは付いてる!」
パットフット
「し、知りません」
ジェリル
「子供がどうなってもいいのかい?」
パットフット
「無礼な者達!」
アの兵士
「わっ!」
パットフット
「あっ……!」
エレ
「お母様!」
ジェリル
「馬鹿が、殺してしまって……!」
「はっ……!」
「あっ、これは……!」
エレ
「きゃぁぁっ!」
アの兵士
「うわぁぁっ!」
エレ
「はぁっ……!」
「あぁ、お母様……」
「はっ……!」
ドルプル
「オーライ、オーライ」
エレ
「ドルプル、必要最小限度に留めてくれよ?」
ドルプル
「分かってますがね。ここの連中、誰も手伝ってくれないんだ」
ラウの兵士
「こんなんで外で戦ったら、城なんか守れないよな」
ナブロ司令官
「ふん、我が軍とて今に、浮かぶ城が完成する」
「そうすれば、こんな余所者の船に手伝ってもらう事もないわ」
ショウ
「あれが隊長か……」
「司令官、何故手伝おうとしないのですか?」
ナブロ司令官
「何の事だ?」
チャム
「遅いのよ! 全員でパッとやるの! いつ敵が来るか分かんないでしょ?」
ナブロ司令官
「軍人がフェラリオの言う事を聞けるか!」
ビショット
「ご機嫌麗しく、ドレイク閣下」
ルーザ
「まあま、よくもリムルを……」
ドレイク
「流石、ビショット・ハッタ殿……手際良い働きに感服致しました」
ビショット
「何、これしきの事……」
「もっと早くお届けしようと思いましたが、リムル殿の気持ちを静める為、四五日要しました」
ドレイク
「優しいお心遣いを」
ビショット
「さ、お渡し致します」
ルーザ
「お好きになさってくだされば宜しいのに。リムルはビショット様を、兄のように慕っておりますのよ?」
ビショット
「光栄ですな」
「さて、ドレイク閣下……」
ドレイク
「うむ、これ以後は男同士の話を」
ルーザ
「閣下、それは祝宴の後ででも……」
ビショット
「ルーザ様、私は戦いの前で気が高ぶっております」
「一刻も早く、ドレイク閣下の新造戦艦『ウィル・ウィプス』の図面なりとも拝見したいのです」
ルーザ
「さ、左様で御座いますか?」
エレ
「あの方達に取次いでくだされば、分かってくださる筈なんです! 取次いでください!」
ラウの兵士
「駄目だ、こんな夜中に……!」
チャム
「あれ?」
エレ
「会わせてください!」
ラウの兵士
「女スパイだって居るんだからな。さっさと行かねえと、こうするぞ!」
エレ
「ゼラーナの方に取次いでくだされば……」
ラウの兵士
「執拗いぞ!」
エレ
「きゃっ……!」
ラウの兵士
「出て行け! 殺されるぞ!」
エレ
「あぁっ!」
チャム
「ショウ!」
ショウ
「何? あのお姫様が?」
「身分を明かせば、この要塞にだって入れて貰えるというのに」
ショウ
「やめろ!」
「やめろ!」
ラウの兵士
「わっ!」
エレ
「ショウ・ザマ……」
ラウの兵士
「野郎……!」
チャム
「わっ!」
ニー
「お待ちください!」
「やめてください。あの方は高貴なお方です。我が軍に利益をもたらす方なのです」
ショウ
「エレ様、どうしてこちらへ?」
エレ
「母が、母がドレイクの兵にやられて、私……」
ショウ
「ニー」
チャム
「死んだ」
ショウ
「チャム!」
チャム
「きゃっ!」
ラウの兵士
「地上人か。あんな変な技を使うとは……」
「止まれ! どこへ行く?」
ホン・ワン
「ゼラーナのクルーに会いたいんです。私はホン・ワンと言います」
ラウの兵士
「またゼラーナかよ。第一発進口だ」
ホン・ワン
「あ、こりゃどうも」
ラウの兵士
「敵なのか?」
ホン・ワン
「へぇ、ドレイクとビショット軍が動き出しましたぜ?」
ラウの兵士
「ビショットの、クの国も敵になるのか」
エレ
「はぁっ……」
チャム
「わ、綺麗になる」
マーベル
「傷は痛みませんか?」
エレ
「大丈夫です」
チャム
「ね、ホン・ワンの話って何?」
キーン
「ドレイク軍が大型戦艦を造って、ラウの国に攻め込むらしいって」
チャム
「大型戦艦?」
マーベル
「あり得るわね。それでショットが引っ込んでた理由も分かるわ」
「エレさん」
エレ
「お陰様で、漸く人心地付きました」
マーベル
「お気に召すか分かりませんけれど、これをどうぞ」
エレ
「有難う」
「うっ……」
マーベル
「あ、エレさん……」
エレ
「死んだ母に、この暖かさを、今一度味あわせてあげたかった……」
ショウ
「ギンの岬に集結してる主力部隊は、どのくらいの戦力なんだ?」
ホン・ワン
「へぇ、ビショットのクの国の援軍も入ってますからね」
ニー
「これは司令……」
