第39話 ビショットの人質

軍人
「こちら第二中隊、目標に接近中」
アメリカ大統領
「食料は提供する。しかし、軍需品を渡す訳には行きません」
「我々は、貴方がたがどういう方か、未だに分からんのですからな」
アの兵士
「分かる分からぬではない筈だ」
「我々の要求通りに動かんのなら、このワシントンとかいう都市を全滅させてみせようか?」
政府高官
「三十分で返事を出す。それまで暫くお待ちを願いたい」
アの兵士
「よし、三十分だな?」
アメリカ大統領
「……ラスベガスが消えたのも、核ではないというが……」
政府高官
「大規模な通常爆弾に近いやられ方でした」
 〃
「しかし、テンシャンの核爆発は、ありゃ一体何だったのだ?」
 〃
「人工衛星でキャッチしたものですか?」
アメリカ大統領
「内紛は考えられない。ウィル・ウィプスに似た物が出たんで、中央政府が仕掛けたのだろう」
政府高官
「軍部は動揺しています。戦果は皆無だという事ですから」
アメリカ大統領
「バイストン・ウェルか……ペローか何かに出て来る、物語の世界じゃないのか?」
政府高官
「ならば我が軍のレーザーで、その本を燃やしてみせますか?」
アメリカ大統領
「ううむ、それで済ませたいものだ……」
ショウ
「ニュースでは、ワシントンにウィル・ウィプスは入ったとの事ですから」
マーベル
「アメリカを押さえられると、地上界の半分がドレイクの手に落ちたと同じ事になります」
シーラ
「しかし、今の私達は、このヨーロッパを押し包む悪意ある力を取り除く方が先のような気がします」
ショウ
「悪意ある力……?」
シーラ
「中央政府との交渉が上手く運ばなかったのも、ジェリル・クチビの為ではなかったかと思います」
ショウ
「ジェリルの為……」
シーラ
「はい」
ニー
「入港後、直ちに整備だ」
エル
「私達、バイストン・ウェルに帰れるのかしら?」
チャム
「そんな事、私に聞かれても……」
ベル
「ね、あのお花取って。ねったら」
エル
「駄目よ、お花におイタしちゃ」
ベル
「だって綺麗なんだもの」
チャム
「ショウ、シーラ様とのお話はどうだったの?」
エル
「シーラ様は、バイストン・ウェルにお帰りになるつもりはないの?」
ショウ
「戦いが終わればね」
エル
「本当?」
ベル
「お花取って〜!」
ショウ
「ベル・アール」
ベル
「わ〜ん、お花欲しい〜!」
ショウ
「体、大丈夫か?」
チャム
「顔色悪いよ」
マーベル
「えっ……あぁ、大丈夫よ。ごめん」
ナの兵士
「後方より所属不明機侵入! 各員、戦闘用意!」
ショウ
「後ろから?」
マーベル
「大西洋から来たって事よ」
ショウ
「チャムはここに居ろ」
チャム
「私も行く〜!」
トッド
「ビショットの所に行く途中で、こんな物に出会うとは付いてるぜ」
「戦力の偵察をしてみるか」
マーベル
「ここは私が引き受けるわ。ショウはグラン・ガランを守って」
ショウ
「マーベル、急ぎ過ぎだ」
マーベル
「後続が遅いのよ。グラン・ガランのオーラ・バトラー隊、甘いわよ」
「速い! 一体誰なの?」
トッド
「その程度の動きでは、今の俺には通用しないぜ、ショウ!」
「いや、マーベルか!」
マーベル
「トッド・ギネス! どこから来たの?」
トッド
「アメリカでドレイクと合流しても、不思議はなかろう?」
マーベル
「ドレイクと……貴方まさか、アメリカを売った訳ではないでしょうね?」
トッド
「俺のお袋はボストンに居るんだ。そんな事するかよ!」
チャム
「きゃっ……!」
ショウ
「このタンギー隊、戦い慣れをしてる!」
「ボゾン隊が出てくれた?」
チャム
「ショウ、ダンバインが見えないよ」
ショウ
「何?」
チャム
「何やってんの? やられに来たの?」
ショウ
「ドレイク軍の方は慣れてるんだ。マーベルは?」
マーベル
「はっ……!」
「うっ、トッド……!」
トッド
「観念するんだな、マーベル!」
マーベル
「うっ、うぅっ……!」
ショウ
「マーベル!」
チャム
「駄目〜!」
トッド
「ショウ、これでも攻撃出来るか?」
「それ以上近付けば、コックピットの中のマーベルを殺すぜ?」
ショウ
「トッド、何をする気だ?」
