第15話 飛べ!トワサンガへ

ドニエル
「いつ攻撃があるか知れんのだ! ネットは広げるだけ広げろ! サラマンドラなど当てにするな!
何しろ、お坊ちゃんクリムが戦闘指揮者なんだからな」
ベルリ
「ふぁ……」
ラライヤ
「私達はYG−111と呼んでいました」
ノレド
「起きたの?」
ベルリ
「ん、シャワーを浴びます」
ノレド
「そうしな」
ベルリ
「うん」
ハロビー
「起きたか、ベル」
ベルリ
「煩いねぇ」
ラライヤ
「私達は地球に着いたら、後はドレット艦隊の到着を待つだけだったんです」
ノレド
「じゃあ、あれって偵察用のモビルスーツだったんだ」
ラライヤ
「いえ、軍で不採用になって、私達に回されたって……」
アイーダ
「それで、地球に居る間は『レイハントン家の生き残りを探せ』って命令されていた?」
ラライヤ
「見付かればいいぐらいで……ドレット軍では、トワサンガの家同士の問題なんか昔話になっていました」
ハロビー
「体調チェック、チェック」
ベルリ
「はぁ……ああ、面倒くさ……」
ラライヤ
「『フォトン・バッテリーの技術を教えろ』というのがドレット家で、レイハントン家はそれに反対していたんです」
ノレド
「それでトワサンガは分裂していたんだ」
アイーダ
「技術の独占は反対……」
ノレド
「でも、フォトン・バッテリーは解体して調べようとすると、みんなボンッ……」
アイーダ
「それでレイハントン家は、技術をヘルメス財団に独占させておきたかったのね」
ノレド
「そのバッテリーや空気や水の玉は、降臨祭でヘルメス財団から地球に配給されてるんでしょ?」
アイーダ
「トワサンガ経由でね」
ベルリ
「この空気の玉一つで、人間一人、一ヶ月生きられるんですからね」
ノレド
「食べていきな?」
ベルリ
「……いいですか?」
アイーダ
「どうぞ。Gセルフをフル活用できるパイロットさん」
ベルリ
「嫌味ですか?」
ラライヤ
「捕虜になったリンゴ少尉がそう言ってるんですって」
ベルリ
「ドレット艦隊のパイロットの?」
ラライヤ
「そう」
ベルリ
「ふぅん……」
ギニアビザウ艦長
「エルモラン、出撃した」
「あぁ、マッシュナー司令、どうぞ」
マッシュナー
「すまない」
「ロックパイ、アリンカトで狙撃すればモビルスーツが失われる事はないんだから、貴様の働きは重大なのだぞ」
ロックパイ
「分かっています。その為のアリンカトなのですから」
ギニアビザウ艦長
「クノッサスのモビルスーツ部隊を追い掛けますが、テイル・ノズルが焼き切れるかもしれませんぞ」
マッシュナー
「月の引力圏に入れば、フライバイでトワサンガに入れるんだろ?」
ギニアビザウ艦長
「あぁ、はい」
マッシュナー
「なら今は、地球人の二隻の戦艦を沈める事が先だろ」
ギニアビザウ艦長
「アリンカト二隻、揃ったぞ」
マッシュナー
「いいじゃないか」
ロックパイ
「金の鉱脈に餌を求める妖怪がアリンカト……地球人には、この性能は想像は付くまいよ」
「我々が取り逃がした敵機の後始末は、宜しく!」
パイロット
「任せてください!」
ベルリ
「えぇっ!」
アダム
「ハッパ、本気でベルリに使わせんのか?」
ハッパ
「砲撃だけです。馬鹿でも使えます」
ベルリ
「この照準器、当てになるんですか?」
ハッパ
「一戦闘距離からでも当てられるよ」
ベルリ
「嘘でもそう言ってもらえると安心できます!」
ハッパ
「嘘じゃぁない」
ルアン
「ネットの位置、もう少し上に移動した方が良くないか?」
オリバー
「ブリッジだけ守ったってしょうがないんだぞ」
「あれ? どっちが上なんだ?」
ルアン
「宇宙では北極星の方向が上! 俺らの感覚は関係ないんだよ」
副長
「光源来た! ミノフスキー粒子散布!」
ドニエル
「総員、来るぞ! 対空戦闘用意!」
マッシュナー
「では、モビルスーツ部隊を追い越して砲撃をさせます」
ギニアビザウ艦長
「あぁ、宜しく」
マッシュナー
「各砲座、一斉射! 撃てっ!」
