第3話 モンテーロの圧力

デレンセン
「あんたらが気が利かないから手配したんだろうが!」
ノレド
「大丈夫?」
ベルリ
「大丈夫だよ」
ノレド
「ベルリは、あの女だって助けたんだからさ」
マニィ
「この子だって救われてるのかもしれないよ」
クンパ
「今夜はご苦労だった。厄介掛けるが、明日また調査部に来てもらえるな?」
ベルリ
「は、はい」
クンパ
「済まない」
ベッカー
「その女だけでなく、あれだって調査部が……!」
調査部員
「何度言ったら分かるんだ!」
アイーダ
「こんな扱い、国際法違反でしょ!」
クンパ
「貴方はアメリア軍ではないと言ったでしょ。なら、違反にはなりません」
調査部員
「大佐」
ベッカー
「あのバック・パックは、アメリア軍で造ったものと分かったんだ!」
クンパ
「メーカーのプレートが付いていたんだろ?」
ベッカー
「え?」
クンパ
「しかしキャピタル・アーミィは、一週間してもあれを動かせなかったのだから、今後は調査部で預かる」
ベッカー
「キャピタル・アーミィをでっち上げた黒幕の癖に……」
デレンセン
「ベッカー大尉」
ベッカー
「何だ?」
デレンセン
「この生徒が、お話をしていたルイン・リー候補生です」
ベッカー
「クンタラだってな」
マニィ
「そんなに汚らわしいですか?」
ベッカー
「そういう口を利くから嫌いなんだよ」
「避けた上に防御もしているか。期待出来る生徒だな」
ルイン
「ありがとうございます」
クンパ
「では、明日な」
ベルリ
「はい。シャンク、ありがとうございます」
ノレド
「ベル」
ベルリ
「あぁ」
「ノレドはウチに帰って寝な」
ノレド
「法皇様!」
ウィルミット
「キャピタル・タワーの運行は守らせます」
ゲル法皇
「それはそのように……」
「これは、ノレド・ナグさん」
ノレド
「はい」
ベルリ、ノレド
「ご機嫌よう」
ゲル法皇
「ご機嫌よう」
ウィルミット
「お前、また海賊のモビルスーツを動かしたんだって?」
ベルリ
「えぇ、はい」
ノレド
「外国のタブー破りなんかのスパイをやっている調査部が、何で宇宙海賊の女を連れて行くんです?」
ウィルミット
「何処の子なの?」
ベルリ
「セント・フラワー学園の応援団の……」
ウィルミット
「ノレド・ナグさんね」
ベルリ
「母の力で、その子を取り返せませんか?」
ウィルミット
「捕虜をかい? 何で?」
ノレド
「ベル、一目惚れなんです」
ハロビー
「一目惚れ、一目惚れ」
ウィルミット
「ハロビー……ノレドさんの?」
ノレド
「ノベルって言うんです。ベルリがキャピタル・ガードに入ったら、プレゼントするつもりなんだけど……」
ベルリ
「別に……」
ウィルミット
「そう」
「ベルリに操縦出来た……?」
ベルリ
「母なら、調査部のクンパ大佐にだって……」
ウィルミット
「その手……出血したりしていたんじゃないの?」
ベルリ
「もう、痛くもないし……」
ウィルミット
「咎めるといけない」
「おい!」
秘書
「はい」
整備兵
「また出撃するんだって?」
 〃
「カーヒル大尉が戦死したのにな」
 〃
「そういうのって、返り討ちに遭うんじゃねぇの?」
クリム
「このモンテーロが返り討ちに遭うんだって?」
整備兵
「ちゅ、中尉……!」
クリム
「ふんっ」
ドニエル
「中尉! 本国から帰ったばかりで出撃は無理でしょ!」
クリム
「カーヒル大尉は、自分が留守の間にアイーダ様を救出しようとしたから、敗れたのだ!」
ドニエル
「下がって! 落ちます!」
クリム
「キャピタル・アーミィと言うが、立ち上がったばかりの素人集団であります」
