第36話 敵はゲア・ガリング

前回のあらすじ
バイストン・ウェルに、オーラ・マシンによる喧騒が拡大していった時、
世界が、それを排除しようとして働くのもまた、理である。
オーラ・マシンを操る人々は、バイストン・ウェルに於いて悪しき者なのかもしれない。
地上人の核攻撃に曝されるゴラオンの中に、地上人トルストールが居た。
エレは、その貴公子的なトルストールに心を惹かれるが、
慣れないオーラ・バトラーの戦いに巻き込まれて、黒騎士に討たれてしまった。
チャム
「このレーダー、バイストン・ウェルで使ってたのとどう違うのさ? 同じレーダーなんでしょ?」
ショウ
「周波数が違うんだ」
チャム
「何だそれ?」
ショウ
「バイストン・ウェルでは、オーラが電波を防御してたんだ」
チャム
「聞いたって分かんない、分かんない。役に立つの?」
ショウ
「50キロ周辺にはね」
チャム
「そんなんじゃ、間に合わないじゃない」
ニー
「肉眼で見付けるよりは早い」
キーン
「地上の軍隊が攻撃してこないとなると、この後はどうするつもりかしら?」
チャム
「きっと攻撃しても効果がないんで、私達の好きにさせてくれてるんじゃないの?」
ドワ
「地上軍の武器だって、滅多矢鱈にある訳じゃないんだろ?」
ショウ
「我々が海上にでも出たら、核攻撃をしてくるかもしれないな……気休めにね」
チャム
「地上の世界って、もっと凄い武器沢山持ってるって思ったけどな」
ショウ
「オーラ・マシンには歯が立たなかったけど、核は地上の全ての人間を、20回や30回殺せる量ある」
「な、マーベル……ん?」
「マーベル」
マーベル
「あ、何……?」
キーン
「どうしたの、マーベル?」
マーベル
「エレさんの事が気になって……」
キーン
「何故さ?」
マーベル
「エレさん、気落ちしてたらと思うと……」
キーン
「そんな事ないわ。あの人、ラウの女王なのよ?」
チャム
「キーン」
ショウ
「トルストールは高貴な人だった……エレ様の気持ちも分かる」
「何で反応が出ないんだ? ハワイで安物なんか買わなきゃよかった。役に立ちゃしない」
マーベル
「ふっ、ショウ」
ガラミティ
「ゲア・ガリングの整備はもう少しで終わる。それまでに、ゼラーナは我々の手で落としてみせる」
「ビアレスは、バイストン・ウェルで使うよりパワーは上がっている。怖じけるな」
「出撃する。続け」
「ニェット、ダーの仇を討たねば」
クの兵士
「ガラミティ隊の……」
 〃
「面子に拘るってもんだ」
ガラミティ
「ブル・ベガー」
クの兵士
「いつでも発進出来ます」
ガラミティ
「よし、全機発進」
民間人
「あれは何だ?」
 〃
「魔神が、沢山飛んでいく……」
「神の像だ。神よ……」
マーベル
「エレ様は如何です?」
エイブ
「相変わらず、部屋に閉じ篭りきりだ」
マーベル
「そうですか……」
エイブ
「ビショット軍は、この南に居るらしい」
ニー
「南に?」
エイブ
「パトロール隊からの連絡があった」
ショウ
「で、御用は?」
エイブ
「うむ、地上用の高性能なレーダーとか、情報収集の方法を手に入れられんのかな?」
ショウ
「軍事用の物は、我々民間人には、手に入れるのは無理でしょうね」
マーベル
「メーカーに当たる方法はありますけれど、脅しを掛けるというのは面白くありませんね」
エイブ
「地上で通用する、金とかいうのは腐る程あるが」
マーベル
「なら、やってみましょうか」
「ね、ショウ」
ショウ
「どうやって?」
マーベル
「インドにもメーカーの営業所くらいあるわ」
ショウ
「メーカーの……?」
マーベル
「アメリカのメーカーは、日本とは違うわよ」
ショウ
「あ、成程……」
ショウ
「マーベル、キーン、出るぞ」
エレ
「マーベル、ショウ……」
ショウ
「マーベル、キーン、ドッキングを。こちらも変形する」
マーベル
「了解」
チャム
「ショウ」
ショウ
「チャム……また潜り込んだのか?」
チャム
