第40話 パリ炎上

前回のあらすじ
機械というものが、人の心を揺さぶるのかもしれない。
バイストン・ウェルは、地上からは決して覗けない、パラレル・ワールド……。
コタノ
「頭の所のカメラ・アイに、雪が掛からないようにすりゃいいんだよ。可動の部分を凍らせるなよ」
「こんな所しか隠れる場所はないのかよ」
ショウ
「コタノ、シュットで出る」
コタノ
「どこへ行くんだ?」
ショウ
「グラン・ガランだ」
チャム
「や〜よ、こんな寒いとこ……」
ショウ
「みんな寒いの。出るぞ」
エル
「うぅ〜っ!」
ベル
「寒いよ〜、エル。寒い〜!」
エル
「私に言ったってしょうがないでしょ?」
ベル
「わ〜ん! シーラ様、もっとあったかいとこ行こう?」
シーラ
「辛抱なさい、ベル。お前達だけが寒いのではありません」
チャム
「寒い〜!」
ショウ
「シーラ様」
チャム
「もう嫌いよ、こんな寒いとこ〜」
エル
「地上はこれから、もっと寒くなるそうよ?」
チャム
「え〜?」
ベル
「やだ〜!」
シーラ
「ご苦労です。話の想像は付きますが」
ショウ
「はい。地上に戦火を拡げない為に、ここまで後退したのは分かりますが……」
マーベル
「これ程の自然現象には、バリアも効かず、兵士達を消耗させるだけです」
エレ
「シーラ様は、ゲア・ガリングと、この洋上で戦うおつもりなのです」
ショウ
「しかし、敵はそうは動いてくれませんでしたね」
エレ
「ビショットは、私達を追うと思いましたが……」
シーラ
「地上を巻き込むつもりでしょう。動きが遅過ぎます」
マーベル
「真の敵が、私達だという事を忘れて……?」
シーラ
「それによって、私達を揺さぶるつもりなのでしょう」
ショウ
「揺さぶりですか……乗ってみますか。地上を彼らの好きにさせる訳には行きません」
軍人
「わぁぁっ!」
ルーザ
「煩い飛行機だこと」
ビショット
「ワシントンのドレイク殿に、宜しく伝えてくれ」
トッド
「はっ!」
「ルーザ様とリムル様のご無事な事もお伝えすれば、さぞ喜ばれるでしょう」
ルーザ
「無用です。ここは戦いの場です。親方様に、女子供の事で心配を掛けてはなりません」
トッド
「ん?」
ビショット
「余り地上人を威かさぬ方がいいと、ドレイク様には伝えてくれよ?」
トッド
「それは、ビショット様も……」
ビショット
「接触は急ぐ。作戦は速やかにやらねばならん」
トッド
「はっ! ではこれで……」
ルーザ
「……トッドを戻したのは不味くありませんか?」
ビショット
「いつまでも縛る訳にもいかん。何事にも、決着を付ける時はございましょう」
トッド
「ふっ、俺の舌先三寸という所だな」
ビショット
「この街を全滅させると?」
ルーザ
「はい。シーラやエレが北海に後退したのは、この地では戦いたくないからでしょう」
「ですから、この古い由緒のある街を焼くと脅せば」
「ショウ、マーベルに戦いから手を引かせる事は出来ましょう」
ビショット
「そう上手く行くかな?」
ルーザ
「親方様と合流する前に、彼女らの内の一隻でも叩けば、ウィル・ウィプスとも合流せずに敵を撃滅出来ましょう?」
ビショット
「私とて、そうはしたいが」
ラナ
「……パリを焼く……?」
フレデリック
「我々は、迂闊な事をしたのかな?」
ラナ
「美味い代理戦争だと思っていたけど……」
フレデリック
「これ程、強力とはな」
ラナ
「あ、フレデリック……!」
ニー
「リモコンを使うのか」
ショウ
「もう、ドルプルには頼んである」
コタノ
「全く、地上ってとこはどうなってんだ? 晴れたと思ったら暑くて敵わんぜ」
グロン
「全くだ」
「ん?」
コタノ
「オーラ・バトラーか?」
グロン
「いや、オーラ・ノズルの光は見えんぞ」
ニー
「地上軍の飛行機……!」
ショウ
「大型機だな」
ニー
「全員、戦闘配置に」
ショウ
「ニー、待てよ」
ニー
「ん?」
ショウ
「攻撃はしない……」
グロン
「降りるぞ」
「ん?」
コタノ
「何だありゃ」
マーベル
「ドーバーまで、グラオン、グラン・ガラン、何れか進出されたい。この命に服さねばパリは炎上する」
