第12話 キャピタル・タワー占拠

ラライヤ
「あんなの、嫌!」
クレン
「何で分からないんです?」
オリバー
「そう言ったって……」
「あっ、どうしたんだ?」
ノレド
「落ち着かないのよ!」
「ラライヤ、止まれ!」
アイーダ
「どうしたんです?」
ノレド
「やめなさい!」
ハッパ
「ラライヤが壊しにきたのか?」
ベルリ
「何を壊すんです?」
ラライヤ
「こんなの嫌! どかしてよ!」
ノレド
「ラライヤ、落ち着いて!」
ラライヤ
「G嫌がってる! あたし、嫌!」
ベルリ
「ラライヤ、やめなさい! 僕だって反対なんだから……」
ラライヤ
「G……!」
ベルリ
「Gセルフがアサルト・パックに包まれてるのが嫌なんだよね?」
ラライヤ
「ベル!」
ノレド
「もう!」
ラライヤ
「嫌!」
アイーダ
「嫌じゃないの!」
ノレド
「動くな!」
アイーダ
「いい子にするの!」
ベルリ
「腕力ある〜!」
アイーダ
「どうしたの?」
ノレド
「Gセルフが自由じゃないって言うの」
アイーダ
「ああ、それも分かるわね」
ノレド
「我儘言わないの!」
アイーダ
「そうか、この子……」
ラライヤ
「ラライヤの感じ方は、Gセルフを知っているからですよ」
ハッパ
「その話、分かるようになったけど……このアサルト・パックを付けたのは、次の戦場がどうなるか想像しての事なんだぞ」
ベルリ
「次の戦場って、ハッパさんがそれを決めるんですか?」
ハッパ
「俺は大陸間戦争に参加しているから、貴様やケルベス中尉よりは戦争経験がある」
ベルリ
「はい」
ハッパ
「ここは静止衛星軌道に近いんだから、長距離攻撃能力が優先するんだ」
ベルリ
「モビルスーツは接近戦用の兵器なんですよ?」
ハッパ
「だから、これをGセルフで使えるようにしているんだろ」
ベルリ
「島のカリブ研究所で造ったんですか?」
ハッパ
「造ったのはいいけど、グリモアやアルケインでは使えなかったんだよな」
ベルリ
「何で?」
ハッパ
「そんなのは薔薇の設計図を描いた連中に聞いてみな」
「飯を食いながらでも読んでおけ。貴様なら使える」
ベルリ
「でもこれ大きすぎて、Gセルフの方が振り回されます」
ハッパ
「逆だよ。アサルトの姿勢制御システムを使うんだ」
ベルリ
「あっ、はい」
ハッパ
「こんな船に配属されちまったってさ」
ベルリ
「え、何です?」
ハッパ
「貴様に守ってもらいたいんだよ」
ベルリ
「あ、読んでおきます!」
ラライヤ
「チュチュミィ……」
アイーダ
「こんな物を着たから記憶が刺激されたのかもね」
ベルリ
「ああ、そういう事ってあるんですか?」
アイーダ
「あるでしょ? 月曜日に地球に落ちてきた子なんだから」
ベルリ
「あぁ……」
「えぇ? アサルトって『暴行』って意味もあるんですよ?」
パイロット
「ヘカテーを右にしてサラマンドラに帰投!」
ミック
「北に膨らんでいるぞ! 他の船に気を取られるな!」
パイロット
「はっ! サラマンドラ、前1!」
 〃
「前2!」
 〃
「前3!」
サラマンドラ艦長
「大分慣れてきましたな。これなら次の戦闘は期待できます」
クリム
「第一ナットの高度では、周回軌道の制限があって自由に戦えなかった」
サラマンドラ艦長
「重力がきついですからね」
クリム
「しかしザンクトポルトの高度なら、真の宇宙である」
サラマンドラ艦長
「しかし、ガビアルをあそこに接触させるのは無理でしょう。補給艦なんですよ?」
クリム
「だから好都合なんだよ」
ミック
「大尉は、こういう物を見付けたんですよ」
サラマンドラ艦長
「キャピタル・タワーの宇宙検証ですか?」
ミック
「そこです」
サラマンドラ艦長
「ん、『行動不能のビーグル類は救助しなければならない』……」
クリム
「ビーグルについての決まりは書いてないから、遭難に見せかければ……」
ミック
「ガビアルのクルーがザンクトポルトの中に入れて、無傷で占領できます」
ガビアル艦長
「ですから、遭難船らしく煙を出すとか、水浸しにするとかしたいものです」
クリム
「そこはラジオドラマをやるように頑張っていただきたいな」
ガビアル艦長
「学芸会が得意だった連中が二、三名いますからな。では……」
クリム
「現在、本サラマンドラはザンクトポルトへ向かっている」
兵士
「それって、キャピタル・タワーの一番上のナットですよね?」
