第31話 黒騎士の前兆

前回のあらすじ
バイストン・ウェルに、オーラ・マシンによる喧騒が拡大していった時、
世界が、それを排除しようとして働くのもまた、理である。
オーラ・マシンを操る人々は、バイストン・ウェルに於いて悪しき者なのかもしれない。
シルキー・マウを助けたショウとマーベルは、フェラリオの長ジャコバ・アオンから、
バイストン・ウェルの危機の時代の到来を教えられた。
二人は、コモンの世界へ戻ると、辿るべき道が拓かれていた。
チャム
「見えてきた。あれがナの国の国境の山よ」
ショウ
「シーラ・ラパーナの居る国か……」
シーラ
回想:「貴方はまだ、自分の戦う目的が分かっていませんね」
ショウ
「そうかな?」
チャム
「何ブツブツ言ってんの、ショウ?」
ショウ
「煩いの!」
「ん?」
チャム
「あっ……!」
マーベル
「フォウなの? ナの国の出迎えが来たのかしら」
「そんな話は聞いていないけど……」
ショウ
「妙だな……」
チャム
「確かに」
マーベル
「オーラ・バトラーだわ」
ショウ
「敵か?」
マーベル
「出迎えじゃない事は確かね」
ショウ
「やるのか、いきなり剣で……!」
「ん?」
チャム
「あっ……!」
ショウ
「速い!」
チャム
「どこ?」
マーベル
「どういうつもり? 遊んでいる訳ではないでしょうに」
ショウ
「あいつ!」
チャム
「何なの、あの黒いの?」
ショウ
「銃撃をしてこない……本気とは思えないが」
チャム
「きゃぁぁっ!」
ショウ
「やっぱり冗談じゃなさそうだ」
マーベル
「何ていうオーラ・バトラー?」
黒騎士
「ふふっ……」
ショウ
「新たな地上人が降りてきたってのか?」
ショウ、チャム
「うわっ!」
マーベル
「ナの国の新型オーラ・バトラーの、実戦訓練に付き合わされているの?」
「あのパワーは違うわ。ビルバインを倒そうと本気で思ってる」
チャム
「ショウ、怖い!」
ショウ
「チャム、退け!」
チャム
「きゃっ!」
黒騎士
「ウィング・キャリバー如きは、このズワァースの敵ではない!」
マーベル
「来る!」
「はっ……!」
黒騎士
「ふっ、ダンバインもパワー・アップしているのか」
ショウ
「マーベル!」
黒騎士
「ズワァースの試運転の成果は十分あった」
マーベル
「あ、悪意の力……!」
ショウ
「何て奴なんだ……!」
「チャム、どうした?」
チャム
「こ、怖かった……」
「今までのオーラ・バトラーとは違うわ。何か、酷く悪いオーラ・バトラーよ」
マーベル
「ふぅっ……」
ショウ
「マーベル、大丈夫か?」
マーベル
「ええ、大丈夫だけれど。敵の正体が分かって?」
ショウ
「いや、奴の攻撃をかわすだけで精一杯だった」
マーベル
「そう」
ショウ
「チャムも言ってたけど、今までの、ガラリアやトッド達とは違うようだ」
マーベル
「それは私にも分かったわ、ショウ」
チャム
「また来た〜!」
ショウ
「ボチューン・タイプだろ。出迎えだよ」
チャム
「見て見て、新しいお城造ってる」
ショウ
「いや、あれは戦艦だ」
「機械が、益々拡大していくのか……」
キーン
「来た来た!」
ニー
「時間が掛かったな」
チャム
「ニー、キーン」
キーン
「お疲れ様」
ニー
「ショウ、どうだった?」
ショウ
「シルキー・マウを助ける事は出来たけど、それだけだ」
マーベル
「ショットも軍備の拡大に必死ね」
ニー
「そうか」
「このウロポロスの基地が、ゼラーナを完全に直してくれる。そしたら叩けばいい」
「ご苦労だった」
キーン
「ショウ、シーラ・ラパーナ様がお待ちかねよ? 早くお目に掛かるといいわ」
ショウ
「ビルバインの事で、お礼を言わなくっちゃな」
マーベル
「そうね、ショウが増長する原因をくれたんだものね」
ショウ
「ビルバインの性能に焼き餠焼いてるんだよ」
キーン
「ふふっ……」
マーベル
「ふぅっ……」
ニー
「どうした?」
マーベル
「別に……」
ニー