チャム
「卑怯よ!」
トッド
「こうするのさ!」
チャム
「あっ……!」
ショウ
「トッド・ギネスめ……!」
チャム
「行っちゃう……マーベルが行っちゃう!」
トッド
「ふふっ……」
黒騎士
「何? トッドがダンバインを捕獲しただと?」
ゼット
「ウィル・ウィプスから来る途中で、捕まえたらしい」
黒騎士
「奴が何故捕獲出来たのだ……奴の力に負けるなら、ショウ、マーベルが乗ってるとは思えん」
クの兵士
「トッド様、ご無事でしたか」
トッド
「俺にだって運が向く時はある。見縊るなよ」
「ん? 何だあれは?」
クの兵士
「はっ! 黒騎士殿のガラバでございます」
トッド
「黒騎士だと? まだウロウロしてるのか」
「手土産をビショットの所へ連れて行け」
クの兵士
「はっ!」
黒騎士
「……やはり、マーベル・フローズンか」
マーベル
「あっ……!」
「ビショットとルーザ……!」
ビショット
「ほう、これは珍しいお方がいらっしゃった。ふふっ……」
トッド
「気に入って貰えましたかな?」
ビショット
「トッド・ギネス、長旅ご苦労だった。ドレイク殿は相変わらずかな?」
トッド
「あの方は今、アメリカという国を威して協力を取り付けております」
ビショット
「そうか……となると、我々の仕事も早くなるな」
「連れて行け」
クの兵士
「はっ!」
ルーザ
「ビショット様」
ビショット
「ん?」
ルーザ
「ウィル・ウィプスと合流する前に、あれを出汁にして、グラン・ガランとゴラオンを沈めては如何です?」
ビショット
「あれとは……?」
ルーザ
「聖戦士マーベル・フローズンの存在は、彼らにとって大きい筈です。その命は無視出来ないでしょう」
ビショット
「流石ルーザ様」
ルーザ
「エレもシーラも、聖戦士の命と引き換えてまで戦いを挑んでこないでしょう」
「その甘さがあの者達の弱点です」
ビショット
「怖いお方だ」
シーラ
「マーベルが……」
エレ
「シーラ様」
シーラ
「ラウの国のエレ・ハンム」
エレ
「漸く、お目に掛かれました。お見知りおきを」
シーラ
「気遣いは無用です、エレ様」
「今は急ぎ、マーベルを……」
エレ
「では、こちらでもゲア・ガリングの通信はお聞きなのですか?」
シーラ
「マーベル・フローズンが人質に囚われた事は」
ニー
「申し訳ありません。ゼラーナの出撃が遅れたばかりに……」
エレ
「いいえ、それは違います」
「ニーもショウ達も、私が便利に使い過ぎた為に、こんな事になったのです」
シーラ
「この原因は私が作ったのです」
「国力に任せて巨大戦艦を造り、バイストン・ウェルと地上を繋げさせ過ぎてしまった私に……」
「私に責任があるのかもしれません」
ニー
「シーラ様、それは違います」
シーラ
「ニー、気休めはよい」
ニー
「はい」
エレ
「私がゲア・ガリングに行き、マーベルと代わります」
ショウ
「シーラ様、私がゲア・ガリングに行きます」
「それでマーベルと交代した所で、ゴラオンとグラン・ガランでゲア・ガリングを叩いてください」
「捕虜になったといっても、一人の兵ぐらいは倒してみせます」
シーラ
「くどい。その話も今、却下した筈です」
ベル
「わ、今日は怖いわね……」
エル
「当たり前でしょ?」
「チャム、元気出しなさいよ」
チャム
「私にオーラ・バトラーがあれば、何とかしたのに……」
「うぅっ、マーベル……!」
ナの兵士
「シーラ様、ゲア・ガリングから督促です。投降するのか、しないのかと」
エレ
「督促?」
シーラ
「モニターに拡大出来るか?」
ナの兵士
「はい」
ニー
「あっ……」
マーベル
「私の事は構いません! 今ここでゲア・ガリングを落とさなければ……!」
「うっ、うぅっ……!」
ビショット
「シーラ、エレ、聞こえたろう? この聖戦士を無駄死にさせるのか?」
ベル
「あはっ、綺麗なお花見付け!」
エル
「ベル、駄目よ」
ベル
「シーラ様……」
「何かあったの?」
エル
「さっきの話を聞いてなかったの?」
ベル
「あ〜ん!」
「あ、私の方見てくれない……」
エル
「当たり前でしょ、もう!」
ベル
「あ〜ん!」
ドワ
