第7話 亜空間脱走

前回のあらすじ
ダミドのギル・バウ隊の作戦によって危機に陥ったイデオンであったが、
コスモの機転とギジェの考えによって戦いは中止された。
ダミド
「この中より、射撃優秀な者5人を選び出して、攻撃班を編成させる」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
ビラス
「お待ちください。今ギジェ様が、ロゴ・ダウの異星人と通信を開いておられます」
ダミド
「アバデデ様はご承知なのか?」
ビラス
「はい」
ダミド
「敵に時間を与えるとは、愚かな……!」
シェリル
「翻訳するわ。『接触はお互いに代表者三人ずつ。条件はカララ・アジバを返す事』」
ベス
「ん、カララを?」
コスモ
「ほら見ろ。一方的に要求を出されちゃってさ」
ジョリバ
「どうする?」
カーシャ
「こんなもの、受け入れなければいいのよ!」
シェリル
「ベス、貴方の言う通り、捕虜は利用したいわね」
ベス
「ジョリバ、デス・ドライブはどうなんだ?」
ジョリバ
「メイン・エンジンはコントロール出来るが、座標が上手く取れん。つまり、目的地を選ぶという訳にはいかんのだ」
ベス
「どこでもいい。我々の住めそうな星に脱出できれば」
シェリル
「アンドロメダ方面軍の前進基地へ逃げ込めば、バッフ・クランを倒す事だって……」
ベス
「異星人に他の地球人の居所を教えるのか? それは出来ないな」
シェリル
「人間同士よ? お互いに助け合う義務があるわ」
ベス
「我々人類はそれ程までに優しくはないぜ?」
「ともかくソロ星を脱出する。バッフ・クランとのコンタクトは中止だ」
コスモ
「イデオンで待機してるよ」
カーシャ
「ふんっ!」
シェリル
「アンドロメダ第六軍、ブラジラー。アンドロメダ第六軍、ブラジラー。こちらソロ星、応答願います」
ベス
「やめないかシェリル!」
シェリル
「何故?」
ベス
「素人に、ブラックホール・ギャラクシー通信のターゲットが取れるものか!」
ダミド
「アバデデ様! 異星人と接触しようなど無駄な事です! 攻撃命令を出してください!」
ギジェ
「いや、条件によっては話し合いで降伏させる事も出来ます!」
アバデデ
「未だロゴ・ダウの異星人から回答が来ておらんのだぞ? ダミド」
ダミド
「はっ……」
ギジェ
「アバデデ様!」
ダミド
「奴等はコンタクトを拒んでいるではないか!」
ギジェ
「しかし……!」
ダミド
「アバデデ様、攻撃命令を!」
アバデデ
「ん、今度こそ手柄を立ててみせろ!」
ダミド
「はっ! 必ず奴等を壊滅してご覧に入れます!」
ギジェ
「……アバデデ様、何故?」
アバデデ
「ギジェ……カララ様の事は忘れろ」
ギジェ
「は?」
アバデデ
「カララ様救出に拘りすぎたお前は、ダミドに一歩も二歩も出遅れておる。そんなお前を、ドバ総司令はお喜びになるかな?」
「それにカララ様は、お前には似合わん」
ギジェ
「アバデデ様……」
アバデデ
「イデを見付けさえすれば、お前はハングの位にのし上がれる。イデ探索に力を注ぐ事だ」
「お前の才能を惜しむのだ。カララ様と暮らしでもしてみろ、お前は一生尻に敷かれるぞ?」
ギジェ
「はい……」
ソロ星の軍人
「第三戦闘ライン上に敵機接近!」
ベス
「イデオン各機は修理を中止させろ! 発進スタンバイ!」
ビラス
「敵の動きはありません」
ダミド
「よし! このまま宇宙船を取り囲んで叩くぞ!」
ビラス
「カララ様は……?」
ダミド
「アバデデ様は何も仰らなかった。気にするな!」
ベス
「左舷に回り込んできた! 全ての対空火器を甲板に上げろ!」
コスモ
「修理は?」
テクノ
「80%は済んだ。取り敢えず戦闘は出来るが、無理させんなよ」
コスモ
「了解」
ベス
「来たぞ!」
