第4話 ソロ星脱出せよ

前回のあらすじ
異星人バッフ・クランの攻撃は、イデオンだけに集中した訳ではなかった。
地中に埋もれた宇宙船に攻撃を仕掛け、自分達が仕えるカララ・アジバを救出する事が目的であった。
しかし、地に埋もれている筈の第六文明人の宇宙船が浮上した。
コスモ
「敵が逃げる?」
「逃がすかっ!」
「テクノ、カーシャ、撃てっ! 撃て、撃てっ! こっからじゃ殴る訳にはいかないんだ!」
カーシャ
「やってるわ! でも、このコンピュータ・パネルの調整が……」
「あっ!」
ギジェ
「振り切ってくれ!」
コスモ
「うっ! やるな!」
「どこに行った?」
ベス
「何故動いているか、分からんだと?」
ソロ星の軍人
「反物質エンジンもノーマル・エンジンも、調整中なんだ」
マヤヤ
「この……あっ!」
「お嬢様、今の振動で鍵が外れたようです! 大昔の電子キーですね。電源が切れたのかも……」
「お嬢様」
「はっ……!」
「空を飛んでいます!」
カララ
「そ、そんな……」
民間人
「そこの二人! 危ないぞ!」
「外へ落ちる! 中へ入ってろ!」
カララ
「これが、空を飛んでいる……?」
民間人
「お前達、軍の人間なら分かるだろ! 何故、飛んでんだ?」
カララ
「……あの男、何を言っているのです?」
マヤヤ
「さぁ……」
ベス
「落ちるぞ! 全員、何かに掴まれ!」
「着陸したぞ! 各部チェック急げ!」
シェリル
「う、宇宙船が動いた! 宇宙船が……!」
カーシャ
「ミサイルのコントロールがもう大丈夫だっていうのに、どうして追い掛けないの?」
コスモ
「俺達はまだ、碌にこのイデオンの事は分かっていないんだぞ」
カーシャ
「敵をやっつけるのが先でしょ?」
コスモ
「あの遺跡が動いたんだ。あれが宇宙船なら、あれを武器にして戦う事だって出来るんだ」
ベス
「イデオンを収容! 武器の整備・補給をしろ!」
「出来るな?」
シェリル
「え?」
ダミド
「異星人の持つあの武器といい傾向といい、余程、好戦的と見えます」
アバデデ
「そうかもしれん」
ダミド
「そういう種族に、捕虜の扱いの礼儀があるとは思えません」
アバデデ
「だから、どうだというのだ?」
ダミド
「マヤヤのポジション・シグナルも途絶えたままの状態です。総攻撃を加えて一挙に……!」
ギジェ
「違うな。我々と同じレベルの異星人なら、捕虜を直ぐに殺したりはしない」
ダミド
「考え方は、見掛けでは分からんよ」
ギジェ
「攻撃をして相手を刺激するのは、逆効果だ」
「カララ様は利発なお方だ。捕えられるような事は決してない」
ダミド
「お前の楽観的な意見は、もう沢山だ」
アバデデ
「重機動メカの整備が終わり次第、出撃する。それまで二人共、待て」
ギジェ
「はっ!」
ダミド
「はっ……!」
ソロ星の軍人
「ようし、良好!」
コスモ
「了解。これで、ソル・アンバーからイデオ・デルタへの変形は、何とか……」
ベス
「グレン・キャノンの出力はいいのか?」
ベント
「はい。ノーマル・エンジンで十分行けます」
ベス
「よし!」
ソロ星の軍人
「ようし!」
カーシャ
「結局、後ろの変形は空中でやるしかないのね」
ベス
「イデオンをばらすと3台のメカになるんだ。全てが都合良くはいかんよ」
カーシャ
「イデオ・バスタになったら、空中戦闘が上手く出来るんですか?」
ベス
「小回りが利く筈だ」
「それより、少しは眠れ」
カーシャ
「みんなが殺されたんです。眠ってなんかいられません」
ベス
「体を壊したら何も出来なくなるぞ。休めよ」
リン
「ルゥ! 駄目よ、汚れちゃうわ」
「もっとミルクを飲まなくちゃいけません!」
ロッタ
「不思議ね。ずっと洞窟の中に居たのに、ホウレン草なんて……」
ソロ星の軍人
「第16フロア、注意! ドーム閉じる!」
ロッタ
「……何かこう、すっかり絶望的って訳じゃないわ」
「ね、ルゥ?」
