第42話 地上人の反乱

前回のあらすじ
機械というものが、人の心を揺さぶるのかもしれない。
バイストン・ウェルは、地上からは決して覗けない、パラレル・ワールドなのだろうか……。
シーラは、英国の女王と連携して、ゲア・ガリングに襲い掛かった。
……が、ショットの旧友ジャバの抵抗は、作戦を失敗させた。
黒騎士
「ゼットの奴……ガラバといい、よくやる」
民間人
「いつまで居座る気かしら?」
 〃
「疎開した方がいいって……」
 〃
「政府は何を考えてるんだ?」
「わっ……!」
民間人
「何だって俺達が、あんな奴らに扱き使われなければならないんだ?」
 〃
「パリの二の舞を恐れてんだ。こりゃ、地上の戦争とは違うんだぜ?」
 〃
「連中の言ってるバイストン・ウェルって、どこなんだ?」
「うわっ……!」
民間人
「うぅっ……!」
ゼット
「お前らは言われた通り働けばいいんだ」
「黒騎士……」
黒騎士
「ゼット殿、大人気ない。ブブリィの完成を急いでください」
ゼット
「ちっ、奴め……地上のフィーリングに慣れてきやがったな、ふんっ……」
フレデリック
「脱出するチャンスだとは思わないか?」
ラナ
「でも船の性能は知ってるでしょう?」
リムル
「お二方……」
ラナ
「え、リムルさん?」
リムル
「お願いです、助けてください」
フレデリック
「何故、監禁されているのです?」
リムル
「母とビショットは、前々から父を裏切っていたのです」
「ゼラーナに、愛し合ってる方が居るんです」
ラナ
「それで脱出しようと……?」
リムル
「このままでは、地上もバイストン・ウェルも滅茶苦茶になってしまいます」
フレデリック
「バイストン・ウェルもか?」
リムル
「はい」
ラナ
「二つの世界が滅茶苦茶……どういう意味?」
リムル
「オーラの力が……」
フレデリック
「待って、誰か来る」
ラナ
「また……」
要人
「我々は王室一団のメンバーです」
軍人
「ご苦労様です」
「上げろ」
記者
「王室の車だ……」
軍人
「あ〜、撮影は駄目駄目」
「もう何もない。さ、早く帰ってくれ」
記者
「またオーラ・シップだ」
軍人
「ん?」
記者
「へへっ、まだ色々あるじゃねぇか」
チャム
「ベル、エル〜」
ベル
「チャム〜」
チャム
「大丈夫だったのね?」
エル
「良かった、チャム〜」
チャム
「ね、シーラ様のお体の具合、どう?」
エル
「今、お医者さんに診てもらってるの」
エレ
「如何ですか? 傷のお具合は」
シーラ
「ゲア・ガリング、ウィル・ウィプスの動きの中、寝ていられる時ではないのですが、この体では……」
「おや、ショウは?」
チャム
「女性の寝室には入れないって、外に居ます」
シーラ
「ふっ、結構です」
医師
「では、お大事に……失礼します、シーラ女王」
シーラ
「お手数をお掛けしました」
エレ
「……シーラ様、申し訳ありません」
シーラ
「何か?」
エレ
「私の指揮が至らぬばかりに、お怪我をさせてしまいまして……」
シーラ
「気になさいますな」
エレ
「そうは申しましても、私の迷いが……」
シーラ
「その迷いが、イギリスの女王陛下に働きかけ、オスロを攻める許可をノルウェー政府に求めたとか……」
エレ
「出しゃばった事をしました……」
シーラ
「貴方の勘を信じましょう。今ならゲア・ガリングを討てるという……」
エレ
「有難う御座います」
シーラ
「エレ様、頼みましたよ?」
エレ
「はい」
「出撃します」
ショウ
「了解」
エル
「シーラ様、少しお休みになった方が……」
シーラ
「そうね」
ベル
「ベルも一緒に寝る」
シーラ
「ふふっ……」
ニー
「イギリス空軍機、接近」
エレ
「了解しました」
軍人
「ノルウェー政府より作戦許可が出ました」
「連合軍も、修理中のゲア・ガリングを討つ事を、支援するとの事です」
エレ
「ご苦労様です」
軍人
「ご成功を」
ショウ
「エレ・ハンム様。ノルウェー人達が働かされているゲア・ガリングを、本当に撃てるのですか?」
マーベル
「ビショットの事ですから、計算に入れてある筈です。私達がパリの二の舞を演じはしないだろうと」
エレ
