第27話 赤い嵐の女王

前回のあらすじ
バイストン・ウェルに、オーラ・マシンによる喧騒が拡大していった時、
世界が、それを排除しようとして働くのもまた、理である。
オーラ・マシンを操る人々は、バイストン・ウェルに於いて悪しき者なのかもしれない。
フォイゾン王の孫娘、エレが母を殺されて、ゼラーナに逃げ込んできた。
そのエレの霊力は、ゼラーナの前に迫る危機を、次々と予知していった。
ショウ
「トッド!」
トッド
「ショウ!」
ニー
「エレにも、ショウの行方は分からないのか?」
マーベル
「ええ。地上ではないどこからか、ショウを感じると言ってるけど……」
ニー
「そうだろうな。人間そう便利には行かないか」
マーベル
「でも、ニー……」
チャム
「そんな事はないわ。ショウは必ず帰ってくる」
マーベル
「しっ……」
エレ
「……駄目です。私にはまだ、何も分かりません」
ニー
「有難う、エレ。少し休んでくれ」
チャム
「私が付いてるからね」
キーン
「大丈夫よ」
エレ
「有難う……」
ショウ
「鉄分か? 土が真っ赤だ……」
「何だ?」
賊の男
「どこへ行きやがった、あのフェラリオ」
 〃
「居たか?」
 〃
「何で見付からねんだ?」
エル
「きゃっ!」
賊の男
「居たぞ。あの岩陰だ」
エル
「きゃっ、あっ……!」
賊の男
「殺すな。捕まえなきゃ、シンドロ様に叱られるぞ」
 〃
「バテさせなけりゃ、チョコマカ動きやがって捕まえようがねえよ」
 〃
「そういう事!」
エル
「きゃっ!」
賊の男
「そろそろ観念するんだな、フェラリオちゃん」
「さあ、案内してもらおうか? シーラ・ラパーナ姫さんとこへよ」
エル
「放して! 嫌よ!」
賊の男
「な、何だ? こんな所に、オーラ・バトラーが居るぞ!」
ショウ
「そのフェラリオが何をしたんだ。放せ!」
賊の男
「エルを放せだと?」
「イテッ!」
エル
「助けて!」
賊の男
「うっ……!」
ショウ
「今のはわざと外した。ここを出て行かなければ、今度は本当に当てるぞ」
賊の男
「で、でもよ……」
 〃
「フェラリオを前にして……」
シンドロ
「お前ら!」
賊の男
「シンドロ様」
ショウ
「何だ?」
シンドロ
「ええいっ!」
エル
「きゃっ!」
ショウ
「電磁鞭か」
シンドロ
「えいっ!」
ショウ
「このっ!」
シンドロ
「うっ……!」
「退け!」
賊の男
「お〜い、頭〜!」
エル
「……有難う。私、エル・フィノ」
ショウ
「何故、あいつらに追われていた?」
エル
「開けて。私、行かなくちゃ」
ショウ
「分かったよ」
「さっきの奴らがまた来たら、どうするんだ?」
エル
「じゃ、ずっと向こうに森があるの。そこまで連れてって」
ショウ
「それはいいが、ナブロの岬の方向を教えて欲しい」
エル
「ナブロ……どこ?」
ショウ
「ラウの国だ」
エル
「あはっ……!」
ショウ
「何が可笑しい?」
エル
「ラウの国なんて、ずっと遠い所じゃない」
「きゃっ……!」
「来た! 上よ!」
ショウ
「何だ?」
エル
「ルグウよ。動く物なら何でも食べちゃう」
シンドロ
「猪口才な!」
「ふふっ……!」
ショウ
「しぶとい!」
シンドロ
「おのれ!」
ショウ
「剣より砂が効くとはな……」
エル
「やっつけられなかったの?」
ショウ
「あんなの相手にするの、初めてだからな」
トッド
「確かに、ダンバインの後、ピッタリ付いてた筈なのに」
「どこに行った、ショウ・ザマ?」
ショウ
「エル」
エル
「いい人が居ました。ショウって人が助けてくれそうです」