ダミド
「よし、やれ!」
コスモ
「バッフ・クランめ! ベス、行くぞ!」
ベス
「了解!」
「ジョリバ、援護しろ! 敵を近付けさせるな!」
カーシャ
「この攻撃の早さ、今までになかった事だわ!」
コスモ
「バッフ・クランめ、手が早いな。何故だ?」
「後ろのブロック、撃ってんのか?」
ソロ星の軍人
「奴等はいつもと違うぜ! もっと距離を取ってくれ!」
コスモ
「分かってるって!」
「うっ! テクノさん、前だ!」
「カーシャ! お尻の方にも気を付けるんだな!」
ベス
「俺達をソロ・シップから離すつもりだな?」
「分かった! この攻撃の早さ、連中はカララを見捨てたんだ!」
ジョリバ
「第三ブロック、もっと人数を増やして応戦しろ! こっちの敵はたったの2機だけなんだぞ!」
「おい、被害状況はどうだ?」
「わっ!」
モエラ
「わぁっ!」
デク
「逃げるな、こら! こんな時に……こら!」
「わぁっ!」
マヤヤ
「お嬢様、私達は見捨てられたのでしょうか?」
カララ
「ギジェが、父か姉のハルルと連絡が取れたなら、私は見捨てられる」
マヤヤ
「そんな……!」
カララ
「イデの事、異星人の事……自分の負けを認めたくない父なら、私一人の命など恐らく……」
マヤヤ
「やめてください!」
カララ
「異星人より身内の方が怖いものです」
マヤヤ
「そんな……」
「大変です! 大変です、来てください! 大変です、大変です! 誰か居ませんか?」
ソロ星の軍人
「どうした?」
カララ
「マヤヤ……?」
マヤヤ
「あそこから……!」
ソロ星の軍人
「え?」
マヤヤ
「煙が……!」
ソロ星の軍人
「ちょ、ちょっと待ってろ!」
マヤヤ
「あ、あそこです! あそこ!」
ソロ星の軍人
「え? どこだい……」
マヤヤ
「えい!」
ソロ星の軍人
「うわっ!」
「こ、こいつ!」
「うわぁっ!」
カララ
「あっ……!」
マヤヤ
「さぁ、お嬢様、早く逃げてください!」
カララ
「マヤヤ……お、お前……」
マヤヤ
「お願いです、カララ様! 早く!」
ソロ星の軍人
「おい、どうした!」
マヤヤ
「お嬢様早く! 早く逃げてください!」
「お嬢様早く!」
ソロ星の軍人
「女!」
マヤヤ
「早く! 逃げてください!」
カララ
「マヤヤ、おやめ! やめるのです! 私はここに残ります!」
マヤヤ
「あっ!」
カララ
「マヤヤ、マヤヤ! あぁっ……」
マヤヤ
「お嬢様、私は余計な事をしたのでしょうか……」
カララ
「マヤヤ……」
マヤヤ
「カララ様……」
カララ
「マヤヤ……マヤヤ!」
「いつまでも、私の傍に置いておきたかった……」
コスモ
「何故落とせないんだ! よく狙え!」
カーシャ
「何故落ちないの? 何故落ちないの?」
ベス
「カーシャ、深追いはするな!」
カーシャ
「大丈夫よ! きっと撃ち落としてみせるから!」
ベス
「俺の言う事を聞け!」
ベント
「来るぞ!」
ベス
「敵は戦闘のプロだ! モタモタしてるとやられる!」
ジョリバ
「ベス、聞こえるか? デス・ドライブの準備が出来た。すぐ戻ってくれ」
ベス
「よし分かった!」
「カーシャ、コスモ、聞こえたか?」
コスモ
「あぁ、俺は聞こえたがな。カーシャにはちゃんと伝えてやった方がいいんじゃない?」
ベス
「何?」
「カーシャ、援護するからソロ・シップに戻れ!」
カーシャ
「大丈夫よ、2機や3機!」
ベス
「今まで弾が当たらなかっただけでも有難いと思うんだな!」
カーシャ
「ふ、振り切れない……!」
ダミド
「敵のあの1機は沈んだも同じだ! 一挙に叩け!」
「ハハッ……わっ!」
カーシャ
「キャーッ!」
ベス
「うわっ!」
コスモ
「あ、ぁっ……!」
「引っ張られてる! 何か起きたんだ! 何か……」
ダミド
「や、奴等……!」
