第4話 カットシー乱舞

ノレド
「船が隠れてる……」
ベルリ
「あれ、宇宙船の筈だよ」
ノレド
「何で?」
ベルリ
「宇宙で捕虜になったあの女を取り返しにきたなら、宇宙に上がれなくっちゃ」
ノレド
「海に浮いてんだよ?」
ドニエル
「やれやれ……」
クリム
「三人は、これで降りてもらう」
ノレド
「さっ、ラライヤ乗って」
「いい子、いい子」
アイーダ
「クリム、ご苦労でした。命拾いをしました」
クリム
「自分にとってはお安いことです。今回はやや不覚を取りましたが、ハハッ……」
ベルリ
「奴が、クリム・ニック中尉っていう大統領の息子か」
クリム
「少年! 貴様はそこから飛び降りるというつもりか?」
ベルリ
「は、はい!」
「お願いします、中尉殿!」
「おっと!」
クリム
「すまん! ダメージを受けているようなので、調子が悪いようだ」
ベルリ
「嘘言え」
アイーダ
「艦長……ご心配をお掛けしました」
ドニエル
「自分の判断も甘かったのです。反省しています。アイーダ様を当てにし過ぎました」
アイーダ
「私の軽率な動きが、カーヒル大尉を戦死させてしまったんです」
ドニエル
「お辛いでしょう。お辛い……」
ベッカー
「スペース・デブリ用のレーダーだけであったのだが、最近の緊張状態に対応しなければならないと判断をして、
あのクラウンでは、地上監視用の長距離レーダーを運ばせて、第1ナットで使うことにした」
「流石、キャピタル・アーミィに選ばれた諸君は、いい反応をする」
「今日までキャピタル・タワーは、フォトン・バッテリーの運搬と基幹産業の育成に力を注いできたが、
今後は、大陸間戦争を続けているアメリア軍とゴンドワン軍の攻撃が予想されるのであるから、それに対応する力を持たなければならない」
「デレンセン隊は出撃位置へ!」
デレンセン
「おう!」
−−
「頑張れよ!」
−−
「第一陣なんだからな!」
−−
「大尉の働きを期待するぞ!」
−−
「教官殿、怪我しないでください!」
−−
「熟練、熟練!」
−−
「アーミィなんて目じゃないよ!」
マニィ
「ルイン!」
ルイン
「おう」
マニィ
「こんなアーミィになってたなんて、知ってた?」
ルイン
「カットシーをこれだけ揃えたんだぜ? そりゃ知ってたさ」
マニィ
「軍隊だって言うんだよ?」
ジュガン
「デレンセン大尉の部隊には、宇宙海賊の居所を見つけ、人質を取り返す作戦を実施する事を命じる」
デレンセン
「総員、掛かれ!」
「ご苦労」
整備兵
「大尉こそ、ご苦労様です」
デレンセン
「よくもまあ、お祭り騒ぎにしやがって……」
ウィルミット
「大佐」
クンパ
「何か?」
ウィルミット
「この……この式典を含めて、法皇の許可は下りているのですか?」
クンパ
「この作戦は、長官のお子様と市民を取り返す為のもので、軍事行動ではないという事で許可を取ったようです」
ウィルミット
「ベルリ救出を口実にされた……」
「キャピタル・アーミィのやっている事は、科学技術を進歩させてはならないという、アグテックのタブーを冒しています」
クンパ
「タブーについては法皇の意見もありまして……」
ベッカー
「やりますね」
ジュガン
「当てに出来るというものだ」
ベルリ
「そんなに食べていいのか?」
ノレド
「ここの油、いいもの」
ドニエル
「ん? 食材には気を付けさせている」
ベルリ
「この船、衛星軌道まで行って、帰ってきたんですよね?」
ドニエル
「ベルリ君の名字は、キャピタル・タワーの運行長官と同じだな」
ベルリ
「キャピタル・タワーのクラウンを三度襲った海賊部隊は、この船から出撃したんですよね?」
ドニエル
「ウィルミット・ゼナム長官の息子さんか」
ベルリ
「僕には人質の価値はありません。母は仕事のことしか考えられない人間ですから」
ドニエル
「それは子供の発言だな」
アイーダ
「艦長は、私の事で責任を感じる必要はありません」
ドニエル
「アイーダ様……」
アイーダ
「父には何も言わせませんから……!」
ドニエル
「恐縮です」
ベルリ
「洞窟の桟橋の奥って、あれ、反対側のカリブ海洋研究所に続いているんですよね?」