「撃てます。既にノルウェーの人々の中には、動き出してる者も居ますから」
マーベル
「では、オスロを灰にしてまでも、協力するというのですか?」
エレ
「そういった激しい地上人達の、善意の力の予感がします」
ショウ
「凄いな、ノルウェー人……流石バイキングの子孫ってとこか」
黒騎士
「どこへ行く、お前達!」
ゼット
「あれ程、ガラバには近付くなと言ってあるのに……地上人め!」
「誰だ?」
「ん、リムル様……!」
民間人
「ちぇっ、逃げ損なったか」
黒騎士
「ふざけるな!」
クの兵士
「リムル様が逃げたぞ!」
黒騎士
「くっ……!」
民間人
「……へへっ、やったぜ」
リムル
「フレデリックさん、この程度の物でしたら操縦した事があります」
フレデリック
「それは聞いてましたが……」
リムル
「それより、ラナさんは何故逃げないのです?」
フレデリック
「ラナの奴、向こう気ばかり強くって……」
ルーザ
「黒騎士、リムルは?」
黒騎士
「ゼット殿が追っています。ご安心を」
ルーザ
「お前も追え。娘が居なければ、親方様と会った時、私がここに居る理由がなくなる」
黒騎士
「しかし、現地人の反発が強まってます」
ビショット
「黒騎士、暴動の方は何とかする。行ってやってくれ」
黒騎士
「仰せの通りに」
ドワ
「オスロ方向から機影だ。しかも一直線に向かってくるぞ。後五分で接触する」
ニー
「ショウ、マーベル、キーン、偵察に出てくれ」
マーベル
「了解」
ニー
「オスロに一刻も早く行かなきゃならん。邪魔される訳にはいかんのだ」
ショウ
「マーベル、行くぞ」
マーベル
「ええ」
キーン
「フォウ、出ます」
ショウ
「急ぐぞ」
マーベル
「了解」
ビショット
「ノルウェー大統領に連絡を取れ」
クの兵士
「はっ! 直ちに」
ビショット
「まさか地上人め、死を覚悟してまで抵抗はすまい」
ゼット
「全く、世話の焼ける人だ」
「愚図愚図するな?」
フレデリック
「リムルさん、このままじゃ追い付かれてしまいますよ?」
リムル
「幾ら地上界とはいっても、私のオーラ力ではこれ以上のスピードは……」
フレデリック
「ま、前からも来た」
リムル
「はっ……!」
「ビルバイン!」
ショウ
「バラウ……先鋒隊か」
「俺達の動きを察知したのか? 一機というのは気になるな」
マーベル
「あれは囮よ。後続部隊が居る筈よ」
キーン
「行くわよ、マーベル」
ゼット
「リムル様に怪我をさせてはならんぞ」
クの兵士
「ゼット様、前方にビルバインです」
ゼット
「何?」
フレデリック
「撃ってきた!」
リムル
「待って、ショウ!」
ショウ
「その声は……」
リムル
「リムルです……リムル・ルフト!」
ショウ
「何、本物か?」
マーベル
「リムルさん? どうして……」
リムル
「ゲア・ガリングから脱出してきたのよ」
フレデリック
「追い掛けられています」
ショウ
「ゲア・ガリングは、動き始めてしまったのか?」
フレデリック
「後少しで、現地人の反発が爆発します」
ショウ
「誰だ、あんたは……?」
リムル
「脱出の協力者よ。今、暴動に乗じる事が出来れば勝てます」
マーベル
「ショウ、話は後よ」
「キーン、離脱するわ」
キーン
「了解」
ゼット
「お前らはリムル様を捕まえろ」
クの兵士
「了解」
ショウ
「戦い慣れをしてきてる……チーム・ワークがいい」
「わっ……!」
チャム
「きゃっ……!」
ショウ
「チャム、どこから……?」
チャム
「お昼寝してたのよ」
「来た、来た!」
ショウ
「前をどいて!」
リムル
「あぁっ……!」
フレデリック
「捕まったのか?」
リムル
「振り落とします。掴まっていて」
黒騎士
「ゼラーナが来る。それにこの激しい力、地上人達……現地人か」
「ゲア・ガリングに戻った方がよさそうだ」
ショウ
「ん? 貴様、ゼットだな?」
ゼット
「大人しくリムルを渡せ。そうすれば、この場は手を引いてやってもいいぞ」
チャム
「ふん、話は逆でしょ? そっちが覚悟をする役目でしょ。ゴラオンだってもうじき来るんだから」
ショウ
「チャム!」
チャム
「いけない!」
ゼット
「何、ゴラオンだと?」
「何を企んでいるんだ、貴様達は」