「ちょっと単純そうだったから」
ショウ
「アラッ」
「誰が単純だって?」
エル
「あら嫌だ、聞いていたの?」
ショウ
「当たり前だ」
「あっ……」
シーラ
「貴方がショウ・ザマか?」
ショウ
「あ、はい」
シーラ
「アの国のドレイクの元に降りたという、地上人か?」
ショウ
「どうしてそれを……」
エル
「シーラ・ラパーナ様が知らない事なんかないわ」
シーラ
「地上人、手を……」
ショウ
「はい」
「貴方は……」
シーラ
「私は、あのシンドロに騙されて、この嵐の玉に入ってしまいました」
ショウ
「嵐の玉?」
シーラ
「この場所……赤い砂漠や怪獣の居るここが、嵐の玉の中なのです」
ショウ
「成程ね」
シーラ
「でも、貴方のオーラ・バトラーを使えば、ここを脱出出来ます。助けてくださいますか?」
ショウ
「しかし、ダンバインは一人乗りです。ダンバインの手に掴まる事が出来るなら……」
エル
「そんな事したら、シーラ様は嵐の壁で息が出来なくなるわ」
シーラ
「エル・フィノ」
「二人とエルフィノ一匹、乗れませんか?」
「はっ……!」
賊の男
「出て来い、シーラ! いつまでも逃げられやしねぇぞ!」
エル
「わっ、来るわ!」
「イヤンッ!」
シーラ
「ショウ・ザマ、私はここを動きませんから……」
ショウ
「シーラ・ラパーナ……」
シーラ
「貴方のダンバインで、シンドロ達を蹴散らして見せなさい」
ショウ
「はい。やってみましょう」
シーラ
「信じておりますよ」
ショウ
「まるで女王様だな……」
賊の男
「おっ、さっきのオーラ・バトラーだ」
シンドロ
「ん、居たか」
「退いてろ、てめぇら!」
ショウ
「こっちだこっち、こっちへみんな来い」
シーラ
「この危機を乗り越えさせてくれれば、ショウ・ザマは真の聖戦士と言えよう」
「その時は、新たに開発中のオーラ・バトラーを与えるのも良かろう」
「エルはどこに行ったのか?」
トッド
「何だ、あの爆発は?」
賊の男
「うわっ!」
トッド
「何だ、あのグライ・ウィングの奴は?」
「あっ……!」
エル
「貴方、聖戦士ね? ショウの友達でしょ? 助けて!」
トッド
「ショウの友達だと?」
「下がってろ、キャノピーを開ける」
エル
「んっ……!」
トッド
「今、ショウとか言ったな?」
エル
「痛いよ、放してよ!」
「貴方、友達じゃないの?」
トッド
「友達じゃなかったら、どうすんだ?」
エル
「開けて。外へ出る」
トッド
「ショウは友達さ。俺にとっての良きライバル……命懸けの友達なんだ」
エル
「なら、早く行って。真っ直ぐよ」
トッド
「了解だ」
ショウ
「こいつ……!」
「大体、こんな怪獣に苦戦するなんて!」
シンドロ
「うぉっ!」
ショウ
「剣が通った?」
「わっ、馬鹿な……舌の力は、腹の筋肉以上だってのか?」
シンドロ
「わっ、野郎……!」
ショウ
「迂闊だった。怪獣の動きに惑わされて」
エル
「やれるの、あんた?」
トッド
「馬鹿にしないの!」
シンドロ
「な、何だ? こいつのオーラ・バトラーは……」
ショウ
「ビアレスに光……何の光だ?」
「あれは……!」
「爆発が跳ね飛ばされた!」
トッド
「ふん、ダリヤか」
シンドロ
「うわぁぁっ!」
「ぬぅぅっ……!」
ショウ
「俺の剣は、微かに刺さっただけだというのに……」
「トッドめ、力を付けている。真のオーラ力を身に付けたように見える」
シンドロ
「嵐の玉の中で一人寂しく生きてきて、漸く俺って友達が出来たのに……」
ショウ
