第1話 謎のモビルスーツ

デレンセン
「坊主頭に先を取られた!」
カーヒル
「何の発光だ? 捕まえてみせる!」
デレンセン
「……何か落ちたか?」
ラライヤ
「あっ……」
ゲル法皇
「宇宙からの恩寵があればこそ大地は潤い、尊いタブー故に人は永遠の安らぎの中で生命を全う出来るのですから。
心を広く天に開くのです。天こそ、命の源と栄養を下さるのですから」
デレンセン
「初めての実習でへその尾のケーブルを修理出来るのは、キャピタル・ガードの候補生たる……」
「余所見をするな!」
男の子
「ふふっ……」
ケルベス
「向こう行ってな」
乗客
「すみません」
デレンセン
「何で避けたんだ?」
ベルリ
「はい。『常日頃、臨機応変に対処しろ』とは、大尉殿の教えであります」
デレンセン
「笑っている場合か!」
ルイン
「流石、二階級飛び級生のベルだな」
デレンセン
「ランドセルをチェックして装着!」
マニィ
「みんな!」
チア・ガール
「ガンバ、ガンバ!」
ノレド
「おめでとう!」
チア部員
「第一回宇宙実習! フレー、フレー、1010回生!」
ルイン
「マニィも来てくれたか!」
チア部員
「フレー、フレー、1010回生!」
ハロビー
「よっ!」
デレンセン
「ハロビーかい」
チア部員
「フレー、フレー、1010回生!」
ハロビー
「フレー、フレー!」
ノレド
「ベルリ!」
マニィ
「ルインも頑張ってね!」
ルイン
「おう!」
チア部員
「トリーティ!」
トリーティ
「ここだ!」
ケルベス
「セント・フラワー学園の女子は、出てけ!」
マニィ
「みんな!」
ノレド
「ベル、実習ガンバ!」
ケルベス
「女子共を引っ捕えろ!」
ルイン
「教官殿、彼女達はただの応援団で……」
ケルべス
「主席の貴様までがそう言うか。ガール・フレンドが居ない連中の事も考えてやれ」
生徒
「運行長官の息子だからって、クンタラの女子を引き込む権利なんて無いんだぞ」
ベルリ
「呼んじゃいません」
チア部員
「フレー、フレー!」
ベルリ
「このクラウンの運転席へ逃げ込め!」
マニィ
「みんな!」
チア部員
「キャピタル・ガード!」
デレンセン
「そっちにチア・ガールが逃げ込んだら……」
「はっ? 了解!」
「全員、元の席へ戻れ。装備チェックだ」
ルイン
「戻って生命維持装置のチェック!」
ベルリ
「空気と水の玉、チェック!」
生徒
「チェック!」
運転士
「MMFの作動、良好!」
 〃
「今日のスプライトは多いな」
ラライヤ
「スプライト……」
マニィ
「生徒じゃないよね?」
ノレド
「あんた、誰?」
ラライヤ
「ラライヤ・マンディ」
運転士
「また! 実習をはやし立てるのは駄目だってんだろ?」
士官
「この子は、キャピタル・アーミィが監視している」
ノレド
「キャピタル・アーミィ? 監視? 何それ?」
士官
「聞くな! クンタラ!」
マニィ
「あっ、蹴った!」
運転士
「アンダー・ナットです。アンダー・ナット、通過」
デレンセン
「今パスしたナットがアンダー・ナットだ。キャピタル・タワーの144個のナットの内の数に入っていない、可哀想なナットだ」
「理由を知っている者? トリーティ!」
トリーティ
「はい。キャピタル・タワー建設前に、宇宙世紀時代のスペース・デブリを掃除する為の人工衛星であります」
デレンセン
「低軌道でも、ケーブルとナットが地球の自転に合わせて回っていられるのは、何故だ?」
「ほら」
ベルリ
「え?」
デレンセン
「聞いてなかったのか?」
ベルリ
「そんな詰まらない質問に……」
デレンセン
「また! 教科書通りでいいから答えてくれ」
ベルリ
「ケーブルとナットの間に、ミノフスキー・マグネット・レイ・フィールド……つまり、MMF効果の場を発生させているからで、殊に……」
デレンセン
「そこはいい。そのエネルギー源は?」
ベルリ
「分かりきった事……」
デレンセン
「喋れ!」
ベルリ
「地球の……大気圏の上部に存在する、大気光帯に発生する電力をケーブルに吸収して……」
デレンセン
「そうだ。現在の高度は? ルイン・リー!」
ルイン
「365キロ・メートル」
デレンセン
「動体視力は、宇宙で作業する為の必殺兵器だ。レーダーなんか、ミノフスキー粒子を撒かれたら意味が無くなるんだからな」
生徒
「押忍!」
ケルべス
「手袋嵌め! ネット持て!」
士官
「このハロビーは貴様のか?」
ノレド
「はい」
士官
「クンタラが持つ必要は無いだろ?」
ノレド
「環境チェック用のハロビーは必需品です。この子はノベル」
士官
「お前らな……未来の亭主探しってのは、いい加減でやめなさいよ」
