第30話 シルキーの脱出

前回のあらすじ
バイストン・ウェルに、オーラ・マシンによる喧騒が拡大していった時、
世界が、それを排除しようとして働くのもまた、理である。
オーラ・マシンを操る人々は、バイストン・ウェルに於いて悪しき者なのかもしれない。
ドレイク軍は、ラウの国タータラ城を落としたものの、ゴラオン以下ゼラーナまで落とす事は出来なかった。
散発的な騒動戦の中、ラウの軍は、ゴラオンを中心に集結しようとしていた。
ショウ
「上手く使えば、戦艦並の力があるという事か」
「この力、俺のオーラ力に依るものではない。シーラの与えてくれたものだ」
エイブ
「そうか。タータラ城が落ちたか」
エレ
「ここでの戦いは無意味と思えますが」
エイブ
「はい、エレ様。ナの国近くまで下がります」
「各隊の回線、開け」
エイブ
「タータラ城が落ちた。国境まで下がれ、聖戦士」
ショウ
「聞きたくない。せっかくこのビルバインを手に入れたんだ。性能ギリギリを確かめてやる」
マーベル
「ショウは新型機を手に入れて、調子に乗り過ぎてるんじゃなくて?」
「うっ……!」
「ショウ」
「はっ……!」
「頂き!」
アの兵士
「しまった!」
 〃
「馬鹿者!」
マーベル
「同士討ち?」
「ショウ、エイブ艦長の命令を聞いていないの?」
ショウ
「このまま下がったら、フォイゾン王の死が無駄になる」
マーベル
「今少しくらい戦力を叩いても、フォイゾン王はお喜びにはならないわ」
ショウ
「違うよ。このオーラ・バトラーの力を借りて目の前の敵を叩いておけば、我々は楽になる」
マーベル
「ショウ、何を興奮してるの? 引き上げましょう」
ショウ
「俺は冷静だ。シーラから届けられたこのオーラ・バトラーの性能を、最大限に活かそうと必死なんだ」
マーベル
「ビルバインの背中のキャノン、もう弾がないんじゃなくて?」
ショウ
「あっ……」
マーベル
「ゴラオンと合流するわね? 変形してくださらない?」
ショウ
「分かったよ」
「行くよ」
マーベル
「どうぞ」
ドルプル
「ご苦労。補給急いでくれ」
整備兵
「はい」
マーベル
「今の強さは、ビルバインの強さであって、貴方の力ではないのよ?」
ショウ
「そんな事ぐらい分かってる。分かってるからその力を借りて、ウィル・ウィプスを叩きたかったんじゃないか」
マーベル
「でも幾らビルバインでも、一機では無理でしょ?」
ショウ
「あっ……!」
キーン
「きゃっ……!」
エイブ
「あんたの気持ちも分からんではないが、時と場所を考えてもらいたいな」
ショウ
「考えた上での行動だ。エイブ艦長は、ビルバインの力を過少評価している」
エイブ
「戦争が一機のオーラ・バトラーの良し悪しで決まるんなら、この戦いはとうに終わっていよう」
マーベル
「ショウ、やめなさい」
ショウ
「でも……!」
マーベル
「個人的な喧嘩じゃないのよ?」
キーン
「みんなも興奮し過ぎよ。歪み合わずに、もっと冷静に作戦を立てなくちゃいけないんでしょ?」
チャム
「あ、こんな雰囲気、嫌!」
「もう!」
キーン
「あ、駄目よ、その木に近付いちゃ」
チャム
「きゃっ、何よこれ……!」
「引っ付いた! 気持ち良くない!」
キーン
「チャム……!」
エイブ
「次の命令違反は、独房入りだぞ」
マーベル
「今を見る目、明日を見る目がちゃんとないと、オーラ力は出ないわ」
ショウ
「悔しいんだ。メカニックな性能だけで、ビルバインが強いなんて……」
マーベル
「もっと健やかな大人になれば、貴方には出来る事よ」
「その可能性が見えるから、シーラ・ラパーナは、貴方にビルバインを贈ったんじゃなくて?」
ショウ
「そうかな……」
マーベル
「そうよ、坊や」
キーン
「動かないの、チャム!」
チャム
「気持ち悪いんだもん〜!」
「きゃぁっ……!」
ホン・ワン
「ドレイク軍は、ジェリル・クチビの機動部隊と、ブル・ベガーを中心とした主力部隊が居ります」
「後方にはまだ、ドレイク・ルフトの直属部隊が控えております」
ニー
「ご苦労」
キーン
「凄い数ね……これにビショット軍も居るのでしょう?」
ホン・ワン
「はい」
「それに、ショット・ウェポンは、ラース・ワウを機械の秘密工場に仕立てて兵器を製造しております」
ショウ
「何? そうか……」
「どうだろう? 元凶から目潰しして行けば、前線のドレイク軍は動揺するんじゃないのか?」
マーベル
「そうね、ショットはドレイクの精神的支えだものね」
エイブ
「タータラ城を落としたという敵の安心感は、隙を生みますな」
エレ
「ショウ・ザマが……」
チャム
「え?」
エレ
「血気に逸る事なく行うのならば、思う通りにやってみせて欲しいのです」