 〃
「そんな所へ軍艦で行ったら、悶え死にします!」
 〃
「スコード教最高の聖地なんだぞ……!」
 〃
「そんな罰当たりな事、反対だ!」
クリム
「占領するのだから、祟りなどは起こりようがない!」
兵士
「アメリアの物にしちゃうんですか?」
ミック
「我々を追い掛けてくるガランデンから、モビルスーツが出たようです」
クリム
「マスクがいる部隊だ」
ミック
「はい」
クリム
「モビルスーツ全機、本艦を守る体勢に入れ! 尚、敵の状況が分かるまではミノフスキー粒子は散布するな!」
マスク
「クンパ大佐が見ている前でGセルフを取り返せなかったのだから、ここでアメリア軍の先鋒を叩いて名誉を挽回する!」
クリム
「そちらのレーダーではキャッチ出来ているんだな?」
サラマンドラ艦長
「距離は一戦闘距離に入った! メガファウナの動きはどうなっているんだ?」
サラマンドラ副長
「まだ戦闘距離に入っていませんが、しかし……」
クリム
「しかし、何だ?」
サラマンドラ副長
「モビルスーツらしいもの一機、離脱です」
クリム
「一機だと? そんな筈ない!」
「ミック! ミノフスキー粒子散布前のデータを私へ送れ!」
ドニエル
「副長、ラトルパイソンの本隊は、もうザンクトポルトの上に出たんだろ?」
副長
「ガビアルが接触したら、グシオン総監が出るとか言ってました」
ステア
「船体水平、モビルスーツどうぞ!」
ベルリ
「まだ、後5ページある?」
「あ、マニュアル全部読みました!」
「痛っ!」
アイーダ
「アルケイン、出ます!」
ベルリ
「え? なら……!」
アイーダ
「ベル、捕まります!」
ベルリ
「どうぞ。加速しますけど」
アイーダ
「合わせます」
ベルリ
「太陽の左上にサラマンドラが居るはずです」
アイーダ
「方位確定」
「追い掛けてるガランデンのマスクの部隊って、お人形さんのようなモビルスーツでしょう?」
ベルリ
「そうです。サラマンドラを叩かれたら、お父さん、困るんですよね?」
アイーダ
「父はラトルパイソンで上がってきているのに、はしゃぎ症の天才クリムを抑えられないのです」
ベルリ
「マスク部隊の攻撃を止めりゃいいんです」
アイーダ
「あ、ありがとう……」
ベルリ
「どうしたんです?」
アイーダ
「マスク部隊はキャピタル・アーミィなのに、よく決心してくれたと思って……」
ベルリ
「仕方が無いじゃないですか」
サラマンドラ艦長
「追い掛けてくるモビルスーツ部隊と本艦、キャピタル・タワーを一直線上に乗せろ!
我々がキャピタル・タワーを前にしておけば、後ろから来る敵は長距離攻撃できない!」
サラマンドラ副長
「という事は、我々の方がラトルパイソンより先に?」
サラマンドラ艦長
「そうだ。グシオン総監ではなく、我々が一番乗りになる!」
パイロット
「伝令、メガファウナからもモビルスーツ二機が出ました!」
クリム
「アルケインも出たか!」
パイロット
「こちらと合流出来るようです」
ミック
「アイーダ様と一緒に戦えるんで、嬉しいんでしょ」
クリム
「彼女にそれ程の腕はない」
ミック
「Gアルケインなら戦力になりますけど?」
クリム
「期待はするな!」
ミック
「何を怒ってんです?」
バララ
「長距離ミサイルをスタンバイ」
マスク
「応!」
「バララ、そのミサイルのフォトン・アイを作動させれば……」
バララ
「はい、ミノフスキー粒子があっても目標を追い掛けられます」
アイーダ
「ベル、待ちなさい! デジタル画像でマスク部隊の位置が分かったといったって、それは推定位置ですよ?」
ベルリ
「狙い撃ちは無理でも、サラマンドラへの攻撃はやめさせられます。ハッパさんの予想が的中して長距離攻撃用のアサルトが使えるんですから」
アイーダ
「アサルトのフォトン・アイって、信用出来るんですか?」
ベルリ
「え? だって、ハッパさんのメンテナンスは信じます!」
アイーダ
「ザンクトポルトまでが照準に入っているんでしょ?」
ベルリ
「距離が全然違います。けど、射撃性能は不明で当たらない訳だから、後は大変かもしれない……」
アイーダ
「そういうの……メガファウナは、見える訳ないか……」
「ベル、頼みます」
マスク
「二回戦はないぞ! 名誉挽回の作戦を実行する!」
バララ
「照準合わせ! タイマー・セット!」
マスク