「シーラ、強敵が現れた。ここを脱出する」
シーラ
「ルグウは倒したのでしょう?」
ショウ
「俺じゃない。敵が倒したんだ。急いで」
トッド
「ふふっ……ダンバイン、ショウ! 見付けたぞ!」
「この今の俺を以てすれば、一気に勝負を付けてやれるぜ。苦しまずにな」
エル
「嘘吐き! 何よ、友達だって言ったじゃない!」
トッド
「嘘吐きは、お前ら『ミ・フェラリオ』の専売特許だろ?」
エル
「何ですって〜、もう!」
トッド
「くっ……!」
「あのフェラリオめ、逃げやがった!」
エル
「シーラ様」
シーラ
「エル、どこに行っていたのです?」
ショウ
「ビアレスが来る。シーラ、早く」
シーラ
「あっ……」
エル
「来るよ〜!」
ショウ
「なるべく小さく座って」
シーラ
「こう?」
ショウ
「ええ」
トッド
「へっ! ショウ、ダンバイン、頂く!」
「逃げるか!」
シーラ
「貴方、こんな恐ろしい事をいつも……?」
ショウ
「宿命なのか運なのか、バイストン・ウェルに来ていつもこうさ」
シーラ
「あっ……!」
トッド
「さっきあれだけのパワーを感じたのに、今は違うぞ!」
ショウ
「トッド……!」
「このまま一気に上昇するぞ」
トッド
「逃がしはしない!」
シーラ
「ショウ……!」
ショウ
「動かないで」
トッド
「くっ、何故さっきみたいに力が出ないんだ?」
エル
「よ〜し、よくやった、ショウ!」
シーラ
「やっつけましたか?」
ショウ
「いや、ビアレスはこんなもんじゃない」
トッド
「な、何だ?」
ショウ
「嵐の壁か」
シーラ
「そうです。ここを突き抜ければ、外に出られます」
エル
「早く出よ、早く」
トッド
「ショウ、どこに行った?」
「そこか、ショウ!」
「ダンバイン、速い……!」
エル
「シーラ様、出られるの?」
シーラ
「出られます。ダンバインなら、嵐の壁は出られます」
エル
「あ、ショウ! 落ちてる! ダンバインが落ちてる!」
「ショウ、起きろ!」
ショウ
「ん?」
エル
「あ、ここ知ってる。ミアランの海の近くだ」
ショウ
「前が邪魔だ、エル・フィノ」
エル
「目を覚まして、シーラ様。助かったのよ?」
「シーラ・ラパーナ様」
ショウ
「シーラ」
エル
「ひゃ〜、助かった〜!」
シーラ
「あっ……」
ショウ
「危ない」
シーラ
「ご苦労でした。ここから降ろさせてください」
ショウ
「はい」
「飛び降りられますか?」
シーラ
「この高さなら……」
ショウ
「どうぞ」
「何故、あんな変な空間に入って、追い掛けられていたのです?」
シーラ
「ガロウ・ランの者です。私を攫って、ドレイクに売るつもりだったのでしょう」
ショウ
「貴方を……?」
シーラ
「そう」
「私を売れば、ガロウ・ランと言えども、一軍の将に取立てて貰えましょうからね」
「ところが、あの何十年かに一度現れる、嵐の玉の中に捕われてしまった為に」
「シンドロとかいうガロウ・ランの企みは、失敗に終わりました」
「そして私は、ショウ……貴方という人に巡り会えました」
ショウ
「んっ……」
シーラ
「貴方はまだ、自分の戦う目的が分かっていませんね?」
「バイストン・ウェルを救いたいと、本気で考えてはいません」
「結局は他人事のように思って、戦いを楽しんでいるのではないのですか?」
ショウ
「そんな事はない」
シーラ
「そうでしょうか?」
ショウ
「戦いは命の駆け引きなんだ。楽しんでる暇あるもんか」
シーラ
「ならば目先の敵なぞに惑わされずに、ドレイク、ビショット、ショットの三人を、何故倒さなかったのです?」