「駄目だ、退艦なんて……地上に降りたら、俺達生きていけないよ」
チャム
「それじゃ、マーベルは死んじゃうわよ」
キーン
「私はマーベルを助けに行くわよ」
エイブ
「独断専行は許しません、キーン・キッス」
エレ
「私は、ゴラオンを捨てます」
エイブ
「エレ様……!」
「ん?」
シーラ
「私も投降します」
エイブ
「そ、それはなりません」
エレ
「シーラ様……」
シーラ
「そして、一気にゲア・ガリングを撃滅しましょう」
チャム
「どういう事ですか、シーラ様?」
シーラ
「投降すると見せかけて、攻撃するのです」
ニー
「シーラ様がそのような手段を使うなど……」
キーン
「マーベルだって、助けられなくなります」
シーラ
「私も、ジェリルの悪意に取り憑かれたのです」
「ならば、ビショットを騙し、更にマーベルを見殺しにするという、二つの罪を被りましょう」
「マーベルならば、その私達の真意は分かってくれます」
「一つの悪意を潰す為に、幾千の屍を重ねなければならぬ時もあるのです」
「分かってください、キーン・キッス……」
キーン
「はい……」
シーラ
「いいですね? ニー・ギブン」
ニー
「は、はい。シーラ様……」
シーラ
「愛していらっしゃる……」
ショウ
「そりゃ分かりません……分かりませんが、構いません……」
シーラ
「救出のチャンスがあるかもしれません。それを信じましょう」
ショウ
「はい……」
マーベル
「私一人の為に投降するというの?」
トッド
「嬉しいだろう、マーベル?」
マーベル
「そんな馬鹿な……!」
トッド
「それだけ、お前の存在は大きいって事だ」
マーベル
「私を助けてどうなるというの? 駄目よ、そんなの……駄目、駄目……!」
トッド
「くっ……!」
ナの兵士
「第二百五十六区、全員退避終了」
 〃
「十八(?)、全員退避後五分です」
 〃
「ぼやぼやするなよ、戦争は終わりだ」
シーラ
「ジェリル・クチビの悪意だけとは思えない……」
ベル
「シーラ様、戦争終わったんだってさ」
エル
「ベル、さあいらっしゃい」
エレ
「どうか?」
エイブ
「はい、退艦しつつあります」
エレ
「この作戦……」
エイブ
「は?」
エレ
「いや、いい……」
シーラ
「ビショット殿、我らは退艦しつつあります。マーベル・フローズンを解放してください」
ビショット
「約束は守ろう。見るがいい」
マーベル
「エレ様、シーラ様、投降してはいけません!」
ショウ、チャム
「マーベル!」
ニー
「ビショットめ……!」
シーラ
「はっ……」
エレ
「はっ……」
エイブ
「むっ……」
キーン
「マーベル……!」
ビショット
「だが、マーベルを渡すのは、退艦をしかとこの目で確かめてからの事だ」
マーベル
「ゲア・ガリングを落とすチャンスです!」
シーラ
「後十分で終わる。お確かめを」
ビショット
「素直だな、シーラ・ラパーナ」
ナの兵士
「近いんだ。狙わなくったって当たるぜ」
ビショット
「オーラ・バトラー隊、グラン・ガランとゴラオンをチェックしろ」
ルーザ
「甲板上のオーラ・バトラーを撃破してみよ。それによって敵の腹の中が分かる」
「更に、ビルバインを引き摺り出して……」
ビショット
「第一番目に撃破する命令は出しております」
ルーザ
「流石、ビショット殿」
ラウの兵士
「あぁ、ボゾンがむざむざやられて行く……!」
ナの兵士
「グラン・ガランの方もやられてるぞ!」
クの兵士
「ビルバインがあった。撃破するぞ」
ルーザ
「ははっ! やったか。シーラ、エレ共々、降伏は本気だな?」
ビショット
「よし、もう一、二機撃破しろ」
ラウの兵士
「うわぁぁっ!」
エレ
「エイブ……!」
エイブ
「まだです。もう少しゲア・ガリングを引き寄せます」
ベル
「あ、戦争は終わったんじゃないの?」
エル
「当たり前でしょ?」
ナの兵士
「シーラ様、お下がりください!」
シーラ
「もう一息、引き付けてから……」
ビショット
「シーラ・ラパーナ、エレ・ハンム。そろそろ最後の仕上げに、そなた達も退艦して貰おう」
「ブリッジの前にドロを出す。お二人を我が艦へご招待しましょう」
チャム
「それじゃ、話が違うわ!」
ショウ