ノルウェー大統領
「お国と我々とは違うのです、ビショット殿」
「労働者は個人の意志で働いています。私にも強制権がない事を分かって欲しい」
ビショット
「のらりくらりした答弁を聞きたくはない。私の言う事は、単なる威かしだけではないと思え」
ノルウェー大統領
「ビショット殿、我が国は独裁国家ではないのです。貴殿が言うようにはならんのです」
クの兵士
「何の真似だ? 仕事に就け!」
民間人
「我々は、ストライキを敢行するんだ!」
クの兵士
「ストライキ? どういう事だ?」
民間人
「バイストン・ウェルへ帰れ! 我々は侵略者に協力はしないぞ!」
黒騎士
「騒動か?」
クの兵士
「仕事をやらんと言うんです」
黒騎士
「これか、私の感じた不吉なオーラ力とは……これの事か……」
ラナ
「スト?」
ビショット
「すぐやめさせろ」
「聞いたか、大統領? お前の所の国民が抵抗しているんだぞ」
「やめさせんと、オスロの町は火の海になるぞ」
ラナ
「フレディと一緒に脱出した方が良かったのかしら……」
ノルウェー大統領
「宜しい、三十分の猶予を貰いたい。(?)の再開を約束する」
ビショット
「一分でも過ぎれば爆撃する」
ノルウェー大統領
「分かりました」
ルーザ
「二、三箇所爆撃して脅せばよいのです」
ビショット
「地上人共にも戦う力があります。死を恐れぬようになれば、脅しも効きません」
ルーザ
「ならば、地上人の使ったあの強力な爆弾を奪って、ひと思いに……!」
ビショット
「ん?」
ルーザ
「ん、黒騎士。リムルはどうしたか?」
黒騎士
「考える所があり、戻って参りました」
ルーザ
「何だと? 私の命令はどうしたのだ?」
ラナ
「私の持っている技術を、ここの兵が全て出来るようになれば、あの女にいつ殺されるか分からない……」
「オスロの人々は、町をパリのようにしても、この人達に抵抗しようとする……」
黒騎士
「うっ!」
ルーザ
「お前なぞ失せろ!」
ビショット
「ルーザ様、おやめなさい」
「あの大統領、裏で何か画策していたのかもしれん」
ラナ
「ゼット様より通信です」
ゼット
「ゴラオンの艦隊が、ゲア・ガリングに向かっています」
ビショット
「何?」
黒騎士
「やはり私の予感が当たった……」
ビショット
「発進だ、黒騎士」
黒騎士
「直ちに」
ビショット
「艦隊を移動させろ」
リムル
「ゴラオンだわ」
フレデリック
「ゴラオン?」
エイブ
「前方のバラウを救出しろ! ドラムロを撃墜するんだ!」
「宜しいのですね?」
エレ
「はい」
フレデリック
「どうしたんです、リムルさん?」
リムル
「戦うわ。ここで足止めされていたら、オスロは第二のパリに……」
フレデリック
「貴方は戦士じゃないんですよ?」
リムル
「違うわ。私だって……!」
クの兵士
「緊急発進! 緊急発進! オーラ・バトラー隊、第一戦闘配置に急げ!」
民間人
「発進するのか?」
「豪い慌てようだな……」
クの兵士
「……離水する!」
民間人
「おっ……!」
「危ないぞ、下がれ!」
「わっ……!」
 〃
「(?)していく。ストは失敗だ!」
 〃
「オーラ・シップは、俺達を相手にするのをやめたんだ!」
ノルウェー大統領
「オーラ・シップの移動は何故だ?」
秘書
「ゴラオンが動き出したようです」
ノルウェー大統領
「何?」
「我々の作戦を見破ったのか」
秘書
「まさかと思いますが……」
ノルウェー大統領
「オスロを引き換えにするという覚悟を見抜かれたな」
「海上に出たら、空軍に仕掛けさせろ」
マーベル
「この数で足を止める? どういう敵?」
ゼット
「もう時間の問題だな、ダンバイン」
ビショット
「オーラ・バトラー隊、タンギー隊、出撃だ。ゴラオンへ向かわせろ」
ラナ
「きゃっ……!」
クの兵士
「はっ!」
ラナ
「友軍機が……」
ルーザ
「それ見た事か、ビショット様……威しを掛けぬから、こういう手間が掛かるのです」
ビショット
「戦いは男の仕事……ルーザ様は下がっておられよ」
ルーザ
「ビショット様……」
マーベル
「ショウ、ビアレスは私が何とかする。前方、敵!」
「はっ……!」
「新手?」
ショウ
「ゲア・ガリングからか」