アイーダ
「この生徒が使っていたレクテンだって、技術的には進化していました」
ドニエル
「キャピタル・ガードもタブーに触ってるってことか」
アイーダ
「そのキャピタル・タワーの姿勢が世界の再生を遅らせて、結局、
アメリアはゴンドワンと大陸間戦争をするような事になってしまって、地球は西洋世紀の時間に戻ってしまったんですよ!」
ドニエル
「何だって? そんな事は前から言ってるだろ! G系の部品は全部メガファウナに運び込んでおけ。
こちらには、天才的なメカニックマンだって居るんだ」
ベルリ
「それって、噂のヘルメスの薔薇の設計図の事でしょ? そんな物に触るなんて、本当に罰が当たりますよ!」
ドニエル
「あのな、技術屋の間では、トワサンガから流れてきた図面だってのが……」
アイーダ
「この少年を、海賊の法律で裁きましょ!」
ドニエル
「アイーダ様」
ノレド
「戦争を仕掛けてきたのはそっちでしょ!」
ドニエル
「アイーダ様」
「あの三人は、ここから出すな」
見張り番
「はっ!」
ノレド
「あっ……」
クリム
「私を狙ったな?」
ノレド
「玉はない……あっ、何するの?」
クリム
「キャピタルのクンタラは、これで獲物を捕るんだろ? 目を潰されるところだった」
ラライヤ
「食べるか?」
クリム
「貴様! Gセルフを動かしてみせろ!」
ベルリ
「はい?」
クリム
「カーヒル大尉を殺ったのだろ?」
ベルリ
「貴方達は、衛星軌道上でキャピタル・タワーのクラウンを襲って……」
クリム
「やってみせろ!」
ベルリ
「モビルスーツの基本操作は同じなんですよ?」
クリム
「天才と言われた私に、操縦が出来なかったのだ!」
ノレド
「アハハッ! 出来なかったんだ!」
ラライヤ
「食べな?」
ベルリ
「僕は逃げ出しますよ」
クリム
「この二人を人質に取っておく! ミノフスキー・フライトもやってみせるんだ!」
ノレド
「汚い奴!」
見張り番
「ほらっ!」
ラライヤ
「目が綺麗……」
クリム
「いつも言われている事だ。来い!」
アイーダ
「クリム中尉!」
クリム
「敵の能力チェックです」
アイーダ
「艦長の許可は……!」
クリム
「宜しく取計らっていただきたい」
「行け!」
ベルリ
「っと!」
アイーダ
「クリム中尉!」
クリム
「アイーダ様の話が本当なら、この女子にも試させたいのです」
ノレド
「何を試そうっていうの?」
アイーダ
「ラライヤの事……?」
「クンパ・ルシータ大佐の話では、彼女をキャピタル・ガードで捕虜にしたのが月曜日なので、
ラライヤ・マンディと名付けた。あの日、カーヒル大尉達は――」
カーヒル(回想)
「各員、聞こえるな? こいつを島へ持っていく」
アイーダ
「カーヒル大尉達の働きで、Gセルフをビクエスト島に誘導してくれたのが、月曜日だった」
カーヒル(以下、回想)
「どうしたんです?」
アイーダ
「あれの整備をやってて……」
カーヒル
「アルケイン……フル装備にしたんですね」
アイーダ
「取り付けてみただけなんです」
カーヒル
「新しいのにしましょう」
アイーダ
「大丈夫です」
カーヒル
「指先にも擦り傷がありますが……」
「中尉、どうしたんです?」
クリム
「何で、天才の私にこれが動かせないんだ!」
アイーダ
「そんなに特別なんですか?」
クリム
「この外見はG系に似ていないか?」
カーヒル
「あぁ、アルケインに似てますよね」
アイーダ
「広いし、壁全体がモニタになっている……」
G・セルフ
「レイハントン・コード、了」
アイーダ
「何?」
カーヒル
「姫様、アルケインに似てますよね?」
アイーダ
「ええ。フライスコップから降ろしてみせましょうか?」
クリム
「冗談じゃない!」
カーヒル
「自分が代わりますよ、姫様――(回想おわり)
アイーダ
「カーヒル……」
デレンセン
「ミノフスキー粒子を散布した結果からの推定コース? レーダーの精度はどうなんだ?」
部下
「一応、軍用のレーダーです」
デレンセン
「順次離脱!」
ラライヤ
「G! G!」
ノレド
「お願いだから落ち着いて、ラライヤ」
