第21話 海の重さ

ベルリ
「これ、立体映像じゃないよね? 本物?」
「本物の海だよ! 重力もある!」
「あの敵……!」
キア
「海の底に穴を空けたか! 俺は、地球人のお陰でとんでもない事をしちまった……」
「そこっ!」
ベルリ
「狙われていた!」
「あっ!」
キア
「キアだ! チッカラとクンはどこに居る?」
ベルリ
「くっ……!」
チッカラ
「もう! 何で水漏れが起きるんだ!」
ベルリ
「二度は!」
「メガファウナは、僕の位置を分かれ! 分かってくださいよ! メガファウナ! 姉さん!」
ドニエル
「……姉さんが何だって?」
「ベルリ、どこだ!」
ベルリ
「ジット団のモビルスーツを海上で追いかけているんです! 追いかけられてもいますけど!」
副長
「ジット団のロールパンは行ってくれましたね」
ドニエル
「海だ何だと言うのがよく分からん」
ステア
「食べられないロールパンは嫌いだ」
副長
「嫌だよねぇ」
ドニエル
「ベルリはここに入り込んだらしい」
ノレド
「今のロールパンはこっちに上がった」
ミラジ
「メガファウナの向いてる方向は……」
ノレド
「ギゼラさんの所で分かる」
ミラジ
「ギゼラさんの所で?」
「あっ……」
ギゼラ
「キャッ!」
ステア、ドニエル
「は?」
ギゼラ
「あ、すみません。な、何でしょう?」
ミラジ
「ここからだと、メガファウナの向きが分かると……」
ギゼラ
「あぁ、あの数字で……」
ミラジ
「1の380に見えます」
ギゼラ
「は、はい」
ミラジ
「成程ね」
ヤーン
「キア隊長、考え抜いた末の威しだったんでしょうけど……」
ジット団
「軟禁錠って奴でしょ、これ?」
C・S艦長
「さ、触らないで……」
フラミニア
「見た事あるんですよ、これ」
エル・カインド
「そ、そうですか」
フラミニア
「パーティで見ません?」
ジット団
「え?」
フラミニア
「あっ、水中花だ! 水の中のお花グッズ! それに色塗って、ほうら!」
C・S艦長
「やめてください!」
「キャーッ!」
ジット団
「ははっ、ここで開くとこうなるんだ」
ヤーン
「こ、こんな威しを掛けたって、クレッセント・シップはテンポリスの支配下に入ってしまいましたぞ」
フラミニア
「Gセルフを……」
ヤーン
「す、すみません」
船員
「海が壊れたって警報が出てますけど、どういう事なんでしょう?」
エル・カインド
「海が壊れた……!」
ドニエル
「後部機銃座! 対空戦闘用意だ! 各モビルスーツも再度第一戦闘体勢!」
ノレド
「え? ジット団の人、魚食べさせてくれるって言ってたけど、駄目かな」
ドニエル
「何だ、ベルリより食い気か」
ノレド
「ベルの為に聞いたんです!」
ドニエル
「ラボの反応がないからって油断はするなよ!」
ラライヤ
「全景からのデータ確保! 転送しておきます」
ケルベス
「ジット団の男がジット・ラボに入れって命令してたって事は、向こうからの攻撃はないって事でしょ?」
アイーダ
「え? ふふっ、そうかも。そうですよね、この桟橋だって砲塔みたいなのないし」
リンゴ
「海の底が抜けたってかなり騒いでいます。という事は、上の方は手薄って事で……」
「あれ、ポリス……」
警察
「公社のメンテナンス部門に緊急出動命令だ! メガファウナはロザリオ・テンに入港するように!」
副長
「了解しました。ジット・ラボの要請に従ってここに寄ったのです」
アイーダ
「ケルベス中尉にリンゴ少尉、何やってるんです?」
リンゴ
「ラライヤの股に手を突っ込んで、何をしようっていうんだ?」
ケルベス
「こんな物が引っ掛かってるから外してんだろ」
ノレド、マニィ
「うわ〜っ!」
ケルベス
「何だって?」
アイーダ
「こうなんです」
ノレド
「ベルを助けるには中に入れなくっちゃ」
マニィ
「ロープが引っ掛かって……」
ケルベス