チャム
「別働隊が来たのよ」
ショウ
「リムルの声がしたようだが……」
ゼット
「ちっ、黒騎士が来てしまったか」
ショウ
「キーン、リムルを捜してやってくれ。俺は……」
ニー
「リムルはいい。忘れろ」
マーベル
「別働隊がこれだけ早く来たという事は……」
ニー
「ゲア・ガリングが動き出したんだ」
「ドワ、ゼラーナ先鋒を取るぞ」
エイブ
「各艦のオーラ・バトラー隊、出します」
エレ
「いいでしょう。いつオスロの町が、戦火に巻き込まれるか分かりません」
「ゲア・ガリングの砲火を切り崩してください!」
黒騎士
「オーラ力は、聖戦士の専売特許ではないぞ、ショウ・ザマ!」
チャム
「体当たりするつもりで来る〜」
ショウ
「オーラ・バトラーじゃないな。あれは……!」
「な、何てパワーだ!」
チャム
「大きくて小さい物苛め、嫌いよ!」
黒騎士
「ビルバインと言えども、このブブリィの前には玩具にしか過ぎんという事を見せてやる!」
チャム
「うっ、ショウ〜!」
ショウ
「むっ……!」
黒騎士
「死ね、ショウ・ザマ!」
ショウ
「死ぬかよ!」
チャム
「やった! ショウ、偉い!」
ショウ
「そうでもないらしい」
チャム
「え〜?」
黒騎士
「ショウ、どこへ消えた?」
ビショット
「エレ・ハンム、現地政府と示し合わせたんだろうが、それ以上の犠牲を考えなかったのか!」
エレ
「そうでしょうか? 覚悟を決めた地上人に、貴方は何も出来なかったではありませんか!」
ビショット
「現地人を人質に取っている事に変わりはない! 見殺しにするのか?」
エレ
「大義に死する地上人が居ます。死をも恐れぬ地上人が、ゲア・ガリングを討てと言っているのです」
「討たせて頂きます」
ビショット
「討てるものか!」
黒騎士
「ゴラオンが前へ出る……エレ・ハンムめ、やる気か?」
ビショット
「ここまで開き直られては、都市の人質に拘るのは得策ではない」
「全力を挙げてゴラオンを落とすんだ! ゲア・ガリング、前進!」
エイブ
「どうやら誘いに乗ってくれたようですな、ゲア・ガリングは」
リムル
「きゃっ……!」
フレデリック
「やられたのか?」
リムル
「大丈夫、まだ飛べるわ」
フレデリック
「早くゴラオンへ戻った方がいい」
リムル
「上から攻撃するの?」
「あっ……!」
ゼット
「さあ、世話を焼かせずに大人しく帰りましょう」
リムル
「嫌です。そこをおどきなさい、ゼット・ライト!」
ゼット
「そうは行きません」
ショウ
「奴の狙いは俺だけか」
黒騎士
「逃がさん!」
ゼット
「うわぁぁっ!」
リムル
「ショウ、ニー!」
ショウ
「リムル!」
チャム
「リムルのバラウに当たったわ!」
黒騎士
「しまった、リムル様が居たか!」
フレデリック
「うわぁぁっ!」
リムル
「フレデリックさん、うぅっ……!」
チャム
「あぁ、これでまだ動けるの?」
ゼット
「俺のオーラ力を甘く見るんじゃないよ!」
「んっ……?」
「黒騎士、汚いぞ。手柄を横取りする気か、ええいっ!」
マーベル
「ショウ、ゴラオンが押されているわ」
ショウ
「何? ゲア・ガリングは火力を強化していたのか」
ビショット
「一気にゴラオンを落とせ!」
クの兵士
「ビショット王、限界です」
ビショット
「何故だ?」
クの兵士
「ゲア・ガリングは完全修復していません。そこを突かれたら立場は逆転してしまいます」
ビショット
「バリアはある」
クの兵士
「敵も同じです。後退してください」
ビショット
「相打ちならば、こちらが脆いというのか……」
クの兵士
「はい」
ビショット
「ふふっ……私は、地上人の陽動に乗せられてしまったという訳か」
シーラ
「そうですか、無駄な戦いだったという訳ですね」
「下がってよい」
「この戦いで思い知った事は、地上人のオーラ力が働き始め、私達は嫌われ始めたという事だ……」
エレ
「ウィル・ウィプスの動きは?」
エイブ
「今の所、まだ……」
エレ
「チェックしてください」
エイブ
「直ちに」
エレ
「一撃で落とせなかった……私の予感が当たらず……」
「何故? この空間には、悪しきオーラ力が充満しているというのか……?」