「これ以上パリを焼きたくない。同意されたし。――フランス政府」
ショウ
「ビショットの奴、パリを人質にフランス政府を脅したな?」
ニー
「シーラ様の仰った揺さぶりか」
マーベル
「それだけ敵も苦しいのよ。ショウの作戦をやるしかないわね」
ショウ
「うん。急ごう」
ショウ
「あ、すいません、急がせて」
チャーリー
「ビショットがパリを燃やすって、本当ですか?」
ショウ
「そうさせない為に、貴方にも協力して欲しいんだ」
チャーリー
「私に……?」
ショウ
「ゲア・ガリングには、貴方と同じ会社の人間が乗っている。連絡を取ってもらいたい」
ラナ
「チャーリーから?」
フレデリック
「ああ」
ラナ
「チャーリー、何よ?」
チャーリー
「元気らしいな」
「このモニター、バイストン・ウェルの連中には聞かれてないだろうな?」
ラナ
「ええ。貴方、本当にグラン・ガランに乗っているのね?」
チャーリー
「俺はこの船を降りたいよ」
「こっちはエレとシーラの二人の女王が、主導権争いで睨み合いさ」
フレデリック
「内輪揉めか?」
チャーリー
「ああ、女って言い出したら聞かないからな」
ラナ
「当て付けがましいわよ、チャーリー」
チャーリー
「パリは燃やしたくないし、ラナとよりを戻すきっかけも……」
ラナ
「今は戦争中なのよ?」
ビショット
「地上人同士の痴話話はさせておけ。こちらに油断有りと見せる為にな」
クの兵士
「はっ!」
ルーザ
「重要な事は……」
ビショット
「エレとシーラの内輪揉め……という情報だな」
ルーザ
「特にシーラは、ラパーナ家の女王という気位があります」
「エレの跳ね上がりを嫌ったと考えられます」
ビショット
「シーラは、地上に出てまで己の主権が欲しいと思うようになった」
ルーザ
「はい。そうなれば、あの戦線は脆くなります」
ビショット
「このパリを燃やす必要もなく、シーラかエレを落とす事が出来る」
クの兵士
「ダンバインだ!」
 〃
「ビルバインと戦ってるんだって?」
リムル
「……あぁっ、ダンバインとビルバインが戦っている!」
ショウ
「どうだ?」
マーベル
「ショウ」
「ショウ、どういうつもりなの?」
チャム
「どうして行っちゃうの?」
ショウ
「マーベルこそ考え直せ。シーラやエレに見捨てられかけたんだぜ? 分かってんのか?」
チャム
「でも、今まで一緒にやって来たのに……」
「マーベル、来た」
マーベル
「しっ……」
「貴方が敵の戦力に回るのは許せない」
ショウ
「シーラとエレはな、俺達をいいように使って、地上のどこかの国に取り入って自分達だけ生き残るつもりなんだ」
「我慢もこれまでだ」
ルーザ
「先程の話は、本当のようですね?」
ビショット
「うむ」
クの兵士
「ビルバインとダンバインだとよ」
 〃
「やってるやってる」
チャム
「駄目よ、ショウもマーベルも戦わないで」
マーベル
「裏切り者よ、黙ってなさい」
ショウ
「俺は、マーベルほどお人好しになれないだけだ。奴らには愛想が尽きた」
マーベル
「行かせはしないわ」
「うぅっ……!」
チャム
「やり過ぎよ、ショウ」
マーベル
「黙って」
ショウ
「マーベル!」
マーベル
「ショウ!」
「あぁっ……!」
ビショット、ルーザ
「おぉっ……!」
クの兵士
「おぉっ……!」
リムル
「あっ……」
マーベル
「ショウ!」
ビショット
「ビルバインを連行しろ。妙な動きがあったら、直ぐに撃破しろよ」
ルーザ
「甘過ぎませんか?」
ビショット
「直ぐに分かる事さ、ふふっ……」
クの兵士
「パイロットは下へ降りろ」
「手を頭に」
「こっちへ来い」
黒騎士
「……ダンバインが落ちた場所は?」
クの兵士
「15キロ程南の……」
黒騎士
「うむ」
ゼット
「よーし、止めろ」
黒騎士
「ゼット殿、ガラバはまだ修理出来ませんか?」
ゼット
「俺は他のマシンの整備もやらされているんだぞ?」
黒騎士
「ショウ・ザマの事で調べたい事があります。ライネックをお借りする」
ゼット
「どこへ行くんだ?」
黒騎士
「ダンバインの所へ」
ゼット
「ダンバイン? 何だ?」
ラナ
「敵の兵士?」
フレデリック
「敵の内輪揉めって本当らしいな」