ナブロ司令官
「これがゼラーナで雇っている密偵か」
ニー
「はい」
「ギンの岬にはビショット軍も入り、ドレイク城からは大型戦艦も出るという事です」
ナブロ司令官
「ドレイク城? あぁ、昔のエルフ城だったな」
ショウ
「司令、我々はこのナブロの要塞を出て、ゼラーナで敵戦力を分断する計画です」
ニー
「このまま座して守るは、困難と思います」
ナブロ司令官
「フォイゾン王とて大型戦艦を発進させようとしている。ナブロは落ちん」
ショウ
「ですが我々は、その噂の戦艦の姿を見ていません。となれば、ゼラーナで少しでも敵を……」
ナブロ司令官
「そうだな。なるべく多くの敵を落としてくれ、聖戦士殿」
ショウ
「はい、落としてみせましょう」
「ニー」
ニー
「分かった。ホン・ワンは、ドレイクの大型戦艦の動きを追ってくれ」
ホン・ワン
「はい」
ニー
「マーベル、ゼラーナ発進だ。急げ」
マーベル
「了解」
ナブロ司令官
「しかし、ゼラーナめ……確かに実戦慣れはしとるな」
ジェリル
「ラウ攻めの第一陣の手柄は、私が頂く。付いてこい」
ラウの兵士
「ドレイク軍のパトロール隊だ」
ジェリル
「待ち伏せかい。洒落臭い」
「いいね、この緊張感」
「くっ……!」
「ん、快感ね」
「ははっ、粋がって!」
エレ
「はっ……!」
「何、この恐ろしい影は……」
ニー
「どうした?」
エレ
「正面から……前から、黒い恐ろしい物が来ます」
ショウ
「黒い物が……何ですそれは?」
エレ
「悪意です。何か酷く、悪意を持った物です」
マーベル
「信じられて?」
ショウ
「敵の動きは、エレの言う通りだろ」
マーベル
「エレの勘を信じるのかって事よ」
ショウ
「俺は地上から、エレに呼び込まれたと信じている」
キーン
「二人共、駆け足!」
チャム
「あ、遅いんだから……!」
ショウ
「すまない」
ジェリル
「タンギー隊は、オーラ・バトラーに構わずゼラーナを落とせ」
アの兵士
「了解」
キーン
「来たな。このフォウだって戦いようはあるんだから!」
ショウ
「キーン、突っ込み過ぎだ!」
キーン
「私だって、戦法くらい考えられんだから!」
ジェリル
「当たるかい、蚊トンボめ!」
「落ちた……ダンバイン!」
「くっ、ショウって奴か!」
ショウ
「ジェリル・クチビ……地上人だな?」
チャム
「やっちゃえ!」
ジェリル
「うっ、私が地上人だからって何だってんだ?」
マーベル
「ドロよりも手強いというの?」
エレ
「駄目よニー、ここの戦いは早く済ませて。ゼラーナは上空で待機しなくては」
ニー
「何だと? 何故だ?」
エレ
「もっともっと大きな影が、このラウの国に、攻め込もうとしているように感じるのです」
ニー
「もっと大きな影が……どっからだ?」
エレ
「それは……それは分からないわ」
マーベル
「ショウ!」
ジェリル
「しまった!」
ショウ
「な、何をしようってんだ?」
チャム
「落ちる〜!」
ジェリル
「このまま海へ突き落としてやる!」
チャム
「あぁっ、ショウ……!」
ショウ
「手を放すなよ、チャム!」
「落ちるな!」
「わっ、うっ……!」
ジェリル
「仕留めたか?」
マーベル
「ショウ……」
「はっ!」
ジェリル
「やられに来たのかい? ははっ!」
「あっ……?」
「何だ?」
ショウ
「ジェリル!」
ジェリル
「う、何ぃっ!」
「わっ、ぁっ……!」
「ハッチが空いちまった!」
「まだ負けちゃいないよ!」
ショウ
「させるか!」
チャム
「やっちゃえ〜!」
ジェリル
「あっ!」
ショウ
「今だ、マーベル!」
マーベル
「ドレイクの手先め!」
ジェリル
「あぁっ……!」
「くっ……!」
ニー
「ショウ、マーベル。ゼラーナは上昇する。順次着艦しろ」
トッド
「アレン、そっちには連絡が入ったんだろうな?」
「アレン……!」
アレン
「何だよ?」
トッド
「ウィル・ウィプスから、何か連絡はないかと聞いてるんだ」
アレン
「苛々しなさんなよ。それじゃ、いいパイロットにはなれんぞ?」
トッド
「ここは地上じゃないんだ」
アレン
「こっちは、ジェリルが先発で出ている」
トッド
「何? 俺達を無視しようってのか」
「おっ……!」
ビショット
「確かに、このウィル・ウィプスが姿を見せるだけで、ラウのフォイゾンもナの国のシーラも、圧されるでしょうな」
ドレイク
「さてな。フォイゾンとてシーラとて、我々の動きを黙って見ていた訳ではない」
「大体、あのフォイゾンが、大人し過ぎると思わんか?」
ビショット
「確かに……ラウのカラカラ辺りに不穏な動きがあるようですし」
