第29話 ビルバイン出現

前回のあらすじ
バイストン・ウェルに、オーラ・マシンによる喧騒が拡大していった時、
世界が、それを排除しようとして働くのもまた、理である。
オーラ・マシンを操る人々は、バイストン・ウェルに於いて悪しき者なのかもしれない。
ドレイク軍は、ラウの国を攻略する為に、全軍を始動させた。旗艦はウィル・ウィプス……。
しかし、カラカラ山岳帯には、フォイゾン王は秘密兵器『ゴラオン』を伏せさせていたのだった。
ミズル
「カラカラを抜いて、ラウの城を落とすまでに一気に攻め込むぞ。いいな?」
ジェリル
「でも向こうには、大型戦艦のゴラオンが出て来ているんだ」
「正攻法は苦戦を強いられるだけだよ? いいのかい?」
ミズル
「他人事のようだな、ジェリル」
「ニグ・ロウからの情報が入っている。ゴラオンの兵装は、まだ完全ではないようだ」
「それに、敵が強力であればある程、我々の勝利の価値も大きくなる」
ジェリル
「ふん、理屈だな」
ミズル
「我が隊は山側から。そして、ドレイク様のウィル・ウィプスは、海側から攻める」
アレン
「ふん、ゴラオンが出たというのに、ウィル・ウィプスは相変わらず後方か? 気楽なものだな」
ミズル
「作戦通り戦えばよい」
「一同、行け!」
アの兵士
「はっ!」
ミズル
「アレン……アレン!」
「ビショット軍も入るのだ。いいな? 仲間内の争い事はなしにしてもらおう」
アレン
「ああ……」
アレン
「ジェリル、今度の作戦は自分勝手にやって欲しくないな」
ジェリル
「私は好きにやらせてもらうよ」
アレン
「何……?」
ジェリル
「ジョークさ」
整備兵
「兵器のチェックは済んだか?」
 〃
「ボチューン隊、整備を急げ」
コタノ
「釈迦同然だ。こんなポンコツ、どうしろってんだ」
「今更破損箇所を直したって、どうにもなりゃしないよ」
ショウ
「自棄になるなよ。いざとなったら、逃げてくれればいい」
コタノ
「ゼラーナは役に立たないとでもいうのか?」
ショウ
「そうだ。今のダンバインの威力なら守り切れる」
コタノ
「そのダンバインだって、そろそろガタが来てるんだ。気を付けて使ってくれよ?」
ショウ
「カバーする方法はちゃんと知ってるよ」
コタノ
「セフ、さっさと部品持ってこい!」
フォイゾン
「誰がドレイクなどに国を渡すものか」
プラドン
「しかし、城を出るという事は……」
フォイゾン
「ワシとて、城を捨てる事は偲びない」
「だが、今のドレイク軍を撃退するには、古い戦法に囚われない作戦を取るしかない」
プラドン
「城を捨てる事は、我が方の敗北を意味するものですぞ」
フォイゾン
「プラドン……国そのものを守れれば、戦いは続けられるのだ」
ニー
「同感です」
「ゴラオンという戦艦を使い、敵を撃退する事に戦力を集結すれば、ドレイクを討つ可能性もあります」
「むしろ、後ろを守る事に拘れば、我が方の戦力は現在の倍は必要になるでしょう」
フォイゾン
「ゴラオンを中枢に、ナの国の国境近くに引いて敵を討つ」
プラドン
「タータラ城は、国の象徴です」
ニー
「城がオーラ・バトラーに対して、戦力になりますか?」
プラドン
「だが、城を空けてしまえば、国民に不安を与える事になる」
フォイゾン
「言うな。ドレイクを討たずして民に平和はない。我らにもな……」
プラドン
「はい……」
アレン
「いよいよだ」
「ジェリル」
ジェリル
「何だ?」
アレン
「お互い生きてたら、デートぐらいしないか?」
ジェリル
「メロドラマじゃあるまいし……どういう事だ?」
アレン
「バイストン・ウェルの連中を信用出来んのだ」
ジェリル
「成程」
アレン
「ま、誰かと約束の一つもしといた方が、生き延びようって気にもなるって事さ」
ジェリル
「ははっ! 可愛いよ、アレン」
ラウの兵士
「失礼します」
プラドン
「何だ?」
ラウの兵士