ショウ
「エレ様……」
チャム
「冷静にやれって言う事よ?」
エイブ
「姫様が仰る。やってみせよう。我が軍の作戦の一つとして」
ショウ
「分かった。援護には、マーベルのダンバインとフォウを」
マーベル
「十分使い込んで軽くなってる……気に入ったわ」
ゼット
「早く。早くするんだ」
チャム
「ねえ、シルキー・マウはまだ、水牢の中に閉じ込められているのかしら?」
ショウ
「俺も今、それを考えていた所だ」
「攻撃の前に助け出したいな」
マーベル
「賛成ね」
チャム
「私が調べてくる」
ミュージィ
「ん、何か光った……」
ショウ
「パトロール隊だ」
マーベル
「大丈夫かしら?」
ショウ、マーベル
「わっ!」
マーベル
「くっ……!」
ショウ
「見付かった!」
マーベル
「どうして?」
ショウ、マーベル
「うっ!」
ショウ
「くっ……!」
マーベル
「ショウ!」
ミュージィ
「目の錯覚か?」
「ええい、置き土産に……!」
ショウ
「右か!」
「ぬっ……!」
ミュージィ
「貰った!」
マーベル
「この新型は、地上人?」
ショウ
「マーベル、後退しよう。このままではやられるばかりだ」
マーベル
「でも、チャムが……」
ショウ
「打ち合わせ通りやってくれる筈だ。信じよう」
アの兵士
「おい、侵入者を見付けたらしいぞ」
 〃
「ダンバインか?」
ミュージィ
「追う事はない。敵を秘密工場に近付けなければいいのだ」
「ダンバインと、もう1機は知らないオーラ・バトラー……」
チャム
「ショウ〜!」
マーベル
「あ、チャム……!」
ショウ
「ご苦労さん。どうだった?」
チャム
「居たわ。シルキーはまだ居たわ」
ショウ
「そうか……。よし、俺が一人でラース・ワウへ入る」
マーベル
「一人で?」
チャム
「駄目、危険よ」
ショウ
「いや、さっきの戦いで警備は強まっている。一人の方が入り易い」
ショット
「ダンバイン1機なら私も気にしない。お前には勝てる」
「が、もう1機がな……」
ミュージィ
「抜かりありません。見張りを増員して、臨戦態勢を取らせてあります」
ショット
「うむ、手堅くな」
ショウ
「不思議だ……何故こんなに、すんなりと入れるんだ?」
「まさか、罠に嵌ったんじゃないんだろうな?」
アの兵士
「うっ……!」
チャム
「変なのよね、よく分からないけど……」
「遠い昔、こんな気分に包まれた事があるような気がするの」
「何かさ、生まれる前に誰かさんが呼んでいた……そんな感じがするのよね、今夜……」
シルキー
「まるで、水の国そのまま……」
「何故? 何が起ころうとしているの……?」
「どなたが居るのです?」
ショウ
「ショウ・ザマです。助けに参りました」
シルキー
「無理です。私達は結界を貼られたら、出る事は出来ないのです」
ショウ
「結界……?」
「たかが紙切れじゃないか」
「な、何だ?」
シルキー
「あっ、あぁっ……!」
ショウ
「これは……」
「何だ……?」
「んっ……」
「先に行きます」
「どうぞ」
「あっ……」
「貴方という方は……」
シルキー
「すみません、つい嬉しくって……」
ショウ
「さっ……」
シルキー
「こちらです」
ショウ
「何故知っている?」
シルキー
「長い間ここに居ましたから、想像は付きます」
「ショウ・ザマ、貴方はジャコバ様といらしたのですか?」
ショウ
「いや、俺は一人だ」
シルキー
「お一人で……」
ショウ
「何で、こうも静かなんだ?」
「アスペンケード……」
「動くじゃないか」
シルキー
「あ、いけません。機械の音は……」
ショウ
「何だと?」
シルキー
「機械の音までは、ジャコバ・アオン様には消せません」
ショウ
「兎も角、俺の後ろに乗れ」
アの兵士
「シルキー・マウが逃げた!」
 〃
「何だと? 結界はどうした?」
 〃
「機械の音がするぞ!」
ショウ
「しっかり掴まって」
シルキー
「はい」
アの兵士
「ここだ! 機械が動いた!」
 〃
「来るぞ!」
 〃
「わっ……!」
 〃
「追え、逃がすな!」
ミュージィ
「侵入者……!」
ショット
「ショウか」
ミュージィ
「さっきのオーラ・バトラーなら」
「二輪の機械を……!」
アの兵士
「地上人だ! ショウだぞ!」
ショウ
「退け、退かないと撃つぞ!」
「橋を降ろせ!」
アの兵士
「おっ……!」
 〃
「橋を渡る時に、狙い撃ちをしろ」
 〃
「はっ、はい!」
 〃
「うっ……!」
チャム
「何か変。凄く心配なの」
マーベル
「そうね。ちょっと時間も掛かり過ぎるようだわ」
チャム
「シルキーが……シルキーが呼んでるのかもしれない」
マーベル
「行ってみるわ」