ドニエル
「制止出来なかった自分にも責任があります!」
クリム
「いや、キャピタル・アーミィは、このタイミングで第二次攻撃があるとは思っていない……それが付け目よ」
ドニエル
「天才と煽てられて、調子に乗っていませんか!」
クリム
「キャピタル・タワーは、今は宇宙に気を取られているのだ。だから、今がチャンスなのです!」
ドニエル
「そのスルガン総監の報告も、まだ聞いてないんだぞ!」
クリム
「それは、アイーダ様を救出してからだ!」
「ジャベリン、ありがとうね!」
クリム
「宇宙とのヘソの尾か」
「最近までは、我々はあれに近付く事さえタブーだった。
なのに、カーヒル大尉はアイーダ様恋しさからあそこに潜入した。あの歳でふざけているから……!」
ベルリ
「長い編成だな……」
ノレド
「えへへっ!」
ベルリ
「全く……」
ノレド
「女海賊は、ベルリより年上なんだよ?」
ベルリ
「モビルスーツとクンパ大佐が気になるんだ」
ノレド
「嘘言え!」
ハロビー
「嘘言え!」
ベルリ
「嘘じゃない!」
ノレド
「夕べ、あの女に胸倉掴まれて、あの女の言ったこと正しいと思ったろ。あの女を見送ったとき、好きになったんだろ!」
ベルリ
「黙れぇぇっ!」
ノレド
「わぁぁっ!」
職員
「朝っぱらから何しに来たんだ?」
ベルリ
「ベルリ・ゼナムです。大佐から呼び出されたんです」
職員
「ベルリって、候補生の?」
ベルリ
「はい」
職員
「おい」
アイーダ
「知りません、どういう方なのです?」
ラライヤ
「う、うぅっ……!」
看護師
「ラライヤ・マンディ……! ほら、怖くない、怖くない」
クンパ
「一人にしておくと、時々ああなるようです」
「宇宙海賊と言っても、アメリア軍公認の独立部隊だという証拠もあります。
宇宙用のバック・パックは、アメリア国内の製造メーカーのプレートや刻印がありました」
「何だ?」
補佐官
「ベルリ・ゼナムが、尋問を受けにきたと言うのですが」
クンパ
「ベルリ……通せ」
補佐官
「はい」
クリム
「もっと高度を下げろ」
部下
「揺れますよ」
クリム
「構わん」
「うぉっ!」
ベルリ
「何だ? これも調査部の仕事か?」
ノレド
「あれは夕べのままだよ」
ベルリ
「アーミィと同じじゃないか」
「あ、おはようございます」
ノレド
「おはようございます」
クンパ
「思い立ったら時間に関係無しですか? ベルリ君」
ベルリ
「あのモビルスーツの計器類のメーカー名って、全く知らなかったんです。あの人は何て言ってるんです?」
クンパ
「拷問をしなくても、同じ事を言っています」
ノレド
「ベルは恋してんです」
ベルリ
「ノレド!」
ノレド
「ふんっ」
クンパ
「一目惚れですか?」
ハロビー
「一目惚れ、惚れ!」
ベルリ
「そんなんじゃなくて……大佐殿のご意見はどうなんです?」
アイーダ
「大佐は紳士でいらっしゃいます。ご心配無く」
クンパ
「私はベルリ君に、何でGセルフを操れる事を……」
看護師
「ラライヤ・マンディ!」
ラライヤ
「ベル!」
ノレド
「どした、どした?」
ラライヤ
「ノレド!」
ウィルミット
「キャピタル・アーミィが迎撃態勢を取るというのか。法皇は何と仰って……朝の祈りの時間?」
クリム
「そちらが逮捕した海賊の釈放と、モビルスーツの返還を要求する。
拒否した場合は、キャピタル・タワーを破壊する。以上、通告したぞ」
部下
「ミノフスキー粒子、散布します」
クリム
「合流ポイント、いいな?」
部下
「了解しています」
クンパ
「モンテーロ、離脱!」
ノレド
「これ飲んだら寝ちゃった」
看護師