ベス
「このソロ星を脱出する……?」
シェリル
「異星人に見付かった星なぞ、人間の長く住む所じゃないでしょ?」
ベス
「フッ、尻尾を巻いて逃げようってのか?」
「出来るのか?」
ジョリバ
「この宇宙船は動かせる。デス・ドライブの座標合わせが上手くいけばな」
ベス
「だが、敵だってデス・ドライブ……亜空間飛行で追い掛けてくるかもしれんな」
シェリル
「物事を悲観的にしか捉えない人って、嫌いだわ」
ロッタ
「アーシュラ、ルゥ、ファード! 牛さんを連れてきたわよ!」
「アーシュラ? ルゥ?」
「アーシュラ」
アーシュラ
「ファードが、ママんところ帰りたいって」
ロッタ
「そんな……」
「ルゥは知らない?」
「ルゥ! ……ルゥ!」
「すいません」
カララ
「元気な赤ちゃんね」
ロッタ
「すいません。素敵なファッションですね」
カララ
「ありがとう」
ロッタ
「……昨日、第三次移民で着いた人ね。地球ではあんなのが流行ってるのかしら」
「よしよし」
マヤヤ
「……お嬢様、ここを脱出しましょう」
カララ
「お前は、この木を変に思わないのかい?」
マヤヤ
「木?」
カララ
「この宇宙船は、地面の中に何百年も埋まっていたらしい」
「それなのに、この活き活きとした木の生え方を、お前は妙だとは思わないかい?」
マヤヤ
「イデとは関係があるのですか?」
「でも……」
「あっ!」
ベス
「コスモ、戦闘服の調子はどうだ?」
コスモ
「着心地がゴワゴワしてやだな……」
ベス
「カシミヤの背広という訳にはいかん。それで発進のショックが楽になるんだ」
コスモ
「あぁ、そうですか」
ベス
「イデオ・ノバ、イデオ・バスタ、発進!」
「グレン・キャノン試射! 目標フジヤマ!」
「発射!」
「照準が甘いな」
ベント
「うん、左へコンマ3度ずれてる」
「しかし、この第六文明人の動力炉、効率いいぜ」
ベス
「あぁ」
カーシャ
「足の所のミサイルが下になっている。どうして?」
テクノ
「ソル・コンバーの時には横なんですがね」
カーシャ
「正面には何もないの?」
テクノ
「フロントの所に、八式のミサイルがあります」
カーシャ
「これ?」
テクノ
「はい」
カーシャ
「イデオンになった時、ミサイル・コントロールは全てここで出来るわね」
テクノ
「部分的には無理なんですがね」
カーシャ
「照準は?」
テクノ
「10面のモニターが別々の敵を追い掛けてくれますよ」
カーシャ
「10面を同時に見ろっていうの?」
テクノ
「実戦ですからね。でも、各部のキャノンの連中はやってくれますよ」
ベス
「ドッキング・フォーメーションに入る!」
「カーシャ、機体を固定しろ!」
カーシャ
「無理言わないで! 軽ジェット位しかやった事ないんだから!」
ベス
「死ぬ気なら構わん!」
コスモ
「ヘッ! カーシャめ、ざまあみろ!」
バッフ・クラン兵
「ダミド様、宜しいのですか? 先行して……」
ダミド
「ギジェと俺とどこが違うか、アバデデ様に知ってもらう必要がある」
バッフ・クラン兵
「はい」
ダミド
「カララ様の生死は問題ではない。ギジェより先にカララ様を見付けるだけの事だ」
「そうすれば、ドバ総司令もハルル様も、否でも俺を見直すという手筈だ」
ギジェ
「何故、ダミドを止めなかったか?」
バッフ・クラン兵
「はっ! 我々は発進命令を受けただけでありますから……」
ギジェ
「ええい……あの巨人のパワーは、見た者でなければ分からん!」
アバデデ
「いいではないか。奴の薬になる」
ギジェ
「しかしアバデデ様、あの巨人は戦艦並の装甲を持っているのです」
アバデデ
「ならば、援軍を出すしかないな」
ギジェ
「はっ……お許しくださいますか?」
アバデデ
「一度出撃した戦力を引き戻すなどという無駄を、私はしたくない。しかし、ダミドは後で厳罰に処す」
「お前は、ギル・バウで指揮を執れ」
ギジェ
「有難うございます」
