第22話 地球圏再会

ローゼンタール
「クン・スーン、コックピット・コアとマズラスターの整合性はどうなの?」
クン
「水漏れの箇所の修理は完璧です。クレッセントから合流してくれたクルーは働いてくれているのか?」
整備兵
「彼らのお陰で、フルムーン・エンジンの立ち上がりを早められました」
クン
「チッカラは出られるのか?」
チッカラ
「出られるから。99・100……テン・ポリスが出てるんだって?」
ローゼンタール
「ポリジットの数が増えてるのよ」
フルムーン艦長
「こちら、フルムーン・シップの艦長であります。ロザリオ・テンの警察の妨害が厳しくなる前に出港する事にします。
各員には、本艦が鉄骨桟橋から離れ切るまでに作業を済ませていただく」
クン
「強行突破するんですか?」
チッカラ
「あのな、クン・スーン。テン・ポリスの連中にだって、キア隊長の考えに賛成してくれてるのは居る」
フルムーン艦長
「フルムーン・シップは、キア隊長の遺言を受けてレコンギスタの道を拓く者である」
警察
「出港は許可されていない!」
フルムーン艦長
「やれ!」
「これが、キア隊長の回答なんだ!」
フラミニア
「キア隊長、遂に私達のレコンギスタの船出です」
チッカラ
「クンのエスコートを!」
ローゼンタール
「了解!」
クン
「キア隊長の遺言を実行しているんだ。邪魔をしないでくれ!」
ローゼンタール
「キア隊長の邪魔をしないの!」
フラミニア
「こ、これ、コンキュデベヌス……」
「艦長! キア隊長が泣いています!」
フルムーン艦長
「何だと? コンキュデの目か?」
フラミニア
「はい!」
フルムーン艦長
「コンキュデのクルーは?」
フラミニア
「三人ほど助かったようですけど、隊長の名前はありません」
フルムーン艦長
「キア・ムベッキ……!」
「ロザリオ・テンとテン・ポリスは、身を持って海の底を塞いだキア隊長の意志を弔ってやってくれ!
我々は隊長の死を悼んで、満艦飾を持って手向けとする」
「フル・ライトだ! 満艦飾!」
クン
「チッカラの言う通りだ」
ローゼンタール
「力の差を見せたからでしょ?」
チッカラ
「テン・ポリスにだって、レコンギスタしたい奴等は居るんです」
クン
「キア隊長、これが長年夢に描いできた光景ですよね?」
チッカラ
「こうなると、ジーラッハやダーマが盗まれたって話が面白くないんだよ」
ローゼンタール
「そんなの、私の責任じゃないですよ」
ノレド
「どいて、どいてどいて!」
マニィ
「ノレドが避けるの!」
パイロット
「何?」
 〃
「カカシだ!」
ベルリ
「エンジンを切って! こちらで着艦させる!」
ラライヤ
「ケルベスさん、そっちは大丈夫ですか?」
ケルベス
「おう! リンゴも手伝え!」
リンゴ
「よっしゃ〜!」
ノレド、マニィ
「はぁ……」
マニィ
「死ぬかと思った」
ラライヤ
「は? 何で、ノレドさんが?」
マニィ
「やらせろって効かないのよ」
ノレド
「マニィに出来る事なら、私に出来ない訳がないでしょ」
ベルリ
「民間業者のビーグルと衝突していたら、ここの刑務所行きだったんだぞ!」
アイーダ
「あの円の内側の空間を、大型バッテリーで埋めるのですか?」
ラ・グー
「地球そのものを隣の銀河に飛行させようとすれば、あのような規模のものが、あと三つは必要でしょう」
アイーダ
「はい」
ラ・グー
「しかし私は、こんな技術は地球人には知らせてはならないと考えました」
アイーダ
「どうしてなのでしょう?」
ラ・グー
「ジット団のような存在を知れば、人類というものは、そう簡単に変われるものではないと分かります」
アイーダ
「はい」
ラ・グー
「二十年近く前に、ピア二・カルータ事件というのがありましてね」
アイーダ
「ピアニ……」
ラ・グー
「キャピタル・テリトリィでは……」
アイーダ
「クンパ・ルシータです」
ラ・グー
「彼が、ここで人が劣化していく姿を見て、地球上で人間の弱肉強食の戦いをさせて人の強化が必要だと宣言したのです」
アイーダ
「宣言ですか?」
ラ・グー