「あのな……やりようってのがあるだろ」
ノレド、マニィ
「う、うわ〜っ!」
ジット団
「こいつはまだ組み立て中なんだぞ?」
 〃
「キア隊長は、それでも出せって命令してきたんだ」
 〃
「ほら、行け!」
 〃
「うわっ!」
ローゼンタール
「ここで実戦が体験出来るなんて、想像もしていなかったな〜アタシ」
キア
「地球人が侵入した! 爆発させずに仕留めるんだ! 俺はコンキュデで迎撃する!」
部下
「隊長は、何でずぶ濡れなんでありますか?」
キア
「海の中を潜り抜けてきたからだろ!」
チッカラ
「貴様達は海水を止めに行け!」
部下
「オートマチックで塞がるんでしょ?」
チッカラ
「それでは止められない穴になっているんだ!」
「クン、どこに居る?」
クン
「ラボの北ゲートから入りました!」
民間人
「おかーさーん!」
「ギャーッ! おか、おかーさーん!」
ベルリ
「メガファウナはジット・ラボの桟橋に取り付いたらしいって事は、僕は……」
「あっ」
民間人
「ひ〜っ!」
 〃
「お母さん! エリザベイトーッ!」
ベルリ
「僕はここに居るだけで役に立っている筈だ。姉さんの事だから……となれば、いつまでもこんな民間人の家を盾にしていてはいけない」
部下
「隊長、ここでオーブンを使うのは危険です!」
キア
「出力調整は出来る。野蛮人にここでモビルスーツを使わせる方が余程危険だ」
部下
「コックピットが水漏れを起こしているでしょ! やめてくだ……うっ!」
「隊長、無茶です!」
クン
「鉄骨桟橋に宇宙人が居座ってるだと?」
キア
「ん、メディスペシーに入った奴を処分する方が先だ! クンとチッカラ、ローゼンタールは正面に回ってやれ!」
チッカラ
「しかし、こいつは……!」
ベルリ
「僕は本物の海で戦ってきた!」
「こんな物は、爆発させないで動かなくしてやる!」
チッカラ
「あぁっ!」
ローゼンタール
「チッカラ・デュアル、隊長命令で後退します」
チッカラ
「ローゼンタールか!」
ローゼンタール
「地球人! アタシ達二人を相手にするかい?」
アイーダ
「私達は、クレッセント・シップから反乱分子を牽制しろと言われているのです」
警察
「ジット・ラボから反乱分子って、本当なのですか?」
ラライヤ
「それはそちらで調べてください。中からの反応がありませんから、入ります」
警察
「ど、どうぞ」
「その宇宙服には中身が入っているのか?」
ノレド
「警察なら、ちゃんと悪い奴を捕まえなさいよ」
警察
「え? 地球人はクレッセント・シップの捕虜だってのか?」
ノレド
「聞いた? 捕虜が勝手に動けると思ってるんだ」
マニィ
「文化の違い! 考え方が違うのよ」
ノレド
「研究施設か……」
ケルベス
「……は?」
アイーダ
「え?」
リンゴ
「は?」
ルアン
「ん……!」
ラライヤ
「本物の景色なんですか? これ」
「どこに行くつもりなんです?」
マニィ
「今、ラボの中を見たでしょ?」
ノレド
「偵察するチャンスだって事!」
アイーダ
「海上に居るんですか? ベル!」
ルアン
「受信」
ケルベス
「方位は?」
リンゴ
「磁気嵐が……」
ラライヤ
「右にもジット・ラボの発着場があるようです」
ルアン
「敵機が来た!」
ローゼンタール
「四角い玩具が!」
ルアン
「うわっ!」
チッカラ
「地球人!」
ローゼンタール
「ズゴッキーの伝統! 装甲は頑丈で、このマニュピレータでチビのアンタなんか!」
ラライヤ
「うっ!」
リンゴ
「ラライヤ!」
ローゼンタール
「アタシのマニュピレータが!」
ラライヤ
「リンゴさん!」
リンゴ
「いつもラライヤの守護神であります!」
チッカラ
「ローゼンタール! こうなったら、フルムーンに飛び込むしかない!」
ローゼンタール
「地球人がジット・ラボに入っていくのをチェックしていますけど」
チッカラ
