第43話 ハイパー・ショウ

前回のあらすじ
機械というものが、人の心を揺さぶるのかもしれない。
バイストン・ウェルは、地上からは決して覗けない、パラレル・ワールドなのだろうか……。
ドルプル
「うわっ……!」
ショウ
「掴まって」
ドルプル
「す、すまん。ゴラオンの低速操船が上手く行っていないらしいな」
ショウ
「ああ」
「後を頼む。俺もゴラオンに行ってくる」
ドルプル
「ああ」
ニー
「ウィル・ウィプスは、確実にヨーロッパに向かっているようです」
エレ
「それにしては、動きが遅いようです」
ニー
「ドレイクに魂胆があるんでしょう」
マーベル
「ウィル・ウィプスがゲア・ガリングと合流する前に、何としてもゲア・ガリングを潰したいわね」
エイブ
「厳しいな……我々も多大な被害を受けている。すぐには攻撃態勢は整えられん」
エレ
「ゲア・ガリングがロンドンに向かっている事については、シーラ様も心を痛めております」
エイブ
「しかし……」
エレ
「私達は、英国の女王に借りがあるのですよ」
ショウ
「海の中から奇襲を掛けましょう」
「ゲア・ガリングはロンドンに向かって、海上スレスレを飛んでいるらしいのです」
「海中からなら、僅かな戦力で落とせるかもしれない」
マーベル
「あり得るわね。ショウ」
ニー
「エレ様、上空から囮攻撃をして頂けますか? そのぐらいなら、今のゴラオンにも出来るでしょう」
エレ
「やりましょう」
チャム
「置いてかないでよ〜、あっ……!」
「重過ぎて飛べないのよね」
ショウ
「置いてくぞ?」
チャム
「や〜ん!」
ショウ
「行くぞ、マーベル」
ルーザ
「よくも平気で居られますね……」
クの兵士
「ルーザ様、果物をお持ちしました」
ルーザ
「ご苦労」
ビショット
「程々になさいませんと、お太りになりますぞ? ルーザ様」
ルーザ
「お話を逸らして頂きたくありません」
「間もなく、ドレイクと合流するのですよ? そなたの元に居る私を見て、夫は何と言うか……」
ビショット
「気にならぬ訳ではないが、大いなる野望を持つドレイク殿だ」
「私がロンドンに居る地上人達の女王を人質に取れば……」
「私の実戦を無視出来ぬようになる。ふふっ……」
ルーザ
「ならいいのですがね」
ゼット
「ガラバの最後の調整だって俺がやったんだ。だから俺が乗るぜ。そうだろう?」
黒騎士
「それはいいが……しかしブブリィを造る事にかまけて、ガラバの修理は遅れたな。何故だ?」
ゼット
「高性能なオーラ・ボムを完成させりゃ、ビルバインには勝てる」
黒騎士
「ショット・ウェポンの命令でか?」
ゼット
「ダンバインを開発したのは、誰だと思う? 黒騎士」
黒騎士
「ダンバインも……」
ゼット
「みんな俺だよ。オーラ・マシンのコンピュータ・セクションの技術開発は、全てこの俺がやったんだ!」
黒騎士
「何故、ショットだけにいい思いをさせた?」
ゼット
「ショットの奴は政治家なんだよ。しかし、俺は只の技術者だ。仕方ないだろ」
黒騎士
「それが技術者魂か……」
ゼット
「そんな所だな」
クの兵士
「黒騎士様、ゼット様、ゴラオンが動き始めました。ビショット様が出撃準備をとの事です」
ゼット
「了解」
「おい、黒騎士」
ビショット
「エレは、私の作戦を読んだのかもしれん。英国を押さえてヨーロッパを制圧しようという……」
チャム
「本当に落とせるの?」
ショウ
「落とせるさ。ゲア・ガリングを落とせなくても、ビショットを落とせるだけでいい」
「傷を受けたシーラの代わりを務めようとする、エレ・ハンムの気持ちが分かる……」
「その隙を突くように、ビショットがロンドンに攻め入ろうとしているのなら」
「こうでもしてゲア・ガリングを止めなければ、次にはドレイクが出てくる……」
「バリアは発生してくれないのか」
「チャム、コックピットの気圧を少し高くするぞ」
チャム
「何で?」
ショウ
「水圧に耐える為だ。苦しくなるぞ」
チャム
「もう苦しいよ〜」
ショウ
「なら降りなよ」
チャム
「や〜よ、ここはお姉様方が居ないもん」
「やだ、もう……!」
ショウ
「チャム、大丈夫か?」