「ニー・ギブンだ。聖戦士をお連れしたと、シーラ・ラパーナ様にお伝え願いたい」
ナの兵士
「暫くお待ちを」
マーベル
「ショウ」
ナの兵士
「シーラ・ラパーナ様がお待ちです」
ショウ
「はい」
エル
「あはっ、ショウ!」
ショウ
「エル・フィノ」
エル
「元気そうじゃないのさ?」
「あはっ……!」
シーラ
「エル・フィノ、下がっておいで」
ベル
「きゃはっ……!」
シーラ
「ベル・アール、貴方もお下がり」
ベル
「でもさ、シーラ様……」
シーラ
「ベル、お下がり」
ベル
「あ、は〜い」
「あんっ……!」
シーラ
「ショウ・ザマ、マーベル・フローズン。よくも無事で、このウロポロスまで……」
マーベル
「有難う御座います」
ショウ
「ゼラーナ隊の為に、新式のオーラ・バトラーを頂ました。お礼申し上げます」
シーラ
「地上人の女武者振りは聞いておりましたが、こんなに優しい方とは思いませんでした」
マーベル
「有難う御座います」
エル
「あんた、こういうの好きなの?」
チャム
「何?」
エル
「こんな堅苦しい話し方さ」
チャム
「フェラリオだって、品性は身に付けなくっちゃね」
エル
「あんたがそんなに上等なのかよ?」
キーン
「しぃっ……!」
シーラ
「エル・フィノ、ベル、下がれと申したでしょ」
「貴方がたは、エ・フェラリオのジャコバ・アオンに会ったと聞きましたが」
ショウ
「はい。ジャコバは、今のコモンの世界を憂いています」
「世界が、オーラ・マシンの力で歪んでいくのではないかと……」
シーラ
「どのようにすればそれを防げると、ジャコバは申していたか?」
ショウ
「オーラ・マシンをこの世から全てなくす以外に、救う道はありません」
シーラ
「貴方はグラン・ガランを見ましたね? あれもいけませんか?」
ショウ
「グラン・ガラン……」
ニー
「来る途中見ただろう。新造戦艦だ」
ショウ
「勿論です」
シーラ
「ビルバインを造った事もですか?」
ショウ
「勿論……例外はありません」
ナの家臣
「彼は、ビルバインで助かったと聞くが……」
 〃
「何て無礼な……」
シーラ
「静かに。私語は慎みなさい」
「貴方はビルバインを使っています。この矛盾をどう説明します?」
ショウ
「毒には毒を以て制する……その上で、バイストン・ウェルのオーラ・マシンの全てを棄てるのです」
シーラ
「それを、貴方はやれるか……?」
「最後の戦いの後、グラン・ガランも沈めてくれるか?」
ショウ
「それが、バイストン・ウェルの意志であるのならば……」
ショウ
「もう直ったのか」
チャム
「完璧よ。パワー・アップもしたのよ」
ショウ
「へえ、大型戦艦より頼りになるのかな」
チャム
「当たり前よ」
ショウ
「有難う、美味かった」
マーベル
「んっ……」
ニー
「疲れているようだな」
マーベル
「あぁ、そんなに酷い顔してる?」
ニー
「憂いた顔も魅力的さ」
「ダンバインはバイオリズムに合わないか?」
マーベル
「ううん、やれると思うわ」
ニー
「ボチューンの方が良ければ、元に戻ってもらってもいい」
マーベル
「大丈夫よ」
ニー
「ショウのオーラ力は……」
マーベル
「え?」
ニー
「増幅している」
「しかしな、こんな時が……最も危険なんだ」
「ショウが戦いだけに目を向けないよう、気遣ってくれ」
「マーベルが傍に居る事で、ショウは自分の精神のバランスを取っているんだぞ」
マーベル
「それは、分かっているつもりよ」
ニー
「うむ」
「期待している」
マーベル
「有難う」
ニー
「よし、出発するぞ。ラウの国へ向かう」
ニー
「ゼラーナ、出撃します」
「ドワ、発進だ」
ドワ
「了解」
ショウ
「マーベル、行くぞ」
マーベル
「先に出て、ショウ」
ショウ
「了解」
エル
「行っちゃう」
ベル
「飛んだ飛んだ」
エル
「シーラ様、何故ショウと二人切りでお話しなかったのよ?」
シーラ
「戦いになれば人は死にます。情けは交わさぬ方がいい」
エル
「ふ〜ん」
シーラ
「皆の武運を……」