「あ、あれは、亜空間ドライブを掛けたのか……!」
ビラス
「な、何て異星人でしょう。亜空間ドライブは宇宙空間で掛けるべきものです」
ダミド
「戦闘的な種族なのだよ。アバデデ様に追跡してもらえ」
ビラス
「はっ!」
アバデデ
「亜空間センサー、追跡を急げ。亜空間ドライブ用意!」
「ダミドはグラム・ザンへ戻り、我々の後を追わせろ!」
バッフ・クラン兵
「はっ!」
アバデデ
「ギジェ、分かるか?」
ギジェ
「は?」
アバデデ
「私はこのチャンスを待っていたのだ。重機動メカのギラン・ドウを貴様に預ける。あの巨人を亜空間で叩け」
ギジェ
「アバデデ様……!」
アバデデ
「その間に私は、ガタマン・ザンで宇宙船に接近して、カララ様をお助けする」
「ドバ司令に認められている事、お前一人の事ではないのだぞ。これはカララ様とは全く別の事だ」
ギジェ
「それは……」
ジョリバ
「ともかく、基本軸合わせをすればいい! 全天座標との照合急がせろ!」
ハタリ
「やってるが、どこに向かっているか分からんぞ! M84辺りに狙いが付けばいいんだが……」
ベス
「ジョリバ! シェリルはどうした?」
ジョリバ
「知るか!」
ベス
「敵の言葉の分析を急がせないと……」
ジョリバ
「カララをどうとかするって言ってた!」
カララ
「バッフの地球は、ギド星雲の隣……ギド星雲はゼンジ星雲とガンダモ星雲を二辺として……」
シェリル
「全天宇宙図を示します。今言った各星雲を指定してください」
ベス
「シェリル! カララの調査の許可を誰から貰ったんだ?」
シェリル
「敵の様子を少しでも知りたいと言ったのは貴方でしょ」
コスモ
「何の機械なの? これ」
シェリル
「考えている事を話してもらう、コンフェス・グラフ」
ベス
「カララは協力的な筈だ。こんな物を使わなくても……」
シェリル
「分かるものですか、本音なんて」
コスモ
「ヘッ、そうだぜシェリルさん。人間用の機械がバッフ・クランに使えんの?」
シェリル
「カララは私達と全く同じだったわ」
ベス
「だが、凶悪な種族だったら?」
シェリル
「その時は、その時になってみないと分からないわ。とにかく、イデの事も分かるかもしれないし……」
コスモ
「もし、俺達が無限のエネルギーを手に入れられるなら、その方法を……」
シェリル
「カララから聞き出す必要があるわね」
カララ
「イデとは無限エネルギーを発生するもの……」
「難しい事は分かりません。けれど、存在するという科学的な証拠が見付かったのです」
ベス
「そのエネルギーは、反物質エネルギー以上のものなのか?」
カララ
「それ以上のものです。それは愛です。人々に、希望と勇気と情熱を与える愛のようなもの……」
ベス
「な、何だ……?」
カーシャ
「何を言ってんの、この人?」
コスモ
「イデのエネルギーの事を聞いてんだぞ?」
カララ
「私は、イデのエネルギーをそう信じているのです。無限エネルギーなどという便利なものが、この世の中にあるものでしょうか」
ベス
「こ、このカララって女性……科学的知識がないんだよ。全くの理想主義者ってもんだ」
カーシャ
「じゃ、何にもなんないじゃないの」
コスモ
「そうだ。まるで時間潰しじゃないか」
カーシャ
「本当」
ベス
「そういうものでもないがな」
シェリル
「で? バッフ・クランの星を見付けさせます?」
ベス
「しかし、全天宇宙図を見せてもカララには分からんだろう」
シェリル
「そうね。バッフ・クランの地図でもあれば分かるでしょうけど……」
「とにかく、この人は人畜無害。妬けるわね」
ベス
「ん?」
シェリル
「私が見ても、綺麗な人」
ベス
「ふっ……」
シェリル
「あっ……!」
ベス
「カララを他の兵と接触させるな! また後で調べる!」
シェリル
