第16話 ベルリの戦争

レジスタンスの男
「ガヴァン達は、地球人を捕まえたって事なんだな?」
「ああ。4番桟橋に入った軍人が、ガヴァン達とマシン戦をやったようです」
フラミニア
「その対応でドレット軍は精一杯のようなのね?」
レジスタンスの男
「お陰でこちらは安心という事です」
ドニエル
「でかい隔壁だな」
アイーダ
「あの方達もお仲間?」
レジスタンスの男
「違いますよ」
アイーダ
「凄い!」
ノレド
「火星か金星から持ってきたの?」
ラライヤ
「オリーブの樹よ」
ドニエル
「500年物がゴロゴロあるな」
ノレド
「さっきの土地に比べたら、ここの畑……」
フラミニア
「麻とか胡麻の栽培は、最近許可されるようになったんです」
アイーダ
「何故なんです?」
フラミニア
「レイハントン家の土地だったからです」
アイーダ
「レイハントン……レイハントンの土地……?」
ドニエル
「何で、ここだけ窪んでるんです?」
フラミニア
「ここは元々地下だったんです。土が抜けちゃって」
「こちらからどうぞ」
ベルリ
「ひょっとすると、この下がすぐ宇宙ですか?」
ドニエル
「そうみたいだな」
フラミニア
「ロルッカさん、お連れしました」
「こちらにお座りください」
ラライヤ
「はい」
フラミニア
「本当にご苦労を掛けましたね」
「大変だったんだ?」
ミラジ
「遠路遥々ご苦労様でしたな。ミラジ・バルバロスです」
ドニエル
「ドニエル・トスです」
ミラジ
「お座りに……というより、お着替えをしていただいた方が……」
ロルッカ
「おぉ、そうしていただこう」
「そうなさいませ、姫様、皇子」
ロルッカ
「ですから、私達はドレット艦隊のレコンギスタ作戦を中止させたいだけなのです」
ドニエル
「その地球に戻る作戦が、何でこの時期だったのかという事ですな」
ロルッカ
「ノートゥ・ドレット将軍の急ぎ過ぎなのです」
アイーダ
「中止させる方法はないのでしょうか」
ロルッカ
「それは……。姫様、お母様に……失礼」
ミラジ
「トワサンガの問題もありますが、地球では戦争を面白がる世代が生まれてしまった事も原因になっています」
ベルリ
「僕のような世代の事を言っているんですか?」
ミラジ
「あぁ、いや皇子、そういう……」
アイーダ
「私だって、Gセルフで宇宙海賊をやってしまいました」
ミラジ
「それについては我々にも責任があります」
ロルッカ
「私達の建造した機体が、ドレット軍の事前偵察用の1機として採用してもらえたのです」
ノレド
「私達はGセルフのお陰で命拾いしているよ?」
ミラジ
「我々がいうYG−111ですが、あれが地球に向かう直前に、ラライヤにも知らせない性能を仕掛けたのです」
ロルッカ
「それで、お二人には余計なご苦労を掛けさせる事になったのですが」
「生まれ故郷へご案内申し上げたいのです。レイハントン家の皇女様と……」
ミラジ
「レイハントン家の皇子様」
ラライヤ
「はぁ?」
ノレド
「何だとて?」
ベルリ
「何かの冗談、じゃないみたい……」
フラミニア
「もう少し静かにおやり! 近所迷惑なんだから」
ロルッカ
「こちらが子供部屋になります」
ベルリ
「覚えています」
アイーダ
「そう」
「全然覚えていませんね」
ベルリ
「ひょっとしてあれ、僕が使っていたんですか?」
ロルッカ
「不思議とあそこからよく落ちていました」
アイーダ
「この空気は知らないとはいえない気持ちになれます。何かしら?」
「あった、ここにあったんだ」
「思い出したくて、ずっと思い出せなくて、何だったんだろうって、ずっと思い出したかったもの……」
ベルリ
「アイーダさん」
アイーダ
「私は、父と母しか知らないから……」
ベルリ
「僕も母が、父の写真とデータはみんな捨てたって」
ロルッカ
「同じ時期の写真がこちらにございます。貴方がたのご両親です」
ミラジ
「画像は、ご老体の持っていたものがその一枚しかなくて、データはすべてドレット家によって削除されました」
「おぉ、それは……」
アイーダ
「本棚の上の引出しにありました」
ロルッカ
「お二人には、ピアニ・カルータ大尉の指揮の下に地球に亡命していただきました。それで捨て子として処理されたのです。