「六つ目の海が潮で満ちるようになれば、人々の心も緩んでくるのでしょう」
アイーダ
「クンパ大佐一人の意見などで……」
ラ・グー
「ボディ・スーツはご存知ないでしょ?」
アイーダ
「はい」
ラ・グー
「その実態を知れば、人類に絶望もしますよ」
「ご覧になる勇気は、お有りかな?」
アイーダ
「私は見栄っ張りで、強がっているだけの女かもしれないと、いつも恐れています」
ラ・グー
「なら……」
「貴方は、お強い方です」
ノレド
「え? もう一回? 隙間のある所は二重にしておくってこと?」
ルアン
「そうすると、下敷きのフィルムが隙間を塞いでくれるんだ」
ノレド
「それで耐熱コーティング完成なんだ」
ラライヤ
「ラライヤ、出ます!」
ギゼラ
「どうぞ!」
ラライヤ
「これ、使いようですね」
「マニィさん?」
「生真面目なんだ」
アイーダ
「私は、人類の女性として健康!」
ミラジ
「わっ! 分かりました!」
「驚いた。つまり、トリニティは実用機という事なんですね?」
「このダハックも、試作機でない……」
整備兵
「目を光らせます?」
ミラジ
「いや、結構です」
ロルッカ
「ダハックのカバーが、ダーマですか」
整備兵
「カバーだなんて失礼な! あれだって、モビルスーツみたいなものです」
ミラジ
「有難うございました」
整備兵
「いや」
 〃
「耐熱マシンなんです、ダーマは」
「ほら」
ロルッカ
「これらの物を、アメリア軍に提供するというのはどうだろうかな?」
ミラジ
「そんな……」
ベルリ
「マニュアルに書いてある事なんて技術屋の理屈なんだから、このまま出来る訳ないですよ!」
ハッパ
「けどな、パーファクト・バックパックっていうんだから……」
ベルリ
「それが信用出来ないんですよ!」
ハッパ
「……奴は最前線、こちらは後方だものな」
コック
「そんなに刻まなくていいんですよ?」
アイーダ
「今は泣きたいんです」
ノレド
「え?」
「ノベル、体重」
ハロビー
「聞くな、聞きたくないだろ、聞くな」
ノレド
「言え、体重計!」
ハロビー
「昨日から、コンマ5キロ・グラム増」
ノレド
「ひぇ〜!」
メガファウナ・クルー
「おしっこ、おしっこ!」
リンゴ
「何ですか? ラライヤさんったら痛いな……」
エル
「フルムーン・シップに追い付けたと見ていいが、彼らの位置は?」
クレッセント副長
「地球の静止衛星軌道をパスした所です」
エル
「そんなに低く?」
クレッセント副長
「地球の艦隊と接触するのでしょう」
エル
「メガファウナ以下、全モビルスーツのスタッフに告げます。地球圏に入りましたので第二戦闘配置です」
ドニエル
「自分の庭に帰ってきてもこれだってんだから、何だってんだ?」
ローゼンタール
「ドレット艦隊が上、アメリア艦隊が下、キャピタル・アーミィも船を出してる」
クン
「地球人が宇宙で戦争をやるなんて……」
チッカラ
「最悪だね」
「艦長、どの辺りで周回軌道になるのだ?」
フルムーン艦長
「減速のタイミングが遅かったので、キャピタル・タワーからは多少ずれます」
クン
「地球人同士の戦争には巻き込まれたくはない」
フルムーン艦長
「処女航海で地球なんです。無理を言わないでください」
エル
「こんな低軌道にカシーバ・ミコシまでが降りてきて、三つの勢力が睨み合っているのに、
Gセルフには第3ナットのワンジラまで行かせるなんて……」
ドニエル
「キャピタル・アーミィがキャピタル・タワーを基地化しているらしいので、ベルリは気になるのです。だからといって、一人では行かせられません」
エル
「分かりました。各員、お気を付けて」
ドニエル
「ジーラッハはメガファウナと一緒に、ラトルパイソンまで慣らし運転だぞ」
マニィ
「分かっています。ルアンさんにオリバーさん、宜しく」
オリバー
「了解だ」
マニィ
「サラマンドラ……こんなに近いの?」
ノレド
「Gルシファーのノレド・ナグは、里帰りの気分!」
ラライヤ
「私だって、キャピタル・タワーには縁がありますし」
ノレド
「ラライヤ、ゴーッ!」
ハロビー
「イテッ!」
アイーダ
「Gアルケイン、出ます!」