「ドレイク軍、出撃したとの事であります」
フォイゾン
「城は捨てるのだぞ。良いな?」
プラドン
「王の御命令とあらば……」
ジェリル
「確かにアレンの言う通りだ。総掛かりだと言いながら、ウィル・ウィプスは後方……」
「あっ……」
トッド
「待ちくたびれたぜ。ピクニックじゃないっていうのによ」
ジェリル
「トッド・ギネス……お前に先鋒は取らせないよ」
トッド
「ドレイク軍の連中なんかに、先駆けを許しはしないぜ」
ジェリル
「何?」
トッド
「待ちくたびれたとさ」
ジェリル
「トッド・ギネス……ビアレスの性能が少しばかりいいからと言って……!」
「トッド、余計な事をするな!」
トッド
「タータラ城へ向かうのが先じゃないのか?」
フォイゾン
「これより城を出る。周囲を警戒させろ」
ラウの家臣
「はっ!」
プラドン
「国王、私めは城に留まらせて頂きます」
フォイゾン
「プラドン、お前を死なせる訳にはいかん」
プラドン
「いえ、城を守らずして何の騎士道でありましょう?」
フォイゾン
「見たか、オーラ・バトラーの力を……」
プラドン
「そうで御座いますが、私の最後の我儘をお許しください」
フォイゾン
「プラドン……」
プラドン
「ペーゲル、ガント」
「では……」
エレ
「プラドン、どこへ行くのです?」
プラドン
「お城へ」
エレ
「お城へ? いけません、ここに居て。せめてゴラオンに……」
プラドン
「ご心配なく。我々は必ず勝ちます」
マーベル
「大丈夫よ、エレ。あの人達なら必ず……」
エレ
「でも、お城は……お城は、落ちるのです」
マーベル
「エレ……!」
ニー
「エレ様……!」
マーベル
「およしなさい。言ってはいけない事があります」
エレ
「でも、私には見えてしまうのです」
「うぅっ……!」
ドレイク
「小賢しいな。叩き潰して前進しろ」
ショット
「はっ!」
チャム
「ショウ、敵機が来たわ」
ショウ
「分かり切った事、言うんじゃないの」
「マーベル、俺達の狙いは、ドレイクの乗るウィル・ウィプスだ」
マーベル
「ショウ、ウィル・ウィプスの火力は想像以上という報告が入っているわ」
ショウ
「分かってる……しかし今までに、空母が戦闘機に勝った試しはない」
マーベル
「酷く自信があるようだけど、何故そう思えるの?」
ショウ
「悪意があるからこそ、ドレイクはこうも戦いが続けられるんじゃないのか?」
「しかし俺達は違う。正義の為に戦ってきた」
マーベル
「そうね……」
ショウ
「そうさ。だから必ず勝つ」
「そんな単純じゃないと言いたそうだな」
「だけど……物事なんて、みんなそんなもんさ」
ドワ
「いや、いつ落ちるか分からんな」
ニー
「それでもやるさ」
キーン
「ニー、ドレイク軍はカラカラを越えたわ」
ニー
「ギリギリまで引き付けて、ウィル・ウィプスを襲う」
「隠れていろ、キーン」
キーン
「了解」
マーベル
「ゼラーナを当てにして貴方を誘い込んでしまった事、後悔しているわ」
ショウ
「そんな気兼ねは無用だな」
マーベル
「でも……」
ショウ
「死んだって後悔はしないさ」
マーベル
「そんな……」
チャム
「あ、了解」
「イーッ!」
ショウ
「こうして、好きになれそうな人に出会えたんだからさ」
マーベル
「好きにはなってくれないの……?」
ショウ
「俺は、マーベルには相応しい男じゃないんじゃないかってさ」
「そう思うから、まだ……」
マーベル
「いいのよ」
チャム
「あ〜、んっ……!」
ペーゲル
「落ちろ、落ちろ!」
プラドン
「新手が来たか。これ以上城は……」
トッド
「何だい、先鋒隊は俺達じゃないのか」
ジェリル
「出し抜く奴は、ゴロゴロ居るのさ」
ガント
「別働隊か!」
「パワーが違い過ぎる!」
ペーゲル
「ガント!」
ガント
「うわぁぁっ!」
ペーゲル
「ガント……!」
プラドン
「花は春、夏は陽炎、秋紅葉、冬の白雪、既に無し……」