アバデデ
「あまり、カララ様には拘るなよ。ギジェ」
ギジェ
「何故です?」
アバデデ
「私はな……いや、行くがよい」
ダミド
「発光信号を上げたら、援護を頼む」
バッフ・クラン兵
「はい!」
ダミド
「あれか、異星人の船……!」
「これは宇宙船か?」
バッフ・クラン兵
「まさか。外宇宙船の規模はありますが、地表から発進するなんて……」
ダミド
「我々の科学力では、ちょっと無理だな……」
ジョリバ
「ようし、ノーマル・エンジン80%出力……行けるぞ!」
ダミド
「う、浮いた! わっ……!」
「メイン・エンジンは使っていないらしいが……」
バッフ・クラン兵
「町の方へ戻っているようです」
ダミド
「しまったな。あの中に、カララ様がいらっしゃるなら……」
バッフ・クラン兵
「デッカ・バウに攻撃させましょう。その間に潜り込めば……」
ダミド
「いや、待て。話の巨人が居ないのも気になる。もう少し様子を見よう」
ロッタ
「卵の素よ! 逃がさないで!」
モエラ
「これでブリッジに行けるんだな?」
ソロ星の軍人
「らしいっすよ」
マヤヤ
「カララ様、お口に合いますかどうか。彼らの非常食のようです」
カララ
「ご苦労」
マヤヤ
「あ、お毒味を……」
カララ
「クレソンのようだ。口に合う」
マヤヤ
「それは……」
カララ
「トラムか?」
マヤヤ
「さぁ……。試してみます」
カララ
「どうか?」
マヤヤ
「全くトラムです。肉は何か分かりませんが、柔らこうございます」
カララ
「うむ。少し辛いが……」
マヤヤ
「はい」
カララ
「この船な……彼等が言うように遺跡だとなると、イデと関係がありそうだと思わないかい?」
アーシュラ
「ルゥ、ルゥ!」
「あぁ、ルゥったら汚い!」
ロッタ
「どうしたの? アーシュラ」
アーシュラ
「おっぱい飲んでるのよ。山羊のお乳!」
モエラ
「おい、この船の指揮官は誰だ?」
シェリル
「居ません」
モエラ
「参謀本部はやられちまうし、俺達、どうしたらいいか分からんじゃないか」
シェリル
「ソロ星を脱出します。全員で決めた事です」
モエラ
「攻撃してくるのは異星人なんだろ? それを放っとくのかよ」
シェリル
「防がなければ、脱出も出来ません」
モエラ
「ジョリバ! この女、何なんだ?」
ジョリバ
「この船の事を一番知っている人だ。それだけだ」
ベス
「来た! 敵だ!」
ジョリバ
「敵だと? どこからだ?」
「レーダー、何やってんの?」
ハタリ
「レーダーは使えませんよ!」
ソロ星の軍人
「正面だ! 何か見えるぞ!」
シェリル
「イデオンが敵と遭ったんじゃなくて?」
ジョリバ
「らしいな」
ソロ星の軍人
「物資の搬入、急がせろ! エンジン・チェック、急げ!」
ダミド
「ん? 何だ?」
バッフ・クラン兵
「我が隊ではありませんが……」
コスモ
「わっ! あそこか!」
「こっちは訓練中だっていうのに……!」
「砲撃手! どうすりゃいい?」
ソロ星の軍人
「上へ回り込め、上へ! それがセオリーだろうが!」
「糞っ!」
「上だろうが!」
コスモ
「敵の弾に当たってもいいのかよ?」
カーシャ
「捕まえたわ! ミサイル!」
「コスモ、危なかったらいつでも言ってよ!」
コスモ
「余計な事はするな!」
カーシャ
「あっ!」
テクノ
「四方へ注意を配って!」
ギジェ
「各機へ! 最後尾の一機だけに攻撃を集中しろ! 一機でも撃墜してデータを手に入れる!」
ダミド
「ギジェの隊が、巨人と接触したのかもしれん。我が隊には宇宙船の方を攻撃させる」
「ビラス!」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
カララ
「はっ、デッカ・バウが……!」
マヤヤ
「カララ様、奥へ!」
カララ
「子供達、お逃げ!」
「何をしている?」
ロッタ
「あぁっ……!」
ベス