お互いに知らない方が安全だろうという事だったのですが、我々は捜し当てたかったのでGセルフに仕掛けを施しました」
ベルリ
「レイハントン・コードの事ですね?」
アイーダ
「あぁ、初めてGセルフに触った時……」
ベルリ
「アイーダさんもこれ、持っているんだ?」
アイーダ
「それ……私も同じ物を持っています」
ロルッカ
「タッチ・センサーで汗とか血液からDNAは特定できますし……」
ミラジ
「網膜や指紋からも、レイハントン家直系の方なら操作出来るという仕掛けでして」
アイーダ
「私達は、貴方がたのこの仕掛けに乗せられて、とても酷い現実と対決してきました」
「勿論、私達を育ててくれたゼナム家とスルガン家の気質を受け継いだという事もあるでしょう。
けれど、Gセルフを操れたお陰で私は恋人を殺され、ベルリは……弟は、人殺しの汚名を被る事になったのです」
「貴方がたに使命というもの、理想とする目的があるにしても、そのようなものは私は私自身で見付けて成し遂げます」
ベルリ
「姉さん」
アイーダ
「時代は年寄りが作るものではないのです」
ベルリ
「ハハッ、やっぱり……」
アイーダ
「何が可笑しいのです?」
ベルリ
「天才のクリム大尉が、Gセルフを動かせないって怒っていた事ですよ」
アイーダ
「ラライヤさんを連れ出したりしてね」
「何でしょう?」
ベルリ
「どうします? これから」
アイーダ
「フラミニアさん達の情報は役に立ちます。ドレット艦隊は、メガファウナとサラマンドラを味方にするつもりです」
ベルリ
「はい」
アイーダ
「ですから……」
ノレド
「行くって!」
ドニエル
「姫様、宜しいですな?」
アイーダ
「ご心配をお掛けして……」
マスク
「トイレット・ペーパー一つが貴重品というのに、コンテナを流すとは何事か!」
「甲板長! 全員に気合を入れておけ!」
甲板長
「足のマグネットを掛けて踏ん張るんだ!」
バララ
「大尉」
マスク
「あぁ」
バララ
「太陽電池パネルの北側の光は、鉱物資源を掘り出している施設ですね」
マスク
「そうだ。かなり大規模だな」
雑務兵
「赤道のベルトだろ?」
マニィ
「私達、騙されてません?」
クンパ
「宇宙世紀を含めた2000年の歴史があるのだ。もうすぐ、トワサンガのシラノ−5が見えてくる」
ガランデン艦長
「小惑星を核にして建設したものとか?」
クンパ
「そうではあるのですが、イメージは違いますね」
ガランデン艦長
「何です? ランタンじゃないですか」
クンパ
「あの中心の隕石がシラノ・ド・ベルジュラックの花に似ているとか」
ガランデン艦長
「はぁ、いや……」
クンパ
「まぁ、ドレット艦隊を送り出せるだけの工業力のある国家ではありましょう」
ガランデン艦長
「トワサンガの制空権に入った! モビルスーツは全機、警戒体勢!」
クンパ
「入港許可を取り付けても、入港が完了するまでは油断は禁物です」
ガランデン艦長
「そりゃそうでしょう」
マスク
「何だ?」
バララ
「マスク大尉はクンパ大佐を信用しているのですか?」
マスク
「信用しているからこそ、キャピタル・タワーを包囲しているドレット艦隊を置いたままここまで来たのだろ?」
マニィ
「大尉! 本艦がトワサンガの軍隊に投降するっていう事は……」
マスク
「無線を使うな! 既にトワサンガの空域だ!」
マニィ
「は、はい」
マスク
「向こうの軍事力を頂いて帰るには、一度は仲間になってみせる」
マニィ
「一度は……」
マスク
「分かるな?」
マニィ
「そういう作戦ですか」
マスク
「そうだ。マニィ・アンバサダ、細心の注意を払え」
マニィ
「はい、大尉!」
「流石、先輩……」
バララ
「フッ、マスクはあの女には甘いかい?」
「フフッ……」
ドニエル
「シラノ−5のアパッチ軍港に入港させるんですと?」
フラミニア
「キャピタル・アーミィのガランデンって軍艦でしょ?」
ミラジ
「そんなものをドレット艦隊の心臓部へ入港させるんですか?」
ロルッカ
「発信者はクンパ・ルシータ大佐という人物……」
ミラジ
「ご存知で?」
ロルッカ
「まさか」
アイーダ