ハッパ
「ベルリ、バックパックの使い方には、くれぐれも気を付けてくれよ」
ベルリ
「いい完熟飛行になります!」
ケルベス
「不肖ケルベスは、このザンスガットに慣れる為……」
「リンゴ少尉は、低軌道環境に慣れてくれ!」
リンゴ
「マニィさんは、言わずもがなですね?」
マニィ
「あ、はい。有難うございます」
ルアン
「そういうデカイの……」
「ん? 総員、マンジラからノズル光だ! この数、何よ?」
ラライヤ
「動きが変ですよ」
ノレド
「喧嘩腰だ」
アイーダ
「お出迎えという雰囲気はありませんね」
ベルリ
「結局、母さんはキャピタル・アーミィに負けちゃったの?」
ベッカー
「クレッセントから出たモビルスーツ部隊なら、ドレット艦隊の片割れである!」
ベルリ
「キャピタル・アーミィのウーシァ!」
アイーダ
「あんな数を出してくるなんて!」
ラライヤ
「ルシファーで!」
ベルリ
「駄目だ!」
ノレド
「何で?」
ベッカー
「縦の竿の編隊ならば、扇の編隊で戴く!」
ベルリ
「フォトン・トルピードを試します!」
ベッカー
「な、何が……?」
「Gセルフだったよな? G……!」
アイーダ
「ベルリはワンジラに入らせます。中尉以下は、メガファウナと合流してください」
ケルベス
「了解! アメリアのラトルパイソンって船を見学させてもらう」
アイーダ
「有難う」
「ベルリ、大丈夫ですね?」
ベルリ
「は、はい」
「出力は100%じゃなかった筈だけど、あれがフォトン・トルピードの威力だってのか」
職員
「キャピタル・タワーの方では、アイーダ・スルガンは登録されています」
士官
「しかしなぁ」
ベルリ
「母がこの入港を許したんですか?」
職員
「脅かされたんでしょう」
アイーダ
「機動部隊?」
ベルリ
「母に……ウィルミット長官に会いにきたんです」
士官
「あぁ」
ウィルミット
「よく、無事で……」
「あの威力を見せてくれたGセルフが来てくれたという事で、ここの人達は戸惑っているんだけれど、私がいる限りはタブー破りはさせませんからね」
ベルリ
「いえ……」
ジュガン
「Gセルフとブルジンの戦力を持ってすれば、我々地球人の敵は叩けます」
ベルリ
「母はキャピタル・アーミィを基地にしてくれるなと……」
アイーダ
「ジュガン指令は、クンパ・ルシータ大佐が何を考えて……」
クンパ
「ノートゥ・ドレットは法王様を人質にして、カシーバ・ミコシに押し込めたのですよ?」
ベルリ
「えっ?」
ノレド
「法王様を?」
ラライヤ
「そんな……」
ハロビー
「とんでもない!」
クンパ
「事態は、私の思惑などとっくに乗り越えられています」
アイーダ
「人って……人って、そのように動くものなのですか?」
ジュガン
「いや、人はもっと動きましたよ。我らがマスク大尉が、カシーバ・ミコシを占領してくれましたがね。一件落着しました」
ノレド
「良かった」
クンパ
「長官には法王様お迎えの為に上がっていただいたのですが……」
ジュガン
「お嬢さんには、我がアーミィの捕虜になっていただきます」
アイーダ
「はぁ?」
ベルリ
「姉さんは、僕らの仲間なんですよ?」
ウィルミット
「姉さんって……」
ジュガン
「アイーダさんのお父様の艦隊も、ドレットの艦隊も健在なのですから、そうなります」
「何だ?」
士官
「カシーバ・ミコシのマスク大尉が、サラマンドラを追う為に出るというのです」
ジュガン
「カシーバ・ミコシを空にするのか?」
士官
「えっ? ベッカー大尉が出られるんでありますか?」
ジュガン
「今度は何だ?」
士官
「Gセルフにやられそうになったのに、生き残ったからマスクのガランデンを助けにいくって……」
ジュガン
「2機ぐらいしか残っていなかったんじゃないのか?」
士官
「合流する連中は居ます」
ジュガン
「サラマンドラをフルムーンに接触させる訳にはいかん。ベッカーには出撃させろ」
ノレド
「……行こう」
ウィルミット
「クラウンの定刻運行はしますからね」
ジュガン
「そんなのは勝手にやればいいでしょう」
ウィルミット