「……何を調べるのだか」
ベス
「ジョリバ、ハタリ! コスモとカーシャをイデオンへ!」
ハタリ
「イデオンがデス・ファイト出来るのか?」
ベス
「どうだ? イデオンのゲージは点いてるか?」
ハタリ
「点いてる」
ベス
「なら出来るだろう。やってみる!」
テクノ
「頼むぜ!」
コスモ
「おう!」
ベス
「コスモ、カーシャ、このモニターが赤になったらデス・ドライブの失速サインだ。絶対に赤にさせるなよ」
「それと左右の線から外れるな。座標から外れる」
コスモ
「了解! でも失速って?」
ベス
「方向転換の時に座標が揺れると、亜空間外に引っ張られるんだ。とんでもない所に放り出されるぞ」
ナロブ
「亜空間でバリアを使ってます。凄いパワーです」
ギジェ
「180度ターンだ」
ナロブ
「はっ!」
コスモ
「ゲージが上がった! 発進する!」
ベス、カーシャ
「了解!」
ナロブ
「きょ、巨人が立ち上がったようです! 亜空間戦闘をするのでしょうか?」
ギジェ
「亜空間では一撃離脱戦法しか取れんのだぞ? 巨人に出来る訳がない!」
コスモ
「早い! うっ……」
「わぁぁっ!」
「座標が! あっ、ソロ・シップが見えない!」
「メイン・エンジンを!」
ベス
「最大パワーをやってる!」
コスモ
「くそ!」
「分かった。進行方向が外れると、全く違う宇宙に出るって事か」
ベス
「そうだ」
ギジェ
「あの加粒子ランチャーでさえも……!」
「ええい、一点に集中させろ! 落ちる筈だ!」
「な、何て奴だ!」
「うおっ……!」
「わっ! 下がれ、下がれぇ!」
「あの巨人が、亜空間でこれだけの力を発揮するのか!」
ジョリバ
「ベス、戻ってくれ! 敵の戦艦にやられてる!」
ベス
「何? 戦艦が居たのか?」
コスモ
「流石、プロだって訳だ」
「カーシャ、弾幕を張ってくれ!」
カーシャ
「やってるわ! ソロ・シップに急いでね!」
ナロブ
「あ、あの巨人が引き返します!」
ギジェ
「味方の宇宙船の防御に回るつもりだな」
デク
「い、いつものと違う!」
「大丈夫だって! コスモが追っ払ってくれるよ!」
「うわっ!」
コスモ
「あれが敵の戦艦か」
バッフ・クラン兵
「後方、巨人が接近! 弾幕を張れ!」
アバデデ
「焦るな、敵は1機だ。よく狙えば当たってくれる」
コスモ
「数撃ちゃいいってもんじゃないだろ?」
ギジェ
「巨人め、下がれ!」
コスモ
「わっ!」
「おっ……!」
「あぁっ……!」
ベス
「コスモ、離れろ! 敵はプロだ!」
コスモ
「りょ、了解!」
カーシャ
「ミサイル、全面展開!」
ギジェ
「逃がすか!」
ベス
「敵は圧倒的だ! コスモ、ソロ・シップの前へ出ろ!」
コスモ
「どうするんだ?」
ベス
「脱出する!」
コスモ
「どうやって?」
カーシャ
「逃げる方が難しいっていうわ! 戦いましょう!」
ベス
「そんな相手かどうか、生き延びられたらよく考えるんだな!」
ギジェ
「ん、逃がすな! 追え、追え!」
ナロブ
「逃げられると思っているようですな!」
ギジェ
「我々を舐めているのだよ、異星人め!」
ベス
「よし、直ぐにドッキングして、デス・ドライブを停止する!」
コスモ
「何だって? デス・ドライブを?」
カーシャ
「そんな!」
ハタリ
「無茶だ! 現在位置が全く分からない状態なんだぞ!」
ベス
「構わん! 異星人に殺されたいのか?」
「よし! コスモ、カーシャ、ドッキング体勢を取れ!」
「ドッキング完了! デス・ドライブ・ブレーキ!」
ソロ星の軍人
「デス・ドライブ・ブレーキ!」
ギジェ
「し、しまった! 異星人め、亜空間ドライブを停止したのか! 迂闊だった。こんな手があったとは……」
ジョリバ
「デス・ドライブが解けるぞ! 全天観測用意!」
コスモ
「あ? 惑星だ……」