「オーラ・バトラーは、何でも出来るって訳には行かないか……!」
チャム
「まだ苦しくなるの……?」
ショウ
「これ以上は苦しくならない。ゲア・ガリングに辿り着くまでだ」
チャム
「お姉様、私、いい子にします。オーラの道を開いて。私達みんなを、バイストン・ウェルに帰して……」
ショウ
「チャム……帰してやるさ、きっとバイストン・ウェルに。花の咲き乱れるフェラリオの国へ」
「その力は、オーラ・バトラーがあれば必ず……」
マーベル
「ゲア・ガリングまで後僅かよ。チャム、しっかりして」
ラウの兵士
「うわぁぁっ!」
マーベル
「はっ……!」
ショウ
「んっ……」
ラウの兵士
「う、うわぁぁっ!」
ショウ
「今行く!」
「わっ……!」
「水圧にやられたのか」
「ダンバイン以外は引き返せ。こいつは俺の発案だ。後は俺に任せろ」
マーベル
「みんな、ショウの言う通りにしてください。この計画、私とショウでやります」
ラウの兵士
「しかし、エレ様の命令であります。何よりも……」
ショウ
「速やかに帰還しろ。聞かないと実力行使に移る」
ラウの兵士
「分かりました。ご武運を」
マーベル
「ショウ……貴方まさか、私に向かって『帰れ』などと、失礼な事は言わないでしょうね?」
ショウ
「生憎、親の躾が良くってね……礼儀は心得てる」
マーベル
「結構。急ぎましょう、それが水圧の苦しみから逃れる最良の方法よ」
ゼット
「敵はこの雲の上だ。油断するなよ、みんな」
「黒騎士殿」
黒騎士
「オーラ・バトラー設計者の腕前、とくと見せて頂こうか。ゼット・ライト殿」
エレ
「予定通りです。ゲア・ガリングの先鋒隊の目が私達に向きました」
エイブ
「さて、ゴラオンのオーラ・バトラー隊、どの程度出しましょうか?」
エレ
「全て……」
エイブ
「全てを……」
エレ
「英国がビショットの手に落ちる時、ヨーロッパ全域が悪しきオーラ力に包まれましょう」
「その時は、世界の破滅が始まります」
「はっ、来ます!」
エイブ
「ゼラーナ他、各艦へ。先鋒隊を蹴散らせ」
エレ
「ゴラオンは飽くまで、ロンドンへ直進する」
「あっ……!」
「各砲座、撃て!」
ラウの兵士
「うわぁぁっ!」
ゼット
「このままゴラオンへ突入する。黒騎士殿、援護を頼む」
黒騎士
「ん、妙だ……ビルバインとダンバインはどこか?」
「うっ……!」
ニー
「ゴラオン、ここはゼラーナだけで食い止めてみせます」
「エレ様、ここは私の命に賭けて……」
エレ
「命を賭けてはいけません。世界を救うまでは、死ぬのは無責任です」
黒騎士
「むっ……!」
「ゼット、何をしている? ゴラオンが行くぞ! ゼット!」
ゼット
「やっている!」
「ええい、対空砲火が……!」
「黙れよ!」
ニー
「ドワ、雲の中に退避しろ。ゴラオンを追うんだ」
ドワ
「やってる」
黒騎士
「見付からんのか?」
クの兵士
「はっ! この空域には居ないと思われます」
黒騎士
「ゼラーナがやられても出て来ないだと? 何故だ……」
「何故、ダンバインもビルバインも居ないのだ」
「必ず近くに居る筈だ」
「何かを企んでいるぞ。ダンバイン、ショウ……!」
「まさかな……しかしゴラオンは、ゲア・ガリングの進行方向へ向かっている……」
「ソナーとやらを落とせ」
クの兵士
「はっ!」
「居ました! オーラ・バトラーの音です!」
黒騎士
「よし、やはり水中か」
「ダンバイン、ビルバイン、もう逃がさん!」
ショウ
「居た、ゲア・ガリングだ」
マーベル
「逃げたわ、ショウ」
ショウ
「仕掛けるぞ」
ビショット
「ゴラオンが追尾しつつあるだと? ゼット隊と黒騎士隊はどうした?」
黒騎士
「間に合うのか?」
「やはり、あんな所に居た」
ショウ
「チャム、もうすぐ楽になる」
チャム
「水中からじゃ無理よ」
ショウ
「何だ?」
マーベル
「私に任せて。ショウはそのままゲア・ガリングを」
クの兵士
「うわぁぁっ!」
ショウ
「このっ!」
チャム
「駄目よ、相手は大きいのよ? 中から壊さなくちゃ!」
ショウ
「あぁ!」
クの兵士
「わっ、ビルバインだ!」
ショウ
「下のメイン機関部はどこだ?」
チャム
「正面、正面! 撃てばいいの!」
クの兵士
「うわっ!」
ビショット
「海面下から直撃を受けたというのか?」
クの兵士
「ビショット様、第十七機関室が爆破されました。ビルバインが艦内に侵入!」
ルーザ
「何という事を……オーラ・バトラー隊はどうしたか?」
ビショット
「ふん、前と後ろ、そうそう上手くは行きませんよ」
「艦内に残るオーラ・バトラーを、ビルバインに向けさせろ。黒騎士、ゼットはどうしたのか?」
ショウ
「何だ?」
チャム
「ガラバ・タイプよ!」
ショウ
「チャム、ちゃんと監視してろ」
チャム
「だって……!」
ショウ
「外へ出る」
「わっ……!」
黒騎士
「ええい、ダンバインめ……!」
マーベル
「ショウ、落とされたの?」
ショウ
「な、何とかなる」
チャム
「水よ!」
マーベル
「え?」
ゼット
「黒騎士、褒めてやるぜ。ブブリィで水中戦を仕掛けるなんてな」
黒騎士
「造ったお前を信じて水の中に入ったが、このザマだ」
エイブ
「ゲア・ガリングの足が遅くなっただと? よし……」
エレ
「エイブ」
エイブ
「はっ……」
エレ
「全速でゲア・ガリングの上を飛び越え、ロンドンとの間の壁になるのです」
「各オーラ・バトラーに伝えよ」
エイブ
「はっ!」
マーベル
「どういう事? まだ戦えるわ!」
ニー
「ロンドンを守る。ゲア・ガリングの前に出る」
マーベル
「了解」
ショウ
「ゲア・ガリング……」
チャム
「あの程度じゃ落ちないのよね〜」
ルーザ
「リムル……!」
リムル
「お母様、あっ……!」
ルーザ
「ビルバインがああも簡単に侵入したのは、お前が内通したのであろう」
リムル
「お母様……!」
ルーザ
「黙れ!」
リムル
「あぁっ、ぁっ……!」
ルーザ
「地上人を唆し、脱走まで試みたお前だ」
「どこに隠してある? 無線機がこの部屋にあるであろう!」
リムル
「お母様、冷静になさ……きゃっ!」
ルーザ
「身包み剥いで調べてやる! 監視を!」
クの兵士
「はっ!」
ルーザ
「格好ばかり付けて、戦果が挙がらぬな!」
黒騎士
「私を責めるのも宜しいが、ショット・ウェポンを呼び出す方が先ではございませんか?」
ルーザ
「確かに、ゼットの申しようとショットの動き、違い過ぎるな……」
黒騎士
「リムル・ルフト様。ルーザ様のお怒りはご尤もです」
「地上人を唆しなさってはな……」
リムル
「バーン……」
黒騎士
「上手に扱いなさい」
リムル
「私を身包み剥いで、調べさせると……」
黒騎士
「それは、ビショット様にやめさせます」
リムル
「何故……?」
黒騎士
「ショウを倒すまでは、このマスク、取らんと誓いました」
「だが、二度と母上に逆らうのならば、私が後ろから撃ちますぞ」
リムル
「黒騎士……!」
軍人
「ゴラオンが回答した。ゲア・ガリングをここで止めるつもりらしい」
エイブ
「背後は英国である。後退はもう許されん」
「総員、バイストン・ウェルの名を高め、ここは最後の死に場所と覚悟してくれ」
ニー
「ドルプル、補給は済んだのか?」
ドルプル
「何やってんの」
コタノ
「溜めりゃいいんだろ?」
ドルプル
「油圧計の方、大丈夫か?」
マーベル
「……大丈夫?」
「大丈夫?」
ショウ
「あ、ああ……」
マーベル
「泣いてるの?」
ショウ
「いや」
マーベル
「どうしたのよ」
ショウ
「俺、マーベルの事を心配した事、あるのかな?」
マーベル
「え?」
ショウ
「今もマーベルは、俺の事心配してくれたよな。なのに俺は、いつも作戦の事だけで……」
「それでいて、さっきのだって失敗して、このザマだ」
マーベル
「ショウはショウなりに、一生懸命やってるじゃないの」
ショウ
「やってないよ。俺が戦えたのも、オーラ力をベースに動くダンバインやビルバインの性能のお陰だ」
「俺はただ、キーみたいなものでさ……」
「それでいて、聖戦士だって言われるにしちゃ、俺は失敗をし過ぎた」
マーベル
「それを言うなら、私も同じよ、ショウ」
ショウ
「シーラ様に言われた通り、俺は未だに本気じゃないのかもしれない」
「くっ……!」
マーベル
「ショウは、私を愛してくれてる?」