ビショット
「これは聖戦士殿、大変見事な戦い振りを見せて頂いて光栄ですな」
ショット
「皮肉はやめてもらいたいな」
ビショット
「ならば聞かせてもらおうか。何故、このゲア・ガリングに投降したのだ?」
ショウ
「貴方がマーベルを捕えた時、エレもシーラも、マーベルの見殺しを考えた」
ビショット
「しかし貴公の働きで、マーベル殿は助かったではないか」
ショウ
「ああ。しかし、マーベルは俺の話を信じてくれないで、女王達の命令を聞くという。それで……」
ルーザ
「そのマーベル、確かに落としたという証拠はありますか?」
ショウ
「ダンバインの首を持ってくるのが精一杯だった」
ルーザ
「そなたの新型機で以てもか」
ビショット
「で、今度は我が方の戦力になってもらえるかな?」
ショウ
「ビルバインは置いていく。勘弁して欲しい」
リムル
「貴方という人は……!」
「ニー達を見捨てたのですか!」
ショウ
「リムル!」
リムル
「許せない!」
ルーザ
「誰がリムルを出したのか?」
ショウ
「分からないお姫様だ」
リムル
「ショウ……」
「うっ、うぅっ……!」
ショウ
「甘いんだよな、人情だけじゃ戦争なんてやれないんだよ。お姫様」
ビショット
「姫様をお部屋から出して、怪我をさせる訳にはいかんのだぞ!」
クの兵士
「申し訳ありません! 捕虜を見たいと申されまして……」
ショウ
「自分の身の振り方だけを考えればいい。姫様もな」
ルーザ
「急いでリムルを……!」
クの兵士
「姫様。さ、お部屋へ……」
リムル
「分かりました。一人で歩けます」
クの兵士
「はっ!」
ラナ
「……このゴタゴタを利用して逃げ出す?」
フレデリック
「あの姫様を利用する手はあるかもしれん」
黒騎士
「場所は間違いないのに、何故見付からんのか?」
クの兵士
「頭をやられたダンバインは、視界が不自由な筈で……」
 〃
「地上にも落ちた形跡はありません」
黒騎士
「ショウめ……何を考えているんだ?」
ニー
「ドルプルの方が終わったら発進するぞ」
コタノ
「はい」
マーベル
「間に合うと思って?」
ニー
「正攻法が通じないとなれば、やむを得ん」
マーベル
「ダンバインの頭に仕込んだ爆薬で、ショウは巻き添えになるかもしれないのよ」
ニー
「だから我々が支援に行くんだろ。俺達の力も信じてくれよ、マーベル」
マーベル
「ええ……ええ、それは……」
フレデリック
「ユー・ノウ・ボクシング?」
「シュッシュッ」
クの兵士
「うっ!」
フレデリック
「ふぅ、ラナ……」
ラナ
「リムル様、色々事情がおありのようですね」
リムル
「貴方は……」
ラナ
「この船から、脱出なさいません?」
リムル
「勿論」
ビショット
「確かに、変形するオーラ・バトラーのシステムには興味あるな」
「代わりに、ドラムロ1機くらいはくれてもやろう」
ショウ
「有難う御座います」
ビショット、ルーザ
「うっ……!」
ビショット
「無礼なパイロット! 何者か?」
黒騎士
「無礼はお許しを」
ビショット
「黒騎士とか申したな」
黒騎士
「ショウ・ザマがダンバインを落としたなぞ、真っ赤な嘘」
「ダンバインの破片一つ見付からんのを、どう説明するか?」
ショウ
「動くな! 動くとここを爆破するぞ!」
黒騎士
「何だと?」
ルーザ
「何を寝惚けた事を……」
ショウ
「ビルバインに爆弾が内臓してあるんだからな」
ビショット
「何?」
ショウ
「動くな!」
「ゲア・ガリングを浮上させ、北海まで進めろ。さもないとここで爆破する!」
ビショット
「ははっ! そこからどうやって爆破させるというのだ?」
ショウ
「俺の奥歯にスイッチが埋め込んである。ちょっと強く噛み締めれば、直ぐに爆発する!」
ルーザ
「そのような子供騙し、信じられるか。黒騎士、斬り捨てぃ!」
黒騎士
「正気とは思えんな、ショウ・ザマ」
ショウ
「そうかい? 試してもいいんだぜ? 特攻、体当たり攻撃……これは日本人の専売特許でね」
黒騎士
「ん、貴様……!」
リムル
「ドレイクに軍を止めさせなければ、いつか地上も父の意のままになります」
「それでは、地上界の為にもバイストン・ェルの為にも……」