ロックパイ
「直撃したか?」
パイロット
「あの爆発、どう思う?」
 〃
「いやに軽いよな……」
ロックパイ
「確かに。ビームは自己放電させられ、ミサイルは自爆させられている?」
「地球人共は生意気に抵抗しているのだ! ミサイルを使う?」
「もう一息距離を詰めて、一撃で仕留める!」
「ハハッ、このエネルギーの溜まりよう! 地球人共、月へ辿り着けるなどと思うなよ!」
ベルリ
「あっ、こちらのミサイルがやられた?」
「何?」
アイーダ
「バリアに使っていた網が……!」
オリバー
「網の切れっ端だって、バリアになるって事でい!」
ケルベス
「アイーダさんはメガファウナへ後退!」
ルアン
「俺達の帰れる所を守ってください!」
ベルリ
「そうです! 僕の帰る所はメガファウナなんですから……」
アイーダ
「ん、了解!」
「サラマンドラは、またミサイルを発射しました!」
ケルベス
「こっちだって、使える物は使うってね!」
ベルリ
「何これ! ハッパさん、この照準器使えますよ! 凄い!」
「この距離だと直撃するかもしれないけど、そっちが攻めてくるんだから……死なないでよ!」
ハロビー
「居たぞ、投降だ、ラライヤ」
ノレド
「居たの? 何してたんだ?」
ラライヤ
「リンゴ少尉が言っている事など、私には分かりません」
ノレド
「何なの?」
ラライヤ
「艦長から、ドレット艦隊で使うビーム・キャノンの性能を聞き出せって」
リンゴ
「……信じられん、あんな子が先発隊に送り込まれていたのか」
「ドレット軍なんていっても、やってる事は無茶苦茶だろ」
ハッパ
「使うんですか? ラライヤさん」
マキ
「コンピュータの方は済んだよ」
ハッパ
「おう」
「出撃するつもりなの?」
ラライヤ
「動かせるかどうかを……」
ノレド
「まだ無理でしょ」
ラライヤ
「遊んでいる訳にはいきません」
ノレド
「これ、軍用だよ?」
ハッパ
「武装関係の事は……」
ラライヤ
「モビルスーツって、ビーム・ライフルまでは標準装備なんですよ」
ハッパ
「メーカーによって癖があるんだぞ?」
ラライヤ
「それはそうですけど」
ノレド
「まだ全部、色塗り終わってないんだぞ?」
ラライヤ
「すぐ出るなんて言ってません」
ドニエル
「本艦は退避運動に入る!」
ベルリ
「ビームが消えた! 当たらなかったんだ……って事は、こちらがやられるんだ!」
ドニエル
「ステア、手加減しろ!」
ステア
「イェッサー!」
アダム
「ステアめ!」
ノレド
「トワサンガでは、アグテックの『技術の改良や進化はさせてはいけない』っていうタブーはないのか?」
ラライヤ
「宇宙で暮らす為の技術開発はするけど、古くていい物には地球の記憶がありますから、ずっと使っています」
ミック
「はい、大尉は最後に出撃で宜しい! 宇宙では、このヘカテーの方が使い勝手がいいんですよ」
クリム
「ミックめ、私の機体を奥に仕舞い込ませて……しかし、私は貴様のお尻を追い掛ける訳にはいかない」
「敵はあの光の向こうから出てくるぞ!」
ミック
「だから私が出ているんでしょ?」
ロックパイ
「よし、アリンカトの射程距離に入った!」
ベルリ
「見えた! けど……戦艦以上に速いものに、高熱源が……二つか!」
「当たれっ!」
「うぅっ、あれか! 死ぬんじゃないぞ、撃っちゃうから!」
ロックパイ
「ミッシェル隊がやられた? あれか!」
ベルリ
「取り囲まれた!」
「死ぬなよ!」
「うぅっ……!」
パイロット
「ぬっ、何だあの機体?」
「あれは不採用になったYGじゃないか!」
ベルリ
「パイロットは脱出してよ! 爆発させてないんだから!」
「あっ!」
パイロット
「こっちは正式採用をしたモランなんだぞ!」
「洒落臭いんだよ!」
ベルリ
「あぁっ!」
「僕にライフルを使わせないでください!」
「まだ居る?」
「追い掛けてこなければ……!」
ロックパイ
「YGは速い!」
「ラライヤ・アクパールは殺人鬼になったのか!」