「置いてきぼりなんて酷いじゃない〜!」
「あ、飛行機」
軍人
「奴ら、動き出したぞ。追えるか?」
 〃
「ああ、このままの進路だと、ニューデリーへ一直線だ」
 〃
「スタートだ」
「空軍には迂闊に手を出させるな。奴らの戦力は分からんのだからな」
クの兵士
「ガラミティ、奴らは海を越えて、他の土地へ行ったんじゃないのか?」
ガラミティ
「いや、北の方から来て、ウロウロしているようだ」
クの兵士
「海に出れば、地上軍の攻撃にも気を回さなくてはならんしな」
 〃
「そんなもんかね」
ガラミティ
「我々は、(?)の上空を経由して北へ向かう」
クの兵士
「了解、こちらは直進してヒマラヤまで行く」
老婆
「誰か居るのかい?」
「きゃっ、泥棒!」
若者
「あれか?」
 〃
「おい、貴様……!」
警察官
「君達は包囲されている。無駄な抵抗はやめて、速やかに投降しろ」
「聞いてるのか、異星人。抵抗するならば、我が方にも覚悟がある」
チャム
「ショウ、早く戻ってきてよ……!」
IBN社長
「ブラインドを下げてください。写真を撮られるのは嫌でしょう」
ショウ
「ああ」
IBN社長
「銃も下ろしてもらいたいもんだ」
マーベル
「商売に応じるというのね?」
IBN社長
「仕方がないだろう。オーラ・バトラーと銃で脅されたんだ」
「純金だろうな?」
マーベル
「当たり前でしょ?」
IBN社長
「ふうん……」
チャーリー
「いいのですか、社長? インド軍の方へは……」
IBN社長
「やむを得ん……やむを得んという事だ」
「後三倍の金があれば、軍事衛星の情報を盗聴出来るシステムをお売り出来ますが、要りませんか?」
ショウ
「不節操な事だな……」
IBN社長
「我が社のモットーは、お困りの方に手をお貸しする……それだけです」
マーベル
「後は屋上よ。レーダー・システムと、今言ったシステムね。現物はあるんでしょうね?」
IBN社長
「人工衛星からの情報は、世界中のニュースが手に入りますよ」
マーベル
「アメリカ以外のも?」
IBN社長
「本当にヤンキーらしいな」
マーベル
「言ったでしょ」
ショウ
「性能は保証してくれるんだろうな?」
IBN社長
「仕様書通りの性能が出来るまで、チャーリーを付けます」
チャーリー
「そんな……!」
IBN社長
「それが我々のやり方だ」
チャーリー
「ですが……」
IBN社長
「ええ、我が社の新製品ですから」
マーベル
「死の商人とはよく言ったものね」
IBN社長
「ふふ、そりゃ認識不足です。情報を手に入れる事は、戦争の抑止力になるのですよ?」
黒騎士
「歯応えのない食べ物だな……味もないのか」
「情けない……この私がコソ泥を働くとはな……」
「無線機か」
音声
「アメリカ、日本に現れたオーラ・バトラー2機が、ニューデリーのIBNビルに降り立ち、まだ動きがありません」
黒騎士
「オーラ・バトラー……ニューデリー……!」
チャム
「遅いな、ショウ」
「ん? あの光、オーラ・バトラーの部隊が飛んでくる!」
「ショウ!」
ガラミティ
「地上軍が出て来たぞ。一気に蹴散らせ!」
ショウ
「オーライ、オーライ」
チャム
「ショウ!」
「オーラ・バトラー隊が近付いてくるわ」
ショウ
「何だって?」
「聞いての通りだ。急いでくれ」
チャーリー
「危ない目には遭わせないって言ったのに。だから平社員は……」
クの兵士
「ガラミティ、下の建物を見ろ。地上軍の乗り物が取り巻いてる奴だ」
チャム
「早く、急いでよ〜」
「来た〜!」
ショウ
「何?」
ガラミティ
「こんな町で、何やってんだ?」
マーベル
「町が……」
民間人
「うわぁぁっ!」
ショウ
「このままだと町を全滅させてしまう。マーベル、キーン、上昇出来るか?」
キーン
「ちょっと重量があるみたい。スピードが……」
チャーリー
「ひぇぇっ!」
キーン
「静かにしてて、気が散るわ」
チャーリー
「私は、丸腰の民間人なんですよ?」
キーン
「死ぬのは同じよ」
チャーリー
