第8話 父と母とマスクと

マスク
「アメリア軍のモビルアーマーか!」
クリム
「Gセルフ、聞こえるか? アーマーザガンが来た方向の島影へ飛び込むんだ」
ラライヤ
「チュチュミィ」
ジンジャー
「後ろに座ってんの!」
アイーダ
「あの子、ちゃんとやっている……」
ベルリ
「あれ? 僕のジャハナムが捨ててある」
「本国からの補給物資か」
ジンジャー
「ジャハナムは貴様が使ってみせろ」
ゲッツ
「え?」
ラライヤ
「チュチュミィ」
ジンジャー
「お前はいいの!」
ラライヤ
「嫌!」
グシオン
「クリム中尉は、武装を無くしてしまったか」
「中尉! 武器は持ってきたぞ!」
クリム
「総監? いらっしゃったのですか?」
ラライヤ
「チュチュミィ! G、ベル!」
ジンジャー
「ジャハナムのハッチは開くな?」
ベルリ
「開きますけど」
ジンジャー
「ならいい」
「ん、ラライヤちゃん!」
ベルリ
「敵は手強いですよ」
ゲッツ
「貴様に出来て、俺に出来ない事はない!」
ベルリ
「あのパイロット、凄いな」
アイーダ
「ああ、お父様!」
グシオン
「おお、元気そうで」
ベルリ
「お父さん?」
ラライヤ
「チュチュミィ!」
ベルリ
「可愛いよね」
ラライヤ
「可愛い」
ベルリ
「お父さんって、あれ、アメリア軍の総監だろ。一番偉い人の筈だ」
グシオン
「アルケインで海に落ちたと?」
アイーダ
「私には、まだまだ使い切れません」
グシオン
「助けてもらったのか」
アイーダ
「はい。何でこんな前線に?」
グシオン
「何でって……」
「君が、ベルリ・ゼナム君だな?」
ベルリ
「僕、アメリア軍に入隊しません」
グシオン
「構わんさ」
ベルリ
「は?」
グシオン
「バック・パックは交換させてもらうぞ」
クリム
「ゲッツ、ジャハナムは山の上で警戒だぞ」
ゲッツ
「押忍! 自分は……」
クリム
「さっさと行け! アーマーザガン一機に任せてはおけん!」
「Gセルフが出るまでは持ち堪えてみせます!」
グシオン
「頼むぞ中尉! しかし、モンテーロは……」
ラライヤ
「お水は綺麗」
アイーダ
「そりゃ、信じますよ」
グシオン
「技術屋の世界じゃ事実なんだよ」
整備兵
「外付けのコントロール・パネルは、Gセルフの手で使え!」
ベルリ
「え? コックピットでは出来ないんですか?」
整備兵
「コネクタは合うよな」
ベルリ
「そう見えますけど」
アイーダ
「急ぎなさい、ベルリ・ゼナム」
整備兵
「あと半歩下がって! よし、ベルリとか。前に出るんだ!」
「よし、次だ!」
「よし、最終形……わっ!」
ベルリ
「来た! ビームとミサイル、装甲のフラッシュ・アタックと色変わりって……」
整備兵
「ん、落ちる……足!」
ベルリ
「足に触ったワイヤーで降りられますよ」
グシオン
「君、大丈夫か?」
整備兵
「大丈夫であります! トリッキー・バック・パックは、後ろに展開します!」
ベルリ
「ラライヤ!」
「グシオン総監、ラライヤを頼みます!」
アイーダ
「ベル、ライフル!」
兵士
「飛びましたよ」
グシオン
「トリッキー・パックだからな」
「そこで落ち着いていられるかな? ラライヤちゃん」
ベルリ
「無理です。アイーダさんはお父上を守ってください」
アイーダ
「少しは慣れました。飛んでるでしょ?」
ベルリ
「邪魔をして!」
アイーダ
「あ、お父様」
兵士
「アルケインが護衛に就いてくれます」
グシオン
「うむ」
ミック
「蚊トンボどもには、アーマーザガンの後ろには行かせやしないが……中尉は遅いでしょ!」
クリム
「すまない! 単独飛行がな!」
アーボガス
「あっ! 狙われたのか! り、離脱しないと……!」
マスク
「アーボガスがやられただと? あのモビルスーツとモビルアーマーは連携プレイをしたのか」
「何だ? あの機体は……!」
「ふ、格闘戦は高度が高い方が圧勝するんだよ!」
「エルフ・ブルックの機動性があれば!」
ベルリ
「あっ!」
マスク
「洒落臭いことを!」
アーボガス
「マスク大尉!」
マスク
「高度を取らないと格闘戦には持ち込めないが……!」
ベルリ
「バック・パックがライフルの邪魔になるじゃないか!」
ウィルミット
「空気に乗った……」
「ん、これいつの水だ?」
「あの光は爆発……あそこにベルがいる!」
クリム
「ミック・ジャック、攻撃が雑だぞ! 取り逃がしている!」
ミック
「中尉は文句を言ってるだろうけど……!」
「ビームが集中しない!」
「生意気なんだよ、板っぺらが!」
「板っぺらなんか何処かへ行っちゃえ!」
マスク
「格闘戦では、高度を取らない限り勝てないのだから……」
「サポートしてくれるのか」