「ラライヤが地球人に寝返ったのか!」
ベルリ
「これ以上僕にライフルを使わせると、みんなで死ぬぞって言ってるでしょ!」
ロックパイ
「あれはラライヤではない! 地球人が操っているんだ!」
ベルリ
「サラマンドラから出た編隊? 追い掛けすぎ!」
クリム
「Gセルフはやられた? ほう、本体は無事か!」
ベルリ
「深追いは危険ですよ!」
「メガファウナを狙ったビームは……」
ケルベス
「拡散ビームは狙撃するんだ!」
オリバー
「ビームの破片が!」
ルアン
「通り過ぎてくれっ!」
アイーダ
「ビームで弾幕を張れば防げます!」
ステア
「な、何で?」
ギゼラ
「ラライヤがモランを出しました!」
ドニエル
「何だと? ラライヤに操縦させただと?」
ノレド
「ラライヤ! チュチュミィを忘れていった!」
アダム
「いつ直撃があるかしれないんだぞ!」
リンゴ
「結局、モランを動かしてしまったものな……」
ラライヤ
「ネットが無ければ、メガファウナはとっくにやられていた!」
ミック
「ハハッ! グシオン総監が調達してくれたヘカテーは使えるじゃないか!」
「大尉!」
クリム
「外した? しかし……!」
「私は天才である!」
「アメリアが建造した宇宙戦用ジャハナムってのは、宇宙世紀の成果ともいうぞ!」
ベルリ
「はぁっ、照準きた! クリム大尉達が追い掛けているんだから……っと、この角度で水平方向は……こんなもんか?」
「これで撃つけど、これは牽制なんだ! 誰も死ぬなよ!」
クリム
「うぉっ!」
ミック
「ビームだと?」
ロックパイ
「狙われた? どうせまぐれ当たり!」
「マッシュナー司令が援護してくれている!」
「まさか、地球人の中に伝説に云われてるニュータイプなんてのが……居る訳はないだろ!」
ミック
「追い掛けてきた連中は後退してくれました。聞こえますか? 大尉」
クリム
「おう。Gセルフが援護してくれたらしいな」
ミック
「大尉、機体に傷があります」
クリム
「接近戦をやったからな」
ミック
「空気漏れ、大丈夫ですか?」
クリム
「どちらが近い?」
ミック
「え? あぁ、メガファウナです」
ハッパ
「見れば分かるでしょ! 工具をさっさと持ってきて!」
クリム
「アサルトを使って狙撃をしてくれていたようだな」
ベルリ
「あっ、はい」
クリム
「アメリア軍に入隊してくれたか?」
ベルリ
「自分はキャピタル・ガードのままです」
ミック
「な? 可愛くないだろ」
アイーダ
「大尉、機体の修理が終わったら、ただちにサラマンドラへ帰ってください」
クリム
「了解です。姫様は何故トワサンガへ向かう気になったのです?」
アイーダ
「ドレット艦隊の動きを止める為です」
ケルベス
「ラライヤがモランを使ったんだって?」
ラライヤ
「動かしてみただけです」
ノレド
「まだリハビリ中なんだからね!」
クリム
「そうか。それを操縦しましたか」
ラライヤ
「はい」
ノレド
「覚えている?」
ラライヤ
「クリム中尉。本名はクリムトン・ニッキーニ」
ノレド
「今は大尉」
ラライヤ
「それに、ミック・ジャック中尉」
ミック
「私の事、覚えているの?」
ドニエル
「どういうつもりでサラマンドラを出したのだ?」
クリム
「トワサンガの存在をタブーにしている意味が無くなったからです。となれば……」
ベルリ
「ドレット艦隊と連合するんですか?」
クリム
「何だと?」
ミック
「キャピタル・テリトリィが内部分裂を始めたから、思い付いたんだろ? 候補生は」
ベルリ
「え? そうじゃないです。そうじゃなくて、大尉は天才だから……」
ドニエル
「父上の作戦か。大統領として、対ゴンドワン戦を考えて……」
クリム
「お父上がお考えですよね」
アイーダ
「私は知りませんけど、トワサンガも意見の違いがあるから、ベルはそう考えたんでしょ?」
ベルリ
「まぁ、そうです」
ラライヤ
「あそこです」
ハッパ
「見てみるけどさ」
ドニエル