「やらせておけ! フルムーンの装備を持ち出すんだ!」
ベルリ
「な、何……!」
「次から次へと、何だって言うんだよ?」
マニィ
「凡そ無防備の土地柄なのね」
ノレド
「研究するったって、古い物をコピーするだけなんでしょ?」
ハロビー
「偵察、偵察」
ノレド
「けど、本物の工場だ」
マニィ
「だって、本格的にモビルスーツを量産させてる大元締めでしょ?」
ハロビー
「イテッ!」
研究員
「な、何だよ、このハロビーは?」
ノレド
「動くな!」
研究員
「何だ?」
 〃
「な、何だ?」
ケルベス
「マニィ、ノレド、どこだ?」
ノレド
「工具を武器にするな!」
研究員
「うわっ!」
ケルベス
「何を組み立てているんだ? マニィさん」
マニィ
「新型みたいです」
ラライヤ
「何か見付けたんですか?」
ケルベス
「はい」
「リンゴは、その山の奥をチェックでしょ」
研究員
「地球から来たって本当なのかよ、お前達」
マニィ
「ケルベス中尉、これ凄いですよ」
ケルベス
「何が凄いの?」
マニィ
「操縦がユニバーサル・スタンダードなんですよ、このモビルスーツ」
研究員
「Gルシファーだろ」
ケルベス
「G?」
ラライヤ
「マニィさん、何考えてるんです?」
マニィ
「マックナイフ以上に操縦は簡単かもしれないんです、Gルシファー」
ベルリ
「冗談メカと思いたくないけど……!」
キア
「地球人には焼け焦げになってもらう!」
ベルリ
「魚じゃあるまいし、誰がオーブンに焼かれるか!」
キア
「地球人!」
ベルリ
「何っ! 何なん!」
「やられない!」
クン
「キア隊長!」
キア
「クン・スーン! ミサイルは駄目だ!」
クン
「な、何で?」
キア
「海の底が抜けているのが分からんのか!」
クン
「あの下に穴が空いているって事?」
ベルリ
「渦の勢いが早くなっている!」
キア
「これではメディスペシーが全滅する……!」
ベルリ
「あ、天井? という事は、海底からの高度3000メートルってとこ?」
「テンポリスの……」
「天井を背にしていればジット団は撃ってこないけど……」
クン
「海水の補充は始まっているんです! 隊長!」
キア
「既にオートマチックで修復する規模ではなくなっている!」
クン
「キア隊長、何をなさとうというのです?」
キア
「コンキュデベヌスの容量があれば、穴を塞げる!」
クン
「やめてください! それでは地球人に……」
キア
「地球人は貴様達が手懐ければいい! メディスペシーの底が抜け切ったら、十数万人の人間が死ぬんだぞ!」
「意外と早い……!」
ベルリ
「あの機体で海の底を塞ごうっていうのか?」
クン
「それは駄目です! 隊長、ジャイオーンだけでも上がってください! これに捕まって……!」
キア
「確実に沈めなければならん! やめろ、クン! そのボールは邪魔なんだよ!」
「穴は塞がるぞ! コンキュデベヌスは穴に向かっている!」
クン
「キア隊長!」
「隊長!」
キア
「うっ! 機体は止まった! 穴は塞いでいる!」
クン
「ジャイオーンだけでも脱出してください!」
「地球人!」
ベルリ
「駄目でしょ!」
クン
「敵に助けられた? 私は迂闊だ!」
「隊長、自分もお手伝いします!」
「隊長、何で脱出しないのです?」
キア
「貴様達はレコンギスタをしろ! 地球では俺の分も楽しめ! フルムーン・シップの準備は完了しているんだ! クレッセントと……がっ!」
クン
「動いてください! 隊長と一緒にレコンギスタ出来なければ、意味ないじゃありませんか!」
キア
「宇宙兵器は水圧に弱い! さっさと浮上しろ!」
クン
「あぁ、水が……!」
「外か! 脱出できる!」
「隊長! 一緒に行くんじゃないんですか?」
キア
「ショートだって……! クン、チッカラを……!」
クン
「用意してくださったフルムーン・シップは、もういつでも出港できるんですよ!」