コタノ
「ショウ、ブリッジに上がれ」
ショウ
「よし」
マーベル
「ビルバインの調子は?」
ショウ
「いいよ」
「どうするんだ、ニー?」
ニー
「ドレイクの旗艦は、タータラ城の近くから動けないらしい」
ショウ
「奇襲を掛けようっていうのか」
マーベル
「エレ様のゴラオンが後方で動いてる為に、ウィル・ウィプスは単独らしいの」
ニー
「ウィル・ウィプスにドレイクが居るのは確実なんだ」
「ショウがダンバイン1機で、ラース・ワウをやるよりは戦力があるぞ」
キーン
「ボチューンにダンバインに、ビルバインでしょ。それにゼラーナ」
チャム
「フォウだってニーが使うって言ってるよ。戦艦ぐらい簡単よ」
「だからさ、今がチャンスって……」
ショウ
「煩いんだよ、お前さんは!」
チャム
「イーッ!」
ドレイク
「ナの国の戦艦、グラン・ガランの事か?」
ショット
「はい。私の開発した技術が、こうも早く他国へ流れるとは思いませんでした」
ドレイク
「情報を流した者が居るというのか?」
ショット
「工兵の中には、ガロウ・ランも居ります」
ドレイク
「ビショットも戦艦を建造した。情報はどこからでも漏れていくさ」
「その中でも、このウィル・ウィプスは、貴公が直々設計した艦だ」
「他国の艦に劣るとは思えんが?」
ショット
「有難う御座います」
「ゴラオン、グラン・ガラン、それに、ビショットのゲア・ガリングも敵ではありません」
ドレイク
「ははっ……」
「その自信、頼もしく思う」
ショット
「はっ……」
ドレイク
「クの国のビショットに通信をせい。ナの国攻めの援軍は如何に、とな」
アの兵士
「はっ、閣下!」
アの兵士
「南の空に渦が巻いた時を期に、ナの国の東から攻撃せよとの、ドレイク閣下の口上です」
ビショット
「分かった……全軍を率いて援護しようと、ドレイク様には伝えよ」
アの兵士
「はっ、有難う御座います!」
ビショット
「ふふっ……ドレイクめ、大分焦って気負っとる」
クの家臣
「陛下、一方的なドレイクの命令に従うなど、クの国の名誉に懸けて……」
ビショット
「私は従うよ」
「出撃の用意をせよと、各部隊長に伝えろ」
クの家臣
「陛下……!」
ビショット
「ナの国を落とすまでの辛抱だ」
クの家臣
「ですが、我が国の立場が……」
ビショット
「お?」
「ふふっ、予定通りだ。お前達も外を見るがいい」
クの家臣
「おっ……」
 〃
「あれは、アの国の戦艦……!」
ビショット
「ドレイク殿の奥方と、その娘御だ」
クの家臣
「何故このような時に、我が国へ……」
ビショット
「私がルーザとリムルを呼んだ。何かの為にな」
クの家臣
「えっ……?」
ビショット
「ドレイクの先鋒を取らせて、その実を取るのがこの私さ」
「この話、他言はならんぞ」
ビショット
「よくお出でくださった。ドレイク様からの出撃命令が下り、取り込んでおりますが」
「ささ、取り敢えずは城内でお休みください、リムル様」
リムル
「くっ……!」
「あっ!」
ビショット
「ふふっ、お元気な事で結構ですな」
ニー
「総員、タータラ城近くのウィル・ウィプスと接触するのは、時間の問題だ」
「出撃チェック急げ」
ドワ
「へへっ、ニーも変わったな」
コタノ
「こんな状態で出来るわきゃないだろ」
ショウ
「やるんだよ。黒い奴は、こんな時にこそ出て来るんだぞ」
チャム
「やっほぅ、お姉様方、見てる? ドレイクなんかやっつけちゃうからね〜!」
ニー
「チャム、何やってんだ?」
ドワ
「天の海がこんなに近いんだ。無理ないよ」
ニー
「天にある、水の国のフェラリオ達か……」
「チャム、入れ。そろそろだぞ」
ショット
「出撃の時が来たぞ」
黒騎士
「はい」
ショット
「お前に与えたズワァースは、今までにない強力な物だ」
黒騎士
「はい」
ショット
「私は、ラース・ワウに戻って援軍を用意する」
「その間に、ゴラオンを落とせるな?」
黒騎士
「誓って……」
ショット