「ザンクトポルトが背景にあったり、サラマンドラはジグザグのコースを取っているが……」
「撃てっ!」
バララ
「行けっ! よく見てね!」
ベルリ
「モビルスーツは沈められなくても!」
サラマンドラ副長
「追い掛けてくる光は4つ!」
サラマンドラ艦長
「迎撃命令が先だろ! モビルスーツ部隊は反応しろ!」
「ワイパー・ヴァイパーは迎撃の弾幕を開け! 味方機は落とすなよ!」
サラマンドラ副長
「横合いから、ビームとミサイルの助けがありました!」
サラマンドラ艦長
「クリム達が防戦してくれたのか!」
サラマンドラ副長
「方向がまったく違います!」
クリム
「あの爆発の光は……!」
ミック
「サラマンドラが狙われました!」
クリム
「マスクはモビルスーツ戦を嫌って船を狙ったのか? 汚い!」
マスク
「サラマンドラは無事だと? 横合いから邪魔が入ったという事は、また奴か!」
バララ
「このビームの方向……大尉、我々の邪魔した奴は、私の正面!」
マスク
「了解だが、現在のサラマンドラは先発隊をザンクトポルトに出して、守りが薄い!」
ベルリ
「来ませんか?」
アイーダ
「動きはあるようだけど……」
マスク
「クンタラの名誉に賭けて、サラマンドラをマックナイフの手で沈める!」
操舵手
「敵機正面!」
サラマンドラ艦長
「一斉射でしょ!」
マスク
「守りは甘いぞ!」
バララ
「軍艦は飛行機には勝てないの!」
マスク
「後ろのエルフがやられた? 援軍が来たのか!」
バララ
「マスク! サラマンドラのモビルスーツが戻ってきました!」
クリム
「成り上がりの軍隊に、戦艦が沈められるものかよ!」
ミック
「クリムは口より手が先だろ!」
クリム
「あっそれ!」
「生意気だったのを褒めてやるよ!」
「うっ!」
マスク
「私の部下をアメリア如きにやらせるか!」
「何だ?」
「Gセルフめ、何を企んでいる!」
クリム
「来たかよ! 姫様を連れ出さずに来れなかったのか!」
ミック
「キャピタル・アーミィだって、混成部隊を編成出来るようになったんですよ!」
「はぁぁっ!」
ベルリ
「ああっ……」
アイーダ
「ベル、ベル、どうしたの? ベルリ、どうしました?」
パイロット
「うっ! 隊長!」
クリム
「味方か!」
バララ
「駄目でしょ大尉、焦りが丸見え! それじゃ青いジャハナムにやられる!」
ベルリ
「あんた達、ザンクトポルトの目の前でモビルスーツ戦なんて、人類のやる事じゃありませんよ!」
アイーダ
「ああ、そう! ベル……!」
クリム
「ザンクトポルトを占領する為には、この空域で戦ってはならない!」
「うっ!」
ミック
「もうサラマンドラへ帰る頃合です!」
クリム
「そ、そうではあるが……!」
ミック
「マスク部隊も同じです!」
サラマンドラ副長
「援護射撃で味方機を撃ち落とすな!」
サラマンドラ艦長
「歴史的なモビルスーツ戦をアメリアがやれるようになるなんて、私は感動している……」
サラマンドラ副長
「モビルスーツを収容しつつザンクトポルトへ向かう!」
「艦長、航海日誌なんか後で書いて下さい!」
マスク
「ザンクトポルトが射程距離に入ってしまえば戦えない! ガランデン、キャピタル・タワーへ向かうのは当初の作戦通りだ!」
アイーダ
「ベルリ、メガファウナへ帰投します」
ベルリ
「あっ、はい!」
アイーダ
「メガファウナでザンクトポルトへ入りましょう」
ベルリ
「え、出来ませんよ! 外からじゃキャピタル・ガードのマシンだって入れないんですよ?」
アイーダ
「え? そうなんですか? なら、ザンクトポルトの下のナット、144番ナットなら入れるでしょ?」
ベルリ
「あ、はい。桟橋はありますし、ケルベス中尉なら入港許可を取れる筈です」
マスク
「艦長! ジュガン指令に、我々はキャピタル・タワーに取り付くと伝えていただきたい!」
ガランデン艦長
「ガビアルが、ザンクトポルトに受け入れられたようです」
マスク
「そうであればこそ戦力の補強は必要です。クンパ大佐には、それをやって頂かなければなりません」
ステア
「モア、ちょい、ちょっ!」
ギゼラ
「オーライ、止め!」
ケルベス
「あのね! 俺達は、法王とウィルミット長官がザンクトポルトに上がっているのは知っているんだ!」
職員
「そうであっても、当局はケルベス中尉とベルリ・ゼナムのIDを確認しただけなのですから、