ペーゲル
「速い……!」
ラウの兵士
「城が、城が燃えている……!」
フォイゾン
「静まれ、狼狽えるな! ウィル・ウィプスが射程距離内に入るまでは、オーラ・バトラー隊で凌げ!」
ラウの兵士
「第二隊は下から、第三隊は上から攻撃を掛けろ」
 〃
「了解」
アの兵士
「タータラ城は落ちた模様です」
ドレイク
「うむ」
ショット
「フォイゾンは城を捨てて、ゴラオンで勝負を付けるつもりでしょう」
アの兵士
「ゴラオン、キャッチ!」
ショット
「やはり……」
ドレイク
「やるな、フォイゾンめ」
「主砲の用意だ。オーラ・バトラー隊に弾道を開けさせろ」
ラウの兵士
「仕掛けるぞ!」
ショット
「うわぁぁっ……!」
ショウ
「マーベル」
マーベル
「援護するチャンスよ」
ショウ
「よし」
チャム
「どう?」
ショウ
「きつくないのか?」
チャム
「直したの。いいでしょ?」
ショウ
「いい、いいよ」
キーン
「キーン、フォウ出ます」
ニー
「ドワ、まだ思うように飛べないのか?」
ドワ
「応急手当じゃ、飛んでもすぐに落とされるのがオチですよ?」
「うっ!」
ニー
「いい加減な考えで、フォイゾン王に恩は返せないぞ!」
ドワ
「やりゃいいんでしょ!」
チャム
「ドラムロなんか相手にしないで、ウィル・ウィプスを叩くのよ!」
ショウ
「この数で、そんな簡単に行くか!」
マーベル
「ドレイクも流石、よく数を出す」
ラウの家臣
「お待ちください。ゴラオンで指揮を執れば、兵達は納得します」
フォイゾン
「言うな。ワシは刺し違えてでも、ドレイクを討ちたいのだ」
ラウの家臣
「そ、そのような……!」
ショウ
「上から……!」
「このビランビー、地上人か!」
アレン
「もう城は落ちたんだ。手を引いたらどうだ?」
ショウ
「何だ? このオーラ・バトラーのパワーは上がっている!」
チャム
「ショウ、おかしいよ」
ショウ
「分かってる」
「アレンか、貴様!」
アレン
「俺がいつまでも、同じパワーの訳ないだろう」
「むっ……!」
ニー
「ウィル・ウィプスを射程に入れろ。それまでは効率良く落とせ」
ドワ
「気楽に行こうぜ」
キーン
「遅いじゃない! 今まで何をやっていたの?」
ニー
「遊んでいた訳じゃない」
ショウ
「退け!」
チャム
「そうよ!」
ラウの家臣
「地上人、フォイゾン王が一人で出られました!」
ショウ
「何? 今のが……」
チャム
「無茶よ」
ショウ
「フォイゾン王、お戻りください! ボチューン1機で出るのは無茶です!」
フォイゾン
「ワシはラウの国王だ。地上人、頼むぞエレを……!」
「対空砲火に怯えて、こんな所に入り込んでしまうとは……!」
アの兵士
「第一格納庫内に、敵のオーラ・バトラーが侵入したようです」
ドレイク
「何機入った?」
アの兵士
「ボチューン1機であります」
ドレイク
「たかだか一機のオーラ・バトラーに、何を梃子摺るか。早々に片付けろ」
ショット
「スクリーンに映せ」
ドレイク
「フォイゾン王……」
ショット
「国王がたった一人で敵中に……」
ドレイク
「負け戦と知っての悪足掻きだ」
「所詮、今の時代には通用せん、古い体質の国王だよ」
アの兵士
「ジェリル隊、戻りました」
ショット
「ジェリルにフォイゾンを叩くよう命じろ」
アの兵士
「はっ!」
アの兵士
「わぁぁっ!」
フォイゾン
「ブリッジに抜けるルートはどこだ?」
「うぉっ……!」
ジェリル
「ふん、いい手柄が飛び込んでくれたよ」
フォイゾン
「小娘なんぞにやられはせん!」
ジェリル
「小娘でも桁が違うつもりだ。死になよ!」
エレ
「はっ、お爺様……」
ショウ
「またビランビーか?」
チャム
「このビランビーからは離れた方がいいわ、ショウ」
アレン
「俺だって、いつまでもウダウダしてはいられんのさ!」
チャム
「居ない?」