ラナ
「でも、どうやってここを脱出するのです?」
リムル
「私だってオーラ・バトラーの操縦は出来ますし、ショウも助けてくれます」
フレデリック
「ショウって、あの寝返った男だろ?」
リムル
「ショウは寝返ってはいません」
フレデリック
「何故そんな事が分かる……」
「ん?」
リムル
「ゲア・ガリングが動いた……!」
ドワ
「ゲア・ガリングが動いたらしいぞ」
ニー
「ショウの作戦勝ちか」
「マーベル、ゲア・ガリングは動いたぞ」
マーベル
「ええ」
チャム
「ショウがやったのね?」
ニー
「間もなくゲア・ガリング隊と接触するぞ。用意はいいな?」
マーベル
「いいわ」
ショウ
「むっ……!」
ビショット
「口だ! 口を開かせろ!」
「黒騎士、斬り捨てぃ!」
黒騎士
「はっ!」
「たぁぁっ!」
ショウ
「これまでか!」
クの兵士
「うわぁぁっ!」
ビショット
「うぉぉっ!」
黒騎士
「うぉぉっ!」
リムル
「はっ……!」
ラナ
「敵?」
ショウ
「今のは警告だ。ビルバインの火薬はこうは行かないぞ」
黒騎士
「本気だったのか」
ショウ
「当たり前だろ」
黒騎士
「私の剣で即死させてやる! 二度目の爆発をさせんようにな!」
ショウ
「俺だって人形じゃない!」
リムル
「ショウ!」
ショウ
「リムル!」
黒騎士
「たぁっ!」
「むっ、リムル様……!」
リムル
「ショウ、貴方の思う通りに戦いなさい!」
ショウ
「すまん!」
リムル
「二人の地上人も助けてやって! 私の事は構わないで!」
黒騎士
「御免!」
リムル
「うぅっ……!」
ショウ
「リムル!」
クの兵士
「逃がすな!」
ショウ
「リムル、すまない。必ず助け出す」
黒騎士
「リムル様を奥へ」
ショウ
「こいつ! リムルが居なければ、あのハッチを爆破出来るのに!」
ニー
「ショウ、失敗したな」
マーベル
「ええ。ショウ」
ビショット
「ショウ・ザマめ、よくも煮え湯を飲ませてくれたな」
「この街共々、炎の中へ放り込め!」
ショウ
「ビショットめ、総掛かりで……!」
「あそこでリムルが出て来なければ……」
黒騎士
「ショウ・ザマ、今日こそ……!」
ショウ
「むっ……!」
黒騎士
「ショウ・ザマ! この街を焼いたのは、貴様の浅知恵からだと思うんだな!」
ショウ
「落とし前はつける!」
黒騎士
「この程度のオーラ力では、私は倒せはしない!」
マーベル
「あの光はショウなの?」
チャム
「いけない……」
マーベル
「どうしたの、チャム?」
チャム
「ショウは憎んでいる……ただ憎んでるだけじゃ駄目よ!」
ニー
「あの光は、ショウの憎しみの光だというのか」
ショウ
「黒騎士!」
マーベル
「ショウ、いけない! 憎しみのオーラ力を増幅させると、ジェリルのように……!」
チャム
「マーベル、来る!」
「来る!」
マーベル
「やるわよ!」
チャム
「いいわよ!」
「行けぇーっ!」
ビショト
「一機に任せるな! 総掛かりで行け! 共倒れもやむを得ん!」
チャム
「いけない!」
マーベル
「ショウ!」
黒騎士
「共倒れはせん!」
ショウ
「数が……数が、オーラ・バトラーの力じゃない!」
チャム
「やった……!」
マーベル
「ショウ、いけないわ!」
ドワ
「ビルバイン、どうしたんだ?」
ニー
「唯のオーラ光じゃない」
ビショット
「何だ? あの光は……」
ショウ
「こ、この光は何だ?」
「お、俺は、こんな風にオーラ力を使うつもりじゃない!」
マーベル
「ショウ……ショウ!」
ショウ
「むっ……!」
「ゲア・ガリング……!」
ビショット
「ビルバインが来る。この空域から……」
「はっ……!」
ショウ
「ビショット!」
ビショット
「うぉっ……!」
クの兵士
「わぁぁっ!」
ビショット
「こ、この空域から脱出しろ! 急げ!」
ショウ
「ビショットのお陰で……!」
黒騎士
「貰った!」
「止めた……!」
ショウ
「俺にだって、まだまともなオーラ力が……!」
黒騎士
「ショウ!」
ショウ
「オーラ力が残ってる筈だっ!」
黒騎士
「くっ、流石だな……!」
ショウ
「人類の、人類の残すべき遺産を、俺は……俺は……!」