チャム
「さっきまでの静かな感じ、ないんだもん」
ショウ
「しかし、何故ジャコバが俺を守るんだ?」
シルキー
「きっとショウを呼んでいるのです」
ショウ
「しまった、ガス欠だ」
「何から何まで、上手く行く訳はないか」
シルキー
「ショウ……!」
ミュージィ
「ふっ、光を出しながら逃げるとはな。あれがショウのやる事か」
「遅いんだよ!」
ショウ
「わっ、くっ……!」
「シルキー・マウ」
「立てるか?」
シルキー
「ええ」
ショウ
「俺は、自分の考えで貴方を助けたんだ」
シルキー
「でも、私は今まで、多くの戒律を破りました」
「いつかはこういう日が来るものと、覚悟はしていました」
「ですから、これは……」
マーベル
「ショウが追われているの?」
「ショウなら……きゃっ!」
ミュージィ
「援軍が来たのか」
マーベル
「またあの新型?」
ショウ
「マーベルが来てくれたのか」
アの兵士
「居たぞ!」
 〃
「こっちだ!」
ミュージィ
「ただのパイロットではない。地上人か」
マーベル
「あのパイロットにはフォウでは無理だわ。ショウを早く見付けなければ……」
「はっ……!」
シルキー
「あっ……!」
アの兵士
「わぁぁっ!」
マーベル
「ショウ、早く!」
ショウ
「マーベル」
「シルキー」
ミュージィ
「フォウめ、どこへ隠れた?」
「逃がすものか!」
チャム
「あ、フォウだ」
マーベル
「直ぐに来るわよ」
チャム
「ショウ」
ショウ
「チャム、シルキー・マウを頼む」
チャム
「シルキーお姉様」
ミュージィ
「これは確かギブン家の……こんな所に隠れていたのか」
ショウ
「こいつ!」
チャム
「早く中へ……きゃっ!」
マーベル
「速い……!」
ミュージィ
「ダンバインのスピードなぞ!」
マーベル
「オーラ・ショットが……!」
「このオーラ力は、このオーラ・バトラーの威力なの?」
ミュージィ
「私の名はミュージィ・ポー。もはや地上人の力を借りる必要はなくなったのさ」
マーベル
「まさか……!」
ショウ
「マーベル!」
マーベル
「あっ、うぅっ……!」
ミュージィ
「新型か」
「ショウか」
ショウ
「誰だ?」
マーベル
「うっ……!」
ショウ
「わっ……!」
ミュージィ
「ライネックとて……」
「下か!」
ショウ
「遅い!」
ミュージィ
「ライネックを……!」
ショウ
「マーベル」
マーベル
「ショウ、正面! ドラムロ!」
ショウ
「死に急ぐんじゃない!」
マーベル
「ショウ、シルキーの所へ戻りましょう」
「今は敵を叩く事ではないわ。シルキーの身を守る方が先よ?」
ショウ
「了解だ」
「しかし、あの新型のオーラ・バトラー、ミュージィ・ポーという女なのか?」
マーベル
「ええ、地上人ではないわ。ショットの……」
「あっ、何?」
ショウ
「あっ……!」
チャム
「あぁっ……!」
ジャコバ
「シルキー・マウ、出でよ。戒律を破った罪は重いぞ」
ショウ
「ジャコバ・アオン……」
ジャコバ
「ミ・フェラリオとなって、五百年コモンの世界で暮らすがいい」
チャム
「あ、私もああして、ミ・フェラリオになったの」
ジャコバ
「地上人達よ! シルキー・マウを助けてくれた事の礼をしたい。何が宜しいか?」
マーベル
「私をバイストン・ウェルに呼んだフェラリオ、ナックル・ビーは、罰せられているのでしょうか?」
ジャコバ
「そうだ」
マーベル
「彼女の罰を、減じて頂けませんか?」
ジャコバ
「良かろう」
「ナックル・ビーは一つの善行をなした。エ・フェラリオに戻し、千年の学習をさせよう」
「ナックル・ビーの性根よ。全ての事々を忘れ、新たなフェラリオの道に励めよ」
マーベル
「チャム、ナックル・ビーが戻ったわ」
チャム
「あっ……」
ジャコバ
「もう彼女は、昔の事は一切知らん」
「地上人よ。本来、地上とバイストン・ウェルは、生と死を通じてのみ行き来する世界である」
「にも拘らず……にも拘らず機械によって、これが打ち破られた。戒律が破られた」
「これは、この世界そのものが恐れ、震えているからではないのかと思える」
ショウ
「世界が恐れ、震えている……?」
ジャコバ
「世界そのものが破壊されようとするのなら、世界そのものが震えもしよう」
マーベル
「確かに……でも、そんな事があるのでしょうか?」
ジャコバ
「あろうからこそ、地上人がバイストン・ウェルに現れたのであろう」
ショウ
「そうか……」
ジャコバ
「時は、人の魂に試練を与えているようである。もう我々フェラリオにコントロールは出来ない」
「せめて、乱れの元凶である機械を、この世界から排除してくれまいか?」
ショウ
「約束しよう、ジャコバ・アオン」