「お前が働けば、私がドレイクに忠誠を誓っている証になる」
黒騎士
「はい、ショット様」
ショット
「持ち堪えて貰わねばな」
黒騎士
「では、ラース・ワウまでご無事で」
ショット
「うむ」
アの兵士
「ショット・ウェポン様のブル・ベガー、離艦致しました」
ドレイク
「ズワァースとかいうオーラ・バトラー、謁見させい」
アの兵士
「はっ!」
「黒騎士、ズワァース。28番ハッチより出ろ」
ドレイク
「んっ……」
「速いな」
黒騎士
「初見参にオーラ・バトラーのままで御許し願います」
「このズワァースの性能と、私の命を懸けて、ドレイク閣下に忠誠を尽くす事を」
「この剣に懸け、武名に懸け、誓う者です」
ドレイク
「ふん、分かる話だ。前非は問わぬ。やってみせい」
黒騎士
「はっ!」
ドレイク
「ふっ……」
「時が満ちたか」
「ゴラオンは無視して、全艦隊をナの国境へ集結させよ」
ドワ
「動いたぞ」
ニー
「遅かったか」
ショウ
「よし、艦隊が集結する前に叩こう」
マーベル
「ウィル・ウィプスのブリッジに、ドレイクは居る筈よ」
キーン
「ボチューン・キーンは、ゼラーナを援護するわ」
ニー
「ショウ、マーベル、降下だ。攻撃開始」
ショウ
「ウィル・ウィプス……」
チャム
「居た」
ドレイク
「どこの軍か?」
ニー
「キーン、ゼラーナから余り離れないでくれ」
キーン
「了解。見殺しにはしないわよ、ニー」
「くっ……!」
「黒い奴?」
ショウ
「ウィル・ウィプスも、こんな近くで見ると大きい」
チャム
「こんなの、落とせるの?」
マーベル
「幾ら大きいからといっても、ブリッジを落とせれば……」
「はっ……!」
ショウ
「チャム、突っ込むぞ」
チャム
「どうぞ」
アの兵士
「うわぁぁっ!」
ドレイク
「黒騎士は何をやっておる!」
ショウ
「今度はブリッジを直撃する」
チャム
「落ち着いてね。外さないでよ」
ショウ
「奴か」
チャム
「多分」
黒騎士
「こちらも慣れてきた、ショウ・ザマ!」
ショウ
「誰だ、このオーラ力の持ち主は?」
ドレイク
「ゼラーナめ、より強力なオーラ・バトラーを送り出したのか」
黒騎士
「今は、ショウのみ!」
ニー
「あれが黒いオーラ・バトラーか」
ドワ
「少し後退する。これじゃ狙い撃ちにされる」
ニー、ドワ
「うっ……!」
チャム
「来る!」
ショウ
「いける!」
マーベル
「しまった!」
黒騎士
「ダンバイン!」
マーベル
「あっ、くっ……!」
ショウ
「何で、こんなに強いエネルギーが飛ぶんだ?」
黒騎士
「今日こそ……今日こそ、ショウ・ザマ……!」
「私の屈辱を晴らしてみせる!」
チャム
「どうしたの、ショウ!」
ショウ
「オーラのエネルギーに、ビルバインが弾き飛ばされたようだ!」
チャム
「オーラの力に?」
ショウ
「当たらない……!」
チャム
「弾が避けてったわ」
ドレイク
「何の光だ、これは? オーラ・ノズルの光ではない……」
「何か? 調べろ!」
アの兵士
「分かりません! この周りに、オーラ力に似たものが……」
黒騎士
「臆したな、ショウ・ザマ! 止めを刺させてもらう!」
ショウ
「やられるかよ!」
黒騎士
「何だ?」
ショウ
「弾かれる!」
アの兵士
「わっ、ドレイク様ぁぁっ!」
ドレイク
「何だ? 何が起こったか?」
ニー、ドワ
「うぉっ……!」
キーン
「何なの、この光は……!」
黒騎士
「わぁぁっ!」
ショウ、チャム
「あぁっ……!」
「あ?」
「マーベル」
マーベル
「コントロールが出来ない……」
「うっ……!」
ショウ
「この力は、今までのものとは違うぞ!」
ショウ
「マーベル、大丈夫か?」
チャム
「光が止まらないよ」
ショウ
「何?」
マーベル
「あの光、黒いオーラ・バトラーのノズルの光ではないの?」
ショウ
「そんなもんじゃない……もっと違う物だ。もっと恐ろしい物だ」
マーベル
「もっと恐ろしい物……何、それ……」
「うっ……!」
ショウ
「ダンバインに入ってろ、マーベル!」