ショウ
「えっ?」
アレン
「速い……!」
ショウ
「どこだ?」
チャム
「ショウ、見てあそこ……!」
「ボチューンよ、フォイゾン王の!」
ショウ
「フォイゾン王!」
ジェリル
「ザマァないじゃないか」
フォイゾン
「地上人め、貴様らが……!」
ショウ
「フォイゾン王!」
ジェリル
「地獄へ落ちな!」
フォイゾン
「この悪意、バイストン・ウェルより……!」
ショウ
「国王!」
「間に合わなかった……」
ショウ、チャム
「あっ……!」
ショウ
「直撃!」
「トッド・ギネスか!」
トッド
「ははっ、ショウどうした、パワーが落ちているぞ!」
ショウ
「コンバータが爆発しなかっただけでも幸いというのか」
トッド
「お前にも地獄を見せてやるぜ!」
ショウ
「何?」
トッド
「これまでだ、ショウ!」
チャム
「何やってるの、ショウ〜!」
ショウ
「分かってる!」
トッド
「何だ? 撃墜とは違うぞ?」
キーン
「マーベル、ダンバインが……」
マーベル
「ショウ!」
ショウ
「どうしちまったんだ、ダンバインは……?」
チャム
「オーラ・パワーが一辺に出ちゃったのよ」
ショウ
「そんな事あるのか……?」
チャム
「ん、知らない……」
「海よ」
ショウ
「こんな時に、あのビランビーでも来たら最後だ」
チャム
「ショウ、海に落ちる……!」
ショウ
「何か来るぞ」
チャム
「やだ、もういい」
ショウ
「何だ?」
チャム
「ウィング・キャリバーよ」
ショウ
「味方らしいが、見た事のない形だぞ」
「どういう事だ?」
チャム
「乗れっていうんじゃないの?」
エイブ
「ショウ・ザマ、このビルバインをシーラ女王から贈る。これで戦線に戻ってくれ」
ショウ
「ビルバイン……?」
エイブ
「オーラ・バトラーに変形する」
ショウ
「ウィング・キャリバーじゃないのか?」
チャム
「行けるの、ショウ?」
エイブ
「どうかな? 行けますかな、地上人?」
ショウ
「あぁ、行ける!」
アレン
「ん、ウィング・キャリバー……!」
「何だ?」
「馬鹿な、オーラ・バトラーだと?」
チャム
「ショウ、変形終わったみたいよ?」
ショウ
「よし、テキスト通りにやってみる」
マーベル
「ショウが居ない……まさか……」
ショウ
「照準、修正をした」
チャム
「さっきより、いい筈よ」
ショウ
「よし、撃つ!」
アレン
「当たった……馬鹿な……!」
ショウ
「気の毒だが、運がなかったな、アレン!」
アレン
「何故そう分かる? 何故こうも通じ合えるんだ?」
ショウ
「オーラ力は生体エネルギーだ。人それぞれに、オーラ力の色があるんだ」
「それをお前は、自分の欲望の為に使った!」
ショウ
「ニー、ゼラーナ、マーベル、ゴラオンもだ。戦線を後退させろ。これ以上は無理だ」
「殿は、ショウ・ザマのビルバインがやる」
ニー
「何故だ?」
マーベル
「タータラは落ちたのよ?」
ショウ
「いたずらに戦ってオーラ・バトラーを消耗させるのは、ドレイクの思う壷だ」
ドレイク
「ナの国の援軍が来たようだな」
ショット
「ナの国? シーラ・ラパーナの治める大国がですか?」
ドレイク
「ああ。ビショットの本隊が来るまでは、タータラを拠点にする」
ショット
「はい。その間に、戦力の整備を急ぎます」
ドワ
「グリムリーです。ナの国の巡洋戦艦です」
ニー
「よし、国境近くで持ち堪えられるぞ」
エイブ
「ゴラオン及びゼラーナへ。私はグリムリーのエイブです。作戦を検討したい」
キーン
「エレ様」
エレ
「キーン!」
キーン
「エレ……」
エレ
「フォイゾン王が亡くなっても、ラウの国は……ラウの国は、本当に残るでしょうか?」
キーン
「エレ、そんな事でどうします」
「このゴラオンを指揮して、ラウの国を建て直していくのは、貴方なのよ?」
エレ
「そんな事、私には出来ません……」
キーン
「出来ますよ、エレ様なら」