ドニエル
「ほれ」
ラライヤ
「ニヒィ……チュ、チュ……」
ノレド
「何の手品なんです?」
ドニエル
「宇宙に出るとな、そういう水っぽいものが薬になるようなんだよ」
ノレド
「そうなの?」
ラライヤ
「チュ、チュチュミィ……」
ドニエル
「Gセルフを見て興奮するとなりゃ、関係あると見るしかないな……」
クリム
「そこまで動かせたのだから、飛行してみせろ!」
アイーダ
「クリム中尉!」
クリム
「自分は、モンテーロで監視します」
アイーダ
「まったく……」
ドニエル
「ベルリは私服ですから、無茶は出来ませんよ」
ベルリ
「ミノフスキー・フライト、出来ると思いますけど……」
クリム
「やってみせろと言っているだろ!」
ベルリ
「ビーム・サーベル?」
クリム
「どうした?」
ベルリ
「やりますよ」
クリム
「ハッチは閉じるな(通信切れる)」
ベルリ
「全天周モニタも、了解」
ノレド
「あ、上がった!」
アイーダ
「艦長はブリッジへ。クリムは先に出られますね?」
クリム
「出せるグリモアから、出せ!」
整備兵
「邪魔だってんだよ!」
ノレド
「どうしたの?」
整備兵
「ミノフスキー粒子が撒かれたんだ」
ベルリ
「よし、水平飛行へ移れば、こんなの」
「あれ、クリムさん? 聞こえないけど……」
ドニエル
「機関臨界急げ! 総員!」
副長
「総員、対空防御急げ!」
クレン
「入ります!」
ドニエル
「ああ、アイーダ様、間違いありません。人質を解放しなければ、モビルスーツ部隊の攻撃を掛けるという……」
アイーダ
「通信が入ってから、ミノフスキー粒子が散布されたのですね?」
ドニエル
「キャピタル・アーミィと言っていました」
アイーダ
「あの三人の解放で済むのなら、解放しましょう」
ドニエル
「いや……解放しても、この場所が知られたのですから……」
「出せ!」
副長
「出します!」
ドニエル
「アダム・スミスはどこだ? Gセルフには、捕虜が乗ってるんだろ!」
ギゼラ
「後部グリモアは、そこから出すことになる!」
クリム
「少年、武器を取れ!」
ベルリ
「ゴンドワンが攻めてくるんですか?」
アイーダ
「キャピタル・アーミィです。この場所が見付かってしまったんです」
ベルリ
「僕が止めてみせます!」
アイーダ
「え? キャピタル・アーミィですよ?」
ベルリ
「キャピタル・アーミィなんて、母だって、僕だって知らなかったんですよ」
アイーダ
「お母様……? こちらには、ラライヤとノレドが居るんですよ?」
ベルリ
「だから! アーミィの攻撃を止めなくっちゃならないでしょ?」
アイーダ
「アダム・スミス! Gセルフに、シールドとライフルを持たせてください!」
アダム
「え? 捕虜に武器を持たすんですか?」
クリム
「グリモアは、フライスコップで上がれ!」
ベルリ
「ノレド! 船の一番安全な所に隠れるんだ!」
ノレド
「ラライヤが上に行きたがってる!」
アダム
「止まれ、手! 潰すのか!」
ベルリ
「あぁっ! こ、これ、使っていいんですか?」
アダム
「こいつなら、ユニバーサル・サイズだから使える筈だ」
「姫様! 格納庫へ退避してください!」
アイーダ
「ここで対空防御をします!」
アダム
「御身に何かがあったら、我ら……!」
アイーダ
「ハッパに、ウィングを取り付けるように言っておいたのに!」
アダム
「バック・パックの積み込み中だったんです!」
ベルリ
「返せる借りじゃないけど、返す努力はします!」
アイーダ
「あの子……」
クリム
「低空から来るのは、お見通しである!」
「悪いが、ゴンドワンとの戦いで空戦には慣れているんでな!」
「遅いな!」
ベルリ
「違う! エフラグで来るなら上からだ!」
デレンセン
「舐めてもらっちゃ困るのよ!」
「ビラッキィ!」
「ありゃ、Gセルフとか……!」
敵パイロット
「投降するのか!」
ベルリ
「やっぱり、雲の中から来た!」
「ああっ!」
デレンセン
「そのモビルスーツは、元々俺が見付けたものなんだぞ!」
ベルリ
「自分はベルリ・ゼナムです! 攻撃しないでください! 船には、ノレドとラライヤが居るんです!」