「ブースターが使えるのなら、ピンクのバック・パックを使い慣れてないGセルフをここで叩いてみせる!」
ベルリ
「あ、安定しない……!」
アイーダ
「しっかりなさい! 敵はまだ逃げてくれていないんですよ?」
ベルリ
「お父さんを守るんじゃなかったんですか?」
アイーダ
「キャピタル・タワーの方向からアンノウンが接近していると分かりました。だから出て来たんです」
ベルリ
「アンノウン? 未確認機が来ているっていうんですか?」
アイーダ
「父が乗っているビレーのカメラがキャッチしたんですよ」
「ダミーの風船を引くのは、やめてよい。フライスコップも援護してください」
兵士
「了解です!」
アイーダ
「アンノウンは……!」
ベルリ
「アイーダさん、それは無茶ですよ!」
マスク
「貴様達はふざけているのか! 敵はここに居るんだぞ!」
「な、何だ! 風船が……!」
「何だというのか!」
兵士
「阻止できませんでした!」
グシオン
「風船じゃ無理だろ」
ラライヤ
「風船……」
グシオン
「風船……この娘、病気には見えないが」
「キャピタル・タワーの方向から来るものは間違いないのだな?」
兵士
「映像解析です。グライダー規模です」
グシオン
「なら迎撃の必要はない。アイーダは戻せんのか?」
兵士
「突貫娘ですからね」
グシオン
「悪口か?」
兵士
「ん、勇敢な姫様だとクリム中尉は言っています」
ラライヤ
「ベル、ベル!」
グシオン
「そうか、ベルリ・ゼナム君がいるか」
マスク
「ふ、落下する戦闘しか出来ん癖に」
「うっ!」
ベルリ
「隙が出た!」
マスク
「システムが殺されたが、一時的なものだ! 何で島がある?」
クリム
「ははっ! ミック・ジャック、ご苦労だった!」
ミック
「中尉こそ!」
「ピンク太りのGセルフは、一機取り逃がしたのを見たよ! 聞こえているよね? ミノフスキー粒子は薄くなっているんだ、坊や」
ベルリ
「バック・パックのミノフスキー・フライトのバランスって……」
「あっ! アイーダさん!」
「うっ! 加速……!」
ミック
「何の発作を起こしているんです?」
クリム
「アイーダ様だ。ミック、追ってくれ!」
ミック
「無理ですよ! お互いに機体がガタガタなんですから」
ベルリ
「アイーダさんは何処だ?」
「望遠モニタでも見えない。何処なの?」
「見えた!」
アイーダ
「フィンの出力が……何で? オーバー・ロードしているんです?」
「キャピタル・タワーから来るものより、ずっと高度が上がっちゃって……!」
「これでは、私も戻れなくなる……!」
「ああっ! レーダーが生き返った? Gセルフは真下! アンノウンも私の下に滑り込むの?」
ベルリ
「アンノウンは、大気圏グライダーじゃないか。こっちから来る」
ウィルミット
「ベル、ベル! ベルは何処にいるのです?」
ベルリ
「何? はっ……?」
ウィルミット
「母ですよ!」
ベルリ
「母?」
「グライダー一機……アイーダさんは? え?」
アイーダ
「機体が安定してくれれば、あんなものは一発で……!」
「きゃっ!」
ベルリ
「撃っちゃ駄目でしょ!」
「あっ!」
アイーダ
「邪魔をして……!」
ベルリ
「母さんなんです!」
アイーダ
「はっ?」
ベルリ
「止めます!」
「逆噴射! ブレーキ掛けられるでしょ?」
ウィルミット
「だって、だって……!」
「じゃあ元気なのね?」
アイーダ
「キャピタル・タワーの緊急脱出用のグライダーなんて、何も出来ない……私、本当に人殺しをするところだった……」
「あれ、ベルリ・ゼナムのお母様?」
ベルリ
「母さん、本当に一人でグライダーで降りてきたんですね」
ウィルミット
「慌てて来たんで、シナモンのケーキ買ってくるの忘れちゃって」
ベルリ
「母さんは、クラウンの時刻表しか頭にない人かと思っていた……」
ウィルミット
「こんな事になれば少しは心配になります。海賊船のモビルスーツなのね?」
アイーダ
「ベルリ・ゼナム、聞こえますね?」
ベルリ
「はい、アイーダ・スルガン」
アイーダ
「索敵チェック、メガファウナへ帰りましょう」
ベルリ
「はい。アルケイン、何であんな高度を取っていたんですか?」
アイーダ
「グライダー以外の敵の存在をチェックしていました」
ベルリ
「ありがとうございました」
アイーダ
「嘘吐いちゃった」
グシオン
「艦長からも説得していただきたい」
ドニエル
「しかし、一番大人の言うことを聞かない年頃ですからね」
グシオン
「年頃ね」
ノレド
「ラライヤ!」
ドニエル
「いいんだ、いい! クラウンの運行長官だ!」
「運行長官がウィルミット・ゼナムなら、ベルリ・ゼナムだろ?」