アイーダ
「海の中まで追える訳ないでしょ! 渦の勢いも弱くなっています。戻りましょう、ベル」
ベルリ
「あれだけ大きい物が沈めば、穴は塞がるだろうけど……宇宙にこんな物があるのが可笑しくないか?」
アイーダ
「ご苦労様。体は大丈夫ですか?」
ベルリ
「海に助けられましたけど……」
ルアン
「ジット団の新手か!」
ノレド
「お疲れ〜!」
マニィ
「出来たぁ、私! フフッ、やったぁマスク!」
ベルリ
「はぁ?」
アイーダ
「マニィさん?」
ノレド
「ケルベス中尉、リンゴ少尉、ラライヤの協力を得て、捕獲マシン1号のGルシファーです!」
アイーダ
「ジット・ラボから持ち出した?」
ドニエル
「総員、聞け! 各員、ロザリオ・テンの港へ集結だ!」
ケルベス
「こっちだ」
ラライヤ
「通路あります」
リンゴ
「ラライヤさん」
ノレド
「ユニバーサル規格だからって、マニィ、よくやるよ」
マスク
「マスク大尉から、マックナイフの整備のついでに操縦は出来るようにって」
ノレド
「あのマスクに教わったの?」
マニィ
「まさか」
ノレド
「ふぅん」
ラライヤ
「これか。こういうフィギアや柱は、空気や水の玉の保管場所になっているんですって」
ノレド
「ここから出ちゃいけないの?」
マニィ
「いいじゃない。私達の事、認めている態度なんだから」
リンゴ
「ひゃぁ、何? ショッピング・モールに住宅街?」
ケルベス
「こんなのが、オーシャン・リングにだぁっとあるのか?」
ラライヤ
「高度に気を付けてください」
民間人
「何だぁ?」
ルアン
「豊作ですよ。トウモロコシ」
整備員
「こちらの桟橋から出ていただきます」
ドニエル
「全機収容後、ロザリオ・テンの港へ入るぞ」
アイーダ
「エル艦長、ありがとうございました」
エル・カインド
「皆さんもご無事で」
ベルリ
「フラミニアさんとかヤーンさんは、リビング・エリアなんですか?」
C・S副長
「行方不明です。パイロットも一緒だったので、逃げたのでしょうね」
ベルリ
「え? 逃げたって……」
アイーダ
「ベルリ!」
「後程、ロザリオ・テンで……」
エル・カインド
「そうしましょう。それまで……」
アイーダ
「はい」
「あ、薔薇って……薔薇って、ここにあったんだ……」
ベルリ
「姉さん、どうした?」
アイーダ
「目の前! 上!」
ベルリ
「え? 薔薇?」
ラ・グー
「大事ないか?」
付き人
「い、いつもの事で……」
ラ・グー
「私から皆様へ、耐熱コーティング剤をプレゼントさせていただきます」
副長
「それって、エル艦長から聞いてます。大気圏突入を可能にするとか」
付き人
「あ、失礼致しました。皆様方にご紹介申し上げます。ビーナス・グロゥブをまとめていらっしゃるラ・グー総裁です」
「お仕事の手の空いた方々からお食事の会場へどうぞ」
ラ・グー
「私からの、感謝と謝罪を込めての招待です。」
ドニエル
「謝罪だって?」
アイーダ
「何でしょう?」
ベルリ
「え?」
ラ・グー
「クレッセント・シップが降臨祭も終えずに帰ってきました。そしてジット団の事件で、海の底に穴も空けて……
これら全ては私の管理不行き届きが原因なのです。ですから……」
ドニエル
「いや、オーシャン・リングの六つの海が繋がる時代になれば……」
ミラジ
「ここの人々の心も変わると思いますね」
ラ・グー
「そうなのです。人々もムタチオンすると知れば、絶望する人々も出てまいります」
アイーダ
「ムタチオン? 突然変異ですか?」
ベルリ
「ムタチオン?」
ラライヤ
「人がですか?」
マニィ
「そんなの……」
ノレド
「総裁はおいくつなのですか?」
ラ・グー
「まだ、200歳にはなっていません」
アイーダ
「えっ?」
ベルリ
「まだ200歳……」
ノレド
「あれで100歳越え?」
マニィ
「若いのに……」
ラライヤ
「どういうの?」