デレンセン
「あのポーズは、戦わないって事か?」
クリム
「ど素人め、Gセルフの姿に惑わされて!」
「少年、足を止めてくれただけでも結構だ」
デレンセン
「Gセルフ! 降参して、キャピタル・アーミィに来てくれるのか?」
ベルリ
「接触回線で聞こえる?」
デレンセン
「そうなのか?」
ベルリ
「デレンセン教官殿ですね? 僕、ベルリで……あっ!」
クリム
「やるってのか!」
デレンセン
「ちっ!」
クリム
「速い!」
デレンセン
「チェストーッ!」
クリム
「あぁっ!」
ベルリ
「戦うだけか!」
「どうなってんの? うぅっ!」
デレンセン
「Gセルフ! 抵抗するなら、ここで落とすぞ!」
ベルリ
「あれ、教官の……!」
「三人同時? 三方同時……スコードッ!」
デレンセン
「わぁぁっ!」
ベルリ
「好きで武器を持っているのではない!」
デレンセン
「あの機体、何が起こっているんだ。あのビーム・サーベルも、何だって言うんだ!」
ベルリ
「い、行ってくれたんだ……」
クリム
「接触回線で聞こえるな? 少年」
ベルリ
「え? あ、はい」
クリム
「一瞬で三機を撃退してくれたのには感動した」
ベルリ
「あ、はい。でも、何で急に引き上げてくれたんでしょう」
クリム
「実戦であのように撤退する決断ができる指揮官は、優れた軍人だな。このモンテーロの指も切ってくれた。
となれば、その機体もアイーダ様を守る為には、使いこなさなければならない」
デレンセン
「五機目のカットシーか! 俺の頭でっかちの作戦のお陰で、七人も戦死させてしまった!
カンダハンもセブリ、トレッソもいた……すまねぇ……」
ラライヤ
「アハハッ!」
ノレド
「駄目! 中に入るの!」
ラライヤ
「嫌! チュチュミィ嬉しいって! 嬉しがってる!」
ハッパ
「バック・パックを交換出来るのは、見りゃ分かるでしょ?」
ドニエル
「そうなんだが、電気計はどうすんだよ」
アイーダ
「……間違いないでしょうね。やってみましょう」
「何?」
ベルリ
「え? 何でしょう?」
アイーダ
「うっ……!」
ベルリ
「何です?」
アイーダ
「いえ……」
ベルリ
「うっ……!」
「こっちは図解か。読めるか……」
アイーダ
「脱出ポッドとして独立していますよ。試せます?」
ベルリ
「え? 操作は……試します!」
アイーダ
「脱出ポッド、出ます!」
ベルリ
「わっ!」
クリム
「ほう、使えるじゃないか」
ドニエル
「何で今になって動くんだ?」
ベルリ
「慣れてきたんでしょう」
ドニエル
「色々やったからな」
アイーダ
「ハッパさん、可動部の整備……それと、フォトン・バッテリーと推進剤の補充はお願いします」
ハッパ
「はい。その前に、モニタのデータ、コピーさせてください」
アイーダ
「抜けますか?」
ハッパ
「この状態で預けてくだされば、何とかします」
ベルリ
「ノレド、早く着替えないと風邪引くぞ」
ノレド
「ここからラライヤが動かないのよ」
クリム
「今日のキャピタル・アーミィの攻撃で、優れた軍人が居るという事が分かったのですから」
ベルリ
「キャピタル・アーミィなんて、キャピタル・ガードでも母だって知らなかったんです」
アイーダ
「お母様……」
クリム
「君の母上を脅かす者が宇宙から降りてくると分かったから、キャピタル・アーミィが新設されたのだ」
ベルリ
「宇宙から来る者……?」
アイーダ
「中尉……それ、本当の事なのですか?」
クリム
「昨日、本国でスルガン総監から聞いた事です」
アイーダ
「父から?」
ベルリ
「貴方、アイーダ・スルガンですか?」
アイーダ
「艦長、中尉」
クリム
「対応しますよ」
ドニエル
「お任せください」
ノレド
「ベル、キャピタル・タワーに帰ろうよ」
ハロビー
「帰ろ、帰ろ!」
ベルリ
「これもラライヤも空から来たんだ。中尉の話、聞きたくないか?」
ノレド
「うん! ベルはこの船に貸し作ったんだから、帰れるよ」
ベルリ
「へ? あぁ……」
アイーダ
「今日は、あの子にやられっ放しだったけど……これ、あの機体にあったもの……」