「本当にガランデンなんですか?」
ノレド
「だったらマスク部隊も来てるんだよ? それって事件でしょ!」
ハロビー
「事件だ、事件だ」
ガヴァン
「何だよ、艦隊の連中は地球人の船のお出迎えかよ! 地球人のモビルスーツはどう動くか分かったもんじゃないんだぞ!」
ミック
「何すんだ、私のヘカテーに!」
クリム
「我慢だ、ミック」
ロックパイ
「我々も出なくていいんですか?」
マッシュナー
「ここはガヴァン隊の守備範囲だ。今は出迎えが仕事だろう」
ロックパイ
「アメリア軍に出し抜かれませんか?」
マッシュナー
「何で、そう考えるんだ?」
ロックパイ
「アメリアのサラマンドラが、軍司令部のゲスト扱いになっているんです。これから入港するキャピタル・アーミィの敵になる船なんですよ?」
マッシュナー
「あのな」
ロックパイ
「は?」
マッシュナー
「ここに入港させたら、両方共こちらのもんなんだよ」
「何で、そういう事が分からんのだ?」
ミック
「あんな連中が出て行ったんですよ? ガランデンが沈められるって考えません?」
クリム
「調査部のクンパ大佐の思い付きで来たんだろうから、そうはならないさ」
ミック
「キャピタル・アーミィがドレット艦隊と連合する為に来たというのなら、こちらの連合はどうなるんです?」
クリム
「みんな友達さ」
ミック
「大尉! トワサンガは、大尉がアメリアの大統領と知った途端に、ゲスト待遇になって補給もしてもらってるし……」
クリム
「ここのハザム政権も軍部も事情ありなのさ」
ミック
「キャピタル・アーミィがやる前に、ドレット艦隊の主導権も奪うつもりなんでしょ?」
クリム
「フッ……」
ミック
「じゃあ、地球に戻ってから政権を取るつもりなんだ」
クリム
「後の事は口にするな」
ドニエル
「ベルリ、勝手に出るんじゃない!」
ハッパ
「やっぱり、勝手に出るんだ?」
ベルリ
「ガランデンまでがここに来たのなら、直接行って事情を聞くしかないじゃありませんか!」
ハッパ
「事情を聞きに行く……?」
「うおっ!」
アダム
「ベルリ、貴様!」
アイーダ
「ベルリ、今は迂闊に動いては駄目です!」
「アダム、何で止めなかったんです?」
アダム
「まさか出るなんて……」
アイーダ
「ハッパさん!」
ベルリ
「この上に……というより、こんな物の上に林があったり、窪んだ土地の農家や僕の生まれた家や池もあるって事?
こ、こんな景色の所が故郷だなんて……」
「こいつに親のDNAが仕込んであったからって、そういう事を飲み込もうと努力している時に、何でガランデンの部隊が来るんだよ!
マスクはドレット艦隊を叩くのが任務じゃないのか?」
「Gセルフも地元に帰ってきたんだから、地図を見せろ! アパッチ軍港は……これか!」
「あれがガランデン?」
「そうか! クンパ大佐の直属の船なら、来たっておかしくないのか。おかしくない? おかしくないというより、変でしょ!」
ガヴァン
「サウス5番リングから出たモビルスーツが、YG−111なんだな?」
パイロット
「その機体なら、レコンギスタ作戦の事前偵察に出したラライヤ・アクパールのものです」
ガヴァン
「あぁ、第一、第二戦隊は俺に付いてこい! 第三戦隊はガランデンを警戒! 誘導しろ!」
パイロット
「はい!」
ラライヤ
「何で、ベルを一人で出したんです?」
アイーダ
「許可なんか出していません」
「中尉! ベルリを連れ戻してください!」
ケルベス
「そのつもりですけど、何でトワサンガの連中はガランデンの出迎えに出てんだ?」
リンゴ
「憎んでいるんだよ! 居残り組は艦隊の連中をさ!」
「ねぇ!」
ラライヤ
「憎んでいるんですか?」
リンゴ
「地球に住みたいって奴らはいっぱいいるんだよ。だから、地球に降りられたラライヤみたいなのは憎まれるから、守ってやらなくちゃならないんだ!」
ケルベス
「事のついでに手を出しやがって……!」
「あら? アイーダさん!」
ラライヤ
「モランを借ります!」
リンゴ
「ここは、ガヴァン隊が守備している所で……!」
ラライヤ
「だから出るんです!」
リンゴ
「そりゃ無茶だ!」
ベルリ
「ラライヤ?」
ガヴァン