マニィ
「セント・フラワー学園の伝統ですもん。このチケットを買う為の積立は入学の時からやってるし」
ノレド
「キャピタル・アーミィって何なんです? キャピタル・ガードと違うんですか?」
運転士
「第1ナットに到着です」
士官
「こら。お前ら、降りるんだろ?」
チア部員
「私達は、次のナットまでのチケット持ってんですよ?」
士官
「こちらです」
デレンセン
「ああ」
「せっかく、俺が空中で受け止めてやったのに……」
士官
「何も感じていないようですね」
デレンセン
「アメリアとかゴンドワン……まさか、トワサンガから来たんじゃないよな」
士官
「そんなの」
デレンセン
「この子が落ちてきたモビルスーツは、見た事が無かったものなんだ。優しくしてやってな」
ノレド
「何で応援しちゃいけないんです?」
デレンセン
「煩いんだよ!」
ノレド
「あの女子、どういう子なんです?」
運転士
「ミノフスキー・フライト耐圧、1・2・3……良し。MMF定位良し。進路クリア」
士官
「とんでもなく高い所から飛び降りたんだから、酸欠は酷かったってか?」
 〃
「あの大尉が助けたんだから、そりゃ気になるだろうさ」
ケルベス
「ようし、各班! レクテンに搭乗! 各自、搭乗して第一挙動をさせたら、次の生徒と交替!」
ベルリ
「何で僕が?」
ルイン
「年齢順なんだから、ベルが一番だろ」
ベルリ
「あぁ、はい」
「嘘でしょ。何でコックピットが外に向いてるんだ?」
ルイン
「生徒苛めが実習なんだから仕方無いだろ」
デレンセン
「宇宙での適応能力を付ける為の訓練だろうが」
ベルリ
「はい」
デレンセン
「さっさと乗り込んで、第一挙動だ」
ベルリ
「はい」
「ふふっ、あいつらは第一挙動の為に……」
ケルべス
「ベルリ、遅いぞ」
ベルリ
「はい」
「両手上げ、挙動! 腕全体の挙動も……」
運転士
「ミノフスキーだって?」
ベルリ
「キャピタル・ガードのマシンじゃないぞ」
士官
「海賊だ! ミノフスキー粒子を撒かれたら、使えるのは有線通信だけになる」
ベルリ
「海賊って……噂の宇宙海賊か!」
「シルエットがレクテンじゃない」
「何? 来るのかよ!」
「うま!」
士官
「一機だけだと?」
 〃
「海賊のモビルスーツじゃないぞ!」
ベルリ
「何よ?」
デレンセン
「レクテンに乗った生徒は動くな! 無人だと思わせるんだぞ!」
生徒
「ライフルを向けているんですよ?」
デレンセン
「接続!」
ラライヤ
「G!」
ノレド
「何だって?」
アイーダ
「接触回線も使うな! 電源を切れ!」
デレンセン
「それでは……!」
アイーダ
「カメラも遮断しろ!」
ノレド
「それじゃ、人殺しを……?」
ベルリ
「動けないなんて……モビルスーツの意味無いじゃないか」
「運転席に座っている子って誰なんだ?」
アイーダ
「このクラウンは人質に取った! 20分後に解放します。この件をキャピタル・タワーの管制室に伝える事は許可する」
デレンセン
「貴様の言う事を聞かなければどうなる?」
アイーダ
「想像しなさい! ケーブルを切断するような事は致しません」
ベルリ
「居ないな」
「あいつ、いいのかよ」
「溶接機だってビーム・ライフルのようなものだし、緊急作動用の火薬は前進・後退に二・三回は使える筈なんだから!」
チア・ガール
「トリーティのレクテンがやられたの?」
ハロビー
「環境チェック」
運転士
「また見失った!」
ノレド
「戦ってるよ」
マニィ
「トリーティじゃないよ」
ラライヤ
「あぁっ……」
士官
「この娘、反応している……記憶が戻ったのか?」
ラライヤ
「G……」
士官
「おい! ラライヤ・マンディだろ?」
ノレド
「ラライヤ?」
ベルリ
「このレバーがビッグ用で、緊急作動の火薬は三回ずつ……威力はどんなもんだか」
「あれも」
「あいつがやる気なら!」
「海賊をやるなんて、やめなさいよ!」
「撃たせない!」
アイーダ
「何? このレクテンのビッグ・アーム……!」
「ケーブルは傷付けられない……どこ?」
ベルリ
「ケーブルを盾にしたって!」
「敵のまさかと思うポジションが、こちらの優勢の位置になる!」
「クラウンもケーブルも傷付けずに、どうやる? ……こうか!」
アイーダ
「世界は! 四角くないんだから!」
ベルリ
「こうで! こうだろ!」
「この溶接機で顔を焼いちゃいますよ? 降参しなさいよ!」
「何で海賊なんかをやるんですよ!」
アイーダ
「どうしたの、Gセルフ! 反応が違う!」
チア・ガール
「誰のレクテンなの?」
マニィ
「ベルのじゃない?」
ノレド
「無茶しすぎだよ!」