「モビルスーツ共は応答無しなのだな?」
ギゼラ
「トワサンガは、ウーもスーもありません!」
アイーダ
「リンゴ少尉の言う通りで、トワサンガの人達は想定外の事で慌てているんでしょ?」
ドニエル
「そうなんですか? 少尉」
リンゴ
「あっ、はい。政権側とドレット家の間で色々あるようです」
ステア
「見えてきました!」
「あの光ってる柱が、シラノ−5?」
ラライヤ
「そうです」
ドニエル
「どこから入れるんだ?」
ラライヤ
「南のリングならいいんですけど」
ドニエル
「ギゼラ、入港は?」
ギゼラ
「ちょっと待ってください」
リンゴ
「君はレジスタンスの仲間だったのかよ」
ラライヤ
「南リングは私の田舎です」
ケルベス
「下に居ないと思ったら……艦長! 捕虜をこんな所に!」
ドニエル
「今は水先案内人をやってもらっている」
ギゼラ
「『ゴー』ですって」
「慣性重力、合わせ!」
ステラ
「加速、ちょい、ちょいよ!」
ドニエル
「モビルスーツは監視!」
クリム
「ぶつからないのか?」
サラマンドラ艦長
「まだ3キロあります」
「面舵戻せ!」
クリム
「4番に入るのか?」
サラマンドラ艦長
「一番明るい桟橋ですから」
クリム
「メガファウナは1番に入る」
リンゴ
「え? ここ、どこです?」
ドニエル
「お前達の故郷なんだろ?」
ラライヤ
「来た事ない港です」
ステア
「冗談言ってんじゃない?」
ベルリ
「この港、いやに寂れてません?」
アイーダ
「トワサンガのモビルスーツは姿を消しましたしね」
ルアン
「姫様、これ罠なんじゃありませんか?」
アイーダ
「そうかしら……」
クリム
「よく開けたな」
ミック
「ユニバーサル・スタンダードだったんです」
「へぇ……!」
クリム
「砂埃は上から来ているな」
「うっ?」
カヴァン
「スペース・コロニー内でビームを使う馬鹿がいるか!」
「パイロットは外に出ろ! このままコックピットの中で蒸し焼きになるか?」
クリム
「こ、こいつ……!」
カヴァン
「政府の狙いは分かっている! 地球人の兵器と軍艦は乗っ取って利用するんだ! おら、立てや!」
ラライヤ
「今、地震ありませんでした?」
ノレド
「あったみたい」
アイーダ
「こんな荒地に降りなくったっていいのに」
ノレド
「少しでも早く、故郷の土を踏みたいんだって」
ラライヤ
「ふふっ、ただいま! サウス・シラフは、トワサンガ! そうか、ここはモライだ!」
フラミニア
「ラライヤ、YGをしゃがませなさい! そっちのG系も、四角いのもしゃがませなさい!」
ラライヤ
「あぁっ、お姉さん!」
フラミニア
「やっぱりラライヤ!」
ラライヤ
「フラミー、どうしてこんな所に?」
フラミニア
「話は後。あそこにトワサンガのザックスが出てるのよ」
ラライヤ
「ベル、アイーダさん、しゃがんでしゃがんで! ケルベスさんも!」
ノレド
「どうしたの?」
ラライヤ
「私のご近所の、フラミニア・カッレさん」
レジスタンスの男
「フラミー、奴らは桟橋の方に戻っていった」
フラミニア
「良かった」
レジスタンスの男
「ラライヤだよな?」
ラライヤ
「そうですよ!」
ノレド
「フラミニアさん?」
ハロビー
「よっ!」
アイーダ
「アイーダ・スルガンです」
フラミニア
「フラミーと呼んでください」
ノレド
「宜しく! ノレド・ナグです」
ベルリ
「ベルリ・ゼナムです」
フラミニア
「会っていただきたい方がいます。今なら向こうは取り込んでいるようですから、チャンスだと思います」
アイーダ
「ん、私達に会わせたい人物ですか……?」
ベルリ
「ここで?」
フラミニア
「はい」
ラライヤ
「お姉さん」
レジスタンスの男
「YGなんかは寝かせておいた方がいい」
フラミニア
「ああ、モビルスーツなんかは雑木林に寝かせておきましょう」
ケルベス
「寝かせんの?」
フラミニア
「かくれんぼって、立ったまま隠れます? 仲間も居ますから何とかします」