「あぁ」
アイーダ
「貴方がやったという事実は残っているんです」
ベルリ
「貴方は僕を人殺しって責めていますけど、こちらにも重傷者はいっぱいいるし、
キャピタル・タワーの周りだってどれだけの被害が出たのか、貴方には分かっていないでしょ」
アイーダ
「カーヒル大尉は……!」
「カーヒル大尉は、地球上のエネルギーがキャピタル・タワーに独占されている事をやめさせたかったのです」
ベルリ
「フォトン・バッテリーの配給をスコード教によって統制しているのは、人類に宇宙世紀のような間違いをさせない為なんです」
アイーダ
「エネルギーと道具は、道徳的に正しい使い方が出来れば……!」
ベルリ
「それが出来なかったから、人類は宇宙世紀に全滅しそうになったんでしょ!」
アイーダ
「カーヒル大尉は……!」
クンパ
「神にでもなれるような方だったのかな?」
アイーダ
「そんな、極端な……」
クンパ
「道具の使い方次第という話は分かります。だから、お二人にお聞きしたいのです。
Gセルフを、アイーダさんとベルリ君は操縦できた」
「それに、ラライヤ・マンディもです」
ノレド
「え?」
クンパ
「その少女は、月曜日にキャピタル・ガードに空中で逮捕された者で……」
ノレド
「サイレン?」
クンパ
「諸君!」
ベルリ
「空襲?」
ノレド
「ラライヤ!」
ラライヤ
「サイレン……?」
クリム
「ふんっ」
補佐官
「閣下」
クンパ
「ミノフスキー粒子が散布される前? 捕虜を返せと言ってきたのだな?」
ベルリ
「突き当たりですね?」
ラライヤ
「ベル……」
アイーダ
「ラライヤさん」
ベルリ
「貴方の出迎えが来たんですよね?」
アイーダ
「仲間は、大尉だけではありませんから」
ハロビー
「イテッ!」
ノレド
「どうした?」
ベルリ
「何だ?」
ノレド
「大佐は、三階からならコックピットに行けるって言ってたけど……信じるの?」
ベルリ
「試しているんだよ。大佐は調査部の人間だから」
デレンセン
「何だってこんな所に幔幕があるんだ」
ケルベス
「使えるカットシーは無いんじゃないの?」
デレンセン
「演習じゃないんだ、出撃させろ! こんな事で時間潰す暇あるのか?」
ケルベス
「これって、キャピタル・ガード以下!」
兵士
「こっちは、空襲騒ぎとアーミィ設立記念式典の準備で……」
デレンセン
「動かせるカットシーとエフラグを出せって言ってんでしょ!」
ノレド
「えっ?」
ベルリ
「無茶……!」
アイーダ
「止まった」
ノレド
「あそこに大佐がいるんだ」
ラライヤ
「トリップ……」
アイーダ
「向こうに、宇宙用のバック・パックがありましたね?」
ベルリ
「調査部の事だから、どうせ何処からか調達してきたんでしょ」
アイーダ
「何処からでしょうね……」
「ラ、ラライヤ……!」
クリム
「あれが、キャピタル・タワーの回答か」
「ほう、レーダーが死んでも見当を付けて接近する……これは噂のレックスノーじゃないか。
レクテンの改造機だろ? 戦争を知らない連中は怖いな」
「あれも回答か……分かったよ」
「私の仕事を邪魔するなら、怪我をしてもらうしかないぞ」
G・セルフ
「レイハントン・コード、了」
アイーダ
「駄目でしょ?」
ベルリ
「何か反応したでしょ」
アイーダ
「え? スターターです」
「クリム・ニックは、私を利用したがっている青年です」
「ベルリ・ゼナム、顔をチェック」
ベルリ
「え? はい」
「ああ、目とか点いてます」
ケルベス
「デレンセン大尉、本当にいいんですか?」
デレンセン
「使える奴でやってみせるしかないだろ」
ケルベス
「出ますよ!」