「駄目だ! 空中戦の素人じゃ、プロには歯が立たん!」
カーシャ
「キャーッ!」
ベス
「イデオ・バスタか?」
テクノ
「右足のエンジンをやられた!」
カーシャ
「どうしたらいいの?」
テクノ
「ドッキングするんだ!」
カーシャ
「そんな事言ったって……」
「はっ!」
コスモ
「うっ……!」
ベス
「イデオンのゲージが……!」
ギジェ
「最後尾の爆撃機へ攻撃を集中しろ! 巨人にさせてはならん!」
カーシャ
「うぅっ……!」
テクノ
「これじゃもたんぞ、カーシャ!」
カーシャ
「はっ……また、このサインが……!」
ベス
「イデオンの……!」
カーシャ
「ドッキング・マーク!」
コスモ
「ようし、行くぞ!」
カーシャ
「あっ……!」
テクノ
「上昇だ! 各ミサイル、撃て、撃てっ!」
ギジェ
「かわしたか!」
「ん?」
コスモ
「ようし! カーシャ、落ちたくなかったら急げ!」
カーシャ
「やってるわ! 一機ぐらい撃ち落さなくちゃ、変形さえ出来やしない!」
ギジェ
「巨人になる! あれだけの攻撃に耐えるとは……バリアだな? 強力なバリアが……!」
「しかし、多少にでも傷付けられた。方法はある筈だ」
「はっ……!」
「目だ、目を狙え! コントロールの中心部がある筈だ!」
「ダミド隊、聞こえるか? 巨人が弱っている! 攻撃に協力をしてくれ!」
バッフ・クラン兵
「ダミド様、如何しましょう?」
ダミド
「んっ……これ以上、命令違反もなるまい。協力させろ!」
ジョリバ
「イデオンに集中攻撃を掛けるのか?」
シェリル
「らしいわ」
ジョリバ
「ようし、助けにいくぞ! パイロット!」
シェリル
「無理よ」
ジョリバ
「え?」
シェリル
「大した武器も積んでいないこの宇宙船で、何が出来るの?」
ジョリバ
「シェリル! 我々軍人は……!」
シェリル
「私は民間人です! 無茶な事をして、この船の民間人を無駄死にさせる事など、やってはいけない事よ!」
ロッタ
「そんな! 冷たいわ、シェリルさん!」
シェリル
「子供は向こうへ行ってらっしゃい!」
ロッタ
「コスモやカーシャが心配なんです! 仲間を見殺しにするんですか?」
シェリル
「この船は、まだ十分な体勢が整っていないのよ? どう出来て?」
ロッタ
「で、でも……! でも、何とかなるんじゃないかしら?」
ソロ星の軍人
「コスモ! イデオンを動かすんだ!」
コスモ
「どうなってんだ、足のコントロールは?」
ベス
「バランサーがやられたらしい!」
コスモ
「カーシャ、何とかしろ!」
カーシャ
「メカマンに見てもらってるけど……」
コスモ
「くっ……!」
「こいつ、馬鹿にすんな!」
「しまった!」
ギジェ
「足だ! 巨人の足を狙え!」
ロッタ
「こんな事じゃ……こんな事じゃ、みんな生き残れないわよ!」
ジョリバ
「エンジンは掛かる! やってみろ!」
ハタリ
「イデオンが……!」
ジョリバ
「え? ようし、発進だな!」
シェリル
「どうやって戦おうっていうの?」
「あっ……!」
「な、何? この輝きは……。この反応は初めてよ!」
コスモ
「エネルギーが上がらないぞ! どういう事なんだ?」
バッフ・クラン兵
「これは、ギジェ様が言う程では……!」
ダミド
「ん、これを仕留めれば……」
バッフ・クラン兵
「て、敵が左に!」
 〃
「あっ……!」
コスモ
「今頃、来やがって!」
ベス
「呼んでいるぞ、宇宙船が!」
カーシャ
「み、見て! パワーが上がってる!」
コスモ
「よし、宇宙船に飛び乗るぞ! 行けぇ!」
ギジェ
「こ、これは……!」
「異星人め、反物質エンジンを使ったな!」
バッフ・クラン兵
「ダ、ダミド様……!」
ダミド
「だ、脱出するのか? 奴等……」
ギジェ
「あの中に、カララ様は……いらっしゃるのか……」
「ん?」
ナレーター
後に、ソロ・シップと呼ばれるコスモ達の宇宙船は、青空に消えたように見えた。