「ここだって、さっさと明け渡してもらいます」
ジュガン
「用が済んだらね」
クンパ
「見ちゃいられんな。マスクにサラマンドラを沈めさせて、フルムーンに向かわせりゃいいのに……」
ベルリ
「全くさ、『どこに行ってたの?』とか『どこに行くの?』とか聞いてほしかったな」
「あ、ごめん」
アイーダ
「そうよね」
ラライヤ
「立派なお母様よ」
ノレド
「立派なだけじゃ、子供が堪らないわね」
ベルリ
「プライドにはなるから、いい母さんだよ」
アイーダ
「それはそう。私の父も同じかもしれないけれど、会いに行きましょ」
ラライヤ
「メガファウナと合流ですね」
ノレド
「出られると思う?」
ベルリ
「出られるさ。クラウンの運行長官が怒鳴り散らしてたからね」
アメリア兵士
「誂うのはやめて、警戒だ」
 〃
「だけど、こいつがビーナス・グロゥブ製って信じます?」
 〃
「こっちがトワサンガ製ってのも怪しいですよ」
リンゴ
「何でだよ?」
アメリア兵士
「目、丸いじゃないですか」
リンゴ
「何ぃ?」
ケルベス
「そっちこそ、宇宙で羽根付きって恥ずかしくないのか?」
アメリア兵士
「はいはい、そこまで。ドレット艦隊がいつ来るか知れないんだから、全員持ち場に就いて!」
ギゼラ
「ケルベス中尉! クレッセント・シップが接触する前に、マニィはもう一度訓練でしょ」
ドニエル
「現物のラトルパイソン、デカイな」
ギゼラ
「アルケイン、来ました」
ドニエル
「おう」
アイーダ
「ラトルパイソンへ直行します」
ベルリ
「マニィもお疲れ様」
マニィ
「ワンジラ、どうだった?」
ベルリ
「あぁ、お袋に会えた」
マニィ
「あ、いいんだぁ」
ベルリ
「良かぁないよ。ラトルパイソンに行く」
ケルベス
「マニィ、もう一度発進!」
マニィ
「あ、はい!」
「ベルリはお母さんに会ったのか。私だって、負けない!」
オリバー
「マニィ、大丈夫か?」
マニィ
「何とか」
オリバー
「おい」
ケルベス
「今度は上から?」
「マニィ、大丈夫か?」
マニィ
「な、何とか落ち着きました」
リンゴ
「ケルベス、ルアン、オリバー! 我々はラトルパイソンの周辺警戒だ。マニィはかなり慣れてきているから、大丈夫だよ」
マニィ
「このまま真っ直ぐ、誰のせいにもしない。私、マスク大尉に絶対追い付く!」
アイーダ
「何で、父は地球から戻ってきたばかりだっていうんです?」
整備兵
「補給の事で、ここん所しょっちゅうです」
アイーダ
「有難う」
整備兵
「喜んで」
ベルリ
「あ、ちょっと待って、姉さん」
アイーダ
「掴まって」
ノレド
「ノベル!」
ラライヤ
「大きい船なんですね」
アイーダ
「そうね」
整備兵
「……あれで宇宙海賊やってたのか」
マニィ
「あれだ! ルイン、ルイン・リー!」
「自分は、マニィ・アンバサダです!」
「帰ってきたんですよ!」
バララ
「バリア・シールドにでもなったのか?」
マニィ
「光信号を入力!」
バララ
「そんなもの!」
マニィ
「マスク! 光信号を読んでください!」
バララ
「マスク大尉、巨大な敵に全身が痺れています! 艦砲射撃で撃ち落としてください!」
ガランデン艦長
「砲撃!」
マスク
「いや、待て!」
ガランデン艦長
「は? バララからの要請です!」
マスク
「光信号が出ていると見た! 読めるか?」
通信兵
「はい! ル・ル・ル・イ・ン・リ……『ル・イ・ン・リ』です!」
ガランデン艦長
「何だそりゃ?」
マスク
「あの機体、圧倒的な味方となります。受け入れます!」
ガランデン艦長
「どうしたんだ?」
マスク
「バララ達には帰らせろ!」
マスク
「ご苦労だったな」
バララ
「ビーナス・グロゥブで建造されたなんて、マニィの話、信じます?」
マスク
「フルムーン・シップの存在を知れば信じるさ」
バララ
「すいません」
マスク
「ん……?」
「凄いものだ」
「一人なのか?」
マニィ
「一所懸命練習してましたから、一人です!」
マスク
「よ、よくも無事で帰ってきてくれた」
マニィ
「は、はい! 先輩! ルイン・リー!」
マスク
「マニィ・アンバサダ!」