デレンセン
「行ってくれ!」
クリム
「ジャングルの中は、ホバーは無理でしょ!」
「怪我はしない」
「ちっ」
整備員
「何で動くんだよ!」
ベルリ
「動かしたら誤解されますよ?」
アイーダ
「何を誤解されるんです? 私は自分のモビルスーツで、自分の部隊に帰るだけです!」
ノレド
「あら……」
ベルリ
「ええと、動け」
ノレド
「やめなさい!」
ベルリ
「アーミィも動いてるんだろ?」
アイーダ
「放しなさい! 帰るんです!」
補佐官
「今まで動かなかったんですよ?」
クンパ
「四人が乗ってか? ああ、ウィル長官。法皇のご意思は?」
「Gセルフというものは奪われつつあります」
ベルリ
「もっと静かに……!」
ノレド
「前、見えてんの?」
ベルリ
「あんた……!」
アイーダ
「やはり、クリム・ニックです」
ノレド
「やられた!」
ベルリ
「カットシーが?」
ノレド
「何これ?」
アイーダ
「モンテーロの、ジャベリンのビーム・ワイヤーの性能……」
「キャピタル・タワーでは、戦いはさせません!」
クリム
「ふん! アーミィと言っても、たかがキャピタル・ガードの成り上がりだろうが!」
「ハハッ! 私は天才なのだよ!」
デレンセン
「もっと高度を取れって!」
クリム
「馬鹿な奴! 接近戦用の武器を使うなど!」
ベルリ
「離陸! 上昇でしょ!」
アイーダ
「分かってますって!」
G・セルフ
「レイハントン・コード、了」
クリム
「蚊トンボめ!」
「ジャベリンは、こう使う!」
「しまった!」
デレンセン
「何がジャベリンよ!」
アイーダ
「あの機体は、夕べの……!」
ノレド
「ケルべスさんじゃないの?」
アイーダ
「あれ!」
ノレド
「何よ?」
アイーダ
「消火剤とかあるのよ」
ケルベス
「ベルリか。何だ?」
ベルリ
「僕は操縦していません!」
ケルベス
「誰が操縦してんだ!」
ベルリ
「ライディング・ギア!」
ノレド
「車輪、車輪!」
ベルリ
「ブレーキ掛けて!」
ノレド
「ケルべス!」
アイーダ
「そうか!」
ケルベス
「あぁぁっ!」
「べ、ベルリ・ゼナム……」
クリム
「速い!」
デレンセン
「貰った!」
クリム
「あっ!」
デレンセン
「ベルリ候補生か!」
クリム
「姫様か!」
「ハハッ! 姫様、アイーダ様、クリム・ニックがお迎えに上がり……!」
「姫様! 何で止めるのです!」
アイーダ
「あんな素人みたいな攻撃、当たりません! メガファウナへ帰りましょう、クリム・ニック!」
ノレド
「えぇ? 帰るって?」
ベルリ
「こいつ……!」
クンパ
「ああ、長官。はい、敵は後退してくれました」
ウィルミット
「逃げられたんでしょ? こんな事をするアメリアには、ファトン・バッテリーの配給を中止にするといった罰も与えないと」
クンパ
「運行長官のお立場では、そう仰られるのは無理もありません。Gセルフとかに、四人乗り込んだとお話しましたよね?」
ウィルミット
「ええ。捕虜の女性と、保護観察のラライヤ・マンディ、それと、ノレド・ナグ……え? ウチの子ですか?」
アイーダ
「キャピタル・タワーのワイヤー一本、傷付けていませんね?」
クリム
「無論です。あれはアメリア軍の宇宙基地になるものですから」
ノレド
「宇宙基地?」
ベルリ
「何なんです?」
アイーダ
「能天気な青年なんです。大統領の息子だというのに、モビルスーツ大好き男で」
クリム
「姫様の後ろの少女も操縦が出来て、この少年も操縦出来る……どういう事なんだ?」
「奴め! 本気か!」
ノレド
「何? この音楽……」
アイーダ
「設計者の趣味でしょ」