遭難船としてのメガファウナは、この港以外の移動は認められません。ザンクトポルトに居るウィルミット長官とは……」
ケルベス
「それは! 急いで下さいよ!」
「あいつら丸め込めたら上にあがれると思ったんだけど……」
ベルリ
「さっきの戦闘も、アメリア軍がザンクトポルトへ入ったのも知らないなんて、何なんです?」
アイーダ
「キャピタル・ガードって、ああなんでしょ?」
ケルベス
「また引っ叩きますよ?」
アイーダ
「私、アルケインで上がってみます」
ベルリ
「なら、僕だって行きます」
アイーダ
「えっ?」
ベルリ
「あの人達、僕らの事、分かってくれませんもの」
ドニエル
「そりゃそうだ」
ケルベス
「サラマンドラがザンクトポルトへ入ったっての、本当なんですか?」
ドニエル
「ガビアルを出汁にして入れたな」
ケルベス
「って事は、占領したんだ! 罰当たりめ!」
ドニエル
「アメリアは、キャピタル・タワーを全人類に解放しようってんだぞ?」
アイーダ
「今は、ザンクトポルトの様子を調べる事が先です。モビルスーツ二機で行きます」
ラライヤ
「フフッ、チュチュミィに入った……」
ノレド
「クラウンが来た!」
アイーダ
「ザンクトポルト、近くなりました」
ノレド
「あれがザンクトポルト……」
ハロビー
「定員オーバーのまま」
ベルリ
「アメリア軍のモビルスーツだ」
ノレド
「かなり居るじゃない?」
アイーダ
「天才クリム、かなり乱暴な事をやって上陸した……?」
「アメリア軍なら……!」
ノレド
「ひっ……!」
ベルリ
「ちょっと我慢して……!」
「パスはしてくれる」
パイロット
「Gアルケインじゃないか!」
 〃
「アイーダ様が合流なさって下さるぞ!」
兵士
「アイーダ様のアルケインがGセルフを……はい?」
「はっ! Gセルフは縛られています!」
 〃
「我々も着いたばかりで、クリム大尉が入られるのは……」
ノレド
「あぁ、走らない!」
兵士
「クリム大尉は法王に会う為に、グシオン総監と一緒に」
アイーダ
「父が来ているのですか?」
兵士
「ラトルパイソンで来てますから」
アイーダ
「場所はどこなのです?」
兵士
「ここを出て港口ビルに上がって、外です」
アイーダ
「あぁ、ありがとう」
「お母様は、法王様と御一緒ですよね」
ラライヤ
「エレベーター」
ベルリ
「恐らく一緒です」
ラライヤ
「上に行きます」
職員
「カードは、お一人一枚ずつです」
ベルリ、アイーダ
「へぇ……」
ノレド
「これがスペース・コロニー……」
店員
「レンタルのシャンクなら、大聖堂まで5分程だよ。ああ、精算室とも言いますね」
クンパ
「よくもまあ、グシオン閣下までいらっしゃるというのに……」
ウィルミット
「許し難い、認められません! グシオン総監は、こんな若者のはしゃぎ症に乗せられて、見損ないました!」
クリム
「まどろっこしい! ザンクトポルトへ艦隊を寄せたということは、アメリアにはここを管理する能力があるという事でしょう!」
グシオン
「如何でしょう、ここは事態が進むままにという事で、ご容赦頂きたい」
ウィルミット
「そうは行きません! 法王様が、精霊祭でもないのにここまで上がられたのは異例中の異例なのですよ?」
アイーダ
「お父様が、宇宙からの脅威を無いものにする為にいらっしゃったのではないのですか?」
グシオン
「アイーダ……!」
ウィルミット
「ベル!」
クンパ
「この二人……」
クリム
「その前に、フォトン・バッテリーの供給システムを支配しておかなければ、脅威に対応出来ないでしょう!」
ウィルミット
「キャピタル・タワーの管理運営は、スコード教から与えられた私の使命なのです!」
ベルリ
「母さん!」
ゲル法王
「お若いのは、聖域のトワサンガの力を……」
クリム
「トワサンガの連中などは、宇宙世紀の生き残りがヘルメス財団をでっち上げて……!」
音声
「エマージェンシー・ライブ、6秒前より再生直結、6秒前より再生直結、方位SS、11度」
ミック
「ガビアルが狙撃されました!」
グシオン
「宇宙からの脅威は本当じゃないか!」
ベルリ
「違いますよ。本当にそうなら、ここが真っ先に攻撃されたんじゃないんですか?」
ミック
「ガビアルはザンクトポルトの上空に居た……って事は、これは警告でしょう」
アイーダ
「警告……!」
グシオン
「警告……?」
ベルリ
「警告……」