「ラライヤ・アクパール! 帰還報告もしないで何をやっているんだ!」
ベルリ
「帰還報告って何だよ?」
ガヴァン
「応答が無いという事は、その機体、地球人が操縦しているんだな?」
ベルリ
「何だと?」
「ここで生まれたって地球人ってか……!」
「うっ!」
ガヴァン
「リングから離せ! そうしないと爆発させられない!」
ベルリ
「だ、だからって……!」
ガヴァン
「抵抗するのか!」
ベルリ
「お前達は事情も知らないで!」
ガヴァン
「これ、YGってのか……?」
ベルリ
「殺しはしない! けど、今度僕の邪魔をしたら容赦はしない! 僕には姉さんだって居るんだから、今度は……!」
ガヴァン
「あの姿、大昔、ガンダムとかいう……」
「帰投するぞ!」
アイーダ
「ベル、ベルリ! 大丈夫ですか?」
ケルベス
「望遠でチェックしていた。あっという間にザックスを黙らせたな。元教官としては嬉しいが、どうやったんだ?」
ベルリ
「で、でも傷付けただけです。パイロットに何かあったなんて事、それはしてませんよ?」
アイーダ
「そ、それは分かっています。よくやってくれました」
ラライヤ
「不味いですよ」
アイーダ
「え?」
ラライヤ
「こんな攻撃力をトワサンガの軍隊に見せ付けるなんて」
ケルベス
「だからもう、Gセルフは動かすなよ? ベルリ」
ベルリ
「は、はい! そうさせてください」
ラライヤ
「ベルリは大丈夫なのですね? ベルリ!」
ベルリ
「大丈夫だ」
「あんな物を生まれ故郷にしろっていうのか……!」
クリム
「何が楽しいんだ?」
ミック
「だって、本当にガランデンがこのアパッチ軍港に入港しちゃったんですよ?」
クリム
「フッ、仕掛け人登場という奴かもしれないな」
ジャン
「遠路遥々ご苦労様です」
クンパ
「ハザム政権と軍部の寛大なご処置には、心から感謝致します」
ジャン
「現在はカシーバ・ミコシを降臨させる時期で、十分な対応は……」
ズルチン
「首相、客人の前です」
ジャン
「あぁいや、ご不自由な点があれば担当の者に申し付けてください」
マスク
「先にここに来たメガファウナという船は、どういう状態なのでしょうか?」
ズルチン
「ドック待ちです。サラマンドラが入りますのでな」
ミラジ
「ハッパさん、我々の部品でも使えますよ」
ハッパ
「壊れ方を見てくださいよ。人手の方が要るんですよ」
ミラジ
「仲間の専門家には手伝わせます。自分も専門ですから」
ハッパ
「そりゃ助かります」
フラミニア
「パイロットのお部屋には、ここから上がれますか?」
アダム
「そこのエレベータだよ」
ベルリ
「天才クリムより上手くやったって思っちゃいけないんですか?」
アイーダ
「大尉を超えましたよ、Gセルフの性能のお陰で」
ノレド
「でも、使える人が使わなければ性能は引き出せません」
アイーダ
「それはそうです。けど、あの戦いは必要だったんですか?」
ベルリ
「感電して殺されそうになったんです! あの変な仕掛けで!」
フラミニア
「宜しい?」
アイーダ
「あ、はい」
ベルリ
「みんな、この人達のお陰でこうなったんでしょ!」
ロルッカ
「ベルリ皇子……!」
ベルリ
「大体、メガファウナはドレット軍に監視されているんでしょ? 貴方達の反戦運動が出来る訳ないでしょ!」
ロルッカ
「現在のトワサンガは、カシーバ・ミコシの降臨の準備と、クレッセント・シップがビーナス・グロゥブに帰る支度で混乱しており……」
「皇子、また戦うおつもりですか?」
ベルリ
「『宇宙では生き延びる事だけを意識しろ』これはキャピタル・ガードの鉄の掟です」
ノレド
「ベルが勝手にガランデンに行こうとしなければ……」
ベルリ
「アイーダさんが姉さんだなんて言われたら、いい加減おかしくなるだろ!」
「何が、レイハントンだ……!」
ハッパ
「クレン・モア、チップ・ボックスの交換はやってもらうからな」
クレン
「分かってるから持ってきてるでしょ!」
アダム
「デッキ・クルーも、バック・パックのコーティングを手伝ってんだ。今夜は徹夜、徹夜でしょ!」
クレン
「XPPのボックス、持ってきてくださいよ」
ハッパ
「ジャマだってやってるんだよ?」