「この戦いとは無関係なんですから……」
キーン
「レーダー売ったんでしょ? 関係はあるわよ」
マーベル
「昇らせないの?」
「どうしても上に上げさせないというのなら……!」
ガラミティ
「こっちは場数を踏んでるんだ」
「お前達は下へ潜れ」
クの兵士
「了解」
 〃
「後ろに付かれた!」
キーン
「貰った!」
「町……撃墜しても、町を巻き添えにしちゃう……!」
「オーラ・ショット付けたって、攻撃出来なきゃ……」
「ショウ、どうするの?」
ショウ
「マーベル、キーン。フォウとダンバインの力を合わせて強行突破する」
マーベル
「了解」
「キーン」
キーン
「いいわよ」
ショウ
「下の攻撃は気にするな」
マーベル
「頼むわ」
クの兵士
「うわぁぁっ!」
「漸く一機か」
チャム
「ショウ、気を付けて」
キーン
「ショウ、早く」
ショウ
「二機の推進力で突っ切れ」
「街中で戦いを仕掛けるな! この戦いに地上人は関係ない!」
チャム
「そうよそうよ、ずるいわよ!」
ガラミティ
「ほざくな! ヒマラヤでの屈辱、忘れる訳にはいかん!」
チャム
「OK、やって」
ガラミティ
「何という速さだ」
クの兵士
「ガラミティ、ウィング・キャリバーでもない限り、追い付けんぞ」
ガラミティ
「ブル・ベガーと合流しよう」
クの兵士
「補給してから追うのか?」
ガラミティ
「いや、我々だけの問題ではなくなった」
「奴らは砂漠に向かった。という事は、ゼラーナ……そして、ゴラオンが居る筈」
「総力戦だ。行くぞ!」
チャーリー
「これで半径500キロは大丈夫です。ゴラオンの高度を上げれば、もっとカバー出来ます」
エイブ
「これならば、直ぐにでもグラン・ガランは捜し出せよう」
ショウ
「地上には様々な国があります。受け入れてくれる国を見付ける事も忘れないでください」
エイブ
「努力しよう」
「チャーリー殿、グラン・ガランという船のポイントは聞いてないかね?」
チャーリー
「いや、世界中あんたらと同じマシンのニュースで沸いてるけど、グラン・ガランとかいうのは聞いてないな」
エイブ
「そうか……次の機械の整備を急いでくれ」
ガラミティ
「余裕はないんだ、黒騎士。分かってるか?」
黒騎士
「構わん。無理に乗り込ませてもらっただけでも、礼を言いたいくらいだ」
ガラミティ
「なら、こいつのテスト飛行を兼ねた出撃をしてもらいたいな」
黒騎士
「こいつの……テストはやっていないのか?」
ガラミティ
「そりゃそうだ。漸くオーラ・ボンバーが完成した所で、地上に出てしまった」
黒騎士
「一度も動かしていないのか。このガラバは……」
ガラミティ
「ああ、こいつなら貸せる」
黒騎士
「やらせて貰おう。このまま地上で朽ち果てるよりはマシだ」
ガラミティ
「うむ。しかし、こいつはもう少し整備に時間が掛かる。第二次攻撃で出ろ」
黒騎士
「ガラミティは戦闘するのか? いいだろう」
ガラミティ
「第一次攻撃隊だけで、敵の先発隊を落とす」
「第二次攻撃隊は、まだ出るな」
エレ
「何故こうも、トルストールに心を奪われるのか。地上人とバイストン・ウェルの私……」
「トルストール・チェシレンコ……」
「はっ……」
「トルストール……」
「あっ、うぅっ……」
「誰か?」
マーベル
「エレ様、宜しいのですか? 目の前にビショット軍が居るのですよ?」
エレ
「先程エイブ艦長から、地上用のレーダーの事を聞きました」
「それで、シーラ様のグラン・ガランと接触が出来るものならば、ビショットと戦うのはそれからです」
マーベル
「ビショット軍は待ってはくれません。それに、シーラ様と合流出来なかったらどうします?」
「いつまでもエレ様が悲しみに耽っていては、兵達が可哀想です」
エレ
「兵が可哀想……?」
マーベル
「地上に出て、兵達は狼狽えているのですよ?」
「そんな時に、恋の悲しみに耽る女王を……女王とは、そんなに楽なお仕事なのですか?」
エレ
「マーベル、女王は……女王は仕事ではありません」