グシオン
「確か、メッタバルの国際会議以来ですな」
ウィルミット
「総監もお変わりなく。ひょっとしてお嬢様?」
アイーダ
「はい。アイーダ・スルガンです」
ウィルミット
「ここに降りるまでに事情を聞きました。キャピタル・タワーの事は、申し訳ないとは申しませんよ?」
アイーダ
「それは当然です。申し訳ありませんでした」
グシオン
「我々の宇宙技術は、この十数年、大陸間戦争をしている敵、ゴンドワンからも拝借はしています。
しかし、ヘルメスの薔薇の設計図などとは関係がありませんよ」
ウィルミット
「スコード教から、タブー破りの過度で訴えられた戦艦がありますね?」
クリム
「建造中止にしたニック・スペースの事ですか?」
ウィルミット
「ええ」
クリム
「あれは解体されたので、国際会議で問題にならなかった筈です」
ベルリ
「ニック・スペースがメガファウナになっていれば、問題になりますよ」
アイーダ
「何で、そんなことが分かるんです?」
ベルリ
「船の中にあるものには、色々なメーカーの名前や製造年月日が書いてあります」
ウィルミット
「ニック・スペースを宇宙海賊に仕立てたのは、実用テストをする為……そのデータを元に、
アメリア本国で宇宙艦隊を建造し続けたのですよね?」
グシオン
「宇宙からの脅威が具体的になれば、その事を問題にしている暇はありませんよ? 長官」
クリム
「我々は失礼します。メンテナンスや整備品の事で……」
グシオン
「そうしてくれ」
ミック
「お母ちゃんにおっぱい吸わせてもらいな」
ノレド
「失礼でしょ!」
ミック
「ふふっ」
クリム
「パチンコは勘弁しろ」
ノレド
「何さ、あいつ……!」
アイーダ
「これが事実なんです」
ウィルミット
「アメリアで観測した写真ですか?」
ノレド
「じゃあ、タブー破りじゃない! 天体観測なんて……」
グシオン
「月の周りに、人工的な動きが活発なのです」
ウィルミット
「フォトン・バッテリーを運んでくださるカシーバ・ミコシの働きは、宇宙の鼓動そのものなのですよ」
アイーダ
「これがカシーバ・ミコシ……そうでないものが、ここ数年増えているのです」
グシオン
「月の周りにあるものの脅威に対抗する為には、宇宙世紀からの技術は復活させる必要があります」
ウィルミット
「スコード教がフォトン・バッテリーを地球に配ってくださっているのは、地球で生き延びた人類を再生させる為のものなのです。
何があろうと、キャピタル・タワーはそそり立っているものです!」
ベルリ
「母さん、落ち着いて!」
ウィルミット
「ベル、ノレドさん、帰りましょう! ラライヤさんも、キャピタル・タワーに帰りましょう!」
ベルリ
「母さん……!」
グシオン
「キャピタル・アーミィが認めてくれるのなら、エフラグ一機ぐらいは提供しよう」
ベルリ
「あ、ありがとうございます」
下士官
「あれ、隊長機だ」
 〃
「マスク大尉ってんだろ?」
 〃
「補充兵はデッキに落ちた破片を拾え! ビス一本見逃すんじゃないぞ!」
マニィ
「最前線にくれば、ルインやノレド、ベルの居場所が分かると思ったんだけどな……」
下士官
「半分やられたなんてさ、クンタラらしいよね」
 〃
「クンタラはクンタラよ」
 〃
「焦るんじゃない。貴様の希望は作戦参謀に伝えるから、今晩は休め」
 〃
「よし、全員回れ右! 拾ったものは各自回収箱へ収めろ!」
マニィ
「あれ、ルイン・リーだよね……?」
マスク
「奴らは! クンタラが失敗するのが嬉しいのか! じ、自分を試験台のように使って……!」
「貴様……!」
マニィ
「自分もクンタラです!」
マスク
「この敗戦の恥は、マスク大尉として晴らさなければならない」
マニィ
「は、はい!」
マスク
「クンタラにもプライドがある……今はそれを遂げさせてくれ!」
マニィ
「はい! 応援します、マスク大尉!」
マスク
「おうよ!」
マニィ
「ルインは、マスク……」
ハロビー
「起きたか?」
アイーダ
「キャピタル・アーミィは、ゴンドワン軍から宇宙戦艦を借り出したんですよ」
ベルリ
「そうなんですか?」
アイーダ
「ん、そうでなければあの部隊は……!」
ベルリ
「え?」
アイーダ
「私を取り調べたクンパ・ルシータ大佐って……」
ベルリ
「調査部のクンパ大佐の事ですか?」
アイーダ
「ヘルメスの薔薇の設計図の事、知らない筈ないでしょう? 父に、総監に……!」
ベルリ
「大気圏グライダーを一人で使ったんでしょ? 元気出してくださいよ」
ウィルミット
「キャピタル・タワーは大切な交通機関なのよ。宇宙から壊されることなど絶対にない……法皇様はそう仰っていられるのよ」