ショウ
「それは理屈だ! ドレイクだって防御してくるよ」
シーラ
「当たり前です。それを突破してこそ聖戦士でしょう? 甘えないでください」
ショウ
「あんた、何者だ……?」
シーラ
「シーラ・ラパーナと申しました。ナの国の、女王の立場に立つ者です」
ショウ
「女王……」
「どうも……漸く分かったよ。それでこそ、あんたの話の帳尻が合う」
「何故、隠していた?」
シーラ
「隠すなどと……そんな下衆な事をした覚えはありません」
ショウ
「そうだったか?」
シーラ
「そういう言い方が、貴方の甘さですね」
ショウ
「そうか……」
シーラ
「もっと、高見に立って事態に対処してください」
ショウ
「分かった」
「では、俺は行く。ここはナの国なんだろ? 帰れるな?」
シーラ
「ショウ・ザマ」
「助けてくださった事に礼は申します。恩には報いる事が出来ましょう」
ショウ
「今のシーラの言葉で十分だ」
シーラ
「言葉だけでは戦いは出来ません」
「聖戦士と認めるからこそ苦言を呈しました。期待します」
ショウ
「シーラ・ラパーナ……」
「ん?」
「シーラ、エレ、下がって! さっきのオーラ・バトラーだ!」
「トッドも嵐の玉を抜けたのか……?」
トッド
「やっぱり、ダンバインの力に引かれて嵐の玉を抜けられたのか。そうでなければ……」
ショウ
「トッドめ、簡単に見付けてくれる」
「速い!」
トッド
「むっ……!」
ショウ
「トッド!」
シーラ
回想:「貴方の甘えではないのですか?」
ショウ
「甘えで戦えるかよ!」
「むっ……!」
「トッド、死んでもらう!」
トッド
「ほざくな!」
ショウ
「あっ!」
エル
「シーラ様……」
シーラ
「大丈夫です。私はあの方を信じます」
エル
「嘘言って……あんなにお説教していた癖に」
シーラ
「見所のない戦士に、何を言いますか?」
トッド
「勝った!」
ショウ
「何を!」
「食らえ!」
トッド
「ぷはっ……!」
ショウ
「シーラ・ラパーナ、ナの国の女王だと言ったな……」
エル
「やったやった! ね、シーラ様?」
シーラ
「近くの船を呼んでいらっしゃい、エル」
エル
「は〜い」
シーラ
「ショウ・ザマ……ビルバインを預けられるのは、やはり彼しか居ないようですね」
チャム
「ショウ!」
ニー
「17歳か8歳に見えたっていうんなら、間違いない」
「その方こそ、ナの国の女王だ」
ショウ
「翡翠色の髪の毛の女の子なんだぞ?」
ニー
「ああ、間違いない」
チャム
「んっ……!」
ショウ
「何て格好してんだ?」
チャム
「いいじゃない。これ、私が縫ったのよ? 可笑しい?」
ショウ
「いや?」
チャム
「あ、似合うって褒めてくれたっていいじゃない〜」
ショウ
「ふぅっ……」
マーベル
「大丈夫?」
キーン
「嵐の玉を抜けてトッドをやっつけりゃ、疲れもするわ」
ニー
「シーラ様をお助けしたとなれば、益々な」
マーベル
「さ、ショウ」
ショウ
「いやいいよ、マーベル」
マーベル
「そう?」
ショウ
「俺、甘ったれか?」
マーベル
「え?」
ショウ
「俺はさ、甘ったれな人間なのかな?」
マーベル
「見方によるけど、男性そのものっていうのとは違うわね」
ショウ
「やっぱりな……」
ニー
「何だ、急に?」
ショウ
「シーラ・ラパーナにそう言われた」
「ニーは、女にそう言われた事あるのか?」
ニー
「ふん、お前に言われた事があるような気はするけどな」
ショウ
「堪らんぜ、そんな事……」
ニー
「そうかな?」