マーベル
「仕事でないのなら、何です?」
エレ
「王家の血は、私にとっては……」
マーベル
「エレ様にとっては宿命です。逃れる事は出来ません」
「例え、エレ様が亡くなられようとも、逃れられないのです」
「お爺様やお父様のように、絶えず、人民に対して生きる目的を与えていかなくてはならないお立場なのです」
エレ
「死んだ後ぐらいは、好きにさせてください」
マーベル
「そんな事を言うエレ様で良いのですか? 死んでいったトルストールにとって……」
エレ
「マーベル……そんな……」
チャム
「マーベル、ゲア・ガリングの先発隊が来るって」
「エレ様」
キーン
「マーベル」
マーベル
「今行く」
キーン
「いいの?」
マーベル
「女王でない人など、放って置きましょう」
キーン
「楽なのね、女王様って……」
チャム
「エレ様、好きな人に一度も愛されないまま死んじゃうかもしれない人だって、居るのよ?」
「私の言ってる事分かって? 好きな人が居ても、一度も愛されないまま死ぬかもしれない人って居るのよ?」
エレ
「何方の事ですか?」
チャム
「キーンよ、キーン」
エレ
「キーン・キッス……」
チャム
「私もね」
ショウ
「チャーリーさん、頼みます」
「エイブ艦長、迎撃に出ます。宜しいですね?」
エイブ
「出てくれ」
「せめて、ブリッジにお姿を見せてくださらなければ……」
ニー
「出られるな? 敵の数は?」
ドワ
「よく分からん」
ニー
「何でだよ?」
ドワ
「地上用のレーダーってのは難しいんだよ」
ショウ
「エイブ艦長の命令だ。ボゾン隊を第一警戒ラインまで出せ」
ラウの兵士
「了解」
ショウ
「ボチューン隊、出撃用意」
キーン
「迷ってると、自分がやられちゃうっていうのに……」
ラウ兵
「第十五戦隊、ゴラオンの勅令だ」
マーベル
「キーン、余り前へは出ないで」
キーン
「私はプロフェッショナルなつもりよ」
ショウ
「マーベル、キーンが急ぎ過ぎる。どうした?」
マーベル
「大丈夫、私がコントロールするわ」
エイブ
「ショウ君、ゼラーナも発進させる。以下、グリムリー隊が前衛を執る」
ショウ
「有難う御座います。エレ様は……」
エイブ
「まだブルッジには居らん。モニターを回そうか?」
ショウ
「頼みます」
キーン
「私なんか……私なんか死んだって、誰も悲しみはしないのよ」
ショウ
「何も申しません。しかし、兵士達はエレ様の御言葉を待っています」
「『私の為に死んでくれ』という言葉は、兵士にとって勇気を与える言葉だという事をお忘れなく」
キーン
「次はどこ?」
ガラミティ
「ダンバインめ、いい加減に落ちてみせろ」
マーベル
「ビショット軍の戦力はどれ程あるというの?」
「どこ……はっ!」
「キーンは……キーンはどこ?」
ニー
「ドワ、こいつら先鋒隊だ。本隊が来たらこんなもんじゃないぞ」
ドワ
「分かってる、少し黙ってて」
キーン
「くっ……!」
「次!」
「くっ、こんな所で死ぬもんか!」
ドワ
「こいつら……!」
ニー
「ボチューン……キーンか?」
キーン
「こんな事ぐらいで終わる人生なんて、私は嫌よ!」
「うぅっ……!」
ニー
「キーン、飛び降りろ!」
キーン
「ニー!」
ニー
「急げ!」
キーン
「くっ……!」
ニー
「どうだ?」
キーン
「大丈夫よ、ニー。有難う……」
ガラミティ
「何としても、ダンバインは落とす!」
マーベル
「はっ……!」
「このビアレス……!」
ガラミティ
「頭ぐらいなくても!」
マーベル
「あぁっ……!」
ガラミティ
「何?」
「こんな事ぐらいで……うわっ!」
エレ
「エイブ艦長」
エイブ
「はい」
エレ
「敵のゲア・ガリングはどこか?」
エイブ
「後一時間程で接触出来ましょう」
エレ
「ゼラーナ以下の艦艇を、ゴラオンを中心に集結させよ。ゲア・ガリングに艦隊戦を仕掛ける」
エイブ
「はっ、エレ女王様!」
エレ
「よし」
「トルストール、私は女王をやります」