「シーラが、ラウに援軍を送ったとも考えられます」
ドレイク
「さて、ギンの岬に集結した軍に進撃の命令を」
「ウィル・ウィプスは初陣である。飽くまでも後方からの支援を」
アの兵士
「はっ!」
「信号弾、撃て!」
アレン
「成程な、ドレイクの強気の原因が分かったよ」
エレ
「来ます」
ニー
「どのくらいの戦力か?」
エレ
「分かりません」
マーベル
「確かに来るのね?」
エレ
「私には、影が軍隊なのかどうかは分かりません」
ショウ
「しかし、ラウの国を襲おうとしている悪意である事は、間違いないんですね?」
エレ
「恐らく」
マーベル
「それで十分よ。海岸線へ移動しつつ、上から仕掛けるわ」
ショウ
「賛成だ。ドレイク直々に出てきていると思える」
チャム
「それを直撃する?」
ショウ
「そういう事」
ラウの兵士
「来たぞ、ドレイク軍だ。この海岸線を一歩も突破させるな」
 〃
「第一次砲撃の後、出る。遅れるな」
ナブロ司令官
「グナンとボゾンは、後方に伏せさせているだろうな?」
ラウの兵士
「はっ!」
ナブロ司令官
「引き付けて、ありったけの砲を撃て」
「このナブロが、そう簡単に落ちん事を見せてやる」
ラウの兵士
「てぇっ!」
トッド
「来たぞ来たぞ」
「むっ……!」
ラウの兵士
「わぁぁっ!」
アレン
「右へ回り込むぞ。一気にトーチカを叩く。続け」
「どこだ?」
ニー
「始まってる……間に合わなかった」
「ショウ、出られるか?」
ショウ
「カートリッジは?」
コタノ
「装填、終わってます」
ショウ
「いいぞ、ニー」
ニー
「チャムはゼラーナに居ろ」
チャム
「や〜よ、私だって偵察ぐらい出来るわ」
ショウ
「めっ!」
チャム
「あんっ!」
トッド
「むっ、ダンバインか」
「要塞攻めなぞ、アレンにやらせておく」
「邪魔するな!」
マーベル
「ショウ、気を付けて。手強いわ」
ショウ
「分かってる。あれはトッド・ギネスだ」
トッド
「ショウ、どこに隠れていた!」
ショウ
「トッド、憎しみだけがパワー・アップしてるぞ!」
トッド
「それが何故悪い?」
マーベル
「うっ、うぅっ……!」
トッド
「もうダンバイン如きにやられはせんよ!」
ショウ
「トッド!」
チャム
「右よ。ドラムロが行ったわ」
ニー
「右だ、撃て!」
ゼラーナのクルー
「うっ!」
エレ
「きゃっ!」
ニー
「エレは下へ行ってて」
エレ
「ニー、後方へ下がって。ここはもう破られます」
ニー
「何?」
エレ
「黒い影は動いていません。ここに見える以上の敵が……あっ!」
「敵が居るのです」
キーン
「ゼラーナ、収容してください」
ニー
「了解だ」
「キーン、メイン格納庫に入ってもいいぞ」
チャム
「あっ、ニー、ダンバインが……!」
ニー
「ん?」
「何だ、あのオーラの光は……また地上に出てしまうのか?」
ショウ
「マーベル、下がれ! 奴はオーラ力がアップしてる! 下がれ!」
マーベル
「あぁっ……!」
トッド
「女は下がってんだよ!」
マーベル
「うっ、コンバータが……!」
ショウ
「マーベル」
「キーン、マーベルが落ちた!」
キーン
「了解、やってみる」
「マーベル!」
「マーベル、掴まって」
マーベル
「了解」
「もうちょい、もう少し……!」
トッド
「ショウ、パワーの違いを見せてやるぜ!」
ショウ
「まだ目が覚めないのか、トッド!」
トッド
「他人に説教するほど年を取ったのかよ、ショウ!」
「勝負だ!」
ショウ
「むんっ!」
「トッド、パワー・アップしている……!」
トッド
「俺だって聖戦士だぜ!」
ショウ
「わぁぁっ!」
トッド
「うぉぉっ!」
マーベル
「あの光……」
キーン
「ええ」
チャム
「あっ……!」
ニー
「またあの光が飛んだ。ダンバインが地上に出るのか?」
エレ
「いいえ、地上には出ません」
ニー
「出ない?」
エレ
「はい。地上には出ません」
ビショット
「閣下、奇妙な光がナブロの手前で上がりましたな」
ドレイク
「ここからも見えた」
「ショット、調査させろ」
「しかし、こんな物かな?」
「ラウの国攻略中に、このウィル・ウィプスの調整をして、次はナの国に共に攻め込む」
ビショット
「でしょうな」
「私も、自国の艦隊を謁見したいので、戻ります」
ドレイク
「(?)フォイゾン王を落とす時は、多少の援軍を……」
ビショット
「それは勿論。我が軍も、実戦には慣れさせませんとな」
ドレイク
「ああ、そうだな」
ビショット
「そろそろ忙しくなりそうだな」
「やってくれ」
クの兵士
「はっ!」