「ビショットは、始めから二人の女王を人質に取ろうと……!」
ビショット
「お二人の従順なお心に甚く感動致しております。さあ、女王様方」
エレ
「シーラ様!」
シーラ
「ショウ、行きなさい!」
ショウ
「はい!」
シーラ
「ゲア・ガリングへ、砲撃を!」
エイブ
「砲撃はゲア・ガリングのみ! 総員、艦へ戻せ!」
ルーザ
「は、謀ったな……!」
ビショット
「本気なのか?」
トッド
「何やってんだ? ビショットめ……!」
黒騎士
「ふん、策士策に溺れるというがな!」
リムル
「あぁっ……!」
ショウ
「マーベル、どこに居る?」
チャム
「ショウ、前!」
ショウ
「ん?」
ビショット
「シーラ、エレ、焦ったか?」
ルーザ
「いえ、あの女達、始めからマーベルを見殺しに……見殺しにするつもりだったのです……!」
ビショット
「くっ……女狐め!」
ショウ
「突っ込むぞ!」
チャム
「やって!」
ショウ
「ここじゃないか」
トッド
「大した物だ、マーベルの命は要らないってのか」
「ん?」
ショウ
「マーベルを感じないか?」
チャム
「分かんない。あそこは?」
トッド
「ビルバインに好きにさせるか!」
チャム
「来るわ!」
ショウ
「分かってる。あれはトッド……!」
「くっ……!」
チャム
「マーベル!」
トッド
「無駄だよ!」
「逃がす訳には行かんぜ! 作戦が気に入らなくてもな!」
ショウ
「退け!」
キーン
「ショウ、マーベルはまだ見付からないの?」
ニー
「ショウ、手間取り過ぎだ。これではマーべルを……!」
エレ
「あぁっ……!」
エイブ
「エレ様、ブリッジは危険です。お部屋へ」
エレ
「私は戦いの指揮を執っています」
シーラ
「ショウ・ザマ、マーベルはまだ見付からないのですか?」
トッド
「新手か?」
ショウ
「ニー、キーン、ここは頼んだぞ」
チャム
「頼んだわよ」
ショウ
「ダンバインだ」
チャム
「マーベル、近いわ」
ショウ
「マーベルどこだ、教えてくれ」
「マーベルはタンギーに縛られていた」
チャム
「間に合わなかったの?」
ショウ
「そんな事はない」
エレ
「ショウ、左です」
ショウ
「え?」
「そうなのか、エレ様……」
エレ
「間違いありません。貴方の左手に居ます」
ショウ
「殺気が走ってる」
チャム
「マーベル!」
クの兵士
「わぁぁっ!」
ショウ、チャム
「はっ……!」
ショウ
「マーベル!」
チャム
「あぁっ……!」
マーベル
「あっ……!」
黒騎士
「ダンバインと共に失せろ」
マーベル
「何故……?」
黒騎士
「私は、人質を取るようなビショットのやり方が気に入らんだけだ」
ショウ
「黒騎士……」
黒騎士
「オーラ・バトラーの一対一の決闘をなすまでは、死んでもらう訳には行かん」
「今は失せろ、ショウ・ザマ! マーベルと共に!」
「……ええい、動けるオーラ・バトラーはないのか?」
ニー
「ビルバインとダンバイン!」
「ショウ、マーベル!」
キーン
「マーベルが脱出したわ。グラン・ガラン、ゴラオン、聞こえますか?」
シーラ
「脱出しましたか。良かった……」
エレ
「運が良かった……」
エイブ
「エレ様……」
ルーザ
「ふふっ……二対一の艦隊戦ともなれば我が方が不利でありましょう。次の策を考えれば良いではありませんか」
ビショット
「道理でありましょうな」
「パトロール隊は残して、各隊を後退させる」
クの兵士
「はっ!」
シーラ
「許してください、マーベル・フローズン」
マーベル
「シーラ様とエレ様のお心は、承知しております。お二方がこうして合流出来た事を祝福致します」
シーラ
「有難うマーベル、貴方のお心に感謝致します」
エレ
「私、マーベルのような方と会えた事を、嬉しく思います」
マーベル
「エレ様……有難う御座います」
ショウ
「では、各隊の修理を急がせて頂きます」
エレ
「ご心配なく。それは私が指揮を執ります」
シーラ
「今夜は、お二人はお休みください」
ショウ
「シーラ・ラパーナ様……」
マーベル
「有難う御座います」
シーラ
「より困難な戦いが待ち受けておりますから」
ショウ
「ドレイクは、まだアメリカ大陸から動いていない」
マーベル
「ええ……」