ショウ
「愛……?」
マーベル
「うん」
ショウ
「マーベルは、好きさ……」
マーベル
「私が欲しいのは、ライク・ミーじゃないわ。ラブ・ミーよ」
「ドルプル」
ドルプル
「ああ、いいぞ」
ショウ
「マーベル……!」
「待ってくれ、マーベル」
マーベル
「出撃でしょ?」
ショウ
「無茶は駄目だ、マーベル」
マーベル
「誰が死に急ぐものですか。私は、ロンドンを守ってみせるわ」
ショウ
「俺だって守る……やってみせる」
マーベル
「だったら出撃でしょ?」
ショウ
「ああ」
マーベル
「ドルプル、ショウが変よ」
ドルプル
「ショウ、どうしたんだよ?」
ショウ
「マーベルが……!」
ドルプル
「最後の決戦だぞ」
ショウ
「そんな事ぐらい分かってる!」
チャム
「ぶ〜ん!」
エレ
「私達は、グラン・ガランのシーラ様に代わって、『バイストン・ウェルの人間にも大儀あり』と示したいのです」
エイブ
「承知致しております。英国の女王が我々に力を貸してくれたのは、我々を信じたからでありましょう」
エレ
「信義には信義で応えよ。それが伝わればこそ、地上人の二人の聖戦士も我らに手を貸してくださる……」
エイブ
「来ましたぞ」
ゼット
「ふふっ、イギリス上陸の一番手を俺が承るとはな」
エレ
「オーラ・ノヴァ、発射用意!」
ラウの兵士
「はっ! オーラ・ノヴァ砲、発射します!」
黒騎士
「強力なオーラ・ショットだ……やるな、ゴラオンめ」
「ブブリィが損傷していなければ……」
ビショット
「ゴラオンが先に撃ったか」
「よーし! 各砲座、ゴラオンにのみ一点集中! 発射!」
エレ
「接近攻撃をさせるな!」
エイブ
「オーラ・ノヴァが損傷したのか?」
エレ
「どうします?」
エイブ
「大丈夫です、まだ……」
ショウ
「マーベルは?」
チャム
「ゲア・ガリング寄りに出てるよ」
ショウ
「何をやってるんだ、マーベル!」
マーベル
「私で全てを止めてみせる……!」
「はっ……!」
「付いていけない、あっ……!」
チャム
「マーベル、どうしたのよ?」
ショウ
「前をどけ。マーベルは疲れてるんだ」
「マーベル、しっかりしてくれ」
「マーベルが居なくちゃ俺は戦えない。俺はマーベルを……」
「わっ……!」
ゼット
「戦闘空域で止まるなんて、正気かよ?」
ビショット
「ふふっ……意外と脆いじゃないか。完全修復をしないで出て来た罰だな」
ルーザ
「結構な事で」
ビショット
「ん?」
ルーザ
「これでショットを呼び出せれば……」
ビショット
「いや、ロンドンはこのまま落とせますよ、ルーザ様」
マーベル
「ショウはさっき何て言おうとしたの?」
「はっ……!」
「エレ様、これ以上の後退は危険です。ロンドンを巻き添えに……!」
エレ
「分かっております」
「ゴラオン前進!」
民間人
「うわぁぁっ!」
側近
「女王様、ここは危険です」
マーベル
「ブリッジを撃てば、足は止められる……!」
「まだ!」
クの兵士
「ダンバインが来ます!」
ビショット
「報告はいい。撃ち落とせ!」
「うっ、ダンバイン……ここに私が居るのが分かるのか?」
マーベル
「あっ……!」
「ショウ!」
ゼット
「うわぁぁっ!」
ショウ
「どけ、マーベルが危ないんだ!」
ドワ
「ん?」
ビショット
「な、何だ……」
ルーザ
「ハイパー・ビルバインというのか?」
ビショット
「バ、バリアだ……バリアが目に見えるだけに過ぎない!」
側近
「あ、あれは、ビルバインの……」
エイブ
「ハイパー・ビルバインか? あれは……」
エレ
「いいえ、あれはハイパー・ショウです。何故あのような巨大化を……」
チャム
「あぁっ……ショウ、ショウ……!」
「ショウ、ショウ、死んじゃったの? ショウ!」
ショウ
「だ、大丈夫だ。敵は……?」
チャム
「そんな事より、大丈夫、ショウ?」
「ショウ……」
マーベル
「チャム! ショウは大丈夫?」
チャム
「大丈夫じゃない!」
ショウ
「マーベルは怪我はなかったのか……?」
「マーベル、後で話が……」
マーベル
「馬鹿ね……いいのよ、そんな事……」
「すぐにゼラーナに収容するわ。いいわね?」