デレンセン
「全員に宇宙服を。いつ放り出されるか分からんぞ」
「デレンセン、出るぞ!」
「誰だ?」
ルイン
「後ろのルイン・リーです。ビッグ・アームとパワー・ウェルドを装着」
デレンセン
「下に行ったクラウンが海賊に占領されてんだ。分かっているな?」
ベルリ
「クラウンに戻れ! MMFフィールドを外れたら地球に引っ張られる!」
アイーダ
「この機体は、そんな風にはなりません! 加速して!」
デレンセン
「下に行ったクラウンは……!」
ルイン
「分かってますけど、バッテリー泥棒をされたからってビビっていたら、ずっと続きますよ!」
デレンセン
「貴様、宇宙実習は初めてなんだろ?」
ルイン
「シミュレーションはやりましたよ。この溶接機は、ビーム・ライフルになるって裏マニュアルは知ってます」
デレンセン
「あれは、ラライヤとかを落とした機体と同じ型なんだ」
ルイン
「ラライヤって?」
アイーダ
「ビーム・サーベルを使います!」
ベルリ
「え? 何だってぇ!」
「スコードッ!」
アイーダ
「うっ?」
デレンセン
「バック・パックに爆薬を仕掛けた! 抵抗すればエンジンを破壊する! 聞こえるな、女!」
アイーダ
「何っ……?」
ルイン
「ベルリ、聞こえるか?」
ベルリ
「聞こえます。ルイン先輩ですか?」
運転士
「よせよ! よせって!」
ラライヤ
「G!」
ノレド
「何やってんだ?」
マニィ
「この子、何なんです?」
士官
「デレンセン大尉が捕まえた捕虜だよ、捕虜」
ノレド
「この間、キャピタル・アーミィが宇宙から連れてきたっていう子ですか?」
士官
「そういうのは、知らん!」
ノレド
「そうなの?」
ラライヤ
「G……」
マニィ
「駄目だ、この子……」
士官
「何てんだ?」
 〃
「海賊のか?」
ラライヤ
「来た……来た!」
ノレド
「この子……」
アイーダ
「時間的には、降下するクラウンを制圧したカーヒルの部隊は、フォトン・バッテリーを回収した筈だけど……私って、時々これだから」
ベルリ
「クラウンに移動してください。ハッチは国際規格ですよね?」
アイーダ
「気安い……!」
ベルリ
「何か言いました?」
アイーダ
「いいえ」
「この機体、今日は何かおかしかった」
ハロビー
「ベル生還! ベル生還!」
ベルリ
「やあ」
「ありがとうございました」
士官
「ご苦労さん。コックピットは上の階だ」
ベルリ
「はい」
ノレド
「あ、ベル!」
ラライヤ
「G! Gの……!」
士官
「あっ、よせ!」
ケルベス
「掛け値なしに一人です。下に行った連中より、5分遅れでここを離れるつもりだったんだよな?」
アイーダ
「そちらのレクテンが余計な行動を……」
デレンセン
「何、勝手な事を言ってるんだ。貴様は、俺の可愛い生徒のトリーティを叩きやがって」
アイーダ
「私の狙いは正確で、爆発はさせていません」
「有能なパイロットなら自力でクラウンに戻ってこられます」
マニィ
「何?」
ノレド
「可愛くない!」
デレンセン
「アメリア軍での管制名は?」
アイーダ
「自分は、軍の人間ではありません」
デレンセン
「モビルスーツを使えるのは軍だけだ! 管制名は?」
アイーダ
「アイーダ・レイハントン。宇宙海賊です」
デレンセン
「聞いたような名前を組み合わせやがって!」
「貴様の機体は、一週間前に降りてきたものなんだろ?」
アイーダ
「拒否権を使います!」
デレンセン
「海賊に拒否権を言い出す資格はない!」
ベルリ
「そういう気分で居るから、殺し合うような事が起こるんです」
アイーダ
「ふんっ」
ルイン
「教官殿。このパイロット、ハッチを閉じてしまって開かないんです」
アイーダ
「Gセルフ……あの機体のハッチは、他の人には開きません」
ベルリ
「ありがとうした」
ルイン
「いや」
ベルリ
「先輩!」
アイーダ
「そんな馬鹿な!」
ルイン
「貴方は動かない!」
ラライヤ
「Gは……!」
士官
「ほら、大丈夫だから」
 〃
「この子、あの機体と何か……」
 〃
「関係は、あるな……」
ベルリ
「まるで新品ですね」
ケルベス
「そうのようだな」
G・セルフ
「レイハントン・コードを」
ベルリ
「これ、みんな国際規格だけど……」
G・セルフ
「確定」
ベルリ
「何?」
「意味はあるよな。モニタにだって同じパターンが出たんだから」
「じゃあ!」
デレンセン
「スターターが入ったか!」
アイーダ
「そんな馬鹿な!」
ベルリ
「ええ、基本はユニバーサル・スタンダードだから、大丈夫です」
デレンセン
「なら、手足くらい動かしてみせろ」
ベルリ
「はい